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▼39.天からの襲撃

 外はすっかり吹雪いていて、車に乗っていても殆ど前が見えない。

 車に乗っているお陰で寒さこそそこまで感じないものの、いつ事故が起きてもおかしくないような視界だけれど、幸いなことにこの悪天候のおかげで車も滅多にいないから、速度さえ気をつければそうそう事故になるようなこともない。

「さて、嗣深達の話を聞く限りだと、このあたりからかな?」

「うん。確かトンネルを抜けたら、反対方向の高校前に移ってたって感じだったよ」

 そして、そんな悪天候だからこそ、僕達は家からの脱出後は特に妨害やこちらを捜索してる人に会うことも無く、昨日の夕方に町の反対側から出たトンネルのすぐ近くまで来ていた。

 時刻はすっかり深夜を回り、既に午前2時。普段ならとっくに寝ている時間なのもあって、多少の眠気もあるけれど、状況が状況なだけに眠気よりも起きていないと、という意識が強い。

 とはいえ、流石に神社で一度死んだっぽくて強制的に睡眠状態になっていた僕と違って、ずっと起きっぱなしの嗣深には限界が来ていたようで、嗣深は後部座席で横になってすやすやと寝息を立てている。

「車道が通ってるのは地図上だとココ。線路もさほど離れてないね。線路を通った場合は高校前のほうに繋がるということは、車道の場合も高校前のほうの公道に出るのか、少し仮眠をとったら試してみようか」

 助手席で地図を持っている僕の手元を覗き込むようにしながらお父さんが小声で言うのにあわせて、僕が頷くと、お父さんは僕に預けていた地図をダッシュボードにしまい、少し微笑んで僕の頭を撫でた。

「大丈夫。なんとかなるさ」

「うん……そうだね」

 不安な表情が出てしまっていたのか、と少し反省。

 しかし、お父さんからの大丈夫宣言が出ても、やはり不安なものは不安だ。

 ここから逃げ出すことが出来るのか。

 まぁ逃げ出せたとしても、嗣深を逃がすだけで、僕とお父さんは多分出れないのだけれど。嗣深だけでも逃がせれば御の字だとは思っている。

 それに、友人達の豹変具合やら、これからどう動けばいいのかとか、頭を抱えたくなる次第だ。

 僕は所詮、物語に登場するモブキャラが精々であって、こんな頭を悩ませる展開を持ってこられてもどうしたら良いのか分からない。

 唯一の現在目標である、嗣深を逃がすというのだって、逃がす方法が分からないのだから。

 だから、こうしてやることがなければ後回しにするはずだった、どこからどうループするようになっているのかを調べるためにこの世界の端と思われるあたりまで来ているのである。

「義嗣。あんまり考え込み過ぎなくて良いよ」

「むぅ……でも」

「義嗣は昔から抱え込むからね。そんなに無理はしなくて良いんだ。たまにはお父さんを頼ってくれないか?」

「お父さんにはいつだって頼りっぱなしだよ?」

「そうかい? それなら、今回も頼ってくれるかな?」

「もう十分に頼ってるよ?」

「おや、なら今何を考えているのか言ってくれるかな?」

 頭の中が大分ゴチャゴチャしているのを察してか、お父さんがこんなことを言ってくれるけれど、僕だって自分で自分が何を考えているのか、いまいち分からなくなっているのだが。

 あぁ、それでもコレだけはどうしても知りたい。

「また、前みたいに皆で遊べるかなぁ」

「……あぁ、きっと大丈夫さ」

 何せ、お父さんがついているからね、と、なんの保証にもならない根拠で、お父さんは笑って言った。

 お父さんがいるだけでそんなに好転するわけないじゃない、とか、頭に浮かんだけれど、涙がポロポロこぼれて、僕は何も言えずにお父さんに抱きついた。

「大丈夫。大丈夫だ」

「うん……そうだよね」

 こんなの詰みゲーも良いところだ。将棋なら詰みの王手がかけられていて、チェスならチェックメイト状態だと言って良い。

 ホラーゲームだったら、フラグたててないと絶対に死んでしまうルートに入ったのに気付かずセーブしちゃったみたいなもんだ。

 町の全体がほぼ敵だらけで、頼れる仲間だと思ってたのが、実は敵で、だなんて、一介の中学生にどうしろと言うのか。

 この世界を作った人は絶対にバカだと思う。難易度を考えて欲しい。はいはいクソゲーというやつだ。

 というような事をお父さんにぶちまけたら、苦笑しながらも抱きしめられながら頭を撫でられ続けて、若干夢見心地である。

 嗣深がいる手前、あんまり情けない事をいえなかった分、お父さんしかいないとなるとついつい弱音を吐いてしまうのも致し方ないことであると思う。

 そもそも、早苗さんが死んでるってどういうことですかね?

 僕としましてはそこにも厳重抗議したいわけですが、はーこれだから本当困るんですよ、何に困るのかは知らないけど。

 はー僕もお父さんと結婚する。

「義嗣は男の子だろう?」

 いっそ女の子に生まれたかった……そういう意味では嗣深が羨ましい。

 もし女の子に生まれてたら、きっと僕はモテモテだったに違いないと思う。お嫁さんにしたいランキング上位入賞するくらいだからそうに違いない。

「そうだね。義嗣が女の子だったら、きっと嗣深みたいに人気者になるだろうね」

 人気者とかどうでも良いからお父さんのお嫁さんになりたいです。

「……義嗣、一応訊いておくけど、本気で性転換したいとかなら、お父さんも真面目にそういうの調べてみるけど、どうする?」

 男の子に生まれちゃった以上は男の子として頑張るから良いです。

 お父さんのお嫁さんになれないのならば、僕自身がお父さんみたいに良い男になるのです。

「ははは、そうか。それは良い事だね」

「うんみゅ」

 優しく頭を撫でられて、思う存分に愚痴をこぼしたら、段々と眠くなってきてしまう。

「寝ていても良いよ、義嗣。後でまた起こすからね」

「ん……おやすみ、なさい。お父さん」

「永遠にね」

 ぞくり、と背中に悪寒が走り、咄嗟にお父さんを突き飛ばすと、先ほどまでお父さんの腕があり、僕の頭があった場所には、剣が突き刺さっていた。

 何が起きたのか、と考えるまでもなく、追手、それもこの剣には見覚えがある。

 宇迦之さんが、来た。

 天井には、強引に貫いたのだと分かる、剣によって作られたのであろう、一直線の穴が開き、そこからは赤い目を爛々と輝かせた宇迦之さんが覗き込んでいる。

「おや、外れちゃったか」

 くすくすと、上品に笑う宇迦之さんのその姿に、冷や汗が止まらない。

 この吹雪のせいで、GPSの類は殆ど効かなくなっている、とお父さんは言っていたし、ここに来るまでにすれ違った車は皆無だった。

 追いつけるとしても、そんな簡単に発見できるわけが無い。

「なんで……」

「さぁ、なんでだろうね?」

 かすれたような声が僕の口から出ると、宇迦之さんは楽しそうに笑って、腰に差していた刀を抜き出した。

「まぁ、もう終わりだから、知っても意味はないよね?」

 違う。抜き出したんじゃない。もう、斬っている。

 肩口からバックリと切れ込みが入り、致命傷になったんじゃないか、と思ったけれど、その切り傷は、肌に触れる手前で衣服だけを切り裂いていた。

 わざと、ではないのは、お父さんがいつの間にか抜いていた銃が煙を吹いていた事で理解する。

 切られる寸前に、お父さんが銃撃したんだ。

「……忠嗣さん。女の子に向けて急に発砲するなんて、大人としてどうかと思いますよ?」

「生憎と、敵であれば男女区別しないことにしているんだ。すまないね」

「そうです、か!」

 太刀筋らしきものが見えたには見えたけれど、僕にはどうあがいても反応できない速度だった。

 お父さんが天井に向けて銃撃し、空薬莢が車内を跳ね飛ぶけれど、その銃弾は全て断ち切られたのか、宇迦之さんが呆れた顔をしながら刀を振るうごとに、火花を散らせて天井に穴を開ける以上の効果を表さない。

「正直、一般家庭だと思ってた佐藤くんの家にこんな銃火器があることには驚きだけれど、佐藤くん。剣と魔法のファンタジーにおいて、銃火器なんて無粋だとは思わないかい?」

「残念。僕は魔法使いに向かって、科学舐めんなファンタジー、って言うの、結構好きだよ」

「そうか。それじゃあ相容れないね」

 宇迦之さんはまだ本気を出していないのか、こちらに視線を向けることもなく軽口を叩く。

「義嗣、口を閉じなさい!」

「っ!?」

 言うが早いが、穴だらけになったワゴン車をお父さんが急発進させる。

 そのまま、本当は嗣深が起きてから通る予定だったトンネルに向かうけれど、宇迦之さんは車の上で棒立ちのまま、刀をゆらゆらと揺らしているだけで余裕を崩さない。

「ボクはね、佐藤くん。正直なところ。もう君たちがどうなろうと、どうでも良いんだ」

 お父さんが、右手で運転しながら、左手で拳銃を掴んで天井に撃つ。

 一発も、当たらない。

「出て行きたいなら、勝手にすれば良い。でもね、邪魔されるのだけは、困るんだ」

 上から突き出された刀が、運転しているお父さんの左肩を貫く。

 一瞬、苦しそうな顔をしたお父さんだったけれど、うめき声もあげずに、そのまま僕に向かってやせ我慢だと一目で分かる笑顔を浮かべて、アクセルを一気に吹かす。

 対向車が来たら100%衝突する速度。いや、対向車なんかが来なくても、カーブがあれば確実に曲がりきれずにスリップして事故になる。そんな速度だ。

 そんな速度で走る以上、車の上にいる宇迦之さんは相当寒いし、風圧も凄いだろうに、表情を変えないまま、宇迦之さんはお父さんの血がついた刀を振るって、その血糊ちのりを払う。

「だから、ここで死んべっ!?」

 ――一瞬、何が起きたのか、さっぱり分からなかったのだけれど。

 慌てて振り返り、後部座席側の窓を見ると、うっすらとだけど、非常灯と避難口の案内の看板が、トンネルの上部で光を発しながら、そこに激突した間抜けな宇迦之さんの姿を浮かび上がらせていた。

「うわぁ……」

 確かに、視線は完全にこちらに向いていたし、丁度僕達の進行方向が宇迦之さんにとっての背後だったし、トンネルは車の上に人が乗ろうものなら、天井に手を少し伸ばせば届くようなほどに小さい、大型トラックとかは入れないような古いトンネルだったのも、認める。

 けれど、いくらなんでも、あんなラスボスムーブかましてきた人が、あっさりそんなものにぶつかって吹っ飛んでいくとか、完全にコントの世界である。

 お父さんも、運転しながら今の状況をバックミラーで確認したらしく、スピードを徐々に緩めながら、なんとも言えない顔をしていた。

 うん。だよね。そうなるよね……。

 僕とお父さんは、お互いになんとも言えない顔をしつつ顔を見合わせると、とりあえず僕は刀で斬られたお父さんの左肩を止血しようと家から持ってきた医療キットを取り出すのであった。

 刹那クオリティ……(リリカル時代の刹那知ってると、さもありなんと思ってしまうかもしれない)。

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