FAAみたいな出来損ないの腐れ溜り場なんぞ
「な、何だと! ちょっと油断してただけだ! まさか俺とほぼ同じタイミングでこいつに接近する女がいるなんて予想外だったんだ!」
「他に女がおったからって、振り向かす事出来んようでは能無しに変わらへん。なーにが『振られちゃったんだ、私……ごめんなさい』や。チンケな手ぇ使いよって。この駄目駄目堕天使め!」
「こ、この野郎、好き勝手言いやがって。いいだろう、そこまで言うなら今から完全にこいつを落としてやる。家康、お前はそこで毛だらけの指でも銜えて見てるがいい」
秀吉は僕の手を取り朝よりも更に激しくベッドに寝かせた。そして僕の上に跨る。僕の身体は金縛りにあったように動かない。このままじゃ本当に襲われる……
「やめんかこのオタンコナスが! あ、ぐあ! 何や身体が痺れて来よった。や、やっぱり昨日ワイを眠らしたんはお前の仕業やってんな!」
「天使の行動を意のままに制限できる。これも俺達の素晴らしい能力だ。俺は今からこいつと交わる。それが終わればこの松岡雅史は完全に俺、即ち里美に落ちる。落ちたら大天使長に密告してやる。『ターゲットの恋愛成就に手古摺った天使家康が、遂に禁断の技を使った』とな」
交わるって、やっぱアレだよな……ああ佐倉ごめん。僕にはもうどうすることも出来ない。
「や、やめんかい」
「人間に変身してターゲットを自分に惚れさせた事が発覚すれば天界からは即追放。堕とされる事は免れない。これで家康、お前も晴れて俺達『Fallen Angel Association』つまり堕天使協会、略してFAAの一員だ。嬉しいだろ?」
「FAAみたいな出来損ないの腐れ溜り場なんぞ誰が行くか」
「はっは、せいぜい強がっておけ。堕ちたら他に行くところはないんだぞ?」
喋りながら秀吉は、僕の服を脱がし始める。やめてくれ。
「大体お前ら堕天使の目的は何やねん」
「人間界に降りて来た天使の仕事の邪魔をする。それがオレ達の仕事だ。何度も邪魔されて人間の手助けが出来なくなった天使はやがて自棄になり禁断の技を使う。そこまで行けば堕ちたも同然、オレ達の仲間に引き入れる。そして今の天界がいかに腐ってるかを延々叩き込むんだ。そうやって仲間を増やし、頭数が揃ったら天界に殴り込んで大天使長もクピドもぶっ潰す。オレ達の新しい世界を作るんだ。」
「そんなこと出来るわけないやろ」
「家康、お前はなかなか優秀だからな、堕ちた際には幹部として迎えてやるぞ、有り難く思え。話は以上だ」
秀吉は朝よりも淫らな口付けをしてきた。その快感に溺れそうになる。
「雅史ぃ! 目ぇ覚まさんかい! 佐倉はどうすんねん!」
そんなこと言ったって、身体が……
「ははは無駄無駄。こいつはもう俺の虜だ。ほーれほれ全部脱がすぞ」
今度は完全に裸にされてしまった。これでもう終わりか……とその時、
「待ちやがれ! オレの松岡に触るんじゃねええ!」
激しく玄関を開ける音と共に、鬼の形相の佐倉が現れた。ああ、佐倉、来てくれたんだね……
「何だ貴様、これからいいところなのに邪魔するんじゃ……ぐはっ!? な、何だこの乱暴な女は……ぐぶっがへっ、も、もうやめ……ぎゃあああ!」
す、凄い。
佐倉は可憐な少女の姿をした秀吉の顔面を躊躇うことなく二発殴り、お腹に膝蹴りを入れた後、美しすぎる回し蹴りを見事にこめかみの辺りに決めた。
その衝撃で折れた歯が秀吉の口の中から飛び出す。白い欠片はスローモーションで放物線を描き家康の額に当たって畳に落ちた。佐倉の電光石火の攻撃をまともに喰らい、崩れ落ちた秀吉はそのまま気絶した。
「松岡!」
「ん……」
ようやく身体が解放されたと思ったら僕の唇には佐倉の暖かく柔らかい唇が触れていた。僕はそっと佐倉の顔を離す。
「佐倉……これには訳が……」
「ああ、分かってる」
佐倉が呟いた時、頬が濡れるのを感じた。
「泣いてるのか……?」
「泣いてない」
そう言いながらも佐倉の目には涙が溜まっていた。胸がきゅんとなった。僕は首に手を回してその頬を引き寄せた。それにしても佐倉はなぜこの状況を分かっているのだろうか? 僕は不思議でならなかった。




