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オレは天使だ

 ベッドの下にサッちゃん、いや、堕天使秀吉がいまだ白目を剥き、開いた口から涎を垂らして伸びていた。ああ、あのたっぷりと太陽を浴びて元気一杯に花を咲かせたヒマワリようなサッちゃんがこんな痛ましい姿になるだなんて……しかしこれはサッちゃんにあらず。現実から目を背けてはいけないのだ。


 秀吉の力から解放され、快刀乱麻の活躍を見せた佐倉に興奮した家康は、状況を事細かく、そして多少の脚色ありで身振り手振りを交え先程の戦闘シーンを再現し始めた。とはいっても所詮カピバラなので、そのアクションシーンは、かなり要領を得なかったが。


 意識を取り戻し、また悪さをするといけないので秀吉の両手両足は縛ってある。その可愛らしい口から時々漏れる呻き声を聞くと、これまでの明るくみんなに好かれるサッちゃんが思い出されて縛る事に抵抗があったが仕方がない。いくら可愛い風貌でも堕天使が危険な存在である事に変わりはないのだ。


「なあ、佐倉って格闘技か何かやってたのか?」

「高校の時、少林寺拳法部だった。関東大会で優勝したこともある」

「まじで……」

「でもな、少林寺の大会は空手みたいに実際に戦うわけじゃない。演舞だ」

「エンブ?」

「ああ、要は演技だな。型の正確さと美しさを競うんだ」

「そうなんだ」


 演舞というものがどういうものか、想像していると佐倉は、でも、と続けた。


「部活の練習ではスパーリングもやる」

「スパーリングって、殴り合いか?」

「本気の殴り合いだ」

「佐倉も殴られたのか?」

「ああ」


 無理だ。僕にはこの綺麗な佐倉を殴るなんて。当たり前か、自分の彼女だもんな。というかあれ程の実力の持ち主だ、格闘技といえば、高校の体育の授業でやった柔道くらいしか経験のない僕のやわなパンチなど軽くかわされる事だろう。


「女はオレ一人だったからな。いつも先輩に殴られてる弱い奴でもオレには勝てると踏んだんだろう、そいつらのストレス発散のために一年の頃はぼこぼこにされた」

「何だと……許せん!」

「でも半年後にはオレを殴った男子部員全員に十倍にして返したけどな。何人かは鼻と顎の骨も折ってやった。それからというもの、誰もオレとスパーリングしなくなった」

「何だと……じゃあ許してやるか……なあ家康、結局この秀吉って奴は、家康に復讐するために僕に近付いたってことなのか?」

「せや。ねちっこい奴やでーホンマ」

「そうか、僕は利用されてたのか。つーか家康、こいつに一体何をしたんだ?」

「それはやな……そんな事より、佐倉、お前何で雅史が秀吉に襲われてるて分かったんや?」


 家康は何故か理由を濁し、佐倉に話を振った。


「知りたいか?」

「そら知りたいわな」

「僕も」


 佐倉がここへ来るなり秀吉に殴りかかったという事は、いや、それ以前に、秀吉が僕の家に一緒に来た事を知っているという事は、佐倉は初めからサッちゃんが堕天使秀吉だと見抜いていた事になる。


 家康でさえその正体が見抜けなかったのだ。堕天使が普通の人間に、そう簡単に見破られるとは思えない。普通の……は! もしかして佐倉は……


「オレは天使だ」


 僕の表情を読み取るように佐倉は頷いた。やっぱりそうなのか……

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