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▼25.分岐点

 昨日、折角のおやすみだったはずなのに、どうして私はずっと寝ていたのでしょうか……!!

 どうも最近体力が持たず、眠気に負けることがしばしば。昔、噂にきいたにんにく注射とやらでもして元気になってみたいものです(バタリ)

 追伸:転生傍観者のほうも更新しておきました。

 勉強会は、たびたび虎次郎くんが「雪合戦せえへん?」とか言い出したり、嗣深とガイアさんがそれに乗っかったり、それを止めるために僕と宇迦之さんがツッコミにまわったり、津軽さんは冷めた目でそれを眺めながら黙々と冬休みの友をやっていたり、虎次郎くんが「かっこいい必殺技の名前考えへん?」とか言い出したり、嗣深とガイアさんがそれに乗っかったり、宇迦之さんが津軽さんと何か哲学的な会話を繰り広げて、僕は孤軍奮闘したり、虎次郎くんが「しりとりしようで!」とか言い出して、皆で冬休みの友をやりながらしりとりをするという不毛なことをしたりと、実に騒がしく時間は過ぎて、気付けばお昼を過ぎていたので各々が持ち寄った食材で料理を作り、昼食の時間となった。

 とはいえ、作れないことも無いけど食べることしか考えていないガイアさんと、料理は出来るけど嗣深とオセロの勝負に熱中しだした虎次郎くんと、オセロの対戦相手である嗣深は見事に戦力から外され、拉致されてきた津軽さんは食材なんて当然用意してなかったので、「面倒だけど食べるだけってのもなんだから、私も作るわ」と言ってお料理班に入った結果、僕、宇迦之さん、津軽さんという普段では中々無い組み合わせでの調理風景である。

「佐藤くん、邪魔だからどいてくれるかしら」

「あ、ごめんなさい」

「佐藤くん、このネギ、しっかり切れてないよ」

「ご、ごめんなさい」

「ねえ、中華なべは無いのかしら」

「ごめん。それは無いかな。えっと、大き目のフライパンで良ければ……」

「佐藤くん、しょうが焼きできたよ。一人一枚ずつでお皿に並べておいてくれるかい」

「あ、うん。わかったよ」

「味噌汁良い感じよ。一応だけど味見てもらえるかしら」

 但し、主に作っているのは宇迦之さんと津軽さんの二人で、僕は完全にお手伝いさん状態である。

 半端無い。この二人、料理のスキル半端無い。包丁捌きとか凄いの。あと動きが無駄なくサクサク動くから、僕はついていけなくなって頼まれたネギすら急ぎすぎてまともに切れてなくて繋がっている始末。マイペースにのんびりお料理する僕には、このハイスペックな女性陣にはとうていかないません。

 中学校低学年にしては家事スキル高めだと自負していたけれど、この人達を見ると色々自信を喪失してしまいそうです。ふぁっきん。

 僕の長所からお料理の項目を消しておきます。長所とか調子こいてすいませんでした!

 心の中で誰にともなく涙目で謝罪の言葉を投げかけながらも、かくして昼食の時間となった。

「なんかヨッシーが真っ白になっとるんやけど、な、なんかあったんか?」

「つぐにゃーん?」

「料理で役立たずだったからじゃないかしらね?」

「ゴフッ」

「つぐにゃーん!? しっかり!? 傷は浅いよ!?」

「確かに佐藤くん殆ど何もしてなかったけど、気概は汲んであげようよ、津軽さん」

「ゲフッ」

「ヨッシー!?」

「義嗣が死んだ!」

 嗣深と虎次郎くんがなにやら慰め始めてくれたけれど、良いもん。どうせ得意料理の甘い卵焼きも嗣深に負けたもん。どうせ僕はお料理の手際悪いもん。バーカバーカ。マイペースでやって何が悪いのさバーカ!

「おっ、うめえなこのしょうが焼き! おい虎次郎も嗣深もくおーぜ!」

「傷心中の友達置いてご飯開始とか酷くない!?」

「あ、つぐにゃんが復活した」

「ツッコミの本能には逆らえんかったんやな」

「猪俣さんお行儀が悪いよ。まずはいただきますくらい言おうよ」

「わりーわりー、そういやいってなかったな。いただきます、っと」

「騒がしいわね……食事時くらい静かに食べなさいよ」

「何言うとんのやえりなん。飯は皆でワイワイ食うから美味しいんやで。ほれ、ヨッシーもはよ食べようで」

 おのれ、なんて友達甲斐の無い奴らだ!

 虎次郎くんが「ほれ、あーんや」とか差し出してきたしょうが焼きをもぐもぐしながら僕は憤慨した。




 ご飯も終わり、さて今度こそ遊ぶか、という流れになるのかと思って僕の部屋に移動したら、虎次郎くんが「ちょっと皆に話があるんで座ったってくれるか?」とかいうので僕達は車座になる。

 宇迦之さんは事前に聴いていたのかすんなりと座ったけれど、嗣深とガイアさんは顔を見合わせて首をかしげ、津軽さんは胡乱気な目を虎次郎くんに向けている。なんだかんだでご飯食べ終わっても帰らないあたり、ツンデレという奴なのだろうか。我がクラス1のツンデレさんは別にいるのだけれど、津軽さんもそうだったのか。

「さて、実は今回の勉強会は勉強するだけなんが目的やないんや。あぁ勿論遊ぶっちゅう目的もあるけど、さっきも言った通り、話があってな。それも割と真面目な話なんで、まぁ茶化さんで聴いてくれると嬉しいんやけど、ええか?」

 全員が座ったのを確認して、虎次郎くんが皆の顔を見ながらそう言うので、僕達は揃って頷いた。虎次郎くんは顔こそいつも通り笑っているけれど、声はどことなく硬い。

「ん、えぇみたいやな。ほんなら単刀直入に本題から入らせてもらうんやけど……前々からワイが神生会が胡散臭い言うとったのは皆知っとったと思うんやけど、あそこ完全に危ない系統の宗教や。んでまぁ訊かれる前に言うんやけど、その理由はまぁ、この前理紗からデートに誘われて町に行ったら、まぁなんちゅうか、神生会のセミナーやってんけどな?」

 え、行ったの? セミナー。

 試しに行って見るような勇気は無い僕としては、どんなところだったのかちょっと気になる。

 と、そこで宇迦之さんが手を挙げて発言を求めた。

「ま、待って虎次郎、その話はちょっと初耳なんだけど」

「え? この前セミナー行った言うたやんか」

「いや、それは聴いたけど、遠藤さんとデートしたという話は初耳だからね!?」

「え、そこなんか、食いつくとこ」

 宇迦之さんがやたら慌てて発言を求めたから何事かと思ったら、なるほど青春してますね。

 隣の嗣深を見ると、どうやら僕と同じような心境のようでとても優しい顔をして宇迦之さんを眺めていた。

「ねえ、痴話喧嘩なら後にしてくれないかしら。大事な話なんだったら早くしてちょうだい」

「あ、ご、ごめん津軽さん」

「っと、せやったな。悪い悪い」

 そんな青春をしている宇迦之さんをバッサリと津軽さんが切り捨てたけれど、まぁ大事な話だって言ってるのに確かに横槍入れるものではないね。

「まぁ、そんでセミナーとはいえ、デートとして連れて行かされてしもた以上は帰るわけにもいかんし仕方なく受けてきたんやけど、まずなんやアロマたっぷり焚かれた部屋で説法始まって、そこまでは別に暇やからちょっとうたた寝してしもた程度でよかったんやけども、休憩入ってからお茶出されてんけど、そこにちょいと色々、薬入っとった」

 具体的にはちょいと意識ぼんやりさせる程度の薬物っぽいんやけどな、とあっけらかんと告げる虎次郎くんに、一瞬何言ってるのかわからなかったけれど、理解した瞬間に僕は「なにそれ大丈夫だったの!?」と声をあげていた。

 というか、隣にいた嗣深もまったく同じタイミングでまったく同じことを叫んでいた。

「虎次郎、なんでそんな薬入ってるってわかったんだ?」

「先に飲んで美味しい言うて薦めてきた理紗が、ツンデレのツンが抜けてデレデレになっとった」

『それは間違いなく一服盛られてる』

 僕、嗣深、ガイアさん、宇迦之さんが声を揃えて頷いた。あの我がクラス1のツンデレとして有名な遠藤さんこと遠藤理紗さんが、好きな人(虎次郎くん)には普段文句つけまくりながらもちょいちょいフォロー入れるという普段のスタンスを崩して常時デレデレしてるとかどう考えてもおかしい。

「いや、それだけで薬物かどうかなんて判断できないでしょ、何言ってんのアンタ達……」

「何言ってるのえりにゃん! あのりっちゃんだよ!? ツンデレの代名詞とでも言うべきりっちゃんがデレデレになったんだよ!? 間違いないよ!」

「理紗のやつ、虎次郎にベタ惚れのくせにツッケンドンだからなぁ普段から。それがお前、デレデレって間違いないだろ」

「アンタ等、散々な言い草ね……まぁ、なんとなく分かるけど」

 冷静なツッコミ役の津軽さんが、ツッコミを入れながらもなんだかんだで頷いてしまう程度にはありえないことなのである。あの遠藤さんが常時デレデレしてるとか。

「せやろ? アイツほんま難儀なやつでなぁ。二人っきりになってワイが今日のパンツ何色や、って訊いたらローリングソバットかまそうとしてくるんやで? 普段」

『いや、それはお前(虎次郎)(虎にゃん)(虎次郎くん)(アンタ)が悪い』

 さりげなくいかに遠藤さんがツンデレというやつかをアピールしてきた虎次郎くんだけど、それは全面的に虎次郎くんが悪いとしか言えない。っていうか、そんな発言を普段からしていてなんで好かれてるんだろうと思わざるをえない。いや、僕は好きだけどさ、虎次郎くん。

 と、そこで若干話が逸れてきたことに気付いた宇迦之さんが手を叩いて先を促したので、虎次郎くんも頷いて本題のほうを進め始めた。

「まぁ、とりあえずそういう薬物っぽいの使つこうてるってのもあるんやけど、あとあそこの会の会長さんな、自称神やねん」

『痛々しいね』

「痛々しいな」

「神、ねえ……」

 完全にカルト集団のパターンじゃないですかヤダー、とでも言うべきなのだろうか。前々からそんな気はしてたけど、流石に会長さんが自称神様とは知らなかった。

「えらいベッピンさんではあるんやけどな。凄いで。ボインボインや」

「胸に頭の栄養全部まわってんじゃないのかしらね、それ」

「きっとそうに違いないね。虎次郎、見た目に騙されちゃダメだよ」

「虎にゃんは相変わらずエッチぃね!」

「っていうか女の子ばっかりのところでよくそれだけセクハラ発言できるよね虎次郎くん……」

「ふっ、ワイだからこそ許される特権やな。仲良しさんなら許されるんや。ただしイケメンに限る」

 死ねば良いと思うって多分こういう時に使う言葉なんだろう。死ねば良いと思う。いや、死なれたら困るから痛い目に会えばいいとおもう。

 無駄にドヤ顔な虎次郎くんに、皆の視線は 冷たい。

「イケメンとか自分で言うあたりが本当お前残念だよな虎次郎!」

「糸目メガネがどの口で言ってるのかしらね」

「虎次郎、許してるわけじゃないからね。見逃してるだけだからね? そのうち、限度超えたら本気で怒るからね?」

「虎にゃんはその残念なところが素敵だよね!」

「ワイの味方はつぐみんだけやー!」

 嗣深だけは慈愛の眼差しであった。虎次郎くんが腕を広げて「ウェルカムマイフレンド!」とか言っているアホだ。

 あ、嗣深が迷うことなく「ヒャッハー! ディアーマイフレーンド!」とか叫びながらつっこんでいって抱きついた。ぐぬぬ。おのれそのポジションは僕の立ち位置なのに。

 ちらりと宇迦之さんを見たら羨ましそうな顔をしていた。この人も大概分かりやすい。

 ぶっちゃけるとうちのクラスの女子の三割くらいは虎次郎くんに恋してるっぽいからね。うん。ちなみにうちのクラスは男子13名、女子17名である。内、5人くらいは虎次郎くん狙いっぽいのが分かっている。他にもイケメンというほどではなくてもかっこいい感じの男子はいるのだけれど、何故に虎次郎くん狙いなのかは謎である。

「茶番はいいから、それで結局、何が言いたかったわけ、アンタは」

「おぉ、せやったな。どうもわき道それてアカンわ」

 完全に虎次郎くんの責任だけどね、そのわき道のそれ具合は。

 僕は心の中でそうツッコミを入れて、お茶を啜った。む、ちょっと温くなってる。

「まぁとりあえずや、まぁそんな自称神様な会長に、セミナー受講者に一服もってまうような状況で、しかもどうもヤの付く連中とも繋がっとるみたいでな。そっち系の連中もセミナーにおったんや。それだけやのうて、町議会の連中やら、警察署に消防署のおえらいさん、病院の院長やら、学校がっこの先生方も一緒におったわ。皆、ぼーっとして、なんやえらいほんわりした笑顔浮かべてな」

「あー……それってつまり」

 要は、もう町の機能が丸々乗っ取られてるってこと?

 僕の質問に、虎次郎くんが重々しく頷いた。

 虎次郎くんは嗣深を抱っこしたままなので若干締まらないけれど、流石に皆も状況に気付いてツッコミを入れたりはしない。

「そのへんは結構前から把握してたけど、それで、それがどうかしたの? アンタ」

 と思ったら、口を手で隠して小さく欠伸をしていた津軽さんが面倒くさそうに虎次郎くんに言った。

 あ、把握してたんだ。

「あー、正直なところや、今後ワイらはどうする? っちゅう話をしよかと思ってな。アレや、もうここのメンツ以外、クラスも全員神生会員やしな。早苗っちも入ったのはもう皆知ってるんやろ?」

 全員が頷く。

「ん、でまぁ、今回本当なら早苗っちも呼んで、様子がまともなようなら実際どんなもんなんか話訊いてみよかと思っっとたんやけど、まぁそれは今は置いておこか。今までの説明で大体の状況は皆もう理解したと思うんやけど……ワイ等も神生会入っとくべきか否かっちゅう話をしとこ思てな」

 虎次郎くんの言った言葉が一瞬理解できず、僕はよく分からずに頷いてから、目を見開いた。

 神生会に入るって、あんだけずっとあそこを警戒してた虎次郎くんの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。しかも、つい今しがた薬を盛られたなんて話をしたばかりなのに。

「なんで入らないといけねーんだ? 今まで入ってなかったし、別に入らなくても良いだろ。会合とかなんか面倒くさそーだしよ」

「そこはワイも概ね同意なんやけどな。前にヨッシーとつぐみんの誘拐未遂あったやん。ああいう強引な手段に出られると危なすぎるやんか。ほんなら、変なことされる前にこっちから入っておけば変な薬飲まされたり洗脳まがいのセミナー受ける必要も無くなるんやないかと思うわけや。実際、入ってはいても会合なんかに出てないのも多少はおるみたいやし」

 な? と虎次郎くんが宇迦之さんに水を向けると、宇迦之さんは一瞬ビクッとしてから頷いた。

「いきなり話振らないでよ虎次郎……ビックリしたよ。うん、実際うちの神社の支援してくれてる家の人達のいくつかは、ご近所付き合いの関係で入会はしたけどまだ一回もセミナーや会合に顔出してない人もいるみたいだからね、それも選択肢としては有りだと思う」

「というわけや。あとはまぁ、直接神生会が関与してるんかは分からんし、何故か騒ぎにはなっとらんのやけど……どうも、行方不明者が最近増えてるみたいなんやけど、全部無かったことにされとるんや。行方不明事件そのものが」

「あー、あの団体が来てからじわじわ増えてるわね。確かに」

 え、そうなの?

「え、俺知らねえぞ? どこの誰が行方不明になったんだ?」

「主にこっから更に山のほう入ったど田舎や。ほら、南里なんりとか岩代いわしろとか、あっちや。一応町のほうでも少しは出てるみたいやけど」

「あー、あっちか……そりゃ俺もしらねえや」

 虎次郎くんの挙げた地名に、ガイアさんが肩を竦める。まぁ、あっちはコンビニすら全国チェーンの店が殆ど無くて個人経営の店が殆どなくらいで、スーパーとかも小さいのがあるくらいで電車すら通っていない、本当に何もない辺鄙なところで、よほどの用事がない限りはわざわざそちらに行くこともないので、ろくにそちらの情報を知らないのも無理は無い。

 かくいう僕も、一度だけ卓球部の中体連(中学校の、なんか合同で体育行事の大会やる奴)の関係で行った事がある程度で、そんなことでも無い限りはまず足を踏み入れることすら無かっただろう。ガイアさんも同じクチだし、そんなものだ。

 僕のいる町も田舎だと思うけど、あっちはドの付く田舎なのだ。それでは確かに行方不明者が出ても、近所では騒ぎになっても大事になるのには時間がかかるだろう。まして握りつぶされてるとしたら。

「まぁ、そういうわけなんでアレや。ワイはともかく、ヨッシーとかつぐみんとかガイアっちやらが誘拐なんぞされて行方不明者入りでもされたら悔やんでも悔やみきれんからな。かといってずっと守ったる、なんちゅうことも言えんし、そういう選択肢もあるけど、どうや? っちゅう話や」

「あら? 宇迦之と私は含まれてないのね、誘拐されて悔やまれる中に」

「いや、えりなんと刹那はヤーさんの軍勢に囲まれても単独でなんとかしそうやん」

「ねえ虎次郎、流石にそれはひどいと思うんだけど……」

「まぁ確かにそんくらいはなんとかなるし、アンタに助けてもらおうなんて思わないからいいわよ」

 なんとかなるんだ。っていうかサラリと言ったけど、もしかして津軽さんも魔法少女的な何かなんですか。

 だとすると、もしやガイアさんもそうなのだろうか。

「ん? なんだ義嗣、俺の顔なんかついてるか?」

「目と鼻と口がついてるね」

「おう、そらついてるな!」

 視線に気付いたガイアさんに声をかけられたのを軽く流して胸の前で腕を組み、考える。

 正直、今まで実際に危ない目に会ってない(誘拐未遂はあっても別に暴力振るわれた訳でも無いからあんまり実感が無い)のでそこまで危機感は無いのだけれど、確かに何かあってからでは遅いし、入会してしまうのもありなのかもしれない。この地区で入会してないのがうちだけになっちゃってるから若干ご近所付き合いで肩身が狭いというのもあるし。

 宇迦之さんは家が神社という宗教関係者だから流石に無理だろうけど、虎次郎くんやガイアさんも入るならその選択肢もありかな、とは思う。籍を置くだけで良いならあんまり実害はなさそうだし。

 会合とかもまったくでないわけにはいかないだろうけど、それでも都合があるといえば別に毎回行く必要も無いだろうし…・・・面倒くさいし、あんまり宗教団体って良いイメージ無いから微妙な気分ではあるけど。

 個人的には嫌な予感がするのだけれど、かといって入らないなら入らないでまた誘拐未遂があって、今度は未遂ではすまないかもと思うとやはり少し思うところはある。

 どうしたものか、と悩み始めた僕は、ふと嗣深が先ほどから何もいわずにこちらをじっと見ていることに気付いて目を合わせた。

 そういえば、嗣深の意見も聴いておきたい。

「どうかしたの? 嗣深」

 声をかけると、嗣深は虎次郎くんに抱っこされたまま首を振った。

「つぐにゃん、つぐにゃんの悪いところは、すぐ流されるところだよ」

「あ、うん。そこは自覚ある……けど、急に何?」

「流されちゃ、ダメ。流されたら戻れない。流されたらもう取り返せない」

「……何を言ってるの?」

「わたしは……ううん。お兄さんは、それが嫌だった筈だから。忘れないで。間違っても良い、だけど、繰り返さないで」

 ぐにゃりと、視界が歪んだ気がする。

「何気ない選択でも、それが悲劇の始まりになるから。お兄さんは、それを知ってるはずだから」

 何を。

「だからお願い。誰かのためとか、誰かがするからとかよりも、お兄さんがどうしたいか。お兄さんがどう思うか、お兄さんがどうなりたいかを一番に考えてください」

 嗣深は、何を言ってるのだろう。

 歪んだ視界の中で、嗣深の姿に、誰かの姿がかぶる。最近見ていた白い人ではない、儚げな、優しそうな、とても大事な誰かの顔。

「嗣深……?」

「? つぐにゃん、なに?」

 歪んでいた視界が元に戻り、不思議そうにこちらを見ている嗣深を見て、僕は首を振った。平衡感覚が少しおかしくなっていてふらついたものの、座っていたために倒れたりはせずに済んだため周りには気づかれなかったようだ。

「いや、なんでもない」

 嗣深はいつも通りで、僕に何かを言った素振りを欠片も見せていない。虎次郎くんも見てみるけれど、嗣深の発言を聴いていなかったのか、単純に聴こえなかっただけなのかは分からないけれど、宇迦之さんと何かを喋っている。

 幻聴、だったのだろうか。

「わたしはどっちでも良いよー。危ないのは怖いから入れば安全っていうなら入るのもやぶさかではにゃい! つぐみん秘技、丸投げ!」

「俺は面倒くせーから入りたくねえけど、皆が入るなら入っても良いぜ。勧誘は確かに面倒くさいから、それ無くなるのは楽そうだし」

「私は元から入る気はサラサラ無いから問題ないわ」

「ワイのとこは、ぶっちゃけお袋が入ってもうたから遠からず家ごと会員になりそうなんやけど、まぁ基本スルーの予定やから皆が入らんでも問題ないで」

 虎次郎くんの家、入っちゃったのか。それで今回の会議なのだね。

 津軽さん以外はどっちでもいいみたいだし、虎次郎くんが入るなら、僕も――。

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