サンベルナルジノ海峡最終戦
「雷跡です!」絶叫のような報告が聞こえた。見ると幾十の雷跡が見える。武蔵に迫ってくるのはわずかだが、恐怖ですべてがむかってくるように見え、俺は体が膠着してしまった。
「右舷に接近」声を聞くなり機銃座から空に放たれていた曳航線は海面へと向けられた。白い水柱がバババッと連続してできる。その中を雷跡はものすごい勢いで進んでくる。その時1回海面から爆発音が鳴り響き渡った。魚雷が爆発したのだ。
さらに武蔵は方向を変えかんいっぱつで魚雷の回避に成功した。ただしこの魚雷攻撃で大和に一発が被雷、巡洋艦羽黒も被雷し速力が低下したが、火災などはすぐに鎮火された。
しかし、魚雷はどこから・・・その時、巡洋艦阿武隈の羅針艦橋が突如吹き飛ばされそこから紅蓮の炎を吹き上げた。
「何事だ!」水平線の二万m向こうにはいつの間にか敵巡洋艦が姿を現していた。
「何をしている、七番機銃座敵機が見えぬのか!」指揮棒の先にはまっすぐこちらに直進してくるドーントレス爆撃機の姿があった。
〇九五〇
「ジャップの艦隊だ。陣形を崩すなよ雷撃と爆撃を同時に食らわすんだ」スプルーアンスの第2次攻撃隊が小沢艦隊の上空に到達した。
「ヤンキー野郎が。準備もできてないのに来るんじゃねーよ」整備兵が怯えた目で上空を見上げ、そして不満をぶちまけたが、残念なこと・・・いや、当然敵機は一機も落なかった。
「1度上げ、放てぇ」高角砲は盛んに敵機に向け砲弾を撃ち上げるが速度300キロで突っ込んでくる敵機に命中せず、時限信管は時間が設定された来ると既に敵機が突き抜けて空っぽの上空で爆発した。
「ジャップの空母には花火しか付いて無い。そら突っ込め」弾幕を張れない日本機動部隊を馬鹿にして冗談を飛ばした。第2次攻撃部隊は冗談は達者だったのに比例し技量もなかなかのものであった。
しかしながら機動部隊も皮肉なことに歴戦の腕で回避運動を開始した。駆逐艦も僅かばかり貢献をしようと対空射撃を行うが相手にさえされなかった。
「枯れ木も山のにぎあいだな・・・」駆逐艦の乗員は呆れたような顔をして使いどころが少々違うことわざをつぶやいた。しかし、内心敵を落とせないもどかしさにピリピリしていた。
空母飛龍が今回の標的に選抜されたかの如く多数の敵に襲われる。巨大な動物が多数のハエを取り払うように飛龍は海上を逃げ回り、米軍は豪快な爆音を立て追い回す。
そしてドーントレス6機が一気に右舷上空から降下し始めた。これを見ると雷撃隊も列を乱さない程度に速力を上げ飛龍の右舷に集合した。これを予知していたように高角砲が一斉にオレンジ色の閃光を眩かせた。時限信管をかなり短くしているため高角砲は距離1500mから2000mしか離れていない至近距離で一斉に爆発した。
この鉄の壁に阻まれ3機が立て続けに炎を吹き上げ、1機を離脱させた。だがそれを受けておいそれと逃げるような連中ではない。米攻撃隊は 爆弾をバラバラと甲板に落としていった。そして白い雷跡が真っ直ぐに飛竜に向かっていった。右舷側から扇状に広がった魚雷はどうあがいてもよけれなかった。爆弾は甲板に着弾すると、木工甲板を破壊し破片が四方八方に吹き飛び赤々とした炎を飛龍は吐き出した。そこに魚雷が追い討ちをかけて飛竜を煙で姿を眩ませてしまった。煙から出てきた飛龍は姿を変え右舷に大きく傾いているのがわかった。
それだけで米攻撃隊の爆雷撃は終わらなかった。次に狙われたのは龍驤だった。これにドーントレス
爆撃機が襲いかかった。4連装13ミリ機銃が24門と12.7cm高角砲 連装4基8門、25ミリ機銃が4門の壁に阻まれ1機が撃墜されたが、ドーントレスはそのまま爆撃を敢行した。
回避運動が遅れたためか艦橋に250キロ爆弾が命中した。これにより将兵は3分の1が死亡し火災が発生した。さらに2発の爆弾が至近弾となって舷側装甲にわずかながら歪みを発生させ漏水で200トンばかりが艦内に入り込んだ。幸い爆弾を持っていたのが残り8機だけだったため被害はこれだけでとどまった。
ドーントレス爆撃機は武蔵を目指してまっしぐらに直進してくる。が、あっけなく噴進砲により撃墜された。我が艦隊への敵の航空による攻撃はここで一時中断されたように見えた。巡洋艦の砲撃によって海面から水柱が何メートルと水柱が立ち上る。敵の巡洋艦の必死の抵抗といったところであろう。
しかし駆逐艦に毛が生えたようなギリギリ軍艦として認定されているような軽巡洋艦が戦艦を沈めるのは主砲という牙は効かず、魚雷という牙でしか太刀打ちができない。ちなみに概述したとおり駆逐艦は軍艦ではない。日本の艦艇で軍艦かどうかを見分けたいのなら簡単な方法がある。菊の紋章が艦首にあれば軍艦なのである。駆逐艦は軍艦にしか思えないという方は水雷艇に航続距離と主砲(上限5インチまでで、センチに換算すると12,7センチである)が乗せられたと考えればまあまあ納得がつくと思う。
魚雷攻撃は巡洋艦の羽黒には痛手となったものの戦艦に対しては若干の時間稼ぎにしかならなかったようだ。少しして主砲発射を知らせるブザーがなり甲板にいるものは甲板下へと逃げ込む。
しかし戦艦の主砲先には空母しか捉えていなかった。商船改造でも空母に変わりはないのだからここで撃沈して敵の航空兵力を減らさなくてはならない。比島と本土の航空兵力を除けば日本が対米英に使える航空兵力などほとんどないのだ。他には満州、中国、台湾に数百機があるのみだ。
護衛空母を援護すべく現れた軽巡洋艦はオハマ、メーブルヘッド、トレントン、リッチモンドであった。これにむかい戦艦大和と武蔵を除く全ての艦艇がこれに砲撃を加えた。
長門が一番槍としてトレンロンに命中弾を2発出させた。僅か距離2万mであるため紙のような装甲の軽巡洋艦では防げるはずがない。甲板の上層構造物の半分以上がことごとく姿を変形させ炎に包まれた。さらに一発は第1主砲の装甲を打ち破りそこで爆発した。榴弾ではあったが装甲が数十ミリしかないため撃ち破るのは簡単であった。第1主砲からは灼熱の炎が吹き現れ甲板上に躍り出た。
煙突が4本あるこの独特の巡洋艦は主砲で手に負えないように魚雷発射管が付けられているわけだが、それさえ火災のせいで誘爆の危険が浮上してしまっていた。火災を鎮火させようと努力するが再び長門の砲撃により1発命中弾を受けた。今度は煙突部に直撃して煙突は1本が空回りするようにして倒れた。砲弾はそのまま艦橋下に潜り込んで爆発した。1トンをゆうに超える砲弾が艦橋したで爆発するとその爆発エネルギーは艦内、艦橋、甲板を襲った。艦橋は根元から鉄骨が砕かれ後ろ向き倒れ、艦内は爆風で前部船体にいたものはほとんど死亡した。甲板にも巨大な爆風によりクレーンやカタパルトが故障してしまい、トレントンは戦闘艦として機能を喪失した。やがて誘爆を起こすと渦を自ら作り艦首から海に没していった。
他の3隻も所詮同じ薄い装甲しかもっておらず戦艦からしたら紙細工のようなものである。高速と魚雷の攻撃を生かしトレントンよりは善戦した。魚雷は命中しなかったが誘導させることに成功し魚雷を受け中破していた羽黒に3隻で主砲の集中砲火により撃沈させてしまった。この攻撃に再び勢いがついたのか魚雷艇が出てきた。魚雷艇のこのとっさの出現により護衛空母の攻撃をしていた大和と、武蔵も無視はできなくなった。さらに大和は副砲が1門損傷しているため至近の小型船舶に対しても主砲などを使用しなくてはならない。
一方日本の巡洋艦もただ的に撃たれ続けているだけではない。円を描くように陣を組み360度どの方向からでも最悪1隻が敵艦艇に対処できるようにしたのである。魚雷艇が接近すると案の定容赦なく主砲を放ち寄せ付けなかった。それどころか2隻を返り討ちにすることができた。
魚雷艇はどうにか速力を活かし敵を撃滅したかった。そこで固まってれば的になるだけなので多方向に散って1隻の船舶を攻撃する方法に切り替えた。そこで狙われたのが戦艦伊勢であった。伊勢はこの動きに気づきすぐさま反撃に映った。扶桑型戦艦の欠点を改善し、それから改装をかさねまともな戦闘ができるようになったのが日向と伊勢である。右舷から接近してくる敵に無我夢中で砲弾を飛ばした。1隻が砲弾をまともに受け海面から飛び上がるように動き数十秒と経たずに海の藻屑と化した。
だが、そのせいで伊勢の目標は右舷の敵に集中が行きつい左舷への敵への注意がそれてしまっていた。左舷からの敵来襲に気づいたのはその方面の魚雷艇が魚雷を発射する僅か30秒前であった。
伊勢は慌てて左舷の敵にも発砲した。しかし砲弾が敵を捉える前にその敵が魚雷を発射する方が早かった。4隻から扇型に魚雷が発射された。伊勢は回避運動をしたが2本の攻撃を交わしきれなかった。ズシンとした重い金属音のようなものが聞こえ、今度は雷鳴をおもわすような鋭い音が鳴った。それと同時に強い衝撃を受けた。
船体は当然傾いたが、それよりも深刻なことに左側の推進軸が1本曲がり片方は沈黙してしまったというのである。これによって伊勢は舵をうまく使わなくては円周運動を永遠にしてしまうことになる。現在機関室の人間や少々手のあいた水兵が来て沈黙している軸の点検をしているが正体は不明のままであった。実はスクリューが片方の折れた推進軸により回転を妨害されてしまっていたのである。そのため5分後には若干スクリューの損傷があったものの無事回転を始めた。最大速力は20ノットにまで減速した。
この伊勢を襲撃した魚雷艇は悲惨なことに同艦型日向と駆逐艦による集中砲火を受け4隻が残っていたが全て沈没させられた。
敵のオハマ級の3隻の巡洋艦は護衛空母とともに離脱を試みたが不可能だった。さらに大和が放った榴弾が護衛空母のネヘンタ・ベイが甲板装甲を破られ火災を生じている。
軽巡洋艦は護衛空母を逃す任務を思いだし再び日本艦隊に近づいた。だが武蔵と大和は目標を軽巡洋艦に変更し必殺の18インチ砲弾を発砲した。16インチ砲の発砲がまるでおもちゃのようにさえ見える衝撃と閃光を生み出しながら発砲された18インチ砲弾は2回目で命中弾を得た。高速で動いているとは言え距離が2万であるのがその原因であるといえた。メーブルヘッドに殺到した18インチ砲弾は1発でたやすく弦側装甲を撃ち抜いた。メーブヘッドは大破し、金剛の意思を受け継いだ霧島から命中弾をもらうと航行困難となり火災と浸水で次第に船の原型は損なわれ傾き遂に艦長は総員退艦を命令した。
リッチモンドは魚雷艇による攻撃を受ける前の日向により15.2cm単装速射の火薬庫に命中弾を得て沈没させている。唯一オハマが残った魚雷艇を従えてサンベルナルジノ海峡から脱出した。時間は既に10時20分を超えていた。伊勢はなんとか応急処置を施し1度の傾きで済み最大速力も2ノット増速した。こうして日本艦隊は狭い海峡での戦闘に勝利しサンベルナルジノ海峡を突破した。
その僅か300キロ向こうの日本機動部隊は10分後に第3時攻撃隊とパラオ島からの航空機による攻撃を受けることとなった。