小沢艦隊最後の戦い
一〇二〇
3次攻撃隊の到来は小沢艦隊にとっては予知していたことで一々恐怖して顔をひきつる者もいなくなったかのように空母や駆逐艦の甲板上では人が機械的に動いていた。
今回は前回被弾していない生き残りの空母より零戦の護衛機が舞い上がっている。数は35機とそこそこの数しかないが仕方ない。
確かに第3次攻撃隊だけならよかったがA-24、C-47、P-61などの混合編隊100機までもがこの時味方の航空隊の士気を鼓舞するかのように爆音をなびかせて接近してきた。
この敵機動部隊の攻撃によってまっさきに狙われたのは以外に2等駆逐艦だった。なにしろ陸軍も来たし・・・といって弱気な奴が狙ったのが駆逐艦だった。この駆逐艦は若竹型駆逐艦である。この駆逐艦条約前に 設計されているので航空機に対する配慮などほとんどされてない。というより皆無にひとしい。なにしろ機銃が6,5ミリ単装2基だけである。これに配慮し1942年以降この駆逐艦には25ミリ連装機銃が6基12門増設されていた。
敵機動部隊の総数は60機でこのうち攻撃隊は40機で戦闘機に撃墜・足止めを受けている機体もあり20機程度がこの駆逐艦隊を狙いだした。
相次いで爆弾が投下される中,2等駆逐艦は速力34ノットの速力で回避している。元々速力35,5ノットだったが老朽化と増設によって低下してしまったようである。
この動きを見切った攻撃隊は狙いをきめて急降下爆撃を行う。空に点々と咲く黒い煙の花を気にせず駆逐艦にほぼ垂直に向かう。対空機銃の銃弾が翼をかすめるようにして虚しく後ろに飛 んでいく。
「800・・・600・・・400、350フィート!」爆撃機は爆弾を投下した。機体はとたんにぐっと軽くなり操縦桿の動きに従って機体は効果より水平飛行へと移り降下フラップが翼内に収納される。
後ろで恐ろしい断末魔の爆発音が鳴り響いた。明らかに何かの物体を破壊したような音である。
「少女を爆撃するとはえげつない」船は女に例えられる。そのため駆逐艦であれば少女だとこの男は言った。
「猿が乗っているんだから仕方がない」と言い上機嫌そうに鼻を鳴らしクルリとその駆逐艦の上空を旋回し飛び立っていった。
命中したのは駆逐艦早苗である。紙のような装甲で爆弾を防ぎきれるほどの良質な合成版は使っていない。それで防げたら敵が爆弾の中に間違えてコンクリー トを入れたと考えても・・・いやそれでも無理である。
薄い装甲を打ち破り250キロ爆弾は爆発した。艦首が後方で衝撃を受けたという反応をするかのように持ち上がった。浸水と火災が船を襲った。これが巡洋艦であれば普通に対処ができるであろう。だがこの駆逐艦では難しかった。それでも兵士は諦めずに消火作業を行った。爆弾は甲板に命中したため浸水はさほど激しく起こらなかった。だが機関室及び後方配置の兵士は全滅した。
若竹も同じ同艦型でありこの駆逐艦は至近弾を浴び構造物が破壊され小破した。呉竹は雷撃隊に四方八方から攻撃を受けた。舵を操り魚雷を避けるが4本目の魚雷がついに命中した。鈍い音が聞こえると、なにか鉄を断続的にたたくような音がしながら艦尾を水没させた。巨大な破口からは大量の海水が入り込んだ。それでも呉竹は3ノットで航行していたがA-24の爆撃によって沈没させられた。
直衛の零戦部隊が奮闘し戦闘機部隊は寄り付けず、爆撃機なども相当数が撃墜されていた。翼などには弾丸によって穴があいていたが、燃料タンクの防弾化により耐えていた。またバックミラーで後ろの敵にも素早く反応できる。
さらに空母への攻撃を行ったが1隻の空母(瑞鳳、被害は機銃員3名負傷)に1発の至近弾を与えたという情報以外何も得れなかった。
陸軍攻撃部隊は海軍機と違い大型機であり大量の機銃を積んでいるため戦闘機もうかつに攻撃できない。Aー24は10挺、P-61は8挺で口径は12,7ミリか20ミリである。
「いるいるでっかい箱だ」陸軍は日本の空母をまるで珍しい玩具のように見ていた。至近で高角砲が爆発し機体が左右に揺れる。さらにP-51の3番機が撃墜、A-24の5番機が中破、9番機が撃墜させられた。
「こっちの海軍よりも腕がいいぜ」高角砲で味方機が墜落する様子を見て日本艦隊を褒めた。実際高角砲は米軍の方がYT信管のおかげで有利である。
「前方にジーク(零戦)2機、接近してきます」零戦43型2機が決死の覚悟で迎撃してくる。猛烈な数の機銃が放たれる。しかし零戦は下腹へダイブすると急上昇しながら射撃してきた。1分で3機を撃墜し1機が旋回機銃で自機を損傷させた。弾丸の使いが非常にうまくここぞという時にダダッと短く射撃してくるのだ。
「何なんだこいつら、仕事してさっさと逃げちまおうぜ」恐怖に駆られた米兵は機銃をずっと打ちっぱなしで逃げた。ただし2機だけでは10機を相手するので精一杯だった。残りの約80機は爆撃に向かった。零戦隊はその後5機を撃墜させそれぞれ自爆し、1機は落下傘で飛び降りたが1機は乗ったまま死亡した。後者のほうが良かったであろう。前者はその後海に下り沈まないように努力している際に敵機が目標に落とした大外れの爆弾にあたってしまったのである。
陸地を大雑把に爆撃している陸軍攻撃隊は案の定海軍よりは命中率が低い。きちんと狙うも回避行動を行うため見当違いの場所によく落ちた。
だが数はまだ70機程いた。このうちP-61は直衛として10機が付いていた。そのため実際は60機であった。だが速度が早くても軽快な零戦の動きを封殺できなかったことが先程露呈した。
陸軍機は千代田を狙った。千代田は雷撃を前日に受けており速力が低下していたのだ。そのため格好の的となった。1万数千トンの潜水空母改造航空母艦はなんとか避けようとしたが浸水で回避行動もままならず、3発の命中、6発の至近弾を浴び転覆した。その時一瞬目の前に雷が落ちたような閃光が走り大爆発を起こし沈没していった。
隼鷹は噴進砲と50挺の機銃、高角砲で迎撃し、3機をも撃墜し2機を損傷させ爆撃を諦めさせた。その結果爆撃チャンスを逃し慌てて爆弾を投下する機体が続出し命中弾は無く、至近弾2発で格納庫後端の扉が歪んだがそれ以上大した被害はなかった。
駆逐艦「芙蓉」と「朝顔」はなんとか攻撃を回避できた。
かくして小沢艦隊は数と比較してはそれなりに軽重な損害で済んだ。ただし迎撃した零戦30機中20機以上が甲板上に着陸しなかった。幸い搭乗員が三名救われた。
一〇四〇
伊405、406はマッカーサー輸送船とスプルーアンス機動部隊の中程を潜水航行していると。スクリュー音を聞いた。それは傷ついたランドルフとそれを護衛しながら航行する(曳航にも近いが)2隻の駆逐艦と出会った。駆逐艦は気づいてないらしい。
伊406は雷撃を開始した。この魚雷攻撃に前方にいた駆逐艦は慌てて回避した。伊405はこれを見抜いて雷撃した。6本の魚雷が打ち出された。1本は外れたが見事に6本中1本が前方の駆逐艦に命中。2本が曳航している駆逐艦、そして2本が空母ランドルフに命中し完全に息の根を止めた。かくして3隻の艦艇は少し前に概述したとおり暗い海へと沈没していったのである。
スプルーアンスはこの時小沢艦隊に止めをしたかったに違いない。既に小沢艦隊の航空兵力は0に近いはずである。
だが輸送船団が危機に陥っていると知るとそうもしていられない。小沢艦隊に余力がないと見るとスプルーアンスは直ちにマッカーサー護衛に映った。
リーの艦隊は他に正規空母を持っていたが水上艦がほぼ全滅したためマッカーサー輸送船団を退避させる必要性を感じていた。
日本艦隊は静かに近づいていった。
次回最終話予定。