記憶の中の武蔵(後)
誤字が多いかもしれません。
一〇一一 曇天の空から不気味な爆音が聞こえてきた。それは死神の羽音であり俺たちはその羽音に怯えた。雲の切れ目から例の死神を確認した。総数60機はいる。機銃座にはその機銃座に割り振られた兵員がつき、各々(おのおの)の機銃の角度を調整するためにペダルを踏み角度を調整していた。日本側が搭載している機銃は殆どホチキス25ミリ機銃である(13ミリ機銃も十門ばかりある)。この機銃は耐久性に関してはとてもが優れているこの機銃を日本海軍はとても気に入ったようで海軍の艦艇の機銃の代名詞のようなものである。今それぞれの機銃が指揮棒をはたかれ見れば狂っているように振り回す、指揮官の指示通りの方向に合わせている。
敵機は一秒ごとに視界内で膨張するように迫りくる。本艦に攻撃を与える敵機がこの距離で迫りくるまでの時間は一瞬の刹那なのだがそれが異様に長くこの時は感た。米軍機が姿を次第と大きくし輪郭をはっきりと見極めれる距離まで来ると遂に指揮官が発射命令を下す。その声は高角砲の発射音に潰されるように聞こえなくなった。続いて機銃座がそれぞれの銃口から弾丸を次から次へと上空に叩きつけ、その幾百、幾千の弾丸のにより武蔵は外界との視界を閉じたように見えた。その外界からどう侵入してくるのか疑問に思うほど米軍機のシルエットが眼前に膨らんできた。「爆撃機5機、右舷から接近!」
それとほぼ同時に「右舷噴進砲撃てぇ」と怒鳴り声にも聞こえる声が聞こえるや否や噴進砲からおびただしい煙が出た。それは斜め上方面に直進しオレンジ色の壁を築き上げた。その壁の崩壊時に2機が火だるまとなって落下するのが見えた。「二機撃墜」喜びが混じったような声で報告が入ったがやはり恐怖心の方が強いようだ。艦爆の他にも戦闘爆撃機も編入されている。
「右舷後部敵機急降下」
「面舵40度」しかし回避できない距離にまでそのとき敵機は迫ってきていたのだ。獲物を追い詰める鳥のようにまっしぐらに武蔵に向かって来たその艦爆は正確に爆弾を投下してきた。甲板場で降ってくる爆弾が命中弾かそうでないかを見分けるのは爆弾をじっと凝視する。細長い爆弾は時間の経過とともに形を変えてくる。高い音ともに爆弾の形は徐々に丸くなり視界に大きく膨らんでくる。
━━━━これはマズイ。理屈では無く直感がそう告げたのだ。証拠として頭上の爆弾は丸くなっている。これは爆弾を真下から見えているということである。重力というのは真下に作用する。おれは持っていた弾倉を運ぶ大八車もどきを手放すと、甲板上をしゃむに数十メートル走り伏せようとした時におびただしい熱量を帯びた爆風が、自分をさらに数メートル向こう側に吹き飛ばした。破片らしきものが甲板上に落下するのを聴覚により確認しながら、もう一つの爆弾が命中した雷鳴のような強烈な爆発音を同じく聴覚により確認した。
パラパラと木片のかけらが空中で弧を描きながら甲板上に乱れ落ちた。素早く起き上がりあたりを見渡した。先ほどいた場所を確認すると真っ黒な黒煙が噴火寸前の火山の火口のように噴出されていた。この下は機関室に近いはずだが大丈夫だろうが。だが洗浄ではまず自分の心配を優先せねばならぬことを忘れていた。カタカタ・・・と軽やかな音で連射される12,7ミリ機銃だんが足元で炸裂して甲板を剥ぎさった。不機嫌そうに爆音をなびかせるF6F戦闘機に俺は戦慄した。周りは再び機関銃と高角砲が奏でるリズムに包まれていた。
硝煙によって周りの空気は黄色く彩られていた。海を見ると白い水柱が立ち尽くしその中を味方の艦艇が這い回り、アメリカ艦載機が上空を忌々(いまいま)しく飛び回る。
この無数の艦載機を飛ばしているアメリカ艦隊の空母は現在硫黄島から900キロメートル離れており、硫黄島南方500キロメートル地点に向かっている。現在アメリカ艦隊と日本艦隊の距離は600キロである。硫黄島の航空支援を受けながら来るなら来いという姿勢を示すのである。
一一二〇「第1次攻撃隊が戻り次第、予備搭乗員と無傷の機体を早急に整備して第3次攻撃隊を作成しろ。護衛空母はどうしている」艦橋では日本艦隊を偶然発見しそれが接近してくると聞き慌てて硫黄島用に編成していた攻撃隊を日本艦隊攻撃に振り分けている。
「護衛空母は現在硫黄島攻撃隊を編成中です」若干うれしそうに応答が帰ってきた。少しして第1次攻撃隊が帰投してきた。40機を送ったのだが、帰還してきた機体は34機と15%損失していたが、話によれば戦艦1隻中破炎上中とのことである。
一一三八 新鋭爆撃機SB2Cが翼下に黒光りする物を抱えて甲板を蹴り重々しく蹴る。戦闘機は既に上空で旋回し待っている。それを見るとスプルーアンスは思わずほくそ笑んだ。ジャップめ・・・跳弾爆弾で全滅させてやる。それにこの艦隊だけが全てと思うなよ。
日本艦隊はその時、第2次攻撃隊の終わりかけの攻撃を受けていた。巡洋艦能代の魅惑的な爆撃機の回避行動に嫉妬してもおかしくないほど爆弾を受けている軍艦があった。それは先の大戦で活躍した空母隼鷹である。一発目でマストをさらわれて二発目で機銃をごっそり削がれた。またたくまに乗員が血糊となり消し飛ぶ。閃光と紅蓮の炎が何回も立ち上り既に走行しているのでなく流されているような状態であった。軍艦はもはや生気を全く感じさせないほどにまで破壊され尽くしていた。それでも隼鷹は耐えていた。米軍機の攻撃は容赦なくロケット弾までも撃ち込まれて爆弾にも負けないような破壊音を出して1隻の空母を潰す。やがて隼鷹は流れるのも疲れたと言わんばかりに急に破裂するように爆発した。無数の破片へと姿を変えて船体は一瞬のうちに水柱に包み込まれた。
いくつもの破片が槍となり海面へと突き刺さった。この爆撃で米軍機1機が撃墜された。最後まで敵と戦い抜いた空母であった。他に駆逐艦芙蓉がロケット弾二発と爆弾を一発受けて轟沈した。それ以降は残った戦闘機が機銃を適当に吐き捨て帰投していった。
一二〇〇 つかの間の平和が訪れた。そのあいだに俺たちは握り飯をほおばっていた。ゆっくり食べたいのだが敵はすぎに来る。もたもたしていれば任務も果たさず飯を食いながら死ぬという醜態を晒すこととなる。絶望的な状態ならともかく希望がまだある以上最悪でも死ぬなら任務を果たして死ぬべきである。炊飯係の人たちも多数の兵士たちに飯を食わすのだ手は恐らく真っ赤に腫れ上がり火傷でもしているのだろう。水でゆっくり冷ましたいだろうが戦場である。切り替えができずぼやぼやとした気持ちでは死にやすい場所である。幾分時間が経っただろうか・・・。
「敵機襲来、対空戦闘開始!」遂に来た敵だ。再び先ほどの光景が繰り返された。つまり弾幕により外界の視界を遮断するのである。俺はその弾幕をはるための弾丸を運ぶだけだ。
「早く来いぁ」戦闘中の恐怖で言葉が荒くなってる連中が俺めがけて罵声を飛ばしてくる。すぐになくなるんだな弾丸はと思いながら俺はひたすら運んだ。
一方海面では恐ろしい光景が目に飛び込んできていた。
「爆弾が海面を飛んでいるぞ。またあの爆弾だ」跳弾爆弾である。その名のとおり爆弾が海面をピョンピョンと水切りした石のように海面を滑り飛ぶのだ。それは駆逐艦朝顔に命中したときに威力が確認できた。衝突した瞬間爆発音が轟き水柱と火柱が同時に舞い上がった。駆逐艦朝顔は転覆しそうなほど傾いた。そして何回か揺れると右舷側に急速に傾いた。長門にもそれは襲いかかっていった。「左舷後部に敵機突入してきます」
取舵一杯を取っていた長門は向きしっかりと変えたがその先にも敵機がいた。
「総員何かに捕まれ」それが艦長が幕僚に言った言葉であった。長門は次の瞬間物凄い衝撃を受け左右に揺さぶれられた。お隣の惨劇はこちらにも伝染してきた。
1000m離れていた長門の船体の影からブワッと敵機が吹き出てきた。実際10機もいなかったのだが黒煙なども手伝ってそれが無数の航空機に見えたのだ。
━━━━それから数分後、武蔵に鋭い衝撃音が鳴り響いた。
一二五〇「航空隊からの報告が本当なら日本艦隊はほぼ全滅したことになる。ナガトは中破し例のフリークは大破」スプルーアンスは第5次攻撃隊の出擊命令を出した。
「ジャップめこれで終わりだ」
アメリカ艦隊は同時刻駆逐艦が急に海面に爆雷を投下し始めた。駆逐艦が過ぎ去った跡には白い航跡が残りそれを消すように爆発が起きる。少しして金属板が浮上してきた。潜水艦のもだろうか?それなら重油の膜が浮き出てくるはずだ。まさかそれが伊号潜水艦が少し前にばらまいてきた物で、一定の深度を保つように設定された物で米軍の駆逐艦のソナーが探知するようになっていた。
これにより米駆逐艦は頭を痛めた。
「同胞たちをほおって置けるか。行くぞ海鷲の力を見せてやれ」硫黄島からは零線と烈風が計30機出撃し、基地には迎撃機がいつでも発進できるようにされていた。
一四〇〇 日本艦隊は硫黄島に進路を改めた。損害が多くて待ち構えるどころでなくなったのである。
「大丈夫か健太」俺が今いるのは医務室だ。健太の右目は包帯で巻かれている。
「ああ木片がぶっ刺さっただけだ。なぁに命に比べれば目の一つくらい安いもんだよ」と陽気に振舞っていた。俺にはそのようきさがぎゃくに辛かった。どおみても見せかけなのがバレバレだったからである。
「頑張れよ」と言ってきた。目頭が熱くなるのを感じると「おうよ」と短く答えてその場を去った。
現在400キロ圏内に入り込めた。その時北の方から爆音が聞こえてきた。すかさず銃身を水で冷却していた兵員が銃座につく。
「味方の零戦と・・・新型機だぁ」聞こえてきたのは喜びの声であった。
しかし数分後に南の方から薄気味悪い爆音が響き渡ってきた。零線が急にエンジンを最大にして雲の中へと姿を消した。雲の中からは物凄い音が聞こえてくる。船体からは応援の声さえも聞こえてきた。雲が真っ赤に染まりその中から一つ二つと火だるまが落ちてきた。
数十分の戦闘が行われた。その間艦隊にたどり着いてきたのは7機であった。これで得れた戦果は僅かであった。爆撃機はすべて雲の中で撃墜されたのである。零戦や烈風は機数をかなり減らしていたが無事に北の空へと戻っていった。
基地では決死の防空戦が行われていた。月光などの新型の機体も置いてあるがほとんど零戦だ。巴戦に零線が持っていき月光は斜め向きに機銃を放つ。空では幾百もの機銃の音が鳴り響いた。爆撃機は攻撃する間もなく戦闘機に襲われるがそれを米軍戦闘機が撃墜するがさらに零線が巴戦で撃墜し、それを落とそうとした米軍機を月光が返り討ちにするという壮絶な航空戦が展開された。
これにより米軍は基地への爆撃ができなった。
やがて数時間が立った。米軍は一時期攻撃を停止した。損害が多く計画を練り直したのだろう。だがそれを狙う目ものがあった。伊号潜水艦である。3隻が例の金属板をバラ撒いていた。そして1隻が艦隊を発見していた。しかし残る潜水艦はずっとその海域で息を潜めていた。ここにも金属板がばらまいており敵はもう混乱中である。そこに計20発の魚雷が一斉に米艦隊めがけて撃ち込まれた。
「おい!魚雷だぞ!」海兵の誰かが絶叫したのをはじめとし一斉に一同が叫び始めた。残念だが声で魚雷が止まらなかった。
・・・刹那!大型輸送船はたちどころに7隻が撃沈され、唯一の正規空母も3発の魚雷を受け海に沈んでいった。
「退却だぁ退却」悲鳴を上げるように米艦隊は逃げ去っていった。呆気ないと潜水艦の者は皆笑い飛ばした。戦後この事実を知った米国の軍人も吹き出してしまったという事例があるようだ。
しかしこれは優秀な〝囮〝となったという意見もあるのも事実である。
駆逐艦を盲目にすることで伊号潜水艦は攻撃を成功させたのだ。しかし12時間後の硫黄島がどうして盲目だったのかはわからない。歴史専門家はあそこで怠慢をしていなければあの悲劇は起こらなかったかもしれないと。
「ジャップめさすがにあの艦隊には気づいていないだろう」
一七日 〇四三〇 硫黄島から遠くに日本艦隊の姿が見えた。武蔵と駆逐艦1隻である。他の艦艇はみな本土へ戻る航路へと入ったのであるしかしこの2隻は異常なほどの損害を受けていた。この駆逐艦とは雪風である。ロケット弾を2発も受けている。だが幸運なことに2発とも不発であったのだ。全くを持って。運が良い
その時だった「敵の攻撃隊だぁぁ!」絶叫だった。サーチライトが一斉に暗闇を照らした。その明かりに照らされて米軍の航空隊が姿を現した。スクリーンに照らし出された米軍機その数は100機を超えていた。
「総員急いでぇ起きろぉ」士官の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ここでか!」俺は発狂しそうになった。既に武蔵は左舷に1度傾いておりボロボロの状態で走行していたのだ。機関室の人間など必死になって働いていたのだ。その努力が有りここまで来れたのにもかかわらず、まの前には幻想的にさえ見える航空会が繰り広げられていた。
「対空戦闘始めぇ」俺はメインの弾薬庫から弾倉を持ち出した。しかし・・・もう少ない・・・。いや俺が持ち出したのを除いてもう0だった。
硫黄島でもブザーが鳴り響き戦闘機が迎撃のため発進する。
━━━━だが間に合わない。明らかに米軍機は今俺たちを殺しにかかっている。煙突からは勢いよく黒煙が吹き出て艦はスピードを上げるが浸水多量の鈍足である。
━━━━「撃ち方始めぇ」武蔵最後の射撃がこの時間に行われた。サーチライトの光に照らされながら膨張する米軍機にオレンジ色の槍が突き刺さっていく。
「敵機が右舷より多数接近してきます」
「面舵30度ぉ」
「30機ほどが急降下してきます」
「取舵一杯だぁ急げ」
「舵を戻せぇ。・・・機関室もっとカマを焼くんだぁ」
艦橋では多くの声が飛び交わされた。だが、硫黄島1キロ手前で遂に爆弾は命中した。上空をその時やっと零戦が空を通過した。武蔵は急に速度をガクっと起こした。紅蓮の炎がサーチライトに負けぬ輝きを灯した。さらに後方部に直撃弾を受けた。
この爆弾機郡は米軍の護衛空母だけの艦隊である。そうあんなお粗末な空母でも巨大な牙を持てるのである。それはやはりもう戦艦が海の王者ではないことを語っているのではないだろうか?いやきっとわかっていた。
━━━━真珠湾のあの日から。
武蔵はそれでも硫黄島に向け突き進んだ。後500mだ。
「右舷より爆撃機急降下ぁ」
「面舵一杯だァ」
「艦長カジが聞きません!」
「何ィ?」そう先ほどの後部の命中弾でカジが効かなくなったのである。
そして聞こえたのはやはり幾度となく聞いてきた破壊音である。その時俺は恐怖の映像を見ることとなった。あの艦橋の上にある15m測距儀が真っ二つに裂けて甲板に落下してきたのである。絶叫が聞こえた。
━━━━そしてあの瞬間はやってきた。
皆さんいいお年を(^O^)。
次回「沈みゆく戦友」壮絶なる最後に乞うご期待!