▼31.誕生日会
今回、転生傍観のほうは改訂の時間がなかったためおやすみです。
EXのほうは本編更新遅くなるくらいなら……という意見と是非見たいという意見両方あるみたいなので、とりあえず次回更新時にEXもどきを一度だけこっちに掲載してみて、その反応を見て続けるか考えようと思います。
「あれ、この子って……。
あー……可哀想に。こっちの子は……大丈夫みたいだね。ごめんね、痛かったよね?
大丈夫大丈夫。ぜーんぶ問題なく処理しておいてあげるから。
うんうん、お礼なんていらないよ。なにせ私は――」
「ハッピバースデー! トゥーミー! ハッピバースデー! トゥーミー! ハッピバースデー! でぃーあつーぐみーん! ハッピバースデー、トゥーミー!」
「自分で言っててそれ哀しくならない?」
「なる!」
「だよねー」
一人で自分の誕生日を祝う嗣深にツッコミを入れたら案の定だったので苦笑して、そこでふと、違和感を感じて周囲を見渡す。
「? どったの? つぐにゃん」
「あ、あぁいや……なんでもないよ」
ここは僕の部屋。いつも通りの部屋で、今はヒーターをつけて、嗣深が一人で誕生日おめでとうの歌を自分のために歌っていて、実にバカまる出しであり――。
(今、何時だっけ?)
室内は明るい。窓のほうを見ると、外も明るかった。
朝か。そう、朝だ。
自分が着てる服は、いつもの猫さんパジャマだ。嗣深も同じだ。
うん、いつも通りだ。
……昨夜はどうやって帰ったのだったか。
そう、お父さんの車で帰って……車内で寝て、それから……。
……どうしたのだったか。
もしかして、家に帰っても起きない僕達を、お父さんが車から降ろして部屋に運んで、着替えさせてくれたのだろうか。
その可能性はある。というか多分それだ。
朝、起きた覚えがないというのも寝ぼけているだけだろう。
今が何時かを見ればすぐにわかる。
床に転がっていた時計を見ると、朝の六時だ。なるほど、ならば寝ぼけていても仕方が無い。
そう、そうだ。確か昨日は家に帰って、部屋に運ばれて、そこでおきて、寝ぼけながらパジャマに着替えて、寝て、ついさっき起きたところだ。そう、何もおかしいことはない。
「というわけでつぐにゃん!」
「はいはい、何? 嗣深」
変なことを考えていた頭を切り替えて、嗣深のテンションに苦笑いしながら話を聴いてあげるとしよう。
「今日のわたしの誕生日は、是非ともカラオケパーティーとしゃれ込もうではにゃいか!」
「おのれ、それは僕の誕生日に是非やってみたかったイベントではないか。許す!」
「へへー! ありがたきお言葉でさぁお代官様! というわけで皆に早速声をかけよー!」
「昨日の流れ同様でまた二人、いや三人だけの誕生日になりそうな予感もするけどね!」
「そんな寂しい誕生日は嫌だよ!」
「おい、それはそんな寂しい誕生日だった僕に喧嘩売ってるのか」
良いじゃないか、お父さんが居るだけで最高の誕生日だとは思わんかね。
「さぁ、まずは虎にゃんからだー! ヒャッハー!」
「おのれ逃げおったな!」
うん、朝から嗣深は実にテンションが高いな。
「それはそれとして、ちゃんと歯磨きと顔洗い先にしてきちゃおっか」
「え? さっきしてきたじゃない」
……?
そうだっけ?
「んもー、嫌だなぁつぐにゃん。このお寝坊つぐみんの異名を持つつぐみん様が、寝起きそうそうにこんなテンション高いわけないじゃない。ちゃんと顔洗いも歯磨きも万端だよー。っていうかつぐにゃん一緒にいたじゃない」
「そういえばそうだったね」
「んもー、つぐにゃんったらボケるには早いよ! 若年性なんとかになるには早いよ!」
「嗣深が今まさにソレなんじゃないかという疑惑が出たんだけど」
アルツハイマーという単語を忘れてる時点でそっちのほうがボケてるとしか思えないよ、嗣深。
なんだかぼんやりする自分の頭を軽く叩いて覚醒させる。
うん、OK、OK。起きた起きた。
「お次はせっちゃーん。そしてーガイアちゃーん」
「鉄板の三人だね」
僕にとっては虎次郎くんと宇迦之さんの二人が鉄板だけれど、嗣深にはそこにガイアさんが追加されるのはあの会話のテンポを見ていれば分かることである。
ふむ、そうなると五人か。町にある一軒だけのカラオケボックスは大人で四人から六人座ったらギッチリな狭さなので、子供だけとはいえちょっと狭いかもしれない。広めの部屋とれるか早めに電話して確認しておかないとだね。
「うんうん。あとはー、早苗ちゃんとー、えりにゃーん。メール送信なうなーう」
「いつのまにアドレス交換したんだ嗣深……」
我が妹ながら実に、実にアグレッシブというか、本当に他人と仲良くなるのが早い子である。
あぁ、もしやアレか、ガイアさん繋がりで仲良くなったのか。勉強会では津軽さんしか来なかったけども。
……ところで、こんな朝っぱらから自分の誕生日祝うためにカラオケ行くかどうかの出席を取るメールを送るとか完全に傍迷惑な子だな、我が妹ながら。
僕は「さぁさぁ、誰が一番早く返信くれるかな! へいカームヒアー!」などと叫んで謎のダンスを始めている嗣深を生暖かい目で皆がらそんなことを思う次第である。
「まさか、全員来るとはね……!!」
「ふっ、これが人望の差って奴だね!」
現在、お昼である。
電車に揺られて町までやってきて、カラオケボックスへと集合したるは、嗣深が招集した全員、即ち僕達を含めて7名である。
いや、別に良いんだよ。そうだね、コレが人望の差だよね。うん。
「つぐにゃーん!? 冗談だからガチへこみしないで!?」
いやいや、良いんですよ。どうせ僕なんてね、うん。アレだよ。ゲームで言うところのモブキャラみたいなもんだから。どうせ誕生日になんて誰も来てくれやしないから。電話こそ貰ったけど、その日に直接会った友人から誕生日おめでとうすら言われない程度の存在だから。うん。
うん……ごめん、泣いていいかな。
「ちょ、ヨッシー!? あ、せ、せや! た、誕生日プレゼント昨日渡しそびれてんなー! いやー! 遅くなったけど渡せそうでよかったわー! なー刹那!」
受付で宇迦之さんがマイクやらを受け取っている間、近くでガイアさんと漫才をしていた虎次郎くんがなにやら慌ててこちらに来てそんなフォローを入れてくる。
うぅ、良いのだよ虎次郎くん。そんな気を使わなくても。別に気にしてなんか無いから。
「え? ボクはプレゼントなんて用意してないけど」
「そこは嘘でもある言うとけ!? ワイの奴を二人からのっちゅうことにしとけるやろ!?」
おおう、プレゼント用意してたのは本当だったんだ。っていうかその心遣いは嬉しいけど、口に出したら無意味じゃないかね虎次郎くん。
「おう、義嗣、お前も誕生日だったのか? なんだそういうことは早く言えよなー。俺は嗣深の分しか用意してねえぞ?」
あ、君には元から期待してないですガイアさん。
「双子なんだからそりゃあ片方が誕生日ならもう片方もそうに決まってるでしょ、普通は……。まぁ、佐藤くん達は一日ずれてるみたいだけど、珍しいわよね。あと一応だけど、呼ばれた以上は私も用意してきたわよ、プレゼント二人分」
津軽さん、いきなり呼び出された上にそこまで親しくないはずなのにちゃんと用意してきてくれるとか貴方は女神ですか……!!
「あ、義嗣くん。昨日はごめんね? あの、私もプレゼント持ってきたから」
おぉう……ありがたやありがたや。
「うん、ありがとう、虎次郎くん、津軽さん、相原さん」
「え……?」
僕が笑ってプレゼントを持ってきてくれたという三人にお礼を言うと、何故か相原さんと嗣深が目を見開いて固まった。どうかしたのだろうか。
なんか他の皆も、微妙に固まってる。なんだ一体。僕がお礼を言うのがそんなにおかしいのかい。
なにやら不当な評価を得ていたっぽいことに心外だと思っていたら、微妙に挙動不審になり始めた嗣深が、唐突にこちらに指を指して叫ぶ。
「へ、へいへいつぐにゃーん! 苗字呼びなんて堅苦しいよ! 気軽にえりにゃんとさっちゃんと呼ぶべきだよ! いつもの如く!」
「待って、そんな馴れ馴れしい呼び方した覚えは一度たりともないよ僕!?」
ありもしない事実を勝手に作り上げようとする嗣深にツッコミを入れた。
と、そこでいつもなら乗ってくるはずの虎次郎くんもガイアさんも黙っていることに気付いてそちらを見ると、僕と相原さんを交互に見て、首を傾げたり、相原さんに何か耳打ちしたりしている。何をしてるんだ君達は。あからさまに僕に聞こえないように内緒話をするのはやめたまえ。陰口でも叩かれてるのかとちょっとビクビクしてしまうではないか。無論、君達はそんなことをしないと信じているけどね!
……陰口じゃないよね? 大丈夫だよね? あの、何か言いたいことあったら直接言ってくれていいからね?
内心ドキドキである。僕だけ実は仲間はずれにされてるパターンとか無いよね、大丈夫だよね?
そんな怯える心を隠して、嗣深のカラオケパーティーは幕を開けた。
大人が8人くらい入れるカラオケボックスを借りた僕達は、到着早々に嗣深が「ガイアちゃん!」「応!」と元気良くアニメのオープニングだというデュエット曲をガイアさんを巻き込んで唄い始めたことでパーティー開始の合図となり、虎次郎くんややんややんやと唄う二人に合いの手を入れ、刹那が飲物をカバンから取り出して皆に配り、隣に座った相原さんは妙にそわそわした様子で僕の様子を伺っていて、津軽さんは相原さんの隣でその様子を見て何か凄い微妙な顔をしている。
尚、本当はカラオケボックスは飲物や食べ物を持ち込み禁止となっているけれど、そのあたりって殆ど有名無実化しているし、そもそも中学生の僕達がカラオケボックスの料金と飲物の料金が合わさった額を出せるほどのお金は無いので、このあたりは店員さん側も暗黙の了解である。尤も、一応お料理くらいは注文する予定なので許して欲しい。
というか、こちらから訊いたら駄目と言わざるを得ないけれど、持ってきたのを飲まずに帰れなどと店員さん側も言えないので、そういう時はカバンか何かに隠して持ち込んでね、とこの前利用した時に店員さんに教えられたので大丈夫だろう。
そう、だから決して悪いことをしているわけじゃないのだ。うん、大丈夫。大丈夫。小心者なのでなんだか悪いことしてるような気がしてしまうので、そう自分に言い聞かせて落ち着かせ、宇迦之さんから渡されたドクペを啜る。
うむ、この安っぽいお菓子みたいな、コーラに杏仁豆腐ぶちこんだような、なんとも言えない味、実に美味である。
とりあえず唄う順番は逆時計回りかな、と宇迦之さん、相原さん、津軽さんに声をかけると、それでOKとの返事をもらったので、宇迦之さんに曲目入力用の機械を手渡した。
ちなみに何故逆時計まわりを提案したかというと、そっちのほうが僕の歌う順番が後になるからである。
座っている席は、嗣深、虎次郎くん、僕、相原さんと四人で一列に並び、反対側の席には、嗣深の対面にガイアさん、虎次郎くんの対面に宇迦之さん、相原さんの対面に津軽さんという配置になっているので、丁度嗣深・ガイアさんペアが歌ったら次は宇迦之さんになるわけだ。
さて、僕はとりあえず皆の歌う曲に合わせて数少ないレパートリーから曲を選ぶタイプなので、暫くはのんびり他の人たちが歌うのを聴いていよう。
「あ、あの……義嗣くん。お菓子作ってきたんだけど、食べ……」
「ん? どうしたの? 相原さん」
嗣深とガイアさんのアップテンポな音楽に合わせて身体を揺らしていたら、隣に座っている相原さんに声をかけられてそちらに顔を向けると、カバンから何かを取り出そうとして、僕の手元にあるドクペを見て言葉が尻すぼみになっていった。
「ううん、なんでもない」
「そっか。あ、もしかしてドクペ飲みたいの?」
「え、あ、ううん。違うよ。大丈夫。本当になんでもないから」
「そっか。相原さんもこの味に目覚めてくれたのかと思ったのに、残念だよ」
名前を出す度に、相原さんの顔が妙に哀しそうになるのだけれど、どうしたのだろうか。
「……ねえ、佐藤くん、ちょっと付き合ってもらっていいかしら?」
「お付き合いだなんてそんな、僕、確かに津軽さんのこと嫌いじゃないけどっ」
何か笑顔で津軽さんが言ってきたので虎次郎くんとか嗣深みたいなノリで返してみたら、相原さんが顔を俯かせた。え、何、面白かったの?
「……ちょっと、面貸しなさい」
え、あれ、その言い方はちょっと怖いです。
僕は何か迫力ある笑顔を浮かべる津軽さんに若干怯えつつ、促されるまま席を立ち、一緒に部屋から出る。
そして、津軽さんは早足で歩いて誰も入っていない他の小部屋に入ってしまったので勝手に入って良いのか、と迷ったけれど、手招きされたので店員さんに怒られないと良いなーと思いながら室内に付いていき、座るように言われたので手近なソファーに座ると津軽さんはドアを閉めて、何故か正面ではなく、僕の隣に座った。
「ねえ、質問なんだけど」
「う、うん。何?」
「アンタ、早苗のことどう思ってるわけ?」
「えう?」
変な質問に、思わず変な声が出る。
どう思ってる、と言われても、クラスメイトでしかないと思うのだけれど。一応、友人と呼べる程度には交流はあったような気がするけれども。
なんと答えたものかと考える僕を見て、津軽さんは足を組むと頬杖をついてこちらを睨む。
「んじゃあ、まぁ答えづらいならそこは良いわ。ただ、これだけは答えなさい。アンタ、なんで早苗のこと苗字呼びになってるの?」
「え? なんでも何も、僕は前から相原さんのことは苗字で――」
僕、元から苗字で、呼んでた、よね?
「……もしかして、アンタ……」
僕の答えに津軽さんは眉間にシワを寄せてそう呟くと、頬杖をやめると僕の顔を覗き込んでくる。顔が近い。
「幾つか質問するわ。答えなさい」
「う、うん」
いきなりなんなんだろうか。困惑する僕を無視して、津軽さんは質問を開始した。
「今日は何日?」
「24日、だよね? 嗣深の誕生日」
「アンタと仲が良いクラスメイトは?」
「え、虎次郎くんと宇迦之さんくらいかな」
「私の名前は?」
「津軽さん」
「下の名前は」
「恵理那さん、だよね?」
「ええ、そうよ。次、アンタの身の回りで最近起きた、大きなことは?」
えーと、妖怪(?)退治現場と、妖怪(?)が窓を叩いてたことと、誘拐されかけたことと、現実感はあんまり無いけど、誰かに襲われて大怪我したのと、後は山登りしてて気絶したこと、かな。
……全部、事情知らない人には言えないような内容ですね!
「えーと……」
「……じゃあ言い方を変えるわ。最近、誰かから告白とかされなかった?」
「え? 嗣深が僕のお菓子を食べちゃったとこの前謝ってきたよ」
「ふざけてるんじゃないのよこっちは。告白ってのは愛の告白とか、そういう奴よ」
「そんなにこの学年一モテない僕の心を抉るのが楽しいですか津軽さん!」
この外見でそんなもの受けるわけないじゃない! バレンタインは虎次郎くんと宇迦之さんと相原さんにあげてますよ僕は! もらうのは宇迦之さんと相原さんからの友チョコですよ! あと虎次郎くんとガイアさんからのおすそわけですよ!
……あれ?
「相原さんになんでチョコあげたんだっけ」
「……今の話の流れからなんでチョコになるのかは知らないけど……本当に覚えは無いのね?」
「無い無い。虎次郎くんがふざけて嫁にきいへんか! とか言うくらいで、一切無いよ。カムヒアーマイ青春!」
まぁ、まだ恋愛とかよく分からないから口で言うほどモテたいとか思ったこと無いけど。虎次郎くん達と遊んでるのが一番楽しいし。
「うるさい」
「あ、ごめん」
怒られたので黙る。
……しかし、こんな質問をいきなりしてくるなんて、一体なんのつもりだろうか。
ううむ、ドクペ持って来れば良かった。手持ち無沙汰である。
津軽さんに結局なんの用なのかと声をかけようにも、何か真面目な顔をして黙り込んでるので声を掛け辛い。どうすれば良いのだろうか。
備え付けのテレビからは曲紹介のPVが延々と流れているので、仕方ないからそれでも眺めて時間を潰そう、とぼんやり眺めていたら、津軽さんがいきなり僕の頭に手を置いたので、思わずビクッと身体を竦める。
「え、何、どうしたの、津軽さん」
「悪いけど、覗かせてもらうわよ」
「え?」
瞬間、視界が暗転した。




