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そばかすのチャーミングな女の子が主人公の漫画を読んだことがあって

「婆ちゃん、もう日本に戻って来れるんか? アラスカの任期は終わったんか?」

「ええ、終わったわ」

「ホンマか!? じゃあまた日本でワイらと仕事してくれんねんな? ワイらの上司になってくれんねんな?」

「……大天使長はね、とってもハードな仕事なの。家康、私はねえ、もう歳だから引退することにしたわ」


 お婆さんは、喜びの声を上げ、興奮する家康を宥めるように言った。


「引退て……! じゃあもうワイらと一緒に仕事してくれへんのか?」


 再び家康の涙声が部屋に響く。よっぽどこのお婆さんの事が好きなんだな。


「家康そんな顔しないの。いつかは誰しもこの時が来るんだから。百年でちょうどきりも良かったし。クピドには『後釜が見付かるまでいてくれ』って泣きつかれたけどね、『あ~ら私より優秀な方はたくさんいらっしゃるでしょう?』ってぶっちぎってきちゃった」


 ぶっちぎる……カッコいい。猫のお婆ちゃんは、悪戯っ子のようにぺろっと舌を出した。その仕草が人間臭くあまりにも可愛くて、思わず笑ってしまった。


「じゃあ、お婆さんは、今は普通の天使って事なんですか?」

「そうねえ、引退した身だから厳密には家康のような現役とは違うけれど、まあ人間からしたら天使と同じようなものね」

「ということは、隠居って事ですよね? それなのに仕事をするために佐倉のところに降りてきたんですか?」


 佐倉を「遥子さん」と呼んで知っているということは、このお婆ちゃんは佐倉についている天使ということだ。


「確かにね、本来なら現役の天使に任せておけばいいんだけど、引退する時にクピドに交換条件を出されちゃったのよ。大天使長を辞めるなら一人でも多くの堕天使を退治してこいって。そうしたら引退でも何でも好きにしろって。何だかんだ言っても相手は神様でしょ? だから無下にできなくって」


 その時、秀吉がもぞもぞと動き出した。


「う……いって~……あ! お前は大天使長! ここで会ったが百年目! 家康と共にお前も葬って……む!? むがもごっ!?」


 ようやく意識を取り戻した秀吉は手足は縛られていて動けないものの、悪態をついてうるさいので、猿轡を噛ませてついでに目隠しもして隣の部屋に転がしておいた。あの太陽のようなサッちゃんがこんな哀れな姿になっていると知ったら、バイト先のみんなは悲しむだろうな。



 四畳半の部屋に僕と佐倉が並んで座り、向かいに家康と猫が座っている。家康は自分のお婆ちゃんである猫に寄り添って動かない。


「でもそれだけじゃ詰まらないから、誰かの恋の手助けもすることにしたの」

「それが佐倉?」

「そうよ。まさか遥子さんのお相手に家康がついているとは思わなかったけど」

「佐倉のところにはいつ来たんですか?」

「一年前よ」

「一年も前に!?」

「そう……あれは今と同じ、雨がしとしとと降る梅雨寒の日だったわ。私は遥子さんのアパートの出窓に座って帰りを待っていたの。窓の外の植え込みには真っ白な紫陽花が、雨露にしっとりと濡れて光って、とっても綺麗だったのを覚えてるわ。


 外から戻ってきた遥子さんは部屋で毛繕いしている私を見ると、何も言わずそっと抱き上げて優しく撫でてくれたのよ。嬉しかったわ。だって、いきなり部屋に現れたら、大抵警戒されてしまうから。その時思ったの。この子のために何としても素敵な恋を実らせてあげなくてはって」

「キャンディそんな話いいからさ」

「きゃきゃきゃキャンディ!?」


 佐倉が事も無げに発した猫の名前に、思わずその顔を二度見をしてしまった。お婆さんなのにキャンディって……


「うふふ昔ね、そばかすのチャーミングな女の子が主人公の漫画を読んだことがあってね、とっても気に入ったからその時に改名したのよ」


 すかさず家康を見る。血は争えないとはこういう事を言うのか……。


「いいからさっさと真相を話せって」

「せっかちねえ、遥子さんは。そんなんじゃ雅史さんに嫌われるわよ?」

「はいはい分かった分かった」


 そして猫天使キャンディは、上品な声のおっとりとした口調で話し始めた。

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