▼10。ランキングとはなんぞや
ぐぬぬ、帰宅→ご飯→お風呂→執筆しながら寝落ちというコンボで遅くなりました。1日に最低2~3時間はとれないと日刊は厳しいですね。でも、頑張ります!
朝礼というのは、とにかく話が長いものであると相場が決まっているのだと思うけれど、うちの学校は幸いそこまでではない。
人の良さそうな校長先生が寒くなってきたので体調管理には気を配るように、とか、雪もそろそろ本降りになる時期なので、遭難などしないよう学生の皆さんは山のほうには入らないように、などの簡単な注意を言う程度で、朝礼自体は五分程度で終わった。
それ自体は良いことなのだけれど、こんな短時間で済むなら放送か何かで流せば充分なんじゃないかな、と思ってしまうのだけれど、どうだろう。
と虎次郎くんと嗣深に言ってみたら、当然ながら同意の声が上がった。まぁ、何が哀しくてたかだか五分程度の注意事項聴くためだけにあの寒い体育館に集まらねばならないのか、という話である。
そのあたりは皆が同じ思いなようで、共に教室へと戻るクラスメイトや他の先輩達も同じような愚痴をこぼしているのだけれど、明らかに少ないその数に、僕は虎次郎くんと視線を交わらせて頷く。
二年生、三年生共に三十人前後の生徒がいるはずにも関わらず、そちらも僕のクラス同様に15、16人程度ずつしかいなかったのは、明らかにおかしい。
階段を上がろうとしていた運動部所属のムサい先輩方が視線に気付いたのかこちらを向いたので、軽く頭を下げて視線を虎次郎くん達のほうへと戻した。
「やっぱり、明らかに人少ないよね」
「せやな。ワイ的美人ランキング上位の先輩さんがたの大半がおらんわ……これは、あかんで。癒しが足りへんわ」
「いや、そういうのはどうでも良いから」
「虎にゃん、この不肖つぐみん、美少女ランキングでは何位なのでしょうか!」
「せやなぁ……校内なら、まぁ10位圏内なのは確定やろ」
「ヒャッハー! ……あれ? でも確かこの学校で男子含めても100人いないよね。あれ、もしかしてランク微妙?」
いや、確かに女子は50名もいないけど、その中で十位圏内なら充分高いと思うのだけど。うちの学校ってそれなりに美人な人多いし。あとイケメン……かどうかは人による程度のイケメンさん達とか。
なので、十位以内と聴いて「え、ランキング低め?」とか言うのは、自分より下だった人達から袋叩きにされても文句を言えない暴言ではなかろうか。
と、嗣深の肩に手を置いて力を込めて握り締めながら言ったら「さ、サーイエッサー! 自分が間違っていたであります軍曹殿!」と嗣深が涙目になりながら敬礼した。よろしい。僕も君が無駄に敵を作るところを見たくはないのだよ、嗣深三等兵よ。
「あ、美少女ランキングがあるなら、やっぱりイケメンランキングもあるの?」
「あるで」
「あ、あるんだ」
「おう、ちなみにワイは5位やったで」
「結果も知ってるんだ!?」
っていうか、だった、ということはそれ虎次郎くんの自己判断ランキングじゃなくて、ちゃんとした票とった奴なの!?
「応! ちなみにイケメンランキングの情報源はガイアっちや」
「ねえねえ、つぐにゃんは何位だった!?」
「む、それは聴きたいような聴きたくないような」
「……あ、二人共、そろそろ教室に着くで」
『露骨に誤魔化した!?』
やめて!? なんだか僕凄い落ち込むから! 良いよどうせイケメンじゃないよバーカバーカ!
ハッハッハッ、なんのことやろか! と笑う虎次郎くんに続いて、僕達は教室へと入ると、各々の席に着く。とはいえ一時間目開始まではまだ余裕があるので、まだ暫くは自由時間だ。もう少し雑談を続ける。
しつこく僕のランキングを訊き出そうとする嗣深と、聴きたいような聴きたくないような微妙な気持ちの僕であったが、
「義嗣は下から数えたほうが早かったぜ!」
「うおお、やめて! 聴きたく無かった!」
こちらの話を盗み聞きしていたらしいガイアさんが、背後からにゅっと生えてきて僕の肩を叩き、無常な結果をお知らせしてきたため、僕がショックで崩れ落ちかけたのは言うまでも無い。
「つぐにゃん、現実は認めようね?」
「うわーん!」
「ヨッシー……強く、生きるんやで。なに、これから身長が伸びればワンチャンあるで……多分」
「あれ、虎次郎、そういや義嗣ってお前の美少女ランキングだと2位じゃなかったっけか」
ガイアさんの爆弾発言に僕は思わず顔を上げた。
「なんで!? 僕男の子だよね!?」
「待つんやヨッシー。ガイアっち、それは美少女ランキングちゃうわ。嫁にしたいランキングやわ」
「あれ、そうだっけか」
「それはそれでなんか違くないかな!? どっちにしても僕男だしね!?」
そして虎次郎くんにはやっぱりそっちの気が!? と僕は席を立ってじりじりと虎次郎くんから距離をとると、虎次郎くんは意味ありげな微笑を浮かべてこちらに視線を送ってきた。なにこれ怖い。
「え、え、それ、お嫁さんランキング1位は誰なの!? つぐにゃんで2位ってことは、もしやの虎にゃんの大本命!?」
「ふっ……つぐみん。まぁ、お嫁さんランキングは、その容姿以上にお料理なんかの家事スキル、及び性格を優先して決められとるからな。まぁ、そう思うのも仕方ないやろ。せやけどな、お嫁さんランキング1位は……」
「おっぱい大きいからって1位は早苗だったぞ確か!」
『最低だ!?』
「ヨッシーにおっぱいついてたら1位は確定やったんやけどな」
「いらないそんな補足情報!?」
いやー、惜しかったなぁ、ヨッシー、と慰めるかのような視線と共に頷く虎次郎くんに思わずツッコむ。虎次郎くんが作ったランキングは独断と偏見が酷すぎるんではなかろうか。
これには流石の嗣深も、「おっぱい星人め! 女の子はおっぱいだけで決まるものじゃないんだよ!」とプンスカ怒っている。
「つぐみん、せやかてアレやで、ボインボインと、平たい胸族、抱きつくならどっちがええ?」
「虎にゃん、わたしが間違ってたよ……ッ!」
「間違ってないよ!? 今回ばかりは嗣深何も間違って無かったよ!? 間違ってるのは虎次郎くんのほうだからね!?」
「おっぱいって大事やろ?」
「大事だねー」
ダメだこいつら早くなんとかしないと……。
「あ、義嗣、お前アレだぞ。弟にしたいランキングでは1位だったぞ」
「うわーい、そんなこと訊いてないし、聴きたくも無かったよ! 全然嬉しくないやちくしょうめ!」
あと、そのランキングは誰が主導になって、何人が参加してるんですかねえ!?
僕は完全に涙目である。
「ところで虎にゃん、ガイアちゃん。美少女とイケメンランキングの1位って誰なの?」
「美少女ランキングやと、1位がエリナン、2位が刹那、3位が早苗っちやな。外見だけで判断した物やから、中身の残念っぷりは置いておくとこうや」
「ねえ、1位が私っていうのは嬉しいけど、それ私まで中身残念って言ってるのかしらね、虎……」
近くにいるものの、話には混ざっていなかった津軽さんが、虎次郎くんの発言に自分の名前があったことに反応を見せた。
「だってえりなん……コミュ障やろ?」
「殴るわよ? 肋骨何本かへし折る勢いで殴るわよ?」
「すいませんっしたー!!」
津軽さんの本気で据わった目を向けられた虎次郎くんは、勢い良く土下座した。哀れ、そこにイケメンランキング5位の輝かしい姿はなかった。
「こういうところが残念なせいで5位なんだよな、コイツ」
「完全に三枚目キャラだもんねえ……」
黙ってれば、身体も鍛えているインテリキャラで通じそうな程度の容姿なのだけれど。
「ちなみにイケメンランキングは僅差で俺が1位だったぜ!」
「おめでとうガイアちゃん!」
「あれ!? ガイアさん女の子だよね!? いつも疑問には思うけど女の子だよね!? なんでそんな嬉しそうなの!?」
「ふっ、何言ってんだ義嗣。つまり格好良い系女子ってことだろ? イケメンってことは」
「あ、あぁうん。そうだね……」
「はっはっはっ、だろ? だろ?」
まぁ、そのデリカシーとか皆無なマシンガントーク系の残念ささえ無ければ、確かに君は格好良い系女子だと思うよ。
僕の胡乱な視線に気付いているのかいないのか、豪快に笑うガイアさんは本当、良い性格してると思う。
「僅差かー。ガイアちゃんと僅差って、2位は誰なの? わたしの知ってる人?」
「あぁ、2位はなぁ。多分嗣深は会ったことねえと思うぞ?」
「せやな。まだつぐみん来てから一回も学校きとらんし」
「学校来てないの? 不登校さん?」
学校来てないって……それ、もしかして。
「せやせや。ちゅうても引きこもりやのうて、不良系やけどな」
「んだなー。まぁ、そこがまた良いって意見もあんだけど、やっぱりちょっとアイツは特殊すぎっからなぁ。顔とかだけで見たら、確かにカッケぇんだけどな」
「あー……天ヶ崎くんか」
「え、何々? 不良なの? リーゼントなの? 天下り?」
「リーゼント……そ、それは見てみたいんやけど、提案したらやってくれへんかな、ユウマン」
「いや、無理だろー。アイツ仲良い奴なんて俺と虎くらいなもんだし。それでも基本的にお願いきいてくれるようなタイプじゃねえしなぁ。でもリーゼント悠馬は笑えそうだな!」
「あー……ユウマンって、そう。天ヶ崎くんのことか……」
誰だっけ、ユウマンって、とか思ってたけど、そうか、苗字で覚えてたから名前覚えてなかった。そんな名前だったっけ。
天ヶ崎悠馬。中学1年生ながら既に身長170センチを超える、ドイツ系クォーターの不良問題児である。
モデルをやってるらしいと噂が立つ程度には、そのへんのアイドル顔負けのクール系イケメンフェイスに高身長で鍛えているのかガタイも良く、ファッションセンスも明らかに田舎の中学生じゃないレベルで、高校生どころか大学生を名乗ってもバレないんじゃないかと言われていて、実際何度か見たことのある僕からしてみても、この中学校の学ラン着てるとコスプレでもしてるのかと思ってしまう程度には大人びた人だ。
しかしそんな人気ありそうな彼だけども、基本的に学校に来ないので仲の良い人というのは見た事が無いし、どうも他人から距離をとってるのか、やたらと険のある態度しかとらないために僕以上のボッチさんである。
虎次郎くんとガイアさんは睨まれようが気にせずにアタックしていっているけれど、アレは仲が良いわけではないとおもう。
そんな彼だけど頭は良いらしくてテストだけは受けに来て、毎回クラスの成績でトップ争いをしている。宇迦之さん、津軽さん、天ヶ崎くんと言えばこのクラスの天災三人組と言えよう。
尚、天災は誤字ではない。
ちなみに、津軽さんもロシアとドイツの血も混ざってるらしいけど、家は天ヶ崎くんとは全く関係ないらしいというのを小学校の頃にポロリと聴いた気がする。
まぁ、その件の人物は11月にあった期末テスト以来学校に来ていないのだけれど。義務教育だからなんだかんだで留年とかも無く進級は出来るだろうけど、高校とか入る時に出席日数の少なさとかどう誤魔化すつもりなんだろうかとクラスメイトとして心配だけはしている。
「皆で勝手に納得しないでー! つぐにゃん、解説するのよ!」
「モデルとかアイドル出来るレベルのイケメンだけど、常時周囲に凄い威圧感ふりまいてる怖い人」
「納得!」
納得なんだ、今の説明で……。
嗣深の適当っぷりに呆れるやら感心するやら。そうこうしている内に、1時間目が始まるチャイムが鳴ったため、先生が来る前に各々の席へと戻って準備を始める僕達なのであった。




