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▼38.ビックリドッキリ我が家

 段々と強くなってきた雪と風のお陰で、家に入るのは問題なく達成できた。

 家の前に車が一台止まっていて、見張りをしているようだったけれど、それ以外は誰もいなかったので、あっさり裏口から入ってこれたのである。

 ただ、足跡は残ってしまっているので、この雪と風が止まないうちに痕跡が消えるか、自分達が離脱したほうがよさそうだ。

 そんなことを思いながら家へと着いた僕達は、お父さんが裏口においてあった非常用の懐中電灯を持ってさっさと家に上がっていくのに付いて行く。

 靴を脱ごうかと思ったけれど、緊急事態だからそのままで良いといわれたため、土足でだ。

 ちょっと悪いことをしている気分でそわそわするが、すぐにそんな平和な感慨は消え去ることになった。

 家には確かに、怪しげな地下倉庫があった。それは認める。

 お父さんの部屋には、確かにモデルガンとかが飾ってあった。それも認める。

 しかし、お父さんの部屋から、サブマシンガンをお父さんが持ち出してきた時点でヤバいなぁって思ったのに、地下倉庫にも隠してあるからと言われて、重い扉を開けて地下室に下りてみたら、壁際にあった棚をスライドさせたらそのまま隠しドアがあって、その奥にあったのは、映画の、アメリカのシェルターにありそうな、各種銃火器のそろった武器保管庫。これはちょっと現実として認めたくない。

 まぁ、流石に個人宅にあるようなものだから、数十個ずらりというほどではないけれど、壁にはアサルトライフルらしき物が二丁に、五個ほど並んだ長いロッカーの中には拳銃が一丁ずつしまわれており、弾薬箱と予備のカートリッジらしきものが数個。

 ついでとばかりに、手榴弾もケースのような物に詰められて入っていて、そのロッカーの隣に置いてあったトランクケースからは、解体されていたスナイパーライフルらしき物が。

 ロケットランチャーなんかが無かっただけまだマシだったと言うレベルであり、これを個人で保管してるとかお父さん頭おかしい。

 忘れてはいけない。ここはアメリカではない。日本である。

 軽く頭痛がしそうなそれらを眺めながらも、嬉々とした笑顔でアサルトライフルをいじりまわしている嗣深と、それをたしなめるお父さんの姿を眺めて、あの子は本当にぶれないなぁと思う次第。

「お父さん。えーっとねぇ……」

 なんというべきか、というよりは、何を言うべきか完全に忘れてしまいそうになっているが、それも理解してもらえると思う。

 誰に共感を得ようとしているのかは自分でも分からないが、とにかく理解が追いつかないのは理解してもらえるとは思う。

 そんな僕の考えを読んだかのように、嗣深が銃をいじる手を止めてこちらに来ると、優しい顔で僕の肩をたたいた。

「現実は小説よりもなんとやら、だよ。つぐにゃん」

「うーんこのそのとおりなんだけどなんとも言えないもやもや感」

 きっと、平凡に暮らしていた主人公が、なんか凄い力に目覚めていきなり戦いに赴けとか言われた時の感情ってこんな感じかもしれない。

 僕自身が主となって戦うわけじゃないだけマシかもしれないけれど。

「あー……つぐにゃん。一応言っておくんだけど」

「ん?」

「流石に、本当はここまでじゃないよ。おうち」

 どういうこと? と首を傾げると、嗣深は苦笑する。

「多分、理想、というよりは、こうあってほしい、っていう考えが反映されてるんだと思う。流石にアサルトライフルまであるのは見たことないもん」

「あー、願いがどうこうって奴?」

「うん。わたしも段々この世界に取り込まれてるから、わたしの願いがある程度反映されてるんだと思う」

 地下倉庫に秘密の隠し部屋があって、銃火器が並んでるとか、浪漫じゃない? と言われて納得する。

 それはちょっと興奮する。というか、色々なんだかんだツッコミこそ入れてるものの、僕自身とても興奮しているわけで。

「義嗣はこれを持っておきなさい」

「ふえっ?」

 そんな会話をしている間に、お父さんは雪原迷彩と思われる水色と白を基調とした防弾チョッキらしきものやら、ヘルメットやらを身に着けて、僕に拳銃を差し出していた。

「カーアームズPM9。女性でも使いやすくて軽量な小型拳銃だ。義嗣や嗣深が使うならこのくらいの拳銃がなんとか扱える範囲だと思う」

「はえー……」

 渡された拳銃は、思ったよりは安っぽい外見で軽いけれど、それでも凶器であるというのを感じさせる程度には、重厚感のある外見だった。

 スライド部分とトリガーは銀色で、持ち手は黒。よく漫画とかアニメで見るようなデザインそのままなソレは、僕の男の子な部分をくすぐる品である。

「これ貰っていいの、お父さん……!」

「今だけね。それと、危ないから人には極力向けないこと。危なくなったら、銃を構えるより先にまず逃げるのを優先すること。わかったね?」

「わかった!」

 はー、しゅごい。

 お父さんから簡単な説明を受けながら、僕は受け取った拳銃をもらったホルスターに突っ込んで、腰に巻きつけた。

「さて、それじゃあ今後についての話をしようか」

 僕がそう言うと、お父さんは嗣深と僕に手近なパイプ椅子を渡してきたので、ありがたく座らせてもらうってから、僕は帰るまでの間に考えていた予定を思い出しながら語る。

「まず、第一目標は、神様を名乗る、神生会の会長さんに会って、事情を話して、この閉じた世界を終わらせてもらうこと」

「いきなりハードル高いところ選んだね、つぐにゃん……」

「あくまでこれが出来れば理想ってだけで、まぁ多分うまくいかないとは僕も思うよ。ちょっと説得しただけで元の世界に戻れるんなら、最初からこんな世界用意しないだろうし」

「まぁ、そうだろうね」

 僕の発言に、嗣深とお父さんが納得したのを見て、続ける。

「説得が無理なら、力づくで解除してもらうのも考えたけど、そっちは無理だと思うので、まだ洗脳されていない人達を集めて、反抗組織の設立」

「それも結構ハードルが高いんじゃない……?」

「あくまで目標の一つだから、出来たら儲けもの程度に考えておいて」

「わかった」

 言っている自分ですら、ただでさえ本物の人間がどれだけいるか、洗脳されていない人間がその中からさらにどの程度いるかすらわかってない状態でそれをするのが如何に無茶かは理解している。

「次は、すぐにでも現実世界に脱出して、そこで助けを求める」

「え、でもそれって――」

「わかった上でだよ」

「……うん。わかった。それはまぁ、可能だとしたら一番現実的だとは、わたしも思うよ」

「お父さんも、それが一番だと思うね。流石に、現状から仲間を見つけるのも危険だし、それなら外部と連絡をとって助けを求めたほうが建設的だろう」

 嗣深もお父さんも納得して――いや、嗣深は幾分か納得できない顔をしているが、仕方ないだろう。

 この作戦だと、僕とお父さんは恐らく外には出られず、嗣深だけが出ることになるだろうというのは、僕なりに理解している。

 死んでいるのに生きているという点から見ても、お父さんも僕も、本物ではない。恐らくは、現実世界にもう一人僕とお父さんがいるはずだ。

 ここは死なない世界だという津軽さんの話もあるので、確実にそうとも言い切れないけれど、少なくともここに来るまでの記憶が殆ど無い時点で、僕は偽者だ。

 最後まで面倒を見てあげられないのは申し訳ないけれど、逆に嗣深さえ送り出せてしまえば、死なないのを良い事に僕もお父さんも多少無茶が出来る。

 死んだときに記憶の連続性が失われるので、それだけが少し不安要素ではあるけれど。

 極端に言ってしまえば、神様相手に何度失敗しようとも説得をゾンビアタックで仕掛けようと思えば仕掛けられるのだから。

 ただし問題点として、そもそも嗣深を送り返す方法が分からないことだけれど。

「というわけで、現実世界への帰還方法を模索するため、嗣深はとりあえず知っていることを洗いざらい話しなさい」

 ビシッと嗣深に向けて指をさすと、嗣深は少し唸った後に語りだす。

「良いけど、つぐにゃんに昨日の夕方話したのと同じ内容だと思うよ?」

「お父さんがまだ聞いてない情報だし、もう一度話すことで思い出すこともあるかもしれないでしょ?」

「はーい。えっとねぇ……」

 そうして嗣深が語り始めたのは、僕が夕方頃に聞いた内容殆どそのままだった。

 自分のせいで母親が死んだ云々という部分は、伏せた上で。

 言おうかとした様子ではあったけれど、言ったところで慰められるだけだというのを察したのか、結局嗣深は言わず、僕もそこについてはツッコミを入れるのは止めておいた。

 暫く考え込むようにしていたおとうさんは、顎に手を添えて「ふむ」と呟いてから発言し始める。

「嗣深は、神様に送り出されてここに来たんだね?」

「え? う、うん。多分?」

「で、この世界の神様は、神生会の神様なんだね?」

「た、多分?」

「それは、ちょっとおかしくないかな?」

「え、何かおかしいところあった?」

 お父さんんのツッコミが理解できずにそう問いかけると、お父さんは苦笑いしながら答える。

「だって、この世界を作り上げたのがこの世界の神生会の会長、まぁ神様だとするならば、どうして外にその神様がいるんだい?」

「え、えっと、それは……なんでだろう……?」

 言われてみれば、そうなると内と外で二人の神様がいることになる。

 元の世界とこの世界を行ったりきたりしているといわれたらそこまでだけど、或いは神様は二人いる?

 僕も顎に手を添えて、むむむ、と考えこむが、こればかりは分からない。

「それに、嗣深はお母さんの再現もお願いしていたというのに、それもされていないだろう?」

「……あー、確かに」

 お父さんの言葉で、僕は納得する。

 そうだ。確かに、神様が神生会の神様だとして、宇迦之さん曰く誰からも望まれていないらしい嗣深をわざわざこちらに連れてくる意味は無いはずだし、嗣深自身がお母さんを望んでいたらしいというのに、そのお母さんも再現されていないということは、"この世界にとって、嗣深は本来必要ない"筈だ。

 本来の住民ならば、望んだものが与えられるみたいで、宇迦之さんは虎次郎くんを望んで自分だけの虎次郎くんを生み出したみたいだし、仮に嗣深もこの世界の住民として送られたのなら、なじむとかどうとか以前に、大前提であるお母さんの再現はやらなくてはいけなかった筈。

 恐らくは、それをしているからこそ、この世界の住民の大半は神生会に傾倒しているのだろうから。

 ということは、外の世界で神様を名乗ったのは、偽者?

「わ、わたしが悪い子だから、だとか……?」

「嗣深ほど良い子なんて、義嗣くらいしかお父さんは知らないよ」

 気落ちした様子の嗣深の頭を撫でるお父さんマジかっけーっす。

「それと次に、この世界は、望まれた人だけがいるんだね?」

「た、多分だけど」

「ということは、嗣深が来る前から存在するお父さんと義嗣は、おそらく誰かが望んだからここにいるんだろう。少なくとも、嗣深が望んだからここにいるというのは少し弱いと思う。何せ嗣深が来る前の記憶も多少あるからね。そうなると、私達に居て欲しいと願った人達がいるはずだ。まずはその人達を見つければ協力者として協力を仰げるかもしれない」

「「な、なるほど……」」

 その発言から、思いつくのは早苗さんと宇迦之さんあたりだが、宇迦之さんが望んだのはどうも虎次郎くんだけみたいなのでありえない。

 となると、必然的に早苗さんか?

 宇迦之さんの口調からして、外の世界では津軽さんも僕達とそこそこ仲が良かった可能性もあるけれど、一番可能性が高いのはそちらではないだろうか。

 いや、早苗さんのために津軽さんが云々というのも言っていた気がするから、間接的に欲しい人材として僕達を選んだのが津軽さんという線も捨てがたいか。

 という内容を話すと、お父さんは顎に手を当てて少し考えた後、どちらにも接触してみる価値はあるね、と頷いた。

「あの……つぐにゃん」

「ん? なんだい、嗣深」

「多分だけど、さっちゃんは違うと思う」

「どうして?」

「さっちゃん、確か、もう死んでるから……」

 嗣深の言葉で、僕は思わずその場に崩れ落ちそうになった。

 心臓がものすごい勢いで鳴り始める。

「死ん、でる、の?」

「うん……記憶が薄れかけてはいるけど、死んでたと思う……もしかしたら、生きてるかもしれないけど、昏睡状態のはず。だから、自我を持った上で、誰かを望んでここに来るのは難しいと思う」

 あぁ、なんてこったい。

 どうやら、僕は早苗さんの事が割と好きだったらしい。

 血の気が引きそうになるのを堪えて、僕は深呼吸を一つ。

「わかった。それじゃあ、津軽さんに接触だね。どちらにしても、早苗さんを巻き込むのは避けたかったから、丁度良いかもしれない」

「わかった。それじゃあその子との接触するのがまず第一の行動指針だね?」

「うん」

 少し気遣わしげに僕を見るお父さんに笑顔で答えると、お父さんは「わかった」とだけ返して追求はしてこなかった。

「じゃあ次だ。この世界が閉じていて、この町の外が存在しないということだが、お父さんには、ここ数日もこの町の外へと行って仕事をしてきた覚えがあるが、このあたりはどうなってると思う?」

「え? うーん……町のギリギリ一杯で眠らされて、記憶操作されてから送り返されてるとか?」

「では、この町の外が存在しないと認識した上で出ようとした場合にどうなるのかを試すのもいいかもしれないね。まぁ、現状ですぐには出来ないし、これは他にやるべき事があるなら後回しだけど。何も思いつかなかった場合は、先を考える間に試してみるのも良いかもしれないかな?」

 と、そこまで言い切ったところで、いつの間にか取り出していた手のひらサイズのノートになにやら書き留めていたお父さんは、ノートを閉じて迷彩服のポケットにしまうと、アサルトライフルをたすきがけにしたキャリングベルトにつけて立ち上がる。

「どうやら時間切れみたいだね」

「え?」

「玄関を壊して入ってきたみたいだ」

「ダイナミックぅ……」

 というか、どうして分かったのだろうか、と思ったら、お父さんはノートをしまった胸ポケットを軽く叩きながら笑った。

「玄関の監視カメラの映像がこれで見れてたのさ」

「「はえー」」

 というか、うちって監視カメラなんか玄関に置いてあったのか……。

「裏口は足跡がついているし、足が濡れていたから、地下倉庫の隠し部屋も、その水滴やら落ちた雪の欠片を追えばすぐ見つかっちゃうだろうから、先手を撃つとしよう」

 ということは、僕も拳銃コレを使う心構えが必要な訳か。

 ごくり、と唾を飲んで拳銃をしっかり握り締める。よもや拳銃を人に向けるなんて事を現実でやる羽目になるとは、と思ったら、お父さんに構えていた拳銃をつかまれて、ゆっくりと下に降ろされる。

 同じように、嗣深も構えようとしていた拳銃を下に降ろされた。

「忘れないでくれ。それは、あくまでいざとなった時のためのものだから、戦闘になりそうな時に関しては、二人は基本的にお父さんの指示に従ってくれるだけで良い」

 だから、それはしまっていなさい、と言われて、僕と嗣深は拳銃をホルスターへとしまう。

 流石に、ゲームならともかく、現実に人に向かって銃を撃つというのは忌避感があったので、お父さんの言葉を免罪符にして、本当にどうしようもなくなった時までは拳銃を手に持つのはやめておこう。

「車は幸い、外に連中のがあるから、家の車を壊された分はしっかり返してもらおう」

 そういえば、どうして車に乗って家に帰らなかったのかと思ったら、壊されてたのか。

「今はまだ、台所に向かう最中みたいだね。相手は三人だけ。二人はここで隠れていてくれるかい?」

 お父さんに言われ、僕達は頷いて再度パイプ椅子に座って、お父さんが隠し部屋から出て行くのを見送る。

 お父さん、大丈夫だろうか、と思いながら嗣深と待つことおおよそ五分。隠し部屋のドアが開くと、お父さんが親指を立てて現れた。

「終わったよ。さぁ二人とも、ひとまず逃げ出そうか」

 返り血とかは浴びてないみたいなので、殺してはいないのだなと少し安心すると共に、心強い味方が出来た事を改めて実感するのであった。

 やっぱりうちのお父さんは最高である。

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