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簡単です。松岡さんのハートを掴んだ方が勝ち

「ほんだらワイ帰るわ」


 次の朝、佐倉が「学校に行く前に荷物を取りに一回帰る」と部屋を去った後、起き出した家康が唐突に言った。


「帰るってまさか……」

「あの娘と恋仲になったんや。もうワイの仕事は終いや」


 家康は欠伸を噛み殺している。


「ちょっと待ってよ。前の大阪の女性のところには付き合い初めから結婚して更に子供が産まれるまで二年もいたんだろ?」 

「そんなんはケースバイケースや。年齢も状況も一人一人違うんやで、個人差あって当たり前やろ。ワイがついてなアカン思たらナンボでもおるけどな、お前はもう大丈夫や」

「そんな……あ、そう、そうだ、昨日大事なのは僕の気持ちって言ったじゃないか。佐倉とサッちゃんに対する心を育てろって。どっちに対してもまだまだ全然大きくなってない。だからもう少しいてもいいじゃないか」

「いや、お前の心はもう決まっとるはずや。確かに短期間ではあったが、お前の心には一人の女しかおらんはずや。種はしっかり根付いとる。佐倉遥子に対する恋の種がな。後はそれを大事に世話して大きくして花咲かせるだけや」


 確かに僕は、佐倉を愛しく想い始めている。


「それにしても今回は随分あっさりと任務完了やな。最短記録更新ちゃうか。ボーナスどんなもん出るんやろ。今度の上司、外資系でスーパードライやけど能力第一主義やから評価するとこはきっちり評価してくれるしな……」

「何だよ、結局自分の事しか考えてないんじゃないか」

「何言うてんねん。ええ仕事したらそれに見合うだけの報酬貰うのんは当たり前やろ。ボランティアちゃう言うたやろが。しかもお前は全世界不動の一位やったからな、今回はかな~り手古摺る思たんやけど……ま、これもワイの実力っちゅーやつやな」


 人参ばっかり要求するうるさいやつだけど、こんなに早く別れが来るとは思っていなかっただけに心の準備が出来ておらず、僕はかなり動揺している。


「本当に行っちゃうのか?」

「なんやお前寂しいんかい」

「べべべ別に寂しくなんか……」

「まあ気持ち分からんでもないけどな。こんなキュウトなカピバラ、そら手放したくないわな。せやけどなワイもこれでなかなか忙しい……」


 その時玄関が勢い良く開く音がした。だから人の家の玄関を勝手に開けるなって。僕と家康が揃って部屋から首を出すとそこには朝日を背に受け肩で息をし仁王立ちするサッちゃんの姿があった。


「松岡さん!」


 サッちゃんはスニーカーを脱ぎ捨てると駆け寄ってきて僕に抱きついた。


「わわわどうしたの?」

「松岡さん……好きです、ずっと好きだったんです! だから私と付き合って下さい!」


 えええ!? なんなんだこの展開……


「私の事、嫌いですか?」


 何か最近この質問多いな。「嫌いじゃない」と「好き」は意味合いが違うということを是非みなさんに知って頂きたい。


 僕より15センチは背の低いサッちゃんの頭は、ちょうど顎の下にある。ただでさえ可愛い顔なのに上目遣いまでされてかなりドキドキしている。


「サッちゃんの事は嫌いじゃないよ。でも僕には彼女が……」


 そこでサッちゃんは一気に涙目になった。睨むような目付き。


「松岡さんの嘘つき! 昨日は彼女いないって言ってたのに!」

「つ、ついさっき出来たんだよ。学校の友達に告白されて」

「そんな……タッチの差で私が彼女になれなかったって事ですか? 先着順なんですか? じゃあもし昨日の時点で私が告白してたら付き合ってくれたって事ですよね?」

「え? あ、うん、いや、う~ん?」


 それはどうなんだろうか。というより僕がイメージしていたサッちゃんと実像が徐々に掛け離れていっている事にかなり戸惑っている。


「じゃあ前から好きだったって事ですか? その人の事」

「いや、特に意識はしてなかったんだけど、さっき付き合ってって言われたから……」

「そんな! 好きでもない人と付き合うんですか?」

「まあ今まで友達だったし、特に嫌いなところもないし」


 実際好きになりかけてきているし。


「そんなの不公平です! 私の方が絶対にその人より松岡さんの事を想ってます! それに、松岡さん自身はどうなんですか? 私とその人、どっちが好きなんですか?」

「いやだから今の段階ではどっちっていう事もないんだけど」

「じゃあ勝負します」

「え?」

「その人と勝負します」

「勝負って何で?」

「簡単です。松岡さんのハートを掴んだ方が勝ち」


 するとサッちゃんは背伸びして僕の頭を引き寄せ、口付けてきた。電光石火のキスに僕は目を見開き身体を硬直させたまま突っ立っていることしかできなかった。


「その人とはどこまでしたんですか? もうエッチしちゃったんですか?」


 数秒の後、顔を離したサッちゃんが睨むように僕を見る。昨日の夜は、キスした後、疲れていたのか佐倉はすぐに眠ってしまったのだ。だからそれ以上は佐倉に触れていない。


「いやまだそこまでは……」

「キスだけなんですね? じゃあ私は先手を打ちます」


 サッちゃんは小柄な女の子とは思えないほどの力で僕をベッドへ引っ張り、抱き合ったまま横になった。そして僕を下に寝かせると両腕を押さえつけて今まで見たこともないような妖艶な笑顔で僕を見詰めた。僕は金縛りにあったように動けない。

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