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▼27.正義の味方(不審人物)、おにゃんこ仮面!

 ※転生傍観者のほうはちょっと改訂する時間が無かったので、そちらは次回更新時に。次話は半分くらい打ち終わってるので次まではさほど間隔は空かないかと。


 影分身とか使えるようにならないカナー。時間も体力も精神力も全然足りないヨー。

「てめえが持ってんのは分かってるっつってんだろうが! あぁ!? おら、どこにやったか吐けっつってんだよ!」

「し、知らない! 本当に知らないんだ! 嘘じゃない!」

「嘘では無いけど本当じゃないとかそういうのなんだろうがどうせよお? あぁ? おら、もうすぐ電車くんぞ? てめえの頭の中身ぶちまけられたくなかったら早く教えろっつってんだよ。おい、俺って優しいだろ? せっかくチャンスやってんだぞ? おい」

「ひいいい!!」

 駅から出て、神社に向うために踏み切りを渡ろうとしたら、不良が誰かを踏ん付けて電車の路線にその人の頭を固定していたでござるの巻。

「な、なにあの人……」

「……ナンダロウネ」

 なんというか、どんだけ物騒なんだと言いたい内容の脅し文句に、嗣深も僕も無視して素通りすることも、近づくことも、警察に通報することも出来ずにその場で固まる。嗣深の怯えた声にも、変なカタコトで返してしまった。

 周囲には誰もおらず、お陰でその凶行を止められる人はいそうにない。明らかに何か脅迫とか恐喝とかそういう現場で、っていうか踏まれている人がおじさんなので所謂これがオヤジ狩りというものなのだろうかとか考えていたら、不良の人がこっちに気付いて無言でガンを飛ばしてきた。

 怖ッ!

 嗣深も同じ印象を抱いたらしく、僕にプルプル震えながら抱きついてきた。まぁ気持ちは分かる。

 嗣深を守るように自分の身を盾にして、じりじりと後退する。アレは関わっちゃいけない類の人だ。間違いない。とりあえず誰か人を呼んでこよう。流石に見捨てるわけにもいかないけど、かといって僕達ではどうしようも無いし。

 しかし、人を呼ぶといってもどこから呼べば良いのか。嗣深が宇迦之さんに先ほど家にお邪魔していいか電話したら不在着信になっていたので、そちらは無理。お父さんは当然まだまだ到着しない。となるとこのあたりの人ということになるけれど、このあたりに知り合いとか特に居ないのでなんとも難しい。

 やっぱりここは警察呼んだほうが良いだろうか。

「おら、早くしろや。なんなら電車が来る前にてめえの頭かち割っても良いんだぞ? あ?」

「か、勘弁してくださいい! イタタタタ! いた、痛い痛い痛い!」

 そんな葛藤をしている間に、不良の人が足をおじさんの頭の上に移して体重をかけたようで、おじさんの悲痛な悲鳴が聴こえる。そして、どうやらうちのちびっ子はその声に耐え切れなかったようで、僕の懐から身を翻すと仁王立ちして右手で不良の人を指差しながら叫んだ。

「イジメは駄目なんだよ!」

 ……いや、その台詞はどうなんだろう、嗣深よ。

「あ゛ぁ?」

「って、つぐにゃんが言ってました!」

 おい、そこで僕に振るのか。いや、確かに思ってはいるけど言った覚えは欠片も無いよ。っていうか自分の言葉として言う勇気が無いなら隠れてなさいよ君は。

 言うやいなや、僕の背中に隠れて「さぁビシッと言ってやってくだせー、つぐにゃん様!」とか煽るうちのアホの子を誰かどうにかしてください。

「おいガキ共、見逃してやっからさっさとどっか行け」

 そんなコントじみたことをしている僕達に不良の人が舌打ちまじりにそう言って、また踏んでいるおじさんを罵倒し始める。

 うん、これはアレだ。神社へは別ルートを通って行こう。そんで警察に通報。これでいいよ。うん、変に刺激しないうちに離れたほうが良い。おじさんには悪いけれど、おまわりさんが来るまで耐えてください。すぐ傍、神社に向う途中に警察署があるからきっとすぐ来てくれると思います。多分、10分か20分くらいしたら。

 ……いや、それは流石に手遅れな気が。10分もあのままって、暴力振るわれなくても死んじゃうんじゃないか……?

 不良の人に気付いた時点で踏み切りには近づいていないため、30メートル程度離れているので顔は分からないけれど、服装くらいは街灯にうっすら照らされているために分かる。

 不良の人はパーカーのような物を着ていてフードをかぶっているので顔も髪型も分からない。まぁそこはどうでも良い。問題はおじさんのほうだ。

 おじさんは上着やらを脱がされてYシャツ一枚で、雪の残る地面、それも電車の路線という冷えに冷えた鉄の地面に踏みつけられていた。

 雪こそ今日はちらほら降っているだけだけれど、気温は氷点下に達しているのだ。あの格好のままで10分20分もあんな状態が続いたら良くても高熱の出る風邪、悪ければ低体温症とかになって死んじゃうと思う。現時点で何分くらいああされているのかは分からない以上、洒落にならない。

 とはいえ、僕一人ならまだしも嗣深もいる以上、下手に関わって大怪我でもしたら困る。困るけれども。

「つぐにゃん……」

 背中にくっついている嗣深の上目遣いと何かを期待している目には、なんというかこう、男の子としてここはやらねばならないんだろうなぁ、という変な勇気が湧いてしまった。

 男の子というのは実に困ったものである。

「すいません、あの、その格好でずっと居るのは、そのおじさんが冗談抜きで死んじゃうと思うので、せめて服は着させてあげてはどうかと思います!」

 ……僕なりの勇気がコレでした。ええ、だって怖いもの。

「あ゛? てめぇにゃ関係ねえだろうが。なんだ? てめえのオヤジなのか? コイツぁ。ちげえだろ?」

「あ、はい。違います。うちのお父さんはダンディで凄いカッコイイおとうさんです」

 その格好良さたるや、他の追随を許しません。

 胸を張った僕に、嗣深が「そーだそーだ!」とよくわからない合いの手を入れる。

「……んじゃとっととどっか行け。こっちゃあ暇じゃねえんだ」

「た、助けてくぶぅ!?」

「うるせえ、てめえは黙ってろカス」

「あ、あうあう」

 こちらに助けを求めようとしたおじさんが、頭を踏みつけられて地面とキスした。本当どうしようコレ。

 警察、やっぱり警察か。この距離なら顔は覚えられてないだろうし、ここは警察呼ぶと言って脅して立ち去ってもらうべきか。

 いやでも、下手に示威行為に出ると後が怖い。声とか似たような背丈の二人の子供、で覚えられた場合、こう後から報復的なことされた場合が怖い。考えすぎかもしれないけど、いやでも流石にあのおじさんを見捨てるのも……。

 ほ、本当どうしよう……。

「つぐにゃん……」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 虎次郎くんが居れば、こういう時すかさず介入してくれるのだけれど。

 ぬぬぬぬ……。

 改めて周囲を見渡してみるけれど、人っ子一人いやしない。車も通ってない。

 背中には小さく震える嗣深。正面には怖い怖い不良の人と、不良の人にイジメられるおじさん。

 なんとか止める方法は無いものか。グルグル考えが回って回って回って、考えるのが面倒くさくなったので、僕は自棄になった。

「イジメはいけないんだよ!」

「つぐにゃん、それさっきわたしが言った!」

 ごめん知ってる! 緊張やらなんやらのせいで言葉が考え付かなかったの!

 嗣深のツッコミと不良の人から飛んでくる冷たい視線に冷や汗をかきそうになる。

「そのっ、通りだよ!」

 そして、そんないたたまれない空気をどうしようと思った矢先に、ズダン、という何かやたらと重い着地音を響かせて、僕達と不良の人の間に誰かが叫びながら降って来た。

 やってきた、ではない。文字通り、降ってきたのである。

「んだ、てめえ」

 いきなりの闖入者に、不良の人がガンをつけるけれど、その闖入者は着地の衝撃など無かったかのように勢いよくジャンプして立ち上がり、そのまま額に左手を当てて、右手を突き出して指を指すという謎のポーズを取って名乗りをあげた。

「正義の味方、おにゃんこ仮面、ここに参上!」

 ――一瞬の間の後、僕と不良の人の心は多分一つになったと思う。

 何を言ってるんだこの人は、と。あと、バカじゃないのかこの人、と。

 フルフェイスヘルメットくらいのサイズに小さくした猫の着ぐるみの頭だけをかぶり、日曜朝にやっている戦隊ヒーローが着ているような全身タイツを着た、身長は160センチくらいで多分女性と思われる声の持ち主である闖入者は、誰もいない方角を指出しているのである。一体何がしたいのかこの場の誰も理解できなかったことだろう。

「あ、ごめんね、待って。口上が先だった。えーっと、天から来たりし善良にゃんこ、悪しき者を倒すべく、弱者の叫びに呼ばれてここに有り! だにゃ」

 再び、間が空いた。

 そして僕は確信した。この人絶対バカだ、と。

 一体どこの誰だかわからないけれど、とりあえずオリジナルのヒーローを製作してコスプレして名乗りをあげて正義の味方ごっこをしちゃう痛々しい人だなんて、そんな人がまさかこんな田舎にいるとは思わなかった。

「か、可愛い!」 

「えー……」

 そして、そんな闖入者あらため不審人物に胡乱な目を向けていると、背中に隠れていた嗣深がキラキラした目でその不審人物を見て叫んだ。この子は本当にアホの子である。

「ふっ、ありがとうそこの可愛いお嬢さん。でも今は、君の相手をしている暇は無いの。そこの悪い人! いますぐその冴えないおじさんを離しなさい!」

 冴えないは余計だと思う。

 そしてあんまり関わりたくない類の人だな、と僕が思っているのと同じことを不良の人も思ったのか、無言でおじさんをゲシゲシと蹴り始めた。あぁ、おじさんが割と洒落にならないダメージを受けてる!

「ちょっと無視はヒドイんじゃないの!? おのれ躊躇無く人質に暴行を与えるなんて、なんて外道なのにゃ! 悪即斬!」

 不審人物は無視されたのが腹に据えかねたのか、不良の人へと突撃していった。

 台詞とその不審人物の姿だけ見たらコントでもしているのかと思えるけれど、その突撃速度は常軌を逸している。

 一歩目を踏み出した瞬間に、10メートルか20メートルはあろうかという距離を一瞬にして詰め、その場からいなくなった、と思った次の瞬間に物凄い音がその最初の一歩目を踏んだと思われるあたりから響いた。

 色々な人が通ったことで踏み固められていたはずの道路の雪がえぐれて吹き飛び、僕らの横を通り過ぎていく。そして、一拍遅れて、不良の人がいるところから指パッチンをやたら派手にしたような音が鳴る。

『へ……?』

 僕と嗣深の声がかぶった。

 あまりにも非現実的な光景であり、多分、誰が見ても僕達と同じような間抜けな声をあげると思う。

 一瞬にして、それこそ瞬間移動じみた速度でその場から不良の人の場所へと跳んだ不審人物は、どうやら不良の人に殴りかかったらしい。

 不審人物が伸ばした腕の先、拳を不良の人が掌で受け止めていた。よく受け止められたものだと感心するけれど、相当痛かったのではないだろうか。あの速度で殴りかかられたのを止めるなんて。

 っていうか、生身で音を置き去りにするとか現実的に考えてありえない光景だし、その速度で突っ込んできたパンチを後退することもなく受け止めるとかどう考えてもおかしいので、多分どっちも人外さんなのではないだろうか。

 どうしよう、なんで僕のまわりはいきなりこんな特撮みたいな世界観になってきたの。次は巨大な光の巨人でも出てくるのだろうか。それなら出来れば巨大人型ロボットも出てきて欲しい。戦闘はせずにいるだけで良いけど。ロボットは浪漫だけど戦争は怖いです。

「つぐにゃん……」

「うん、おまわりさん呼ばなくて良かったね」

 くだらないことを考えていたら、嗣深が上目遣いにこちらに声をかけてきたので頷いて見せる。

 これは下手におまわりさんなんて呼んでいたら、あの不良の人に敵視されてえらい目にあってたかもしれない。

 多分、あのどう見ても不審人物なおにゃんこ仮面を名乗った女の人は一応、言動を見る限りでは正義の味方で、あの不良の人はやってることからして悪の怪人的な何かなのだろうけれども、日曜朝のヒーロー物を見るようなワクワクは欠片も出てこない。

「そうだね! で、カメラどこだと思う?」

「あ、そっちなんだ。いや、これ撮影とかじゃないでしょ、どう考えても」

「えっ、新しい仮面ファイターシリーズじゃないの?」

 いや、おにゃんこ仮面なんてネーミングの仮面ファイターがいてたまるものか。せめて仮面ニャンダーとか、仮面ファイターにゃんこ、とか仮面ファイター猫又とかなら分か……ごめん。我ながら流石にそのネーミングも無いか。

 僕らの若干ずれた感想を余所に、不審人物と不良の人は何やらバシンバシンと殴りあいらしき音を立てながら激しく動き出した。そして踏まれていたおじさんは、不良の人が離れた途端、これ幸いとばかりに全力疾走で逃げ出す。っていうか、あの人も凄いな。今まであんな状態にされてたのに、足もつれることもなく凄い速さで逃げてる、というかこっちに来た。

「あ、てめえ、待ちやがれ!」

「おっと、通すわけにはいかないよ! あ、違った。いかないにゃん!」

「くそ、このふざけた格好してるくせになんだ、このっ! てめえみてえなの見たことねえぞ、一体どこのまわしもんだ!」

「ふふふ、この前特撮見てたら思いついて、今日からパトロール開始したんだにゃ。だから知らないのも無理はないにゃん!」

「うぜえ……!!」

 そんな戦う二人の声を尻目に、おじさんが僕達のすぐ目の前へとやってくる。

 無表情でこちらに駆けてくる姿は微妙に気持ち悪い。


 ――ぞくりと悪寒がして、視界が真っ赤に染まる。よく分からないまま咄嗟に嗣深をおじさんの視界から隠すように身を広げた。


 けれど、おじさんは特に何をするでもなく、僕達の姿を無表情のまま横目に確認すると、そのまま何事も無かったかのように走り去っていく。

「つぐにゃん、あのおじさんがどうかしたの?」

「あ、いや……なんでもない」

 そして不審人物と不良の人のほうに視線を戻すと、不良の人が殴られたみたいで、太鼓を思いっきり叩いたような重低音を響かせて空へと吹き飛んで行き、不審人物がそれを数十メートル近い高さへと一足でジャンプして追い討ちをかけに行ったため、その場は急に物音の無くなった静かな場所へと変わり、いきなりな状況の変化に追いつけずにキョトンとする僕達の目の前で、踏み切りが甲高い音を立てて電車が通ることを知らせ、遮断棒を下ろし始める。

「えーと……」

 その音に正気に返った僕は、少し悩んだ後に言った。

「とりあえず、踏み切りが上がったら、さっさと神社向おうか」

「そ、そうだね! 寒いしね!」

 とりあえず、一般人の僕達はああいう変な人達には極力関わらないのが一番なのである。

 市内方面へと向う終電が駅から発進して目の前を通り過ぎていくのを眺めながら、僕はそう達観するのであった。

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