▼30.帰り道
虎次郎くんが連れ帰ってきた宇迦之さんによる魔法っぽいものによって、後頭部から出ていた血は止められたお陰で、ようやく過保護になって僕にべたべたしていた嗣深は離れ、どこか苛立たしげにしていた虎次郎くんもホッとした様子だった。
それから一応訊いてみたところ、あの化物達はしっかりと一掃したらしく、流石に今日はもう来ないだろう、と宇迦之さんが言っていたので、一応は安心して良いだろう。そして、これから二人が作戦会議を始めるとのことなので、折角だから参加して少しでも参考になる意見でも出せれば、ついでに現状がどうなってるのかとかが知れたら、と思っていたのだけれど、丁度そこで嗣深の携帯電話にお父さんから到着したと電話が入ったために、僕と嗣深はそこで二人とお別れになった。
また何時でも来てや、と笑う虎次郎くんに、宇迦之さんが「いや、ここボクの家だからね、虎次郎」とツッコミを入れる姿に、神生会に入っても僕達の関係は変わらずに続けられそうだな、と嬉しくなりながら、僕達は二人に別れを告げて神社の外で待っていたお父さんの車に乗り込んだ。
本当は助手席に乗ってお父さんと喋りながらが良かったけれども、そうなると嗣深が後部座席で一人ぼっちになるため、仕方なく僕は嗣深と共に後部座席に座り、お父さんと喋りながら家への道を車で帰る。
暫くは三人で、というか主に嗣深が元気に喋っていたのだけれど、精神的な疲れが出たのか僕の肩に頭を乗せて寝てしまい、お父さんと僕は嗣深を起こさないように静かにしていよう、と小さい声で言い合うと、そのまま無言で夜道を車が走っていく。
対向車も、後続の車もいない。この時間帯だと大型トラックなどが多少雪が降っていても結構な速度で飛ばしていたりするのだけれど、それがいないだけで大分運転も気が楽だ、とお父さんが笑って言って、欠伸をした。
それに釣られて、僕も欠伸が出る。
「義嗣も寝ておいて良いぞ? 家に着いたら起こすから」
「んー……でも、お父さんも眠いんでしょ? じゃあ起きてる」
「はは、気持ちは嬉しいけどな。あと十分程度の道のりだし大丈夫だよ」
「んー……」
正直な話、僕も神社でのこととか、終電乗れなかったこととかによる精神的な疲れが割とあるので寝たいのは確かで、嗣深の寝息と体温が僕にも眠気を誘発してきていて、割と瞼が重くなってきてはいるのだけれども、お父さんも長時間運転してきて大変だったろうし、居眠り運転なんてことにならないためにも僕がおきて小さな声とはいえ、おしゃべりを続けることに意味があるというかなんというか……。
カクン、と眠気で首が落ちそうになって危うく持ち直す。
肩に乗っている嗣深がその反動で揺れて、少し顔をしかめて「うにゅう……」とよくわからない寝言を漏らした。
「はは、無理しなくて良いから、寝ておきなさい」
「ん……うん。わかった。おやすみなさい、お父さん」
「あぁ、おやすみ、義嗣」
なんだか、良い夢が見れそうな気がする。




