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▼34.世界の秘密

 僕こと、佐藤義嗣は先日誕生日を迎えた13歳。血液型はO型。身長128cmで特技はどこでも寝れることである。

 保護者は義理の父である佐藤忠嗣36歳。バツイチ。誕生日は7月12日。血液型はO型。身長は多分170の半ばくらい。

 妹は佐藤嗣深、本日誕生日を迎えた13歳の、双子である僕の妹である。血液型はO型。123cm。アホの子である。

 僕と嗣深は小学校低学年時に母親を亡くし、実の父親は行方不明。母親の葬式後にそれぞれ別の家へと貰われて行って、嗣深の義理の母親が亡くなったことでこちらに合流。現在に至る。

 ちぐはぐで全く覚えていなかった嗣深に関する記憶も、ある程度は嗣深からの話を聴いて思い出したものも含めて補完された結果、今に至るまでの大体の事は思い出せた。

 そう、大体は、だ。全てではない。

 三年前にこの町に移り住んできたということは思い出せても、その引っ越す前の場所で何をしていたかとか、どんな友達が居たか、などは本当に殆ど思い出せないとか、コレが自分の物覚えが悪いだけ、というわけではないというのは嗣深の言なので、今はそれを信じるしか無い。

 というか、現実的に考えて、つい数年前まで遊んでいた友達や、住んでいた町のことを全く思い出せないというのはおかしなことなので、僕の記憶に関して何かおかしなことが起きているのだというのは理解した。そして、そんなことにすらまったく疑問を抱かなかった今までの状況のおかしさも。

「なんていうか、もう本当、フィクションの世界に迷い込んだ気分だよ」

「つぐにゃん。巫女さんがお尻から尻尾生やして刀振り回したりする世界の時点で色々おかしいと思うべきだと思うのわたし」

「いや、そうなんだけどさ……」

 泣き止んだものの、まだ目が腫れぼったい嗣深が冷静にツッコミを入れてきたので、小さく溜め息を吐くが、過去を振り返っても仕方ないので、頭を切り替える。

「あー、まぁ良いや。それで、電車降りないでっていうのは、何か理由があるんでしょ? なんで降りたらダメなの?」

「ん、乗ってれば分かるよ、つぐにゃん」

 僕の質問は、嗣深に曖昧に笑って流されてしまった。

 そう、今言った通り、僕達は自宅の近所にある駅に到着したにも関わらず、嗣深の要請で電車を降りずに乗車を続けている。

 このままでは東京方面に向ってしまうし、切符は当然ながら降りる予定の駅までしか買ってないので車掌さんが切符拝見にきたら怒られると思うのだけれど、嗣深は絶対に大丈夫だから、とりあえず乗ってよう、と言うので二人仲良く並んで電車の2席がくっついているシートに座り、話し合いをしているのだ。

 何がどう大丈夫なのかは分からないけれど、このタイミングでわざわざ言うくらいなのだから本当に大丈夫というか、何か理由があるのだろうことは僕にだって分かるので、ひとまずはこれも置いておく。

 もしかしたら、この電車に一切他のお客さんが乗ってないのも関係いしているのかもしれない。よく分からないけれど。

「とりあえず、今はまだ教えたくないっていうのは分かった。それじゃあ今の現状について幾つか確認したいことがあるから、分かることだけ教えてもらっていい?」

「うん。大丈夫。全部話すよ」

 神妙に頷いた嗣深に頷き返し、僕は質問を考える。

 まず、一番気になっているのは、嗣深が泣きながら告白してきた《幸運簒奪者ラックスティーラー》とやらのことだ。一体なんなのか。名前からして、他人から幸運を盗むとかなのだろうけれど、他にもこの町の現状とか、色々知りたいけれど、今はそれが一番問題の案件だろう。

 ひとまず「《幸運簒奪者ラックスティーラー》って何なの?」と訊くと、嗣深は語りだした。

「わたしも詳しくは知らないんだけど、名前通り、他人から幸運を盗むの。原理とかは良く分からないんだけど、例えば、いつもの皆で集まって、1人1枚ずつ宝くじを買ったとするでしょ?」

 アレって購入には年齢制限みたいなの無かったっけ、と思ったけれど、そういう話ではないので僕はとりあえず頷いておく。

「それで、本当なら虎にゃんが1万円。せっちゃんが2千円、ガイアちゃんが500円当たって、わたしは転んでくじを風に飛ばされて全部パーになるはずだったのが、虎にゃんの当たるはずだった1万円がわたしに当たって、せっちゃんが宝くじを無くして、ガイアちゃんが転ぶの」

「……うん?」

 意味がよく分からない。

「んーとね? 説明が難しいんだけど……他人の、本来あるべき幸運を奪い取って、自分の不運を押し付ける、みたいな感じといえば良いのかな。えーと、ゲームっぽく言うと、ラック10の虎にゃん、ラック5のせっちゃん、ラック3のガイアちゃんがいるとするでしょ?

 で、わたしはそこで本当はラック1なんだけど、虎にゃんのラック10を勝手に自分のステータスと入れ替えて、虎にゃんをラック1にして、わたしが10になるの。

 じゃあ他の2人にはなんの影響も無いのかって言うと違くて、敵に会った時に、自分がくらうはずだったダメージを、勝手に3人に押し付けるの。でもラックが変わってない2人はあくまで運の良さは変わらないから、自分の運によってはそれもなんとか凌げたりするんだけど、ラックを強制的に1にされた虎にゃんは、直撃しちゃう、みたいな」

「……ごめん。えーと、分からない」

 要は一番運が良い人間の奪い取るということなのかと思ったら、違うのだろうか。全員から平等に奪ってる、というのでも無いとなると、いまいち理解できない。

「うん、ごめんね。わたしの説明が下手で……わたし自身もこの能力、いまいち効果とかが分かって無いから……」

「自分の能力なのに?」

「うん……君の能力はそういうものだよって教えられたの。一応、実感はあるから、そういう他人から幸運を奪う能力なんだとわたしも思ってるんだけど……なんていうか、知ってはいるけど、分かってないっていう感じだから、わたしも上手く説明できないみたい」

「ふむ……」

 本人すらいまいち分かって無い能力というのもまた困ったものである。

 ……ん?

「待って、教えてもらった、って、誰に?」

「え?」

 僕の質問に、嗣深は目を瞬かせてから、小首を傾げて少し唸ってから、首を振った。

「わかんない」

「分からないって、どういうこと?」

「んー……覚えてないの。ただ、そういう風に教えてもらった、っていう覚えはあるんだけど……わたしがここに来れたのも、その教えてくれた人のお陰だったと思ったんだけど……なんだろう、顔も思い出せないし、声も……うーん? わたしも取り込まれてきたから、記憶がおかしくなってるのかな……」

「ごめん、待って、取り込まれてきたって、何?」

「あ、えっと、それは多分、後で説明したほうが納得しやすいと思うから、後で良い?」

「……むぅ、わかった。そういうことなら」

 なんだか僕のまわりって実は結構物騒なことになってるんじゃないかとちょっと不安になってきた。

 いや、今更か。

「とりあえず、わたしの能力に関してはそんな感じ。お母さんが死んじゃったのも、コレのせいなんだと思う。っていうか、多分これのせいなんだろうなって――あ」

「ん?」

 言葉の途中で何かを思い出したのか、嗣深は急に小さく震えて笑い出した。

「ぷっ、あ、あはは、そ、そっか。そういうことかー」

「え、なに、嗣深なにがおかしいの」

「ううん。あのね、最初のお母さんも、義理のお母さんだった、わたしのお母さんも、両方ともわたしのせいだったんだなーって。そう思ったらね、おかしくておかしくて」

「……」

 ボロボロ涙を流しながら笑い始めた嗣深の頭をポンポンと撫でていたら、「ごめんねつぐにゃん、わたしみたいな害虫が妹で」とか笑いながら言い出したので、いたたまれなくなってまた抱き絞めて、嗣深が落ち着くのを待つことにした。

 いつものハイテンション天真爛漫娘に戻ってくれ。こっちが参っちゃうよ。

 僕まで少し泣きながら、暫くそうしていると、落ち着いたのか嗣深は「ごめん、もう大丈夫」と言って僕から離れるといつもの笑顔に戻っていた。

「うん。まぁとりあえず、そんな感じなの!」

「ん、そっか」

 とりあえず、嗣深の能力の話にはあまり触れないでおいてあげよう。

 と、電車がゆっくりと停車して、ドアが開く。どうやらどこかの駅に着いたようだ。

「おー、温泉だって、つぐにゃん」

 嗣深が外の景色を見てわざとらしくはしゃいで見せるので、僕もそ知らぬ顔でその話題に乗ってあげる。

「うん。このへんからは暫く温泉が多いよ。もうちょっと行ったら有名な温泉観光地だし」

 今いる駅の周辺は、せいぜい地元の人がちょっと入りにくる程度の観光地とも呼べないような小さな温泉の公衆浴場がある程度だと前に虎次郎くんから聴いたことがある。

「そっかそっか。一緒に入りたいねー」

「見た目のせいで本当に混浴でも問題ないと思われてしまいそうなのが腹立たしいね」

「やったねつぐにゃん、役得だね!」

「そんな役得いらないかなぁ……」

 そんないつものノリで少し話していると、ドアが閉まって、再び電車が走りだした。

「さて、それじゃあ次の話題だね!」

「あぁ、そうだね」

 無理に笑っているなぁと分かる笑顔な嗣深に、僕は少しだけ考える。

 訊きたいことは本当に一杯あるのだ。ただ、一杯ありすぎて、何から訊けばいいのか迷ってしまうから訊くべき順番のようなものがいまいち定まらない。

 それでもなんとか順番を決めて、小さく深呼吸をしてから問う。

「僕が死んだって言ってたけど、嗣深。僕、死んだのになんで生きてるのかな」

 嗣深のことを気にかけていたことで自分のことを忘れるところだったけれど、これはとても大事な疑問だ。

「えっと……治療してもらったから、だと思う」

「思う?」

「うん……アレを治療って言うのかはちょっと分かんないけど」

「……えーと? ごめん。死んだ、んだよね?」

 あやふやな記憶だけど、自分の胴体がそれはそれはグロテスクなことになって嗣深の上から放り出されたぼやけた視界の中で、自分が死んでいくあの感覚は思い出せてしまったので、アレでまさか死んでなかったなんてことは無いと思う。胴体が真っ二つになって生きてる人間なんているわけが無いし。

「うん。死んじゃった、んだと思う。抱きついても揺さぶっても反応が無かったし、心臓止まって息もしてなかったから……」

「……で、治療したら治ったの?」

「ううんと……うぅ、難しいよ説明が。おにゃんこ仮面さんがつぐにゃんに触って何かしたと思ったら、血と、えーと、その、血、血まみれだったつぐにゃんが一瞬で綺麗になって、バラバラになって食べられちゃってた部分も含めて治ってたの」

 何を言いよどんだのかは気にしないようにしよう。

「って、待って、おにゃんこ仮面って、あの変な着ぐるみの頭かぶった人?」

「うん。そうそう」

 一体何者なんだ、おにゃんこ仮面。っていうかあの時に助けに来てくれたのはあの人だったのか。明らかに変人だったけど本当に正義の味方っぽい人だったのか。

「その人って知り合いなの?」

「ううん。全然知らない人だと思うよ。でもつぐにゃんに似てた」

「え、あの人女の人だよね?」

「うん。あ、顔は見てないよ? 顔とかじゃなくて、なんていうか、雰囲気が」

「雰囲気ねえ……」

 僕が猫の着ぐるみの頭かぶって正義の味方ごっこするような人と雰囲気似てるとか言われても困るのだけれど。

「で、つぐにゃんを治した後は、お父さんの居たほうで何かして、最後にボロボロだったうちの車と、ぶつかってきた車に何かしたら、そのままどっちの車も綺麗になったの」

「……無茶苦茶だね」

「うん。でもお陰で助かったし……あとは車の外に放り出されてたつぐにゃんを担いで車に乗せてくれて、お父さんを起こしたらそのままその人はどこかに行っちゃった」

「ふぅん……」

 なんとも要領を得ない内容だけれど、まぁ大体のことは分かった。つまりゲームで言うところの蘇生魔法みたいなものがあるのか。今朝からある記憶障害のようなものは、そのデスペナルティ的なものなのだろう。多分。

 生きていても、一定期間呼吸が止まっていると脳細胞が死滅するって言うし、そういうアレだ。多分。

 こういうのは宇迦之さんに訊いたほうが早いかもしれない。

 他には何を訊くべきだろうか、と考え始めたところで、電車がトンネルに入って、耳に変な感覚が来たので一度唾を飲み込んで治す。

 気圧の変化によるアレだ。見れば嗣深も同じようにして唾を飲んだらしく、喉が上下していた。

「この感覚ってなんか嫌だよねえ」

「そうだね。たまに唾飲んでも治らないことあるし」

 嗣深も僕がなったことに気付いていたらしく、そんなどうでも良い会話をして間を繋ぐ。

「……ねえ、つぐにゃん」

「ん、何?」

 あとは津軽さんのこととか分かってるようなら、あの人の言っていたことの意味でも訊くか、と思ったところで嗣深が困ったように笑いながら目を逸らしつつ言う。

「怒らないの?」

「なにを?」

 唐突なその言葉にこちらとしては首を傾げざるを得ない。

「その……わたしのせいで、悪いことばっかりが起きてるのを」

「? 別に嗣深のせいじゃないでしょ」

「え、いや、ほら、わたしのせいで幸運奪われて酷い目にあってるようなものなんだよ? 普通は怒るでしょ?」

「いや、元々僕はそこまで運が良いほうじゃないし……大体、酷い目に会ったって言っても、嗣深が酷いことをしてきたわけじゃないじゃない。あくまで無関係の第三者が勝手にやってきてることで。っていうか、むしろ嗣深が目の前で胴体泣き別れとか腕へし折られたりとかするの見るほうがよっぽど嫌だから、むしろ良かったよ」

「つぐにゃん……」

 嗣深が泣きそうな顔になってこちらの顔を見るけれど、別に嘘ではない。大体、そんな非現実的な能力なんてあんまりにも実感が無いから、怒ろうとも思わないし、故意にやってるわけでは無いのなら、僕じゃなくても怒る人だってそんな居ないと思う。多分。

「っと、トンネル抜けたみたいだね」

「え、あ……うん。そうだね」

 外の景色が殺風景な真っ黒な壁から、自然溢れる綺麗な景色に戻ったのでそちらに目をやり、ふと、何かおかしいなと思ったところで、車掌さんのアナウンスが流れた。

『次はー、屋島高校前ー。屋島高校前ー』

「え?」

 その駅は、東京方面とは正反対の方向にある駅のはずなんだけど。

 外を見ると、見たことは無いけれど、確かに知っている無人駅の看板があった。

「え……?」

「うん、これで多分、理解してもらいやすくなったかな」

「え?」

 若干混乱しているせいで、「え?」しか言って無い気がする。

「この世界はね、閉じてるの。この町に外は、存在しない」

 唖然とする僕に、嗣深は少しだけ笑って言った。

「これが、この世界の秘密。誰も気付いていない、誰も違和感を覚えていない、不思議な不思議な秘密なの」

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