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▼29?-3.大人で男の子

 無様、だった。

 ボロボロになった衣服は、もはや服というよりは、ボロ布というほうが相応しい。

 身体中の至る所に傷があり、血があふれて血溜まりをつくり、脇腹に到っては致命傷では無いものの、銃創による穴が空いている。

 武器として手にしていた銃はどこかに行っていた。けれど、だからこそこうして生きていられるのだと考えれば、少々値が張ったあの銃を無くしてしまったのも問題にはならない。

 銃の代わりに握られたちっぽけな果物ナイフは、青年が馬乗りになっている男の胸や腹、首を幾度も刺したことで刃こぼれし、血糊がべったりと付着しているので、もう本来の用途には使えないだろう。そんな果物ナイフの活躍により、盛大に自身の前半身を赤く染めた返り血と、その鉄臭い臭いに吐き気を催す。けれどもそれも、今はどうでも良い。

「なんとか……なった……」

 急激に全身から力が抜けていく。

 過剰分泌されたアドレナリンによって感じていなかった痛みが、じわりじわりと青年へと襲い掛かり、冷静に考えるだけの思考能力が戻った青年は、その痛みに辟易しながら溜め息を吐いた。

 どうしてこうも自分が身体を張らねばならないのか。

 そもそも、自分は戦う者ではない。そこは自他共に認めるところであり、あくまで自分は後方支援、或いは撹乱要員が関の山と言ったところだと思う。

 ……とはいえ、自分で身体を張らないと守れないものがあったのだ。ならば、例え命だろうがなんだろうがチップとして差し出す程度のことが出来なくてなにが男か。

 少々古臭い考えではあるが、自身が理想とする有り方を、少しでも体現できていることに自己満足して、痛みに耐える青年の背に、少女がしがみついた。

 よほど怖かったのだろう。少女の身は酷く震えている。

 それも仕方が無い。自分を守ってくれる存在が、こんな情けない男が一人だけだったのだ。そして実際、青年が呆気なくボロボロになったせいで、少女は危うく連れ去られそうになっていたのだから。

 青年は、周囲にもう動く者が居ないのを確認すると、痛む身体に鞭を打ち、背に抱きついている少女が落ちないようしっかり支えて立ち上がり、歩きだした。

 身体中が痛い。血が抜けて身体も冷えて震える。けれど、少女を守れたのだという達成感が、彼の疲労を多少なり吹き飛ばしてくれている。自分でも何かを守れたのだという事実が、とても心地よい。

「どうして……」

「んー?」

 背中に抱きついていた少女が、小さく、か細い声をあげた。

「どうして、助けてくれるんですか?」

「あー……」

 なんと答えたものか、と少し考え込む青年に、少女は言葉を続ける。

「わたし、何もお礼できる物なんてもってません……身体だってこんなだから、楽しんでもらうこともできません……それなのに」

「まぁ、俺も男の子だから、ねえ」

 少女のネガティブな発言を遮るように、青年は笑って言った。

「男の子だから……?」

「そう、男の子っていうのは、可愛い女の子のためなら無償でも助けるために働くものなのだよ、ちなみに報酬にはとびっきりの笑顔とかもらえたらもう最高です」

「わたし、可愛くなんて……」

「うんにゃ、君はとってもラブリーキュートで俺的直球ど真ん中ストライクですよ? いや本当本当。あ、でもお礼に身体を要求なんてそこらのエロオヤジみたいなこと言うつもりはないから。一応先に言っておくけど」

 そんな軽口を叩く青年に、少女は何も言えず、青年のうなじへと頭を押し付けるようにして俯く。

 そんな少女に、青年は小さく苦笑して、上を向いて呟く。

「大人は子供を守るものだし、男の子は女の子を守るものなのさ」

 それは理屈じゃなくて、他人から見たらただの格好つけでしか無いかもしれないけれど、人として一番大事なことなのさ、と。

 黙り込み、小さく嗚咽を漏らしはじめた始めた少女をあやすように、優しい声でそう言って、少しふらつきながら適当な童謡を口ずさむ。

 現在の相方である彼女に爆笑されるか、呆れられるか、どんな反応をされるか想像するとちょっとだけ微妙な気分になりながらも、童謡を唄う口は、止まることはなかった。

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