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退屈でクソオモロない講義一緒に受けたるわ

 朝、携帯電話の目覚ましで起きる。ベッドの下では家康がまだ寝息を立てていた。目を閉じてすやすやと眠るカピバラはなかなか可愛い。そっと背中を撫でてみる。剛毛だ。これが天使だとは未だに信じられない。僕は起こさないように軽く朝食を取り、人参を袋から出して卓袱台の上に置き学校へ向かった。


 家康が来てから大学でもバイト先でも友達の女の子を変に意識するようになってしまった。以前のように自然に接することができない。会話がぎこちなくなった気がする。


 そりゃあ僕だって彼女は欲しい。デートもしたいしイチャイチャしてみたい。しかし好きにならないのだからしょうがない。


 例え僕が好きじゃなくても向こうから告白してくれたら喜んでお付き合いさせて頂く準備はできている。でもいつまで経っても準備期間のまま。誰からも相手にされず遂に二十歳を超えてしまったのだ。


 それにしても家康は一体僕に何をしてくれるのだろうか? 毎日耳元で「好きな相手を見付けろ」と囁くだけなのだろうか。それとも好きな相手が出来てから本格的に手を貸すつもりで、それまではどうしようも出来ないのだろうか。



「当たり前やないかい。まずお前が好きにならんでどないすんねん」


 本日バイトは休みだ。早めに帰り、朝の疑問をぶつけた答えがこれだった。


「お前なあ、ワイが『彼氏のいない娘リスト』なんちゅー都合のええもんを持ってきて、こっから選べとでも言うと思っとったんか?」


 多少はそういうのも期待したけど。


「そんなんまるで無意味や。大切なんはお前の気持ちや。純粋にこの娘と一緒にいたいと思う気持ちや。そういうのは時間をかけて育むもんや。違うか? お前も外資系の効率第一主義なんか? そんならそれでワイも考え直さんといかんのやで」


 家康の機嫌が一気に悪くなってしまった。


「わ、分かった分かった。悪かった」

「全く。何も分からんクセに天使に意見するんやない。お見合いみたいに写真見て顔が好みのタイプやから会うてみる、確かにそれも出会いの一つとは思うけどな、ワイはそういうやり方は好かんのや。


 本来やったらな、お前に既に意中の相手がおって、でも気持ちを伝えられずにいる。そこでワイが手助けをして成就させるちゅーのが理想的なんやけどな。ちょっとばかし来る時期が早かったかもしれん。けど乗りかかった船や、きっちり面倒見たるで」

「なあ家康。何で僕は三年も『恋人出来ないランキング一位』なんだろう?」

「そんなん知るかいや。と言いたいところだが、お前に会うて分かったわ。お前は心を閉ざしとる。女に対してだけやない、男にもや。お前、心から何でも話せる相手、おらんやろ」


 痛いところを突かれた。確かに僕には深く関わっている人間がほとんどいない。自分を曝け出すのも苦手だし、他人にもあまり興味がない。


「相手の心は自分を映し出す鏡やで。自分が壁を作っとったら相手も当然壁を作る。壁を作ってる相手からはその本当の魅力は壁が邪魔して見えんわな。見えんかったら好きにもなれん」

「じゃあ……まず初めは僕が改めろってこと?」

「そうや。そうやけど、人間そう簡単に変われるもんでも無い。しかし自分からは無理でも誰かに突いてもろたら案外壁は簡単に崩れる事もある」

「でもどうやって?」

「自分ホンマ、アホやな~。何のためにワイがいると思とんねん」

「え?」

「お前の女の子の知り合い集めてワイをペットとして紹介せえ。したら必ず今まで以上に打ち解けるはずや。そのためにキュウトなカピバラになったんやからな」

「集めるったってどうすればいい?」

「何かあるやろ。その~何だ、サークルとかバイト仲間で飲みに行くとか」

「カピバラなんか居酒屋に連れて行けるわけないだろ」

「じゃあ学校連れてけ。退屈でクソオモロない講義一緒に受けたるわ」

「無茶言うな。そもそも学校にペット連れて行けるわけないじゃないか」

「ああ言えばこう言う……お前ホンマにやる気あるんかい。天使舐めとったら承知せえへんで」


 家康がくわっと口を開けて威嚇する。まるで怖くないけど。


「そんなこと言ったって……あ、そうだ、明日先生が体調悪くて休講になったからみんなで川にバーベキューに行くとか言ってたっけ」

「それやそれ! そういう事は早よ言えーや。まさにグッドタイミングやないかい」

「でももう行かないって言っちゃったし」

「アホちゃうか。そんなもん知らん顔して混じっとったらええんや。大学生なんちゅーもんは世界中のあらゆる人間の中で最も適当な人種なんやで。ええか、そのBBQにワイも連れてくんや。そしたら娘たちとの距離が一気に縮まることウケアイや」


 BBQって……


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