武蔵、皇国に伝えよ=鋼篇=
最近寒くなりましたね。この前久しぶり風邪をひきました。みなさんもお気を付けて。
「距離2万9000m」
「目標1番艦距離2万5000mで射撃開始」リー中将の命令が下った。この重巡洋艦 ボルチモアの最大射程は2万8000mだ。
近くに幾本もの白い水柱がたち昇り、敵の砲弾がある程度正確であることを伝えて来たが、それでも本艦は捉えられていない事を示していた。
「1番副砲砲撃開始、続いて左舷高角砲撃ち方始め」左舷より敵の第4波攻撃隊は来た。今回は戦艦を狙っい来ている。証拠として巡洋艦や駆逐艦には目もくれない。
「左舷全機銃対空戦闘用意、全機銃座仰角40度方角0度」珍しく機銃座に統一した照準命令が出た。主砲を見るが動く気配なは無いから大丈夫そうだ。ほとんの機銃座がシールドに包まれているが、今主砲を打てば俺達が危ない。雷撃機は戦艦群にまとわりつくように飛び回っていた。5機くらいで1編成となりそれが8隊で動き武蔵にも1隊がかかってきていた。その雷撃機が今横目で見れば見るほど大きくなってくるのが見える。それも凄まじいいスピードだ。弾丸を運ぶ最中甲板が壊れたりしているのがよくわかる。この弾丸を運ぶ道具を押すたびガタンガタンと大きく揺れるからである。
「噴進砲撃てぇ」オレンジ色の鉄壁が敵機の進行を阻むが距離部族だったためか戦果はない。戦闘機もいるらしく雷撃機だけでもうるさいのに余計うるさく感じる。上官だけでも十分うるさいというのにも関わらずにだ。魚雷が胴体から離れたときに丁度「左舷全機銃座射てぇぇ」という声と共にすべての機銃座からオレンジ色の光を帯びた線が上へと伸びた。距離は1200だった。秒速900mの速度で打ち出される弾丸はこの距離ならおよそ1,3秒で命中する計算となる。はじめから待ち構えていたためだろうか、3機が火を吐くのが見えた。その時になってようやく気づいたのだが武蔵は前進をやめて左へと動き始めていた。
「1番、2番魚雷回避できますとの声が聞こえた」しかし放たれた魚雷は6本だ。
「続いて3番と6番魚雷もそれます」慌てて後の海面を見るが後方よくわからない。かといって手すりまで見に行く場合でもない。
「4番魚雷接近ッ、総員つかまれぇ」という魚雷が命中するという警告とともに俺は何かつかまるものを捜したが無かったので本能的に伏せた。
魚雷命中の水柱が武蔵の右舷中央部で確認された。恐怖で身震いしていた自分の体は武蔵の船体が傾くのを探知していた。
戦艦武蔵の防御区域は完全なまでに防御されていたがバルジに直撃して隔壁を突き破り浸水は広がり始めていた。隔壁が何重にも貼られているが魚雷が何本もあたって耐えれるものでない。巡洋艦などでは2本で沈没、大破が相場であるから戦艦でも5本が限界と言えるだろう。
武蔵を雷撃した航空隊はハエのごとく素早く空へと消えるように飛んでいった。
少しして武蔵は再び角度を取り戻した。実際1度ほど傾いていたが砲撃や船内移動など支障はなく戦闘継続は可能であったが速力はますます純鈍となり速力は漁船より1,5倍早い程度の14ノットに低下ていた。
一方日向は伊勢の沈没と武蔵の惨状を目に宿しながら軽巡洋艦メンフィスに砲撃を行った。空は海のごとく清々しい碧色から、灰色になりつつあった。どうもこのところ天候が不安定であるが、それを晴らさんとばかりに日向は主砲を撃ち込んだ。
メンフィスの手前数メートル前に4本水柱が立ち昇った。艦橋の高さを超えるような水柱に度肝を抜かれたかの如く艦長は動揺を隠しきれずにいた。
他の戦艦部隊も航空隊が一時的ながらさったため若干興奮しつつ眼前の敵を倒すことに神経を集中させていた。
いよいよ両艦隊の距離が2万5000mを超えた頃メンフィスに日向の主砲が命中した。細い船体に2本の火柱が立ち昇るや否やその炎はまたたくまに広がり、さらに1発が舷側装甲に直撃すると一瞬遅れて轟音が鳴り響き大傾斜を引き起こした。さらにほかの戦艦の砲弾も集中し原型をとどめないまで破壊され尽くし転覆し海面から姿を消していった。
「くっ・・所詮巡洋艦か」リー中将は沈んだ戦艦が3隻手元に戻ってさえくれば例のモンスター戦艦も沈めれるしほかの艦艇も痛手を追っているため全滅させるまではできないでも、戦闘不能にさせることなどは十分可能なのだがと頭の中で嘆いた。
━━━━しかしまだ終わったわけではない。リー中将は攻撃を続行した。
戦艦霧島、軽巡洋艦能代、駆逐艦四隻を引き連れて岩渕三次艦長は艦隊を離れた。速力30ノットで移動できるこの艦隊はマッカーサー輸送船団を追撃するために特別編成されたものである。
水をかき分け岩渕艦隊は驀進した。それをリー中将は見逃さなかった。
「ボストン砲撃だ!」距離は少しとっているようだが2万mも離れていない。最大射程距離には充分捉えられる。この距離は命中率は低いだろうが命中弾が望めないわけでない。
20センチ砲9門が咆吼した。岩渕艦隊の周辺に砲弾の着弾による白い水柱が立ち上るが火柱ではない。つまりは命中弾ではないのだ。
霧島が反撃する。巡洋戦艦と重巡洋艦の砲撃の差は大きい。しかしこちらも命中弾を得ることはできなかった。
それと比べ長門は絶好調な戦闘を行っていた。世界初の16インチ砲はこの時ボルチモアに2発の命中弾を繰り出していたが、こちらも1発受けていた。しかしながらこの時の距離は一八〇〇〇mで重巡の八インチ砲では致命的な損害を負わせることなどゼロに等しい。そらに比べて戦艦の砲撃で重巡洋艦に与える損害は桁違いである。事実既にボルチモアには反撃する余力はなく、それどころか烈火の炎を吹き上げながら艦首の沈下を止めることができずにいた。
ほぼ一方的な戦いのように思われたが、ここで米軍の駆逐艦隊が突入してきた。また攻撃隊も襲来してきた。
戦艦大和は敵が我が艦隊に対して時間稼ぎの力しか持たぬと判断し砲撃を停止し三式弾での砲撃を命令した。
駆逐艦ヒアリーが雷撃しようと突撃を開始した。そして軽巡洋艦ローリーが先頭を行く。これに続いてプレブル、シカード、プルーイット、ノアが続いた。
「機数およそ60機、距離1万2000m」
「主砲3式弾撃ち方始め」雷撃機20機、戦闘爆撃機・爆撃機30機、戦闘機10機の編成隊に炎の弾が猛獣さえも脅かさせる雷鳴のような音を発しながら砲身から発砲され向かっていった。
散開が遅れたためか7機がバラッと錐揉み状態となり落下し水面に叩きつけられた。大和はもとより3式弾による戦果などもはや期待していなかったが予想よりは多かったが50機以上もまだいる。大和をはじめとし武蔵・日向は対空戦闘を可能な限り稼働させた。
戦艦比叡は迫りくる敵機はもちろん脅威だったがそれと同様に駆逐艦が恐ろしかった。
既に敵との距離は2万mをきる。日本軍側の魚雷なら発射していてもおかしくない距離である。とにかく魚雷発射管が10門もある先頭の巡洋艦ローリーを沈めるのがベストだ。
「全主砲塔撃ち方始め」比叡の14インチ砲の砲声が海にこだまする。
「レーダー射撃ではダメだな。光学観測の射撃に切り替えろ」霧島を主体とする岩渕艦隊は28ノット以上の速力で航行しているため艦首が上下に大きく揺れる。レーダー射撃とは上下に動く相手にはあまり効果がないのだ。そのための射撃方法の切り替えであった。
重巡ボルトモアが長門の集中射撃を受け原型を失いながら沈没した頃だった「命中だ!」大和を爆撃したパイロットが狂喜した。轟音と共に破片が飛び散り空気が痺れる。しかし命中ではなく残念ながら至近弾である。悪くはないのだが命中ではない。大和の丈夫な船体はこの攻撃をものともせずに耐えた。
馬鹿のようにわめく蝉みたいに航空機の爆音が耳に突き刺さる。鋼の匂いと海の塩水や火薬の匂いが混ざり鼻をツンとつく。迫りくる敵機の青いコントラストが網膜に焼き付けられる。これが今の日本兵のみが感じれる海の戦場だった。
比叡が迫りくる軽巡ローリーに命中弾を与えたのは距離が1万7000mにまで迫ってからのことだった。決死の覚悟で来た軽巡洋艦だがこの距離で主砲弾など受けては全てが水の泡である。だが容赦なく4発もの砲弾が船体に吸い込まれた比叡の砲弾は薄い軽巡洋艦の船体装甲をブスブスと障子に釘を刺すかのごとく撃ち破った。瞬時に空が焦げんばかりの炎が艦橋の高さを超え立ち上った。すると、急に速度がガタリと落ちた。甲板では火災が発生し魚雷が誘爆し中規模な爆発が連鎖的に4回ほど起きて沈下しだした。その後ろから駆逐艦が迂回しながら向かってきた。四一式15.2cm単装砲もこの距離になると砲撃を始めた。
「砲弾を1発も無駄にするなぁ。よく狙え」降りかかる火の粉を振り払わなくてはいつかは大きな火災となり、その大きな火災はひとつの災厄となりその災厄が終わるまで止まらない。それと同じように駆逐艦という比較的貧弱な戦力でもそれは戦艦をも破壊するものに変わりかねない。
爆撃隊と雷撃隊がその時比叡に接近した12.7cm連装砲4基と25mm連装10基と貧弱な対空砲火が対応する。その際放った副砲弾が駆逐艦プレブルに命中し前方の砲塔が紙細工のように形を奪われて吹き飛んだ。それから回避行動を始めたのだから間に合わなない。しかし運か技量か知らないが航空魚雷はすべて回避できた。だが爆撃はそうはいかなかった。
ドーン、ドーンと海中に落下する音が聞こえた。一瞬遅れて爆発が起き海水が吹き上がり甲板を洗った。米軍の爆撃隊が未熟でも迫って来た爆撃隊は8機である。
━━━━甲板で寝ているものがいれば空の散歩が少なからずできたであろう。爆弾が遂に比叡に命中した。
「被害を知らせよ」艦長がさして慌てる様子もなく冷静に命令を下すとすぐさま「4番主砲塔傍に命中。火災が発生、さらに機関室に損害が出たもよう」この数分後缶1基損壊、機関室にて死亡者の報告が入った。
しかしながら達者な消火作業が行われ火災の跡がくっきり残ったが鎮火に成功し、速力も低下したが23ノットもの速度が出せた。
「敵水雷戦隊雷撃可能な距離まで接近」比叡では駆逐艦に再び注目が向けられた。それに重巡を沈没させることに成功した長門が加わった。
そしてもう1隻のボストンは霧島の砲弾を右舷中央部に受けるも不発であったため健在であった。しかしながら戦況は一向に良くならない。確かに戦艦郡に巡洋艦と駆逐艦で挑めば負けよう。だが航空機がついている。それにより海の主役というものは変わった。だがどうだろう戦況は変わらない。数が少数だからだろうか。数が少数なのは航空機は水上艦勤務より体力疲労が多い。かといって水上艦も披露しないわけでないが精神的にも航空機は分が悪い。そのため攻撃隊は30機〜60機なのである。そして重巡ボストンは駆逐艦2隻を連れ比叡に向かっていった水雷戦隊と10キロも離れているのを自覚した。
迫り来る駆逐艦は今や数を2隻にまで減らすこととなった。単陣であるため側面の敵には攻撃しやすく統率が取りやすい。だが正面の敵には攻撃力が半減してしまう。おまけにむこうは体制によっては全主砲を使えるのである。さらにそこに少し静かだった武蔵が砲撃しだして1隻を蒸発させるかのように2発命中させ轟沈させた。残る1隻は魚雷を捨てるように発射した。だがこの駆逐艦発射管が2つしかない。むなしく避けられた。
気がつけば重巡ボストン以外駆逐艦しかいない。おまけにその駆逐艦も半減している。
リー中将はここまでと思ったらしく撤退を開始した。南東に舵を取った。なるほどパラオ方面に向かえば新たなる航空支援をえれるだろう。
一五三〇
大和を始めとする主力艦隊は岩渕艦隊の戦果を期待しつつ、海上給油を行なった。大型艦も残りそこまで多くないが駆逐艦は燃料タンク自体が少ないため仕方ない。
空に警戒したが雲ひとつもない青空となっていた。
━━━━しかし俺たちの戦闘は完全に終わったわけではなかった。