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▼17.電話

 外はすっかり真っ暗になったけれど、吹雪はまだ続いているためどことなく灰色っぽい色の空である。

 先ほど連絡網でまわってきたのだけれど、もし明日も吹雪くようなら明日も休校になるかもしれないため、そうなった場合は町内放送でアナウンスするので聞き漏らしの無いように気をつけて、とのことだった。

 まぁ、生徒の誘拐未遂なんてことがあったというのも大きいみたいだけれど。夕方になる少し前くらいに、虎次郎くんと宇迦之さんと早苗さんとガイアさんからも大丈夫か、と電話がありました。ご心配おかけして申し訳ない。

 そういえば、よく「学校が休みになるなんてラッキー」などと言う人がいるけれど、この時期に休校になった場合は冬休みがその分減るので勘弁願いたいので、もし吹雪くようにお祈りでもしてる人がいたら今すぐやめていただきたい。何より、吹雪が収まらないと、最悪の場合お父さんが帰ってこられないしね。

 お風呂に入っている嗣深が上がるまでに夕飯を作り終えてしまおう、とのんびり作りながらそんなことを考えていると、台所に置いておいた電話の子機が鳴り響いたので、「はいはい、今出ますからねー」と呟きつつ電話を取る。

「お待たせしました。佐藤ですが」

 のほほんと告げた僕に、電話口の向こうの人物は焦った声で早口に言った。

《義嗣くん! 忠嗣さんが事故にあって手術することになったんだ! 今から迎えに行くから、すぐに準備して出れるようにしておいてくれるかい!》

「……え?」

 こちらの反応を待つ間も無く、そのまま切れた電話を二度見して、もう一度「え?」と呟く。

 え、お父さんが事故? え?

 電話の相手は、多分近所のおじさんの声だったと思うけど、え、え?

 混乱する頭をなんとか整理して、ひとまず、お父さんが事故に会った、ということだけはようやく理解した。

「ええええええええええ!?」

 慌てながらも温めていた味噌汁の火を消し、作りかけの麻婆豆腐の火も消して、急いで財布やらなんやらを準備し始める。

 何がなんだかよく分からないけど、お財布、お財布と、あと何が必要だ。ティッシュ、ハンカチ、防寒着、えーと、あと、あと何、何がいるの。非常食? いや、病院にいくのに非常食はいらない。水、水か。水はまず大事、って違う。だから山行くんじゃないんだからそういうのいらない。

 部屋着のパーカーと、もこもこズボンは、外出にはまずいよね。ええと、あ、でもパーカーは大丈夫か。ええと、ジーンズ、ジーンズで良いよね。ええと、あとアレだ。本か、本が必要だ。

「……待って、手術?」

 手術って言ってたよね。

 え、手術すんのお父さん。え、マジで?

 え、冗談抜きで? え? そんなひどいの? 怪我。

 ちょ、え、ど、どうしよう。え、どんな怪我なの。脚? 脚なの? それとも腕とか? おなかとか? もしかして頭とか言わないよね。

 いや、待て落ち着くんだ僕。冷静になれ。びーくーるビークール。

 まずはそう、ひとまずお風呂に入ってる嗣深に知らせねば。

「嗣深ー!! お父さんがー!!」

 脱衣所に入ると、一糸纏わぬ嗣深が居て、こっちを見て目を点にしていた。

「ごめん」

 慌ててたとはいえ、ノックくらいすべきだったね。

「つ、つつつつ、つぐにゃんのえっちいいいいい!!」

 そして数秒固まっていた嗣深は、顔を真っ赤にしてへたりこみ、見られると恥ずかしい場所をバスタオルを持った手で隠しながらこっちに半泣きな顔で叫んだ。

 いや、本当ごめん。

「ご、ごめんって! だ、だけど今それどころじゃないから!」

「それどころ!? 乙女の柔肌をそれどころって言ったねつぐにゃん! ばかー! えっちー!」

「ごめんってば! でも本当それどころじゃないんだってば!」

「良いから出てってよー! うわーん!」

「だー! ごめんってばー!」

 本気で泣きそうになっている嗣深に慌てて脱衣所から撤退。

 いや、ごめん。本気でごめん。ちょっとデリカシー無さ過ぎた。

 無さ過ぎたけど、本気でそれどころじゃないのである。

「あのね! お父さんがね! 事故って手術するって、今、電話がね!?」

「つぐにゃんの変た――えええええええええ!?」

 閉めた脱衣所の扉に向って用件を叫んだら、こちらを罵倒しようとしていた嗣深がさっきの僕のように叫んだ。

 そして次の瞬間に開く扉。

「何してるのつぐにゃん! 急いでおでかけの準備だよ!」

「服着なさい!? 何その一瞬の心変わり!」

「よく考えなくても姉妹で裸見られるくらいどうってことなかったよ! それに今はバスタオルで一応前隠してるから良いよ! それよりお父さんが事故ってどういうこと!?」

姉妹しまいじゃなくて兄妹きょうだいだから! 年頃の女の子がそんな堂々と裸晒すんじゃありません! あと僕もよくわかりません!」

「うるさいな本当は恥ずかしいの我慢してるんだから気にしたら負けだよ! 良いよもう、大丈夫だよ家族なんだし気にしないよ! どうせ見られても減るもんじゃないよ! むしろ減る物が無いよ! どうせぺたんこだよバーカ! つぐにゃんのバーカ! どこ!? どこの病院なの!?」

「確かに体型だけ見ると減るところ無さそうだけど、羞恥心とかは減るからやめようね!? あとバカでしたごめんなさい! 病院は知りません! 電話来てこれから迎え来るから準備しててだって!」

 お互いテンパってるのでなんだかもうメインの会話どこだか分からない勢いである。

「余計なお世話だよバーカバーカ! なんでどこの病院かわからないの!? 病院からの電話じゃないの!?」

「あと風邪ひくから早く髪の毛乾かして服着て! 病院からじゃなくて、近所のおじさんからでした!」

「罰としてつぐにゃんがわたしの髪の毛乾かして! 服はそうだね着た方が良いね凄い寒いね! なんで事故にあった連絡がうちじゃなくて近所のおじさんに行くの! 普通病院から直接自宅でしょ!」

「オッケーわかったからとりあえず一度脱衣所入ろう本当風邪ひくから! ドライヤーやってあげるから! 言われてみればそうだね!」

 言われてみれば、普通は自宅に病院から電話だよね! ご近所さんからお父さんが事故にあった電話が来るとかおかしいよね! その時に一緒に居た人とかなら分かるけど、ご近所さん全く関係ないもんね!

 じゃあ、あの電話どういうこと!?

 あと、ごめん女の子の長い髪の毛の綺麗なドライヤーのかけかたとかしらないよごめんね!

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