▼22.警戒心とはなんぞや
私は思ったのです。
ネット小説なんだしゴリ押しでサクサク進めなくても良いじゃないか、と。
日刊に近いペースなんだし、ちょっとくらいほのぼのしながら進んでも良いじゃないか、と。
……週二回くらいに落として、1~3話くらいの文量まで増やして進めるかちょっと悩み中です。
追伸:お気に入り200超えてたので、これより転生傍観者のほうの改訂に移ります。終わり次第あちらに投下予定。
「はぁ……まぁ、そうだよねえ」
「つぐにゃん、お父さんなんだって?」
「うん、この吹雪で高速も峠も使えなくて、一部の道路は山から落ちてきた雪で使えない場所もある状態みたいで、今日中は多分無理だって。まぁ、無理に帰ってこようとして事故でも越されたら困るからそれは良いんだけど」
「この雪だもんね……」
嗣深と揃って溜め息を吐くと、二人でコタツで温まりつつみかんを頬張る。
尚、朝方お風呂上りに「しまった替えの下着が無いじゃないか……!!」とか脱衣所で叫んでいたと思ったら、銀髪巫女服姿で出てきた宇迦之さんは、朝食後にこの吹雪の中を家へと向って行きました。多分、着替えに行ったんだろうね。別に昨日の夜にお風呂入ってから来たなら下着だって綺麗だろうに、そんなわざわざ取替えに行かなくても、と思ったけれども、口には出さないのが僕クオリティ。
まぁ僕だってお風呂上りには綺麗な下着着たいし、気持ちは分かるしね。ちなみに認識阻害の術があるから日中でも一応変身したまま突っ走っても人目は問題ないらしい。便利だね、魔法。
一応、もし何かあっても大丈夫なように、とヒトガタのお札から狐さんの式神を作り出して置いていったあたり、なんとも律儀である。その狐さんは今現在嗣深が抱っこしているのでちょっと羨ましい。もふりたい。
あとどうでも良いけど、嗣深の玉子焼きは美味しかった。というか僕の作ったのよりふんわりしていて柔らかい甘さで美味しかった。ぐぬぬ。
「今日どうするー? つぐにゃん。ゲームでも一緒にやるー?」
「んー……そうだね。雪かきもこの吹雪だし、昨日のこともあるから下手に出歩かないほうが良いだろうし。見たいテレビとかも無いし……」
「昼ドラとか結構面白いよ!」
「嫌だよあんなドロドロしたの昼間っから見るの……」
平日のお昼は小学生以上の子供は確かに家に居ないけど、それ未満の子供はいるのにあんな大人のドロドロした世界の、しかもちょっとえっちいシーンまであるドラマやるのは僕どうかと思うの。ゲームとかマンガよりあっちを先に規制すべきだと思う。
「実はわたしもドロドロした奴は苦手! じゃあ韓流?」
「アレもちょっと……」
「だよねえ……」
アレはドラマ制作というお金のかかることをせずに、安易にそれなりの視聴率が取れる枠を稼げるというテレビ局側の怠慢だと思うんだ、と言ったら嗣深も頷いていた。だよね。いや、テレビ局の人にも言い分はあるのかもしれないけど。
「いっそ時代劇の再放送だけ流してくれたら最高なのにねー」
「ねー」
どこのおじいちゃんおばあちゃんだ、とツッコミをくらいそうなことを言いながら二人でお茶とみかんとおまんじゅうを味わう。美味しいです。
あ、特撮とアニメも流してもらえたら最高だと思う。
「あ、つぐにゃん! みかんの皮むーいて」
「そのくらい自分でやりなさい」
「とか言いながら剥いてくれるつぐにゃんは本当に良いお兄ちゃんです!」
「お兄ちゃんに任せなさい!」
平日のお昼前からこんなダラダラしてるのは色々どうなんだろうと思いつつも、僕も嗣深も平常運転である。
実に時間の無駄な過ごし方をしている自覚はあるけれど、別に差し迫ってやらないといけないことがあるわけでもないのだし、急遽学校が休みになった日の過ごし方なんてこんなものだろう。
そんな穏やかな時間を過ごしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「宇迦之さんかな」
「かなー」
というかまぁ、宇迦之さん以外いないだろう。こんな吹雪いてるのにわざわざうちに誰か来るとも思えないし。
よいしょ、と立ち上がると玄関へと向かい、鍵を開けたところで、「あ」と間抜けな声が漏れた。
万が一、神生会の人だったらどうしよう、とか考えたところで、玄関の戸が開いた。
「あぁ良かった、起きてたね。おはよう義嗣ちゃん」
近所に住む、神生会所属のおばあさんでした。
思わず出る冷や汗。待て、落ち着け僕。まだ焦るような時間じゃない。
おばあさんの後ろに目をやると、他の人はいなかった。黄色いソリにダンボールが乗っているのだけは見える。また、玄関前の雪はどうも誰かが除雪してくれたのか国道から僕の家の玄関まで僕と嗣深が並んで歩けるくらいの道が出来上がっていたので、おばあさんはそこを通ってきたのだろう。
ちらりと居間のほうに目をやると、嗣深がわたわたしながらホイッスルを口に咥えて、吹くべきか否かこちらの様子を伺っている。待て、まだだ。早まるんじゃない嗣深よ。まだ何の用事か分からないからね。
「おはようございます。斉藤さん。ええっと、こんなに吹雪いてるのに今日は何かご用事ですか?」
「そうそう、この雪でしょう? 義嗣ちゃんも買い物いけなくて困ってるかと思って、一昨日買ってきた物だけど、お野菜とか卵とか、おすそ分けしようと思ってねえ」
一瞬でも緊張した自分が恥ずかしくなるくらい優しい申し出でした。ごめんなさい。
「え、それは、嬉しいですけど……斉藤さんのところは大丈夫なの?」
「うちはほら、神生会に入ってるでしょう? それで若い人が買ってきてくれたんだけど、ちょっと一人暮らしで使いきるには多かったの。だから遠慮しないで良いのよ」
「あ、じゃあお金払います。えっと、いくらくらいですか?」
「子供が遠慮なんてしなくて良いのよ。ちょっと待ってね、表にソリで乗せてきたから」
ご近所付き合いって凄い大事だね本当……。
僕はしみじみそう思いながら、同じような気持ちらしくニコニコしながらこちらにやってきた嗣深と一緒におばあさんの引いてきたソリから荷物を受け取ると、お茶に誘ったのを「家でポチが待ってるからねえ」と断わって帰るおばあさんを二人で見送り、吹雪に吹かれて冷えた身体をすぐさまコタツに入って温まる。
「いやー、いいおばあちゃんだったねー。つぐにゃん」
「そうだねー。あ、お茶は玄米で良い?」
「もちのろんだよー。じゃあつぐにゃんがお茶を淹れてくれているその間に、みかんを剥いてしんぜよう!」
「うん、ありがと」
いやー、ぬくいぬくい。今度斉藤さん家のおばあちゃんにはお料理かお菓子でも作ってお礼を言いに行こう。
ソリに乗せられたダンボールには玉子1パックにジャガイモ、ニンジン、タマネギ、サツマイモに牛乳と、駄菓子がいくつか入っていた。この吹雪の中、ご高齢の方が歩くだけでも大変だろうにソリを引いてまで荷物を持ってきてくれるなんて本当にいい人である。
二人で冷えた身体にお茶を流し込んで一息吐いたところで、またチャイムが鳴ったので僕と嗣深は顔を見合わせて頷きあう。大丈夫、分かってるよ。僕は二度も同じ過ちを犯さない男だ。
任せておけ、と親指を立てた僕に嗣深が頷いたのを確認して、台所のインターフォンから相手の顔を確認しようと立ち上がり、居間から出ようとしたところで背後から嗣深の声が聴こえた。
「おかえりせっちゃーん」
「おのれ全くアイコンタクトによる意思疎通が出来てなかったね!?」
僕以上に君は警戒心というものが無いね!?
叫ぶ僕を尻目に、膨らんだエコバッグを持ち、白いダッフルコートを着込んだ宇迦之さんを迎え入れる嗣深と、何やら溜め息を吐く宇迦之さん。ごめんなさい。警戒心の無い兄弟でごめんなさい。
「あのね、嗣深ちゃん。すぐ開けてくれたのは嬉しいけど、せめて誰が来たのかくらいは確認してから開けようね? 大丈夫だよね? 昨日だけで二回も誘拐されかけてるって分かってるよね?」
「大丈夫大丈夫! 分かってるよ! それにもし危ない人だったとしても、せっちゃんが置いてってくれたこの狐さんがいるから大丈夫だよ!」
「信頼してくれるのは嬉しいけど、それとこれは別だからね? まったく君たち姉妹は……ねえ、このダンボール何かな」
僕たちは姉妹じゃないと何度言えば、と文句を言おうとしたら、宇迦之さんが玄関上がってすぐのところに置いておいたダンボールに気付いた。しまった、怒られる。
「さっきつぐにゃんが、ご近所のおばあちゃんからもらったのー。これで今日のご飯も問題ないね!」
「……ねえ、せめてさ、一回なら、一回なら分かるよ? でもね、一回目で学ばなかったのかな、君たちは……」
ご尤もです。本当すいません。
だが、待って欲しい、僕はちゃんと学んでインターフォンから相手を確認しようとしたのだ。
「つぐにゃん、言い訳は男らしくないよっていうかわたしだけに罪をなすりつける気だね! ずるっこだー!」
「別にそういうわけじゃないけども、流石に二回目なんだしそこは少しくらい警戒しておこうよ嗣深!」
「だってさっきのおばあちゃんが何か忘れてて戻ってきたんだったら可哀想じゃない!」
あぁ、なるほど確かに。
「なるほど確かにじゃないよ……まったくもう。とりあえずコタツ入らせてもらうよ。話はそれからね」
『はーい』
ところで宇迦之さんは何を買ってきてくれたんですかね。
僕と嗣深の興味は今その一点である。




