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地球は人間に乗っ取られて以来、恋する惑星になった

「おーい、大丈夫かー。しっかりせえ」


 耳元の、のんびりと間の抜けた声にぼんやりと目を開ける。そこにはさっきのカピバラがいた。前脚で僕の頭をつんつんと小突く。やはり夢ではなかったようだ。


「まあ確かにショックかも知らん。でもな、勘違いしたらあかんで。『恋人の出来ない確率』ゆうのとモテるモテないゆうのは別個や。ごっちゃに考えたらあかん。例えばな、娘にモテモテでも本人に付き合う気ぃが全く無い男がおるとするやろ。したらそういう奴もリストの上位に来るんやで」

「いいよ別に慰めてくれなくても。モテないのは事実だし」

「まあそう落ち込むなや。そのための天使やで。ワイがおったら百人力や。ちゅーわけやからしばらく世話んなるで」

「しばらくって……どれくらい?」

「そんなん知るかいや。お前に恋人が出来るまでや。言っとくけどな、ワイはあくまで『手助け』やで。基本は自分の力で何とかせえよ」

「な、なあ、ということはさ、僕の前にも誰かのところに行ってたってことか?」

「せや。去年まで大阪の女の子のとこにおった。お陰ですっかり関西弁が移ってしもうた。ちゅーても聞きよう聞き真似で特に教わったわけやないから、ブロークンやけどな。せやから使い方間違うててもクレームは受け付けんで。しかしこれが喋りだすと滑らかでなかなか気持ちええねん」


「関西弁の女の子」と聞いて、甘え上手な可愛らしい年下の女の子をイメージした。標準語圏の男は一度くらい関西弁を喋る女の子を彼女に持ち、「アホやなあ」とか「ウチな」とか上目遣い&甘ったるい感じで言われるのが憧れなのだ。


「その子は上手く行ったのか?」

「誰に口利いとんねん。当たり前やないかい。あっちゅーまに恋人が出来て、結婚もして、もう子供までおんねんで」

「へえ、そりゃ凄い。で、その子のとこにはどのくらいいたんだ?」

「まあ二年と一月っちゅーとこやな」


 全然「あっちゅーま」じゃないじゃないか。


「いくつくらいの女の子なんだ?」

「四十や」

「え?」

「あ、違うか、ワイが行った時が四十やからもう四十二か」


 確か今、女の子って……


「ちょっと待て。じゃあここに二年もいるかもしれないってことか?」

「だからそれはお前次第や言うてるやろ」


 ただでさえ狭い部屋なのに、こんな図体のでかいのと何ヶ月も暮らすのか。


「その、天使ってのは何にでも変身できるのか?」

「当たり前や。天使やで」

「だったらもう少し、サイズの小さい動物で現れて欲しかった」

「油断しててん。まさかこんな狭い部屋とは思わんかったんや。前の女の子はここの十倍くらい広いマンションに住んどったんやけど、その時のワイの格好がシマリスやったんや」

「何でまた」

「その女の子の更に前に行ったんが、ムサい上にクソ生意気な坊主のとこにやったんやけどな、そいつの部屋に『ぼのぼの』ゆう漫画があってん。それ見てああ、シマリスゆうのもラブリイでアリやな思たわけや。で、その子んとこにシマリスで行ったんやけど、部屋は広うて移動に疲れるわ飼うてる猫には追い回されるわでどえらい目に遭うたんや。せやから次は猫がおってもちょっかい出されへんように、もうちょっと大きいサイズで行こうと決めたわけや」


 それでカピバラか。せめてビーグルくらいに止めておいて貰いたかった。というかさっき僕のことは調査済みって言ってなかったっけ。それならどういう部屋に住んでるとかも分かっててもおかしくないだろうに。


「僕の部屋こそシマリスで充分だよ。今から変身してくれないか?」

「それは無理や。一端ターゲットの人間のとこに来たら、目的を達成するまでは天界には帰られへん。変身できるのは天界におるときだけや。人間界では別の姿になる事は出来ひん。そんなん出来るんやったら、前の子のとき、さっさとシマリスやめてるわ」

「そりゃそうか。あ、さっきさ、天使のままだったらこんな狭い部屋に入り切らないって言ったよな。実際はどのくらいの大きさなんだ?」

「せやな、分かりやすいとこで言うたら……東京タワーくらいか?」

「東京タワー!? そんなにでかいのか?」

「当たり前や。天使やで」


 なぜか大威張り。


「それで、どうすればいいんだ?」

「どうするやあれへんがな。早よ好きな娘の名前教えろや」

「いない」

「……何やて?」

「今僕には好きな人がいない」

「お前なあアホちゃうか」


 人には名前で呼べというくせに、自分はお前を連発する。


「人間なんて恋してナンボの生物やろ。地球は人間に乗っ取られて以来、恋する惑星になったんやで。しかもお前今いくつや」

「二十一」

「か~~情けない。二十一ゆうたら道で見知らぬ娘と目が合うただけでも恋する年頃やで。マクドのゼロ円スマイル見ただけで付き合うてると思い込む歳やで。気になる娘が多すぎて目移りして決められへんちゅうならまだ分かるけどな、好きな娘が一人もおらんて天使つかまえてようそんな台詞が言えたな」

「悪かったな。でもしょうがないだろ。いないものはいないんだから。とにかくさ、明日学校だから。今日はもう寝る」


 僕はジャージに着替えると部屋の中央に陣取るカピバラ天使家康を跨ぎ、ベッドのある四畳半の部屋へ移り、電気を消して眠りについた。

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