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▼8.来客

「うぃーっす、邪魔するぜー!」

 居間でのんびりと玄米茶を啜っていると、やたら快活な声が玄関から聞こえてきたので、僕は「よっこいせ」と声を出して立ち上がり、出迎える。

「いらっしゃいガイアさん。早苗さんと一緒じゃないんだね」

「おう、義嗣おはよう、今日は邪魔するぜ! んでもって早苗は別だ別! どうせ出かける準備で待たせられるの分かってるから先に行くってメールしてきた!」

「あー、女の子って準備に結構時間かけるもんね」

「そうそう。まどろっこしいってのなぁ? どうせチューボーの俺等は化粧なんかも必要ねえんだし、もっと気軽に行こうぜって話だ! なぁ? 義嗣もそう思うよな?」

「そうだねー」

 そして君は相変わらず女の子と思えない口調と台詞だよね、と心の中でツッコミを入れてから、上がるように伝える。

 ちなみに嗣深は未だにお菓子作りに勤しんでいる。僕はクッキーを人数分作り終えた時点で抜けたのだけど、嗣深は妙に興が乗ってきたようで、明らかに三人分をオーバーしているのにまだ作っていた。本来の目的忘れてるんじゃなかろうか。まぁ、クッキーなら時間置いてから食べても問題無いので、別に大量に作っても構わないのだけれど。

「お、なんか良い匂いすんな。こりゃクッキーか?」

「うん、そうだよ。なんか嗣深が張り切って大量生産はじめてるね」

「へえ、そりゃ楽しみだな」

 男らしい笑いをするガイアさんに、この人、実は男なんじゃないかという会う度に抱く疑問をぶつけそうになったが、ぐっと堪えた。

 猪俣いのまた地球ガイアさん。男子顔負けな中性的イケメンフェイス(まぁ中学生の範疇ではあるけど)に、男子の僕より短いショートカットな髪型に、女子の中でも比較的身長の高いほうである宇迦之さんをも上回り、虎次郎くんと良い勝負の身長で、小麦色の肌にスポーツ万能で男口調で一人称が俺という完全に生まれる性別を間違えてきた女子のクラスメイトである。

 一応、僕と同じ卓球部なのでそれなりに親交はあるものの、ガイアさんがあけすけな性格でガンガン来るために交友関係を結んではいるが、僕のほうからはあまり関わらないのでそこまで仲が良いというわけでも無い。

 まぁ、向こうがどう思っているかはわからないし、別に僕も彼女のことを嫌いなわけでは無いし、こういう竹を割ったような性格というのも嫌いではないが。

 まぁとりあえず早苗さんが来るまでお茶でもどうぞ、と掘りごたつに入るように薦め、来客用のカップに玄米茶を入れてあげる。

「いやー、やっぱ茶は良いよなぁ。俺はコーラとかの炭酸よかこっちだね。まぁスポーツドリンクこそが至高だと思うけどよ!」

「そっかー。健康的だねー」

 あぁ、茶が美味い。

「あ、羊羹食べる?」

「お、貰う貰う。和菓子は良いよなー。甘さ控えめでしつこく無いしよー。あ、別に洋菓子がダメって訳じゃねえんだけどな。ほら、俺の家って和菓子家だろ? だから舌がやっぱ和菓子に合わせて成長しちまったんだろうな。あぁ、和菓子といえば、ほれ、土産に持ってきたぞ。うちのばーちゃんのまんじゅう」

「あやや、これはご丁寧にどうも」

「ははは、気にすんなって! ところで早苗こねえな。まだ時間あるとはいえ、準備にゃ時間かけても、アイツが待ち合わせに遅れることはそうそうねえんだけど」

「そうだねえ」

 補足説明をしておくと、ガイアさんはとても饒舌というか、若干うるさいくらいマシンガントーク娘である。一応美少女の分類に入る人だと思うけれど、どうしてこううちのクラスには美人はいても残念美人ばかりなのだろうか。

 いや、言うまい。一応、早苗さんあたりはおっとりした大和撫子な感じでちゃんとした美人だし。

 さぁ来い。僕の知り合いの中では珍しい常識人よ、早くこい。

 などと思っていると、ガイアさんの携帯が水戸黄門のテーマを鳴らし始めた。

「おっと、電話だ。早苗からだな」

「ねえ、ガイアさんの中で早苗さんってどういうイメージなの」

 着信音が水戸黄門ってどうなの? ねえ。普段はちりめん問屋のふりをして悪人の成敗でもしてるの、早苗さんは。

「よう、どうした早苗。え? なに、あの日? あぁ、生理か。オッケー、なら仕方ねえな。おう、お大事にな!」

「ねえガイアさん、お願いだからそういうの目の前に男の子がいるという状況で堂々と言うのやめてくれないかな」

「あ? わりーわりー、そういや義嗣がいたな。え? なに、早苗。あ、ごめんごめん。お前が生理だってバラしちまった。なに? 大声で生理生理言うなって? あー、じゃあなんていえば良いんだよ。え? 体調不良とか? あー、オッケー。おい、早苗は今日は体調不良だから来れないってよ。義嗣」

「ねえガイアさんが喋れば喋るほど本当もう色々残念だから勘弁してくれないかな。とりあえず来れないのは了解」

 ここにいるとどんどん僕が抱く女の子像が破壊されていきそうなので、僕は仏のような顔で立ち上がると、嗣深を呼んでくることを告げ、未だに早苗さんと電話しているガイアさんから離れるのであった。




「なるほど生理じゃしょうがないね!」

「あいつ乱調だからなー」

「ねえお願いだから男の子がいるということに君達は配慮してくれないかな、ねえ。あと乱調ってこういう場合に使うのはなんか違う気がするよ」

「あ、ごめんつぐにゃん。女の子の日なら仕方ないね!」

「そうだなー。血がドバドバだもんなー」

「もうやだこの人たち!」

 恥じらいをね! 恥じらいを持とうね!?

 羊羹と、ガイアさんが土産に持ってきたまんじゅうと、僕と嗣深で作ったクッキーの山に、既に何本か抜かれたジェンガを居間の掘りごたつの卓の上に乗せ、三人でお茶を飲みつつぬくぬくしながらのこの会話である。

 買い物はお父さんにお願いしたので、もう自分の部屋に篭ってゲームでもしてようかと思ったけれど、嗣深が「何言ってるの。つぐにゃんも遊ぶんだよ!」と逃げようとする僕に抱きついて足止めし、ガイアさんが「おいジェンガやろうぜジェンガ! 確か義嗣の部屋にあったよな!」とこっちのことガン無視で話を進めたために現在に至る。

 まぁ、ガイアさんはゲームといえばこういうアナログな物しかまったく知らない人なので、二人だけだと出来るゲームも少なくてつまらないとは思うから仕方ないのだとは思うけれど。

「もうほら、次ガイアさんだよ!」

「よっしゃ! どうせなら俺はこの下のを選ぶぜ!」

「ひゅー! チャレンジャーだねガイアちゃん!」

「ハッハッハッ、余裕余裕ぐわー!」

「あぁっ、ガイアちゃんが笑いながら抜いたせいで崩れた!」

「ダメだこの人この手のゲームにまったくむいてない! なんでこの短時間で二回も崩せるの!?」

 この通り、始めてからまだ十分と経っていないのに現在ガイアさん二連敗である。

 どうして開始して大して経っていないにも関わらず、すぐに下のほうから、しかも真ん中じゃなくてそれ以外の二本を抜き取ろうとしたりするのか。

「よし次はアレだ。トランプしようぜトランプ! ババ抜きな!」

「ねえ飽きたの!? 早くも飽きたのジェンガ!? あと三人でババ抜きって割とつまらない上にガイアさんすぐ顔に出るからまた負け越し決定だよ!?」

「うるせえ、女は度胸、なんでもやってみるもんだ!」

「ヒュー! ガイアちゃんってば女前ー!」

「度胸だけでどうにかならないからねババ抜きは!? あと女前って単語初めて聴いたんだけど僕!?」

 あまりの唯我独尊な暴走っぷりに、僕はもはやツッコミを入れることしか出来ない。非常に疲れる。誰か宇迦之さん呼んできてえええ!!

 あ、そうだよ。宇迦之さんと虎次郎くん呼べばいやダメだ虎次郎くんは呼んだら更にカオスになる。

 どうしよう。僕の知り合いで家に呼んで遊べる程度には仲が良くてまともな人って宇迦之さんと早苗さんしか居ない。ヤバイ。僕の交友関係ヤバイ。

「しかたねえな、じゃあトランプタワーたてようぜ!」

「ふふふ、任せてよガイアちゃん、トランプタワーのつぐみんと呼ばれたことがあるような無いような気がする私の実力を見せてあげるよ!」

「おぉ、そりゃ楽しみだな!」

「ちなみに最高何段まで成功したの、嗣深」

「なんと三階建てです!」

「自慢にもなりゃしない!」

「なんですとー!?」

「何言ってんだ義嗣! お前、トランプタワー三階とかもうプロ並だぞ!? 世界目指せんぞ!?」

「どんだけ君たちの世界は低いところにあるの!? ねえ!?」

 もう駄目だコイツら。

 僕は、結局ツッコミを入れる僕を置いてけぼりでトランプタワー建設を開始し、一段目から即失敗を繰り返しては「ぐわー!」とか叫んでいるガイアさんと嗣深から目を逸らして現実逃避を始めるのであった。

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