腹へってしゃーないのに外なんか歩けるか
それから僕と佐倉は、お互い一人暮らしということもあり、毎日どちらかの家に泊まるようになった。日に日に僕の中は佐倉で埋め尽くされていった。身も心も佐倉の虜だ。いくら一緒にいても会いたい気持ちは増える一方だ。文字通り恋に溺れた。
そして一ヶ月が過ぎた。学校の後、今日はお互いバイトもないのでそのまま手を繋いで僕の部屋に帰った。すると。
「何や、お前らまだ付き合うてたんか」
見覚えのある図体、聞き覚えのある関西弁。
「家康!」
思わず僕は飛び付いてしまった。
「うわったったっ重いやないかい! 離さんか! 気色悪い」
友人に久しぶりに会えた事に、堪らず顔がにやけてしまう。
「どうしたんだよ~」
僕は嬉しくて家康の頭を撫で背中を撫で耳を引っ張ったりした。
「やめんかい! ホンマ鬱陶しいわー。こないだ天界に戻ったやんか。したら何や知らん、えらい外資系上司の機嫌がええねん。どないしたんやろ思たら、ワイの仕事がこれまでの最短記録やねんて。ま、そうやないかなとは思てたんやけど。
ほいでな、記録更新ちゅーことでボーナスもぎょうさん出たし、バカンスもえらい長う期間貰たからな、ちょっと様子見に来たちゅーわけや」
「そっか。でも何でまたカピバラなんだ?」
「そんなん他の動物やったらワイと気付かんかもしれんやないかい。お前ら人間は鈍臭いからな」
憎まれ口も今となっては懐かしく、心地良い。
「なあなあ、秀吉はどうなった?」
「ああ、施設に入っとる間は面会出来んけどな、毎日しごかれとるみたいやで」
堕天使の更生施設がどういうところで何をするのか全く見当が付かないが、世話になった家康の弟だ、立派な天使に立ち直って欲しいと願う。
「ま、真面目にやっとったら百年で出られると思うで」
また百年か……ということは、再び天使に戻った秀吉に会うことは出来ないのか。ちょっと残念。
「ここにはどのくらいいるんだ?」
「何も決めてへん。邪魔やったらすぐ帰ったってもええで」
悪戯っぽく言った家康は僕と佐倉を交互に見比べる。
「別に邪魔ってことは……ねえ?」
僕は佐倉に意見を求めたが、勝手にすればとばかりにそっぽを向いてしまった。僕としては、少しの間なら大歓迎だけど。
「じゃあちょっと三人で散歩にでも行くか?」
「あかんあかん」
「何で?」
「何でやあれへんがな。腹へってしゃーないのに外なんか歩けるか。人参食わせろや」
やれやれ。結局最初から最後まで人参か。苦笑いの僕は佐倉の手を取って、スーパーに向かった。




