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▼31?ー4.ぼんやりと

 目の前には、銀髪で真っ赤な瞳の美女、いつもの彼女がいた。

 その彼女は、先日青年が助けた可愛らしい少女を背後から抱き絞めて、ご満悦の様子である。

「あー、もう可愛いわね。本当、もう可愛いわね。食べちゃいたいくらいだわ」

「落ち着け相棒、――ちゃんがおびえてる」

「相棒になった覚えは無いわよ三下」

「三下は流石に酷いんでないかい!?」

 目の前の青年と、自分を抱きすくめる背後の彼女とを、おろおろとどうすれば良いのか決めかねている様子の少女を尻目に、青年と美女のやりとりは続く。

「三下が駄目なら何が良いのよ。チンピラ? パシリ?」

「どっちも違うよ! 俺が求めてる呼び名と果てしなく違うよ! そもそもどっちも明らかに格下相手に見ている呼び方だよね!?」

「実際、格下だと思ってるのだけれど。何がいけないのかしら」

 心底、バカにしたように鼻で笑う彼女に、青年が膝から崩れおちて四つんばいになりながらも、気丈に顔を上げて彼女を睨みつけて叫ぶ。

「確かに俺が君に勝ってる要素なんて欠片も無いけど、その扱いは一応は君の友人である俺に向って酷いと思うよ!?」

 格下扱いを否定しないあたりは、もはや負け犬根性が染み付いているのかもしれない。

「友人? 私の友人はこの場にはいないと思ったのだけれど……」

「おいやめやがれでください。俺の心のライフゲージはそろそろマイナスへと振り切られようとしてるからもうちょっと愛が欲しいです」

「愛なら三丁目に行けば掃いて捨てるほどあるわよ。一時間30ドルか1000ルーブルくらいで」

「金で買う愛なんていらない! 俺は! 君の! 愛が! 欲しいの!」

「百億ドルくらい積んだら考えてあげるわ」

「そんだけ積んでようやく考えるレベルなの!? 俺の評価、君の中でどんだけ低いの!?」

「アンタに愛を囁くくらいなら、花売りでもしたほうがマシなレベルね」

「ねえ、ごめん。ちょっと本気で泣きそうなんだけど」

「私ね、貴方のことは好きじゃないけど、泣き顔だけは面白いから好きよ」

「そんな嫌な告白いらんわ、このサディストがあぁ!!」

 うがー、と我慢しきれずに叫んだ青年の声に、少女が怯えたのか身を縮こまらせたのを見て、青年は失態に気付いて急いで謝ると、少女は俯いたまま「ごめんなさい」と逆に謝って返す。

 その様子に、彼女は心底呆れた様子で青年を見た。

「アンタ、配慮ってもんが欠片も無いわよね、本当」

「誰のせいですかと俺は声を大にして言いたいですよ……!!」

 彼女のあまりの言い草に、青年がまた叫びそうになるのを堪える。

 落ち着け、コイツは俺が傷ついて怒るのを見て楽しんでるだけだから。生粋のサディストだから。俺が怒れば怒るほどこいつが喜ぶだけだから、とぶつぶつと自分に言い聞かせた後、小さく溜め息を吐くと、彼女の腕の中で俯いて震える少女の頭を撫でる。

「大丈夫だよ。君が謝るようなことなんて何も無いから」

「ごめんなさい……」

 怒声、というよりも大きな声そのものに対するトラウマがありそうなことくらい、分かっていたはずなのに、本当に俺は何をやってるんだろうか、と自己嫌悪に陥りそうになりながらも、その震える身体を抱きしめてあげようとして、脳天に衝撃を受けた。

「にゃッ……!?」

 咄嗟に悲鳴を最低限にまで抑えたのは彼としてはかなりの功績であったと言えよう。

「近づかないで頂戴。変態が移るわ」

「ねえ、この場面ではさ、普通、君は俺に譲るもんじゃないかな。俺にそっと、――ちゃんをゆだねる場面じゃないかな……?」

「嫌よ。そうやって弱ってる女の子につけ込んで好意を得ようだなんてなんていやらしい奴なのかしらね、アンタ」

「ねえ、俺はそろそろ怒っても許されるべきだよね」

「冗談よ。今までのは照れ隠し。アイシテルワヨ」

「おいやめろ、そんなあからさまな棒読みで言われてるのにちょっと嬉しいと思ってしまう俺が憎いからやめてください」

 本当に嬉しかったようで、少し顔を赤くした青年に毒気を抜かれたのか、彼女は小さく笑って少女を抱く手を離すと、立ち上がって少女の頭をそっと撫でて、どこかへと歩いていく。

「どこに行くんだ?」

「ちょっと買い物よ」

「買い物? 食料とかならまだあったはずだけど」

「バカね、アンタ。その子の服とか色々必要でしょうが。いつまでもアンタのダボダボの服をかぶせてるだけってわけにもいかないし」

「会長のとこ行けば古着くらいもらえそうだけど」

「あのねえ……こんな可愛い子に男物の古着なんて着せようとすんじゃないわよ……大体、下着やらなんやらは合った物じゃないと駄目なのよ、女の子は。それに生理用品だのなんだのは至急で必要だし、あのおっさん連中も持ってないでしょ、っていうかあったら怖いわよ、男所帯でそんなもんがあったら」

 言われてみればご尤もである、と青年は納得して、彼女が離れるとすぐに正面から抱きしめて頭を撫でていた少女を見て、「じゃあとりあえずスリーサイズ図る?」などと言って、早歩きで戻ってきた彼女の拳骨を喰らった。

「ま、マジで痛いんですけど……!!」

「さっきお風呂入れた時に私が図っておいたからアンタは本当何も余計なことしないで静かにその子の面倒みてなさいよ……」

 その子にセクハラしたら本気で殺すわよ、と凄んだ彼女に、青年は不機嫌そうに眉根を寄せて「本気でそれ言ってんなら流石に俺も傷つくぞ」と返す。

 その返しに、「うっ」と小さく呻いた彼女は、小さく溜め息を吐いて踵を返し、ドアのほうへと歩いていく。

「悪かったわよ。とりあえず、留守はよろしくね」

「あいよ。そっちも気ぃつけて」

「このあたりだけなら、今は安全だから大丈夫でしょうよ」

 万が一手を出したら、報復あるの分かってるんだから、ここの連中だって、と言うか彼女に、違いない、と青年が笑う。

 そうして、部屋を出て行った彼女を視線だけで見送ると、青年は改めて少女の頭を撫で、背中を優しく叩きながら、適当な童謡を口ずさむ。

 震えて俯いていた少女の身体は、徐々にその震えを無くしていくと、身体の強張りが無くなり、青年へとその身を完全にゆだねて、小さな寝息をたてはじめた。

「おかあ……さん……」

 少女が小さく呟いたその声に、青年は「呼ばれるならせめてお父さんが良いなぁ」などとどうでも良いことを考えながら、少女のために、童謡を口ずさみ続ける。



(……この子、嗣深に、似てるなぁ)

 その思いは、単に青年の姿が自分と重なって見えているからなのかもしれないが、そう、僕は思う。

(そういえば、あの女の人はあの人に――)

 ぼんやりと、薄らと、霞むように消えていく目の前の光景を、少女の視点で、或いは青年の視点で、僕はふと、誰かのことを思い、そのまま意識は霧散した。

 いけない、まだまだというか、これから暫くしてから本領発揮の予定なのに、早くもSAN値減少中の読者様がおられるご様子……!!

 EX的な物をこっちでも書くべきなのか、これは……!!←

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