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▼7.あれはきっと、夢だった。

 という、夢を見た。

 ……あまりにも生々しい上に凄い痛かった覚えがあるのだけれど、左手は普通に動くし、夢で良かった。

 日曜日、朝起きた時には嗣深が平和な間抜け面で涎をたらしながら僕の上に乗っかっていたし、一階には陥没した畳なんて無かったし、血の跡なんかも無かった。だから夢だったのだ。

 まぁ、大体現実的に考えたらおかしな話である。腕をへし折られたまま動けるとか僕はどこの主人公だと。夢にしてもあまりにもご都合主義すぎる。大体、お父さんの寝室のすぐ隣であれだけ大騒ぎしてお父さんが起きてこないはずも無い。

 そう僕は納得して、朝からご飯を作っていた。

 時刻は八時過ぎと少し寝坊してしまったが、嗣深はまだ起きてこないし、お父さんはさっき寝室を覗いたら小さくいびきをかいて寝ていたので急ぐ必要は無さそうである。

 そういえばおかずになる物がそろそろ無くなるので今日嗣深が呼んだ二人が来たら一人で買いにでも行ってこよう。

 ひとまず朝食を作り終えたので、二人を起こしてこようと思ったところで丁度嗣深が寝ぼけ眼をこすりつつ台所に現れた。

「つぐにゃんおはよう~……」

「うん、おはよう嗣深。顔洗って歯磨きしてらっしゃい」

「はぁい……うにゅ……」

 相変わらず朝は弱いようだ。

 ふらふらと洗面所へと向う嗣深に苦笑しつつ、僕は書斎兼寝室へとお父さんを起こしに行く。

 部屋の半分は本棚が図書館のようにずらりと並び、もう半分の壁にはモデルガンやエアガンがずらりと掛けられ、中々に高級そうな執務机(端っこにロボットのフィギュアとかが置いてある)、来客用の丸テーブルと椅子、そしてお父さんのベッドが置いてある。中々にお父さんの趣味が現れた分かりやすい部屋である。

 他の部屋と違って、ここだけはフローリングのため割と洋風なこういう内装でもあまり違和感は無い。元々はここも畳張りの部屋だったのだけれど、改装されてここだけはフローリングとなっているのだ。

 そんな部屋の本棚の間を抜け、お父さんに声をかけるが起きる気配が無い。随分とぐっすりと寝ているようで、近づいて軽く揺さぶっても起きる様子が無い。

「おとうさーん?」

 ダメだ。起きそうにない。

 どうしたものか、と思ってお父さんの顔を眺めていると、ふとお父さんの耳に何かが入っているのに気付いて納得した。

「耳栓してたのか」

 それでは声をかけても反応が無いはずである。

 耳栓を外して呼びかけると、ようやく反応があったので、なんとか起こして台所へと連れて行くと、嗣深が人数分のご飯とお味噌汁を準備して待っていた。

『いただきます』

 皆で声を合わせて食前の挨拶後、食べ始める。今日も嗣深がハイテンションに昨日のことを(僕が気絶したことを除いて)楽しそうに話し始め、一部盛った話になると僕がツッコミを入れるという形で食事中の会話を楽しむ。

 実に平和な光景である。

「あぁ、そういえば昨夜は地震でもあったのか?」

「え?」

 嗣深が一通り話し終え、食事も終わろうかと云う頃に、お父さんがそんなことを言い出したので、僕は首を傾げた。

 地震なんてあっただろうか。

「地震なんて無かったよ? 多分。寝てたから気付かなかった、とかかもしれないけど」

「うん、わたしも無かったと思うよ、お父さん」

「そうか。いや、なんだか揺れたような気がしてな。気のせいだったなら良いんだ」

 夢の中でなら、確かに家が揺れてもおかしくないような衝撃があったと思うけれど、あれはあくまで夢なのだから気にしたら負けだ。

「あ、地震と言えばお父さん! 今日は早苗ちゃんとガイアちゃん来るけど、騒がしくてお邪魔なようなら言ってね! あんまりうるさくしないようにするから!」

「待って、地震と早苗さん達が来るのってどう関係あるの」

 返答如何によっては二人に僕は全力で謝りたいと思う。

 そんな僕達のやりとりにお父さんが笑い、「今日はお昼頃から出かけるから、気にせずに騒いで構わないよ」と告げるお父さんに感謝しつつ、出かけるならついでに帰りに買い物もお願い、とメモに買ってきて欲しい物をリストアップして渡しておく。

「まるでつぐにゃんがお母さんみたいだね!」

「はっはっはっ、お父さんも、こんな可愛いお嫁さんなら大歓迎だな」

「お父さん正気に戻ろうよ。僕男の子だから。せめて嗣深に言ってそういうのは」

 冗談だと分かってはいても色々危ないよお父さん、その発言は。

 そんなやりとりの後、お父さんは再び書斎へと戻っていき、僕と嗣深で洗い物を始める。お父さんが居なくなった途端に嗣深は無言になったけれど、多分洗い物に集中しているせいだろう。

 二人でやると実に楽だな、と思いながらのんびりやっていると、嗣深が少し不安そうな顔をしながらこっちを見ているのに気付いて僕は声をかけた。

「どうかした?」

「あ、ううん。えっと、あー、えっと、つぐにゃん、手、大丈夫?」

「手? うん。別に切ったりもしてないし、お湯使ってるから大丈夫だけど」

「いや、えっと、そういうことじゃなくて」

 実はちょっとだけ左手に違和感があるけれど、多分嗣深が寝てる間に抱きかかえていて血のめぐりが悪くなってたところにあんな夢を見たから、とかそういうオチだと思うので言わない。

「もしかして、覚えてない?」

「なにを?」

「あ、ううん、なんでもないよ! 全然なんでもないよ!」

 いや、明らかに何かある態度だろう、とツッコミを入れたら口笛を吹いて誤魔化し始めた。なんてベタな。

 まさか昨夜のアレが夢じゃなかったとかいうオチかと思ったけれど、痕跡は何も無かったしあまりにも現実的じゃないし、流石に考え過ぎだ。僕はまだ中学一年生なので、中二病とやらにはかかるつもりは無いのである。

 その後は、普通に嗣深の相手をしつつ洗い物を終えてから、遊びに来る二人に出すお菓子を二人で協力して作り始めるのであった。

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