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▼13.お姉さん

「寒かったねえ……」

「まったくだねえ……」

 大雪の中なんとか最低限の雪かきだけ終えた僕達は、湯冷めするのであまりしないほうが良いのだけれど、汗が酷かったので交代でお風呂に入った後、登校時間ギリギリになってしまったものの、無事学校にたどり着いて教室でダラダラしていた。

 ちなみにお風呂に入る際、「へいつぐにゃん、汗が冷えたら困るし、一緒に入ろうじゃないか!」などと嗣深が抱きついて言ってきたので、「うん、じゃあ一緒に入ろうか」と冗談で言ったら顔を真っ赤にしてうろたえていたことをここに記しておく。

 どうやら冗談で言うことはあっても、流石に裸の付き合いは恥ずかしいようだ。実兄として安心した次第である。本当に一緒に入るとか言われたらこっちが困っていたので、言われたらどうしようと自分で冗談として言っておきながらも不安になっていたので助かった。

「おはようさん、二人共。今日はえらい雪やなー」

「おはよう虎にゃん!」

「おはよう、虎次郎くん。あれ、宇迦之さんは?」

「おう、おはようさん。あー、刹那はアレや、この雪で電車がストップしとるらしくて足止めくらっとるらしいわ。ここらの鉄道は雪には強い方やと思っとったけど、流石にこの豪雪やからなぁ……」

「もはや吹雪と言っても過言ではないよね!」

「まぁ、確かにそうやな。酷い時やと20メートル先も見えないような状態やし……車で送り迎えしてもらってる連中も今日は遅れるんやないか?」

「あー、みたいだねえ」

 虎次郎くんの言葉の通り、現在教室にいるクラスメイトの数は少ない。この前の神生会の会合の日とどっこいどっこいである。メンバーこそ、学校に比較的近い人達限定へと変わっているが。

 そのため、電車の宇迦之さんだけでなく車で送迎してもらっているガイアさんもいないし、同じく車での送迎の津軽さんの姿も今日は見えないので、今日の午前中は大分人が少ない寂しいことになりそうだ。

「あ、早苗ちゃーん!」

 そんなことを考えていると、嗣深が席から立って教室に入ってきたばかりらしい早苗さんに突撃していった。

 相原あいはら早苗さなえさん。

 綺麗な黒髪を肩口まで伸ばし、目は少し垂れ目で泣き黒子が特徴的な、おっとり美人さんで、僕の知人の中では珍しい真っ当な人である。

 身長は150センチ前後と普通の身長だけれど、うち同様に片親の家なためか掃除洗濯炊事なんでもござれな上に、弟さんがいるからか、お姉さん的な雰囲気が漂う人だ。

 虎次郎くん曰く「アレは間違いなくCはあるで。あと二年三年もしたら最低でもD,EかF……もしかしたらGやHにはなるかもしれへん」とか言っていたが、僕にはなんのことか分からない。わからないったら分からない。

 尚、この発言後に虎次郎くんが宇迦之さんによる制裁を受けていたのは言うまでも無い。セクハラダメ、絶対。

「おはよう、嗣深ちゃん。凄い雪だね」

「だねー! もうね、朝からゆきかき大変だったの! 早苗ちゃんところは?」

「うちは除雪機でやったから……」

「ぬわー! いいなー! いいなー!」

 嗣深のテンションにも、ほんわかと笑って対応しながら、早苗さんがこちらの席へと歩いてくる。というか嗣深に引っ張られてきた。

「おろ、なんや忠嗣さん今日いないんか?」

「あぁうん、昨日出かけたんだけど、結構遠出だったみたいで昨日の内には帰ってこれなかったみたいで」

「あれま、そらまた災難やったな。この雪で除雪機使えへんのは大変やったろ」

「そうなんだよ大変だったんだよ虎にゃん!」

 虎次郎くんの同情的な言葉に嗣深が声を大にして叫ぶ。うるさい。

「おはよう、義嗣くん」

「うん、おはよう。早苗さん」

 虎次郎くんに、ゆきかきが如何に大変であったかを語りはじめ、何故か徐々にゲームの話へとシフトしていく嗣深を無視して、早苗さんに挨拶を返す。

「雪かき御疲れさま。大人の人が居ないとやっぱり大変でしょう?」

「うん。まぁそれは心底思ったよ。毎年の事とはいえ……」

 とはいえ、実は家の雪かきは僕がどれだけやろうと関係なかったりする。

 というのも、去年にも何度かあったのだが、お父さんがいない日に雪が積もった日などには、僕が学校に行っていたり、最低限だけ雪かきをして家で休んでいる時などに勝手にご近所の人が除雪機を持ち込んで綺麗にしていくのだ。

 嗣深には言っていなかったけれど(言ったらそれこそやる気無くしそうだったので)、多分、今日も帰ったら綺麗になっていることだろう。

 別に、それ自体はまぁ、ご近所付き合いって大事だね、という話なので良いのだけれど、それをやってくれている人は何人かいて、それが全員神生会のご近所さん達なので凄い気不味い。

 強引な勧誘こそされないものの、お礼を言ったり菓子折りなどを渡そうとしても、さりげなく「ご近所様だし、何より神生会の教えでもあるからね」と良い笑顔で返されて菓子折りとかも受け取ってもらえないのである。

 そしてまぁ、お約束ながら「入会する気ができたら、いつでも歓迎するよ」とくるわけだ。

「うふふ、義嗣くんの家のお父さんと、うちのお母さんが再婚とかしたら良いのにね。そうしたら楽だと思うな。毎朝、お姉ちゃんが綺麗にしてあげるのに」

「そ、ソウダネ」

 今年もまたあの良心の呵責と戦う日がくるのだな、とか考えていたら、早苗さんが柔らかく笑ってそんなことを言って来たのでとりあえず頷くものの、それは絶対に無いと思う。

 早苗さんはことあるごとにうちのお父さんと自分のところのお母さんをくっつけようとするけれど、早苗さんのところのお母さんは若干ヒステリーな人で、この人からどうやったら早苗さんみたいな人が生まれてくるんだろうと思えるほど神経質に早苗さんに当り散らす人な上、それを庇おうとするとよそ様の子だろうと理不尽な怒りを向けられるのだ。

 外見こそそれなりに整っているとは思うけれど、もう顔からして神経質なのが分かってしまうほどであり、間違いなくうちのお父さんの好みではない。うちのお父さんはどちらかと言えば嗣深みたいな元気活発なタイプか、早苗さんみたいなタイプが好みのはずである。外見で言うと清楚系か、若々しいタイプと言おうか。

 尚、このあたりはお父さんの書斎を掃除した時に見かけたグラビア写真集や、お父さんが好きなタレントさんや歌手などから来る予想であるが、多分あまり間違っていないと思う。

「私、忠嗣さんみたいなお父さんいたら、素敵だなあって思うの」

「それには全力で同意します。最高のお父さんです」

 いやー、早苗さんのお母さんはいらないけど、うちのお父さんが目当てじゃ早苗さんがこんなに推してくるのも仕方ないかなー。うんうん。

 まぁ、外見だけで言ったらお父さんって割とダンディなオジサマって感じだけど、決して老けてるとかじゃなくて、若々しいのに渋みがあるというか、こう、なんだろう。説明が難しいのだけれど、とにかく自分も大人になったらあんな大人になりたいなと思える理想のお父さんなのである。

「やっぱり、オールAの選手とか味が無いよね! それなら、S一個つけて、一部BやCがついてるキャラで、特殊能力ガッツリだよね!」

「せやな。分かる、分かるでソレ。今度データ持ってくさかい、お互いのチームで対戦しよか!」

「ふっふっふっ、ネットで通信対戦という手もあるよ! スカイポとかでお話しながら!」

「おっと、せやったな! ……って、あかん。ワイはスマホ持っとらんのや! ガラケーや!」

「あうち! こいつは計算外だよ!」

 そしてあっちは随分と盛り上がってるなー。野球ゲームの話かい。僕もそれ好きなんだけど、旧型のゲーム機の奴しか持ってないので虎次郎くんの最新チームとは戦えないのだよ。今度、嗣深に最新の奴をやらせてもらおう。

「その上、義嗣くんと、今だと嗣深ちゃんも妹としてついてくるなんて、素敵よね」

「待って早苗さん。嗣深は分かるけど、僕はその場合弟です。っていうかその前に同い年なので弟ではないと思うな!」

「私は16日、義嗣くんは23日。ね?」

「ね? じゃないよ!? たかだか一週間かそこらしか生まれた日違わないから、そんなの弟扱いされる理由にならないよ!?」

 確かに早苗さんのほうが誕生日は早いけどさ!

「ヒャッハー! バカめつぐにゃん、今の言葉はそのまま、つぐみんお姉さん化計画に同意のハンコを押したようなものだよ!」

「早苗お姉ちゃん、誕生日って一分一秒違いの差でも大事だよね!」

 いやー、もう本当、超大事。嗣深を姉にするくらいなら僕はプライドをかなぐり捨ててみせよう。

「うふふ、お姉ちゃんだなんて……」

 そんな頬を染めて照れられるとちょっと困るのでやめてください早苗さん。

「にゃー! おのれ、男に二言はないという言葉を知らないのかいつぐにゃん!」

「嗣深、ハウス」

「わん!」

「つぐみんが調教されとる!?」

 うるさいので適当に言ったら、自分の椅子に後ろ向きに座って両手を犬っぽい形に握って前に出しわんこっぽいポーズを取る嗣深はスルーする。

 そのまま虎次郎くんに「つぐみん、お手や」と言われて素直にお手をするバカな妹なんて気にしない。

「あ、そうだ義嗣くん。今日の放課後、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、良いかな?」

「え? あ、うん。良いけど、何?」

「うふふ、その時まで秘密、ね?」

「あ、うん」

「ひゅー! つぐにゃんがデートの約束をとりつけたよ!」

「なんちゅうこっちゃ! ワイのヨッシーが!」

「待って、いつ僕は虎次郎くんの物になったの」

 そしてデートの約束では無いでしょうに。話を聴いてたのかい嗣深。

「うん、それじゃあ放課後にデート、ね?」

 そして早苗さんも嗣深の冗談に悪ノリしなくて良いから。

 そんなやりとりをしていると、ホームルームのチャイムが鳴ったため、僕は嘆息して手をひらひらさせる。

「あぁはいはいデートね……もうなんでも良いよ。ほら、皆席に着いた着いた」

 頼まれごとが力仕事とかじゃないと良いけれど、と若干不安に思いつつ三人を解散させるのであった。

 ……って、華麗にスルーしてたけど、早苗さんの誕生日って16日ってことは、今日じゃないか!

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