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▼36.何度だって

 えー、なんと、おおよそ六年ぶりでございますが、お久しぶりでございます……。

 最早、自分でもこれの続きを書くことになるとは思いませんでしたが、先月末にドクターストップがかかって休職することになったため、幸いというべきか時間がとれるようになったので、データとか全部ぶっとんでしまった上に、仕事が忙しくなってやる気がなくなってしまっていたこの作品の続きを書き始めようかな、と思いたち、投稿分をさきほど全て読み終えたので、覚えている限りで続きを書くこととしました。

 もう既にこの作品のことなど忘れてしまっている方のほうが多いかと思いますが、覚えていて続きが気になっていた方がまだいらっしゃったのであれば、拙い文章でがございますが、お楽しみください。

 家での作戦会議が終わると、僕達は荷物を置いて再度町へと電車で出発していた。

 昨日、終電に乗り遅れた駅である。

 時刻は既に八時で、外はすっかり真っ暗だ。

「この分だと、また終電は無理だね」

「うん。だと思って、お父さんにはもうメールしておいたから大丈夫だよ、つぐにゃん」

「了解。迎えは何時頃?」

「十時頃に頼んである」

「了解」

 大事な事だけ確認をとって、そのまま神社へと向かう。

 互いに無言で歩き出し、周囲の警戒だけは怠らないようにする。

 しかし、警戒に反して神社へと向かう通り道では踏み切りは鳴らず、変な人も居ない。


 ――否、変な人どころではない。誰もいなかった。


 明らかに、人の気配が無さすぎた。

 駅には駅員さんこそいたものの、どこかぼんやりとした様子で、駅舎には誰もいなくて、結局神社にたどり着くまでに、町の住民とは誰一人と出会うことなく着いてしまった。

「なんだか、嫌な感じだね」

「うん……」

 神社の鳥居を通ると、外とはまたどこか違った雰囲気を感じるけれど、神聖な空気というには、どこかドロドロとしたものを感じる。

 何かがおかしい、と第六感のような何かが危険信号を告げる。

 進むべきではない、と生存本能が危険を教える。

 けれど、左腕にすがりついてきた嗣深を見れば、そんなものは無視してしまえる程度のことで。

 僕と嗣深は、神社の中を歩き進める。

 宇迦之さんの家へと向かって歩き、敷き詰められた小石の砂利道を踏みしめていくと、甲高い音をたてて、装飾の全く無い、つばすら無い、古風な直剣が空から降ってきた。

 くるくると、勢い良く回転しながら回っていたその剣は、僕達のすぐ目の前で地面へと突き刺さり、まるでこれ以上進むなと告げているようだったけれど、言葉でそれを告げないのであれば、気にせず進むことにする。

「つ、つぐにゃん。あの剣……」

「大分、古い型の剣だね。まだ刀とかすら無かった頃のかな」

 何か言いかける嗣深に、そう笑って答えて、剣のことなど無かったかのように突き進む。

 元々、鳥居から宇迦之さんの家まではそこまで離れていなかったことから、すぐにその玄関へと到着し、チャイムを鳴らすが、何も反応が無い。

 こんな時間に留守ということも無いと思うのだけれど、と再度チャイムを鳴らすと、今度は剣が直下で、僕の立っているすぐ右手側の地面に突き立った。

 帰れ、とそう言外に告げるそれに、僕は上を見上げて、笑顔で告げる。

「宇迦之さん。ちょっと用事があるのだけれど」

 僕のその言葉に、嗣深は「やっぱりそうなんだ」と剣を見ながらどこか寂しそうに呟き、空からは小さなため息と共に、宇迦之さんが少し改造された巫女服を着込み、銀髪と狐耳、尻尾を生やした状態でふわりと降って来た。

「言外に帰ってと、そういう意味で剣を投げたんだけど、伝わらなかったのかな?」

「なんとなくそうだろうとは思ったけど、大事な用事だったから」

「そっか。それで、どんなご用事?」

「宇迦之さんって、この世界は楽しい?」

 その質問は、想定の範囲外だったのか、宇迦之さんは暫くこちらをその黒目部分が真っ赤になった目で見詰めてから、ようやく口を開く。

「楽しいよ。とってもね」

「そっか。それは、ここが作り物の世界でも?」

 言った瞬間に、僕の首には、刀が突きつけられていた。

「ねぇ、義嗣くん。どうして、そのことを?」

 嗣深から聞いた、と答えたら、そのまま僕達は二人とも切り伏せられそうな雰囲気に、僕は笑顔のままで告げる。

「津軽さんから」

 本当は違うけれど。

 まぁ、津軽さんに忘れていた記憶をも引きずりだされたことで色々な矛盾点などが思い出されたことで、嗣深に言われなくても違和感から、そのうち気付いていた可能性は無きにしもあらずである。

 そう。今思えば、おかしな点だらけなのだ。嗣深に打ち明けられたことで気付いた点もあるとはいえ。

「どこまで知ってるのかな?」

「この世界が閉じていて、この世界の大半の人間は実在しなくて、この世界は、誰かの願いが基点だってことかな」

 例えば、虎次郎くんが言っていたいつの間にか無かった事にされている行方不明事件。

 簡単な話だ。元から存在しなかった存在ならば、行方不明ではなく、単に消えてしまっただけなのだろう。その存在ごと。

 それならば、行方不明ではない。単に、本来あるべき姿に戻っただけなのだから。

 そして例えば、僕自身。

 僕は既に、二回は死んでいる。

 山で一回。昨日で二回。もしかしたら、宇迦之さんが自宅まで助けに来てくれた時も、本当は死んでいたのかもしれない。

 そして、その度に僕の記憶には齟齬や混乱が見られている。いや、記憶に混乱が見られている時は多分、僕は死んでいるといったほうが正しいか。

 それは、僕自身が再構築されたからではないだろうか。

 そして、誰もいないところに向かって、嗣深や虎次郎くんがしゃべっている光景は、津軽さんに記憶を覗かれた時に見たものだが。

 これは、存在しない人物が、そこにいたからではないだろうか。

 そして、世界が誰かの願いを基点というのは、嗣深の話から。

 憶測におよぶ憶測だけれど、宇迦之さんの表情から察するに、あながち間違いではないのではなかろうか。

 僕に抱きついたままの嗣深は、どこか縋るような目で宇迦之さんを見詰めて、僕はいつもどおりの目で宇迦之さんを見る。

 そうして暫く、数十秒程度だろうか。

 宇迦之さんは、大きく溜め息を吐くと肯定した。

「そうだね。正解だ。全く、津軽さんにも困ったものだね。お互いに取り込まれた者同士、大事なもののために終わりが来るまでは秘密にする約束だったのに」

 それとも、この世界でも君や嗣深ちゃんに絆されたのかな? とどこか嘲笑うような、普段なら決して浮かべないような笑顔で、宇迦之さんは僕達の顔を見ている。

「そうかもしれないね。僕ってば、ちょうぜつイケメンだから」

「冗談を。イケメンっていうのは虎次郎のためにあるような言葉さ」

 ふざけて返した言葉には、宇迦之さんがどこか崇拝する人物の事を語るかのように、うっとりとした声で、そんな事を言ってきた。

「そうだね。虎次郎くんはイケメンだ」

「そうだとも。彼ほど格好良くて、彼ほど頭が回って、彼ほど優しい人は、そうはいない。いや、優しさという点だけでなら、君も優しいとは思うけどね。鈍感なところまで似ているというのはあまりほめられたことではないと思うけれど」

 まぁなんにしても、僕は彼を愛してるんだ、と宇迦之さんはとても良い笑顔でそう言い切る。

 それは文字通り、愛する人を自慢するかのようで、宇迦之さんは僕も知らぬうちに虎次郎くんと恋人関係になっていたのか、と思わせるには十分だった。

「せっちゃん。それなら、こんな世界にいちゃダメだよ」

 だけれど、そんな宇迦之さんの陶酔を邪魔するかのように、嗣深が声をあげる。

「どうしてだい? 嗣深ちゃん。誰からも望まれていない嗣深ちゃん」

 それは、とても冷淡で、友人に向けるような声ではなかった。

「こんなところにいたら、全部全部、嘘になっちゃうよ。とても優しい世界だけれど、もう、この世界は破綻しかけてるもの」

「破綻? そんな事はどうでも良いじゃないか。僕は、虎次郎さえいてくれれば、それで良い」

「虎にゃんが、一緒になれなくても?」

「なれるさ。なれる。だって、彼はボクが望んだんだから」

 だから、ボクを裏切る筈はないし、彼はずっとボクと一緒に居てくれる。

 陶酔した笑顔でそう告げる宇迦之さんは、もう完全に、僕達の味方になってくれることは無いのだと、その表情だけで、僕達に教えてくれた。

「……ねぇ、せっちゃん」

「なんだい。嗣深ちゃん」

「せっちゃんは、わたしの事は、望んでくれなかったの?」

「なんだ、そんなことか。当たり前じゃないか。ボクの虎次郎の関心を買って、そのままボクから連れ去ってしまいそうな人なんて、いらないに決まってるだろう?」「

「その割に、りっちゃんの事はそのままだったね」

「うん。それはボクも不思議なんだけどね。遠藤さんも消えてるはずだったのに、何故かいたんだ。何もしないなら、まぁそれでも良かったんだけど。でも大丈夫。もういなくなったから・・・・・・・・

 それはつまり、殺したということか、と僕の口は問いかけようとしたけれど、寸前で思いとどまる。

 あぁ、宇迦之さんは、味方だと思っていたけれど、違った。

 初めから、敵、とはいわずとも、味方なんかでは、無かったのだ。

「本当はね、佐藤くん。君も、いらないんじゃないかなって、思わなくも無かったんだよ? でもさ、君はボクが虎次郎を好きであることを、否定しなかった。むしろ、肯定してくれた数少ない人で、その上、男の子だったからね。だから、ボクも君なら許しても良かった。一緒にいて、ふざけていて、楽しかった。きっと津軽さんもそうだったんだろうね。まぁ、彼女の場合は、君自身を彼女が望んだというよりも、早苗さんのためだったんだろうけど」

 そう言って僕達にどんどん事情を語る姿は、まるで悪役が主人公達にトドメを刺す際に、冥土の土産として語るかのようで。

「でも、もういいや。彼女も敵だというのなら、君達も敵になったんだろう?」

 じゃあ、消えてもらえるかな、と。

 まるでちょっと買い物に行って来るくらいの軽さで、宇迦之さんはそう言って、刀を振り切っていた。

 一瞬、遅れて視界がずり落ちる。

 否、違う。僕の首が、切り落とされていた。

 ずれていく視界と、嗣深の慌てる涙声に、僕は頭を押さえて切断面の位置へと首を戻した。

「宇迦之さん、唐突すぎない?」

「……驚いたね。キミ、そんな能力、持ってたかい?」

「能力も何も、ただの気合と根性だよ」

 首がずれないように、自分の頭を支え続ける自分の姿はなんとも滑稽だと思うけれど、こうしていないと多分、僕はすぐにでも死んでしまうのだから仕方ない。

 口からも、鼻からも、目からも、血がダラダラと垂れ始めるけれど、呼吸も出来ているし、死んでいないなら安いものだ。

 まぁ、その呼吸も、水っぽくてなんともしづらいという欠点はあるけれど。

「冗談にしても性質が悪い。首を切られて生きてるなんて、そんなのはもうゾンビとかの類じゃないか。何時の間にアンデッドに転職してたんだい。佐藤くん」

 再度振られた刀は、僕の右腕を切り落とす。

 咄嗟に、嗣深が斬られないよう突き飛ばすと、一拍遅れて、今度は左腕も肩から切り落とされ、頭を支えていた手もまた、肩と手首が一緒に斬って捨てられて、支えを失った僕の首は、そのまま鈍い音を立てながら、地面へと落ちて転がった。

 ハッキリ言って、痛いなんてものを通り越して、痛みなんか欠片も感じていないのは救いでもある。

 もはや耳は聞こえない。視界は赤く染まり、意識が落ちるのはもう時間の問題だ。

 真っ赤な視界の中で、宇迦之さんが何かを言いながら、嗣深へと歩み寄ろうとしているのを見て、僕は笑った。

 マダ、オワッテナイヨ。

 視界の端で、倒れそうになっていた僕の身体が動き出す。

 切り落とされた腕は、噴出していた血が固まることで、まるで化け物じみた奇怪な腕へと変貌し、頭のあった場所には、血で作られたグロテスクな魚のような頭が出来上がる。

 それは、明らかにオカシナ事デ、ソレは本来、敵デシカナイ化ケ物の姿だけれど。

 ソレは、僕の頭を静かに拾うと、隙だらけの宇迦之さんに、背後から襲いかかった。

 驚いたような宇迦之さんの顔を見るのを最後に、僕の視界はそこで途絶える。


 ――きっと、僕はまたここで死ぬだろう。


 けれど、何の問題も無い。

 だって、僕は人間ではなく。そして、僕は誰かに望まれて、ここにいる。

 なのであれば、僕は何度だって生き返るし、何度だって、大事な人を守れるのだから。

 例え、身体が化け物になったとしても。

 例え、記憶が無くなってしまったとしても。

 僕を望んだ誰か達が幸せになるまで、何度だって、立ち上がる。

 そのために、僕はきっと、ここにいるのだから。

 そんな決意を抱くと同時、僕の意識は完全に落ちるのであった。

 尚、どうあがいてもバッドエンドに向かってそうですが、一応ハッピーエンド予定なのは変わらないので、ご、ご安心ください(震え声)

 双極性障害とやらで、現在投薬治療中なのもあってか、少々鬱っぽさが抜けないために何をするにも気力が中々わかない状態ではありますが、せめて復職までにはこの作品を一章部分だけでも終わらせたいなと思います。


 まぁ、この作品、実は本来なら二章部分にあたるお話で、本来はこの話に続く部分が一章として存在する予定だったんですが、一章終わった後に実はコレは二章でしたー、と言って似たような話を過去話スタートとしてやるのはアレだよねって、書きながら思い出したので、あくまでこれを一章として進めようかと思います。

 何を言ってるのかわからない? 大丈夫。久々すぎて、書いてる私が一番よくわかってませんよ……!!(何)


 追伸。リリカルな人達は、この作品同様に全てデータぶっ飛んでしまっているために、最早改稿どころか過去のデータのままでの投稿すら出来なくなったため、更新は今後無しとなります(まぁもう六年たってる時点で忘れてる人のほうが多そうですが)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大変お久しぶりです、更新があったので見に来てしまいました! 体調には気を付けて下さいませ。 義嗣君の根性、久しぶりに見れて嬉しいです。体が化け物側に寄ってきてるのも今後のお話の想像を掻き立て…
[一言] お久しぶりです。 純粋にびっくりしました! 関係ない話ですが、リリカルの方の話ですが、あの作品で初めてクトゥルフというものを知ったのを思い出しまた。
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