ラゴノイ湾へ進め
遅れたのみならず最終回ではありません。毎回読んでくださっている方には申し訳ないです。
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ラゴノイ湾へ進む日本艦隊にスプルーアンスの機動部隊が襲いかかる。
一〇五〇 「撤退、撤退だぁ、早くしろ殺されたいのか!?」ルソン島では米軍の撤退作戦が行われていた。いまや米艦隊には戦艦はなくほかの艦艇もかなり消耗していて空母以外は、戦力単位としてさえ扱えないほどまでに低下していた。輸送船内に兵士がどんどん詰められる。
「重砲だろうがなんだろうが置いてけ、遅れたやつらは全員ケツに銃弾撃ちまれるぞ」兵士は上陸用舟艇に乗り込み陸から退き、輸送船へ乗り込まされる。
日本主力艦隊がこちらに接近しているのはいまや紛れもない現実であった。米輸送船団はラゴノイ湾に停泊していた。そこは西部にパックリと口を開けている。アメリカが恐れているのは奴らが取り囲んでしまわないかということだ。取り囲まれれば戦闘艦艇は愚か輸送船は沈められ仮に陸地へとたどり着いてもフィリピンの日本兵に捕まるか殺されかの2択だ。
「あのジャップのパイロットとは今は戦えないのか・・・」アメリカ軍エースパイロットアレキサンダーはシュダーナーを落されたことを恨んでいた。そして再びシュダーナーを落とした日本パイロットと一戦を交えたいという気持ちがあふれていた。しかし、任務は任務である。無いものねだりをしても無理なものは無理なのだ。彼の今の任務はマッカーサー輸送船団援護である。彼と同じくスプルーアンスの機動部隊は小沢艦隊攻撃で多量のパイロットが出撃したというのに彼らには満足とまではいえないが、それなりに休息・睡眠時間は与えられていたことと、アドレナリンが過剰分泌されているためだろう疲れをほとんど感じていなかった。
一一〇〇 「伊勢は大丈夫なんだろうな」西村艦長は先ほどの海戦で損傷した伊勢の心配をしていた。長門型戦艦より古い戦艦であるため、金剛の二の舞いということに成り兼ねない。
速力は燃料のことを気にして16ノットの巡航速度で航行している。駆逐艦は既に燃料が4分の1ほどに低下しておりこれ以上は追尾できない。だが、敵の戦力はいまや激減した。空母も多数撃沈し(小沢艦隊の誤認により戦果は誇大されている)水上艦艇もほとんどいない。あるのは的にしかならない輸送船である。
みんな足がむくんでいる。竹浜も健太も俺も足のむくれ組の1員だ。敵機が来るたび甲板を走り回らねばならないため、その都度敵が機関銃を「カラカラ・・・」と軽やかな音を出して弾丸を射出するまではいいがこちらの甲板なり構造物にあたるとものすごい音がして体が反応して変な体制になったりして体が痛む。おまけに銃弾がかすった時に作られた頭の傷はたまにキリキリと痛み出す。それでなくともジーンとした軽い痛みが続いている。
ウィリス・A・リー中将はスプルーアンスの艦隊から切り離されて自分の管轄下に移った4隻の空母である「イントレピッド」「ボノム・リシャール」「ボクサー」「ベニントン」から慌てて攻撃隊を編成していたが、フィリピンの航空隊により400近い航空機は既に半数以下の180機ほでまでにまで減少していた。戦闘機はこのうち78機で爆撃機は60機あったが雷撃機は37機しかなかった。ついでに言うと偵察機が5機ある。
「これでは日本艦隊を撃滅するのは不可能か・・・」リーは考える。対空砲火で消耗したりよけられたりして魚雷の命中率を5%〜10%とすると命中するのは2発から4発しか当たらない。これではよくて戦艦1隻撃沈できる程度である。もちろん1隻程度といってもアメリカでさえ1隻に3ヶ月もかかるのだから、沈めれたのなら日本にとって痛手であるということに変わりはない。だがそれは敵が戦艦1隻や2隻の場合である。損傷している船もあるが7隻もの戦艦が近づいている。このうち大きな損傷を負っているのが2隻(武蔵、伊勢)だが他は爆弾等で副砲が使えなくなったり、構造物が小破しているといつた具合である。仮にこれで2隻が撃沈できたとする。爆撃隊はどうだろうか。米軍爆撃隊は命中率がすこぶる高く50%はある、これで30発は当てれる。跳弾爆弾を使えば魚雷と同等の破壊力になりえるのだが、通常爆弾か徹甲爆弾しかリー中将の手持ちの空母にはなかった。爆弾の命中率50%は実は跳弾爆弾を使用しているなら名の話で通常爆弾はではよくて20%くらいである。つまりこの場合は12発命中といったところである。戦艦の戦闘力を奪うのはこれだけでは不可能だ。だが3隻くらいに目標をしぼればいけるかもしれない。リー中将はそう考えた。
いざとなればスプルーアンス機動部隊が残っているのだから大丈夫。少なくとも輸送船をこの湾から脱出させるのが自分の任務だと自分に言い聞かせると早速準備にとりかかった。
一一三〇
「敵機襲来、三時の方向より向かってきます」最初に情報を得たのは大和であった。この攻撃隊はスプルーアンスの第1波計102機〈F6Fヘルキャット37機、SB2Cヘルダイバー38機、F4Uコルセア2機、TBFアヴェンジャー25機〉が襲いかかってきた。SB2CとF4Uは書類に明記されていないがF4Uは護衛空母に搭載されていたため記されておらず、SB2CヘルダイバーはSBDドーントレスの全体数の20分の1の18機しか用意されていなかったためらしい。
「対空戦闘用意!機銃高角砲撃ち方用意」シールドがついていない・故障している機銃座を除きすべての機銃座に兵員が付いた。シールドが付いていない機銃座は大口径砲発射時の退避に時間がかかるという理由である。幸いほとんどの機銃座にシールドは取り付けられている。というより取り付けられているからこのような命令が出たのだろう。
「距離1万200、主砲3式弾撃ち方始め」1基で駆逐艦と同等の重量がある主砲がみかけによらずスムーズに動き出した。そして発砲した。ほかの戦艦も見習って3式弾を撃ち込んだ。数百メートル四方に焼夷弾がばらまかれ空気中の酸素が焼き尽くされ天が焦げる。そして破片や小型榴弾が迫り来る編成体に直撃する。有眼信管は正常に作動している模様である。全戦艦で2発ほど作動しなかったものがあるが、20発は編成隊の真っ只中で爆発したことになる。それが証拠に多数の火の玉が落下して行く。しかし100機を超える編成体であるだけに、依然として60機が残っていた。
「ジャップの戦艦の主砲が動いたら散開しろというのは本当だな。何なんだあれは?」小沢艦隊の攻撃に当たっていたパイロットのほとんどがこのパイロットと似たような事を思ったのではないだろうか。スプルーアンスの機動部隊では戦艦部隊を攻撃したパイロットが多数おりそのように言っていたのを聞いたパイロットが主砲の攻撃を避けれた訳である。
「チッ、翼に穴が空いちまったぜ」1発や2発受けても落ないどころか飛行にさほど問題がない米軍機の防弾はさすがといえるだろう。零戦43型は一応防弾しているが2発受ければ大破する。
弾丸はもはやメインの倉庫にしか残っていない。
我先にと突っ込んでくる戦闘機が機銃掃射を仕掛けてくる。1機の時は「カラカラ」と割と軽快な音が聞こえるがこう何十機もくるとただの轟音である。
「対空戦闘始め!」こちらは米軍戦闘機の機銃発射音をはるかに凌ぐ音が出る機銃で対抗した。攻撃は戦艦に集中していた。特に大和、武蔵、伊勢の3隻はかなり好かれている模様である。だが残念なことにこの攻撃隊にすかれても傷が増えるだけで最悪撃沈されるという結果が待っている。
バリバリッと何かが避ける音が聞こえた。耳が半分麻痺しているがその音はやけに鮮明に聞こえた。みると機銃座のシールドが変形していた。機銃掃射を受けたのだ。少ししてそこをすれ違った。そこには肉片が焼け焦げた機銃にへばりつき火薬とは何か違う臭いを放って赤黒く染まっていた。
「左舷中央部から雷撃機6機接近」豆粒のような機体が迫り来ることをつげるように視界内に大きく広がる。機銃は熱を発しながらも必死に唸り、機銃員も必死に射ている。25ミリもの機銃となるととんでもない音だ。1秒に数発が放たれる。幾十もの火線が引かれるも雷撃機には当たらない。やっとこそ距離1500mで命中し1機がクルクル回りながら海中に姿を消した。
「噴進砲撃てぇ」大量の煙とともにオレンジ色の壁が目の前に広がる。またも1機撃墜を確認できたが、残る4機の雷撃機は魚雷を投下した。すると海中には青白い航跡が現れ進んでくる。
船の進路は回避行動中なので真っ直ぐ進むわけでは無い。魚雷はそのまま直進するわけであるが、3本の魚雷は避けれたが1発の魚雷は接近してくるとそのまま武蔵に直進してきた。鈍い音だったがそれ以上に船が揺さぶられたのが凄まじかった。
「左舷中央部被雷!直ちに被害を知らせよ」艦橋の計器では船が左に4度傾いたのが確認された。速力22ノットとなり次第に武蔵は落伍しだした。
その後は戦闘機の機銃弾を何百発と打ち込まれた。爆弾が水柱を前後左右に作り出すが米軍が落とす500キロ爆弾は巡洋艦矢矧に命中し火柱を上げた。デッキに直撃し零式偵察機が紙細工のように2つに割れて吹き飛ばされた。デッキの下には魚雷発射管があった。魚雷は装填されていなかったっため魚雷に引火して爆発を起こすという事はなかった。
しかし船体中央部に500キロ爆弾を受けて無事でいられる巡洋艦などない。おまけに1万トン超の重巡洋艦ならまだいいが、7000トン程度の軽巡洋艦である。矢矧は速力がたちまち低下した。この時魚雷発射巻に配置されたものは火傷を負った。死人も出たが上層のデッキが爆発エネルギーを和らげてくれたため四人より負傷者の方が多かった。
今回の攻撃でほかに長門型戦艦がまたも爆撃手に狙われ至近弾を浴びて右舷前部の装甲が1部損壊しこちらも速力低下。大和は被害を受けなかったが、身代わりのように駆逐艦春月に命中し船体が切断され沈没していった。辺りには船の破片と重油の膜が広がっていた。
一二〇〇
「よし退避するぞ」多少所属軍にバラつきがあるが時間がないということで大急ぎでこの時間マッカーサーの輸送船団は退避という言葉を使いマリアナ諸島に向かい撤退を始めた。兵士たちはようやく地獄から解放されたような気分になった。
が、後方より音がし輸送船が突如として火柱を吹き上げ、輸送物資格納庫に大穴があいて火災を引き起こした。
「何だってんだ?」兵士が叫んだ。
島の日本平が追い打ちの攻撃を始めたのである。
「日本兵めまだ生きていたのか、巡洋艦援護を要請する」慌てながら状況を理解したリー中将は巡洋艦に砲撃命令を出した。
その時だった静まり返っていたフィリピン島から再び日本機が現れた。機数は40機ほどであった。
その編成隊を睨みつけながらマッカーサーはただただ被害が出ないことを祈るのだった。
一二二〇
スプルーアンス機動部隊の第2波が接近してきた。第2波は75機の編成隊で<F6F戦闘機25機、F4U戦闘機10機、TBF雷撃機25機、SB2C爆撃機5機、SBD爆撃機10機>が迫りかかってきた。
「主砲3式弾砲撃はじめ」敵機の動向を見ると散開していた。バラバラになって被害を最小限にしようという戦略である。
しかし今回は巡洋艦も咆吼した。戦艦クラスからしてみればおもちゃのようであるがこれでも十分な戦闘力と成りうる。
後は第1波と同じような戦闘になるかと思ったがフィリピンの方よりは音が聞こえてきた。
「援軍だ!」そこに現れたのは40機の零戦隊だった。日の丸が翼に描かれた機体であった。
過激な戦闘が繰り広げられた。零戦隊は20ミリ弾をパパッと単発的に撃つ。それに比べ装弾数が多い米軍機は機銃を撃ちっ放しにしているように長い火線を銃口から発している。バックミラーと涙滴型風防の特性で敵機の場所を掴む。これによりF4Uは爆弾を捨てて戦闘に参加しF6Fも奮闘している。これにより雷撃機や爆撃機はその下をくぐり抜ける。数機の零戦はこれおを逃しまいと追い撃墜する。
今回攻撃隊は大和と霧島に集中した。俺たち武蔵は再び3式弾を上空にはなった。敵機がバラバラッと海中に向かいながら四散する。もっと低空にすればより多くの戦果が望めるのだろうが下手すれば味方の船の艦橋を破壊することに成りかねない。
既に敵の雷撃隊の数も減少している。爆撃隊がこの時こちらに向かってきたが高度が妙に低いがそれはこちらが慌てて高角砲や機銃にも当たらず、見事というのもなんだが500キロ爆弾を1発命中させた。前部上部甲板から衝撃と熱風を帯びたものが吹き込んできて反射的にその場にしゃがみこんだ。熱した綿を顔に押し付けられたような感覚であった。
「火災発生!第2班ただちに消化に当たれ」ドタバタと甲板場を駆け巡る音がして俺は立ち上がった。熱風で異常をきたしていないか顔を触ってみた。
目、鼻、口、眉毛、髪があるのでとりあえず安心した。少しして戦闘は終了した。被害は武蔵が火災を起こし霧島の第2艦橋が完全に損壊し副艦長以下100名が死傷したとのことである。黒煙は後方に流れるそのため俺たちの服はもともと度重なる戦闘で薄く汚れていたが真っ黒になってしまった。甲板に伏せて移動していなかったら一酸化中毒で死亡していたかもしれない。
一二四五 ラゴノイ湾にそろそろ接する頃になり始めていた。先ほどの航空隊はバンクを振り帰投していった。
「クレイジーめバカ・コリジョンか」マッカーサー輸送船団はタフィー隊の護衛空母1隻が沈没し、正規空母「ベニントン」のエレベーターと中部甲板が損傷し、輸送船2隻沈没し7隻が大破していた。さらに陸上を攻撃したサンベルナルジノ海戦の生き残りの艦であるオハマは接近しすぎたため砲弾を受けてマストが倒壊し、鈍い音を立てて煙突までも損壊した。魚雷艇は戦闘機6機から機銃掃射を受け5隻が撃沈された。バカ・コリジョンというのは機体もろとも船に突っ込んでくる日本機を指す。
一二五五
「これよりマッカーサー輸送船団とともにマリアナ諸島に向かい航行する」スプルーアンス機動部隊は撤退を決定した。と、同時に第3波攻撃隊を発信させた。
次回「武蔵、皇国に伝えよ」予定。