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洋菓子店シリーズ

西口店

作者: 小芙菜

駅の西口を出てすぐ右のビルにその洋菓子店はある。

昔ながらのお店で、古ぼけた看板に色あせたピンクで「荒井洋菓子店」って書いてある。

でも、そんなお店ももうすぐ潰れてしまうんだ。

駅前開発には必要ないお店だから・・。


「実家に一旦戻ればいいのに・・・。」


ショーケースを磨きながら呟いて、ヤバイと顔を上げればやっぱりね・・。

物凄い顔してこちらを睨んでた。


「働かないのでしたら帰れ。」


「いや、頑張って磨いてますよ。なのに毎日笑顔で働いている従業員に対してその顔は酷い!」


「お前の顔ほど酷くはない。むしろ俺の顔は上は90代から下は赤ん坊まで惚れる顔だ。」


「真顔で言っちゃった・・。売り上げもモテモテと比例していれば良いけどね~。」


「喜べ、お前が思っているより俺は腕がある。スカウトはひっきりなしだ。」


「そんな話聞いてないなー、何で教えてくれないわけ?」


「お前はただの臨時売り子だろうが!何故教えなけりゃいけないのか理解に苦しむな。」


「え、だって・・」


そこでふと気が付いた。

そうなんだ、この人・・菅原遼太郎・・と知り合ったのは高校時代だけれど、今はただの臨時売り子とケーキ屋の店主なだけだ。


元々、菅原君の実家と知らずにアルバイトを始めたのがきっかけで仲良くなった。

親父の跡継いで頑張るんだーって、高校卒業と共に単身で外国に修行に出てった彼が戻ってきた時見たのは、なぜか父親の許で修行している弟の姿だったのだ。


菅原君がいない間の事は、アルバイトさせてもらっていた関係でよく知っている。

いじめに遭って引篭もってしまった二つ下の菅原弟を助け出す為に、ご両親が手伝いに誘ったのがきっかけでケーキ屋さんの血が目覚めてしまったのだ。

あぁ、間違ってもパティシエではない。

ケーキ屋さんって言葉がしっくりきているのが、弟君だった。


修行から帰ってきた菅原君が見た景色は、いつもと変わらないケーキ屋なのに、自分の存在意義が探せないほどの安定感のある町のケーキ屋さんだった。

だから腕を揮うにはお店のイメージとかけ離れている菅原君の為に、暖簾分けって形で父親の知り合いが引退するお店をたったの数年間限定で譲り受けたのだ。


ただし、今のままの内装でと条件(数年でこのビル潰すから金かけんなって意味らしい)が不動産業者から付いてしまった為に、昭和が漂う感じのケーキ屋さんで高級感溢れるケーキを売っている。

本来ならもっと清潔感ある綺麗な高級スイーツ店って感じで売りに出した方がお客が来るはず・・。

だからこそ、私は悔しい思いをしている菅原君の同士で、菅原君もそう思っているのだと錯覚していたようだ。


「お前は臨時なんだから次の職を探しておかないとまた無職だぞ。」


口ごもった私に気がつかず、さも心配しています的な顔で言葉を続ける。


「薄給とセクハラに耐えかねて辞めるのはいいけど、ここは後半年で潰れんぞ。

俺がここの店主やってて良かったよなぁ?」


セクハラ上司に啖呵きって辞表を叩きつけ、意気揚々と駅に降り立って最初にしたのが、ケーキの自棄食いだった。

閉店間際のお店に滑り込んで、残っているケーキすべて下さいって言った時の爽快感は忘れられない。

くぅ~!!こういうのって子供の頃から憧れてるセリフよね!!

出来れば売れ残りだけじゃない時にしたかったけど・・。


すぐに溜息と共に、「バカかお前は」ってケーキだけ見てた私の頭に降ってきた言葉で、爽快感も一気に消えたけど!

高校時代に

「大人になったらケーキ屋さんの端から端まで一度に食べてみたい(ハート)」

なんて言わなきゃ良かった!!

(ハートの部分もきちんと声に出して読んだ記憶があるんだよね・・・。)

まさか実践したお店が、そのとき喋っていた菅原君のお店だったのだから運が悪かったとしか言い様がない!!

おかげでルームシェア(部屋が余ってるって言うから退寮と共に押しかけた)&バイトさせてもらっているこの状況。

有難いのは判ってるけど、気心知れてる仲だからって扱いが酷すぎるのは感謝できないんですけど!!


「あん時のお前の顔はほっっんとうにウケたわ~。動画で撮っとくべきだったと思うくらい怖いほどブスだったな。」


未だに思い出し笑いをしながら売り上げを確認している菅原君に、膝カックンをくらわせて清掃道具を片しに奥へ戻る。


ふん、見てろよー!!

残り半年で絶対に就職してやる!!





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