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▼19.疑心暗鬼

 最近、疲労が抜け切らず、徐々に睡眠時間が延びている始末。

 週6掲載だけは最低でも守らなければ……ッ!!

「ハッキリ言おう。君達は狙われてると思うよ」

『な、なんだってー!』

「いや、冗談じゃなくて、本気で」

「だよねー」

「いやいや、誰がなんのためにっていう部分が曖昧なままそう断言するのもどうかと思うよ」

 宇迦之さんのお泊りが決定し、お客様用の布団を僕の部屋に運んで三人で寝れるようにした状態で、僕の部屋の卓袱台を囲みながら僕たちは話し合っていた。

 内容は、僕たちは狙われているという内容であるのだけれど、いくら頭脳明晰残念美人の宇迦之さんとはいえ、流石にそれはちょっと乱暴すぎる論理だと思う。

 根拠としては、昼過ぎに起きた誘拐未遂と先ほどの嘘電話のようなのだけれど、確かにそこだけ見たら狙われてると思うけども、でもやはり僕たちを誘拐なんてしたところでなんの旨みも無いのは我が事ながら太鼓判を押せる。

 うちは貧乏というほどではないけど裕福というほどではないし、誘拐してもお金なんて大して入らないのは間違いない。

 そう胸を張って言ったら、宇迦之さんがちょっと困った顔をして、嗣深は菩薩の笑みを浮かべた。だからなんなんだその嗣深の妙に慈愛に満ちたその笑顔は。

「なんというか、まぁお金云々というよりは、この場合、単純に宗教がらみだろうからね。神生会、入ってないよね、佐藤くん達は」

「うん。っていうか宇迦之さんもそっちが犯人説を推すのね、やっぱり」

 まぁ、確かに現状で僕らを目当てで何かしようとするような人なんてそのくらいしか僕も思いつかないのは確かだけど。でもそれだって、入会していないというだけで声高に批難してるわけでもなし、目障りだから消してしまえ、みたいな物騒な発想にはならないと思う。アレで一応、あそこの会の掲げるお題目は立派なものだし、流石に拉致誘拐なんて選択肢には無いだろう。

「でも事実、されかけた。違うかい?」

「そこは、違わないけど……あのおじさんが会員なだけで、会そのものとしてやろうとしてるという確証にはならないんじゃないかな」

 1を見て10を語るのは如何なものか。

 そう告げると、宇迦之さんだけでなく、何故か嗣深まで溜め息を吐いた。なんだ、僕何か変なこと言った?

「いや、変なことは言ってないけどね……」

「この状況下でそれを言えるのは、ある意味大物だと思うの、つぐにゃん」

「え、なにそれどういう意味」

「えーとね、佐藤くん。君たち、今日はもう二度も誘拐されかけてるわけなんだけど、その認識は持ってる? 大丈夫?」

 当たり前である。流石にそこまでボケちゃいない。昼過ぎのも、嗣深が本人か確認してきたくらいだから狙ってやっていたんだろうと思うし、さっきのもあからさまに僕たちに何かやらかすつもりだったのだろうというのも分かってる。

「それとも佐藤くん、君は、そんなに神生会のことを信じたい何かが、あるのかな」

 どこか伺うような宇迦之さんの言葉に、一瞬、昼に見た早苗さんの泣き笑い顔が脳裏を過ぎる。

 ……実害は、無いのだ。今のところ、あの会が存在することで不幸になった人はいないのだし、確かに、うさんくさいけど、でもそれだけで犯人扱いは、駄目だと思う。

「――あるわけじゃないけど、でも」

「いや、良いよ。分かった。じゃあ、とりあえずの仮定の話として、進めよう。いいかな?」

「……うん、それなら、まぁ」

 こうして話していても埒が明かないと思ったのか、宇迦之さんが溜め息を吐いてそう言うので、こちらもそう言わざるをえなかった。

「まず、君達は誘拐されかけた。犯人は恐らく神生会。現在判明中の犯人らしき人物は、近所のおじさんと、二十代程度の男女カップル、この二組だね?」

「うん、そうだね」

「次に、カップルからは嗣深ちゃんかどうかの確認をされて、近所のおじさんは、明らかに嘘を吐いて、君たちをどこかへ連れて行こうとしていた。そうだね?」

「そうだよー」

 改めて他人の口から聴くと、コレ明らかに警察呼んだほうが良いレベルだね。犯人グループがどうとかいう話より前に。

「ボクもそう思うけれど、止めておいたほうが無難だね。この近辺だけじゃなく、町のほうでもあそこの会員はかなり居る、というか正直、もう八割がたは入会してるんじゃないかな。そんな状態だから、通報したところでもみ消されるのが落ちだと思うよ」

「なにそれ怖い」

「なんかもう、完全に町ごと乗っ取られてるみたいだねー」

「みたい、じゃなくてもう、殆ど乗っ取られてるようなものだと思うよ。まぁ、特に悪さしてないのは幸か不幸か、というところだけれど、こちらが知らないだけで、君たちみたいに誘拐でもされた人は実は結構いたのかもしれないね」

 だとしたら怖い話だけれど、誰かが行方不明になった、なんて話は聴いた覚えがない。せいぜい夏に山に入ったおばあさんが夕方になっても帰ってきてないとかで、町内放送で呼びかけられたくらいだ。それもご近所の家でお茶してたから遅くなっただけだったというオチだったけれど。

「で、まぁそれは一旦置いておくとして、本題はここからだよ」

「うん?」

「忠嗣さんが留守にすること、君たち誰かに言ったかい?」

「えーと……虎次郎くんと、あと早苗さんかな。あの場に居たのは」

 朝方、僕がお父さんが留守で雪かき大変だったと言っていた時、僕らの席の近くには、他に生徒はいなかったはず。

「うん、わたしも今日は二人とくらいしか喋らなかったかなぁ」

「ふむ……」

 僕と嗣深の言葉に、宇迦之さんは少し考える素振りを見せてから、「ここだけの話だけど」と前置きして語り始める。

「実は相原さん、神生会に入会したみたいなんだよ」

『え』

 僕と嗣深が同時に声をだす。

 但し、その意味合いは全く違うが。嗣深は単純に早苗さんがそうだということに驚きの。僕は、なんでそれを知っているのか、ということだ。

 いや、正確には早苗さん本人が入会したわけじゃないし、お母さんが入会してしまった以上後々入らされるだろうけど、そこに自由意志は無い訳だけれど。

「そっか……さっちゃんもかぁ……」

「うん。ボクも驚いたけれどね」

「ちょ、ちょっと待って、早苗さんはまだ入会してないよ」

「え? そうなの? どっち?」

「へえ……」

 何やら納得しかけている嗣深に慌てて声をかけると、嗣深は僕と宇迦之さんを交互に見て、宇迦之さんは何か納得した顔でこちらを見つめてきた。

「佐藤くん、その根拠を教えてくれるかな」

「いや、えっと、それは、本人から聴いたし」

「本人から? どういう内容を?」

「それは……その……」

 言えない。一応これでも相談されたことの内容を勝手に外部に漏らしたりするような軽い口では無いつもりである。

 僕が言いよどんでいると、宇迦之さんは苦笑して視線を外した。

「まぁ信じたい気持ちは分かるけどね。ボクは見ちゃったから」

「……何を?」

「この前、集会に相原さんのお母さんと相原さんが、弟さんを連れて会場に入って行くのを、ね」

 それは違う、と言おうとして、結局根拠を話せないことに口を噤む。

 集会の日といえば確かに早苗さんはおやすみしていたし、その前日、僕たちの家に遊びに来るのもキャンセルしている。多分、本当に集会には出ていたのだろう。

 けれども、だからどうしたというのか。そもそも神生会が胡散臭いとはいえ悪い会とはまだ決まっていないし、入会したからと言ってそこの信者になるとは限らない。早苗さんはしっかりしている人だし盲目的な信者になって人が変わるようなことは無い筈だ。

「だから、こじつけかもしれないけれど……」

 君たちのお父さんが今日居ないことを伝えて、誘拐の手助けをしたのは、相原さんじゃないかな?

 宇迦之さんの言葉に、僕の頭は真っ白になった。

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