孤独と絶望
西村艦隊の上空に零戦部隊が到達したとき西村艦隊に武蔵が敵の攻撃圏内より離脱したという報告が届き、西村中将以下の幕僚たちは武蔵と航空隊の戦果報告を聞き狂喜した。戦艦1隻撃沈に加え他2隻にも損傷、さらに駆逐艦1隻撃沈である。
それであって武蔵は損傷激しけれど、いまだ戦闘能力を保持している。自分の艦隊の損傷を差し引いても良い戦果ではある。西村中将は小沢機動部隊方向に1時退却を命じた。
途中でアメリカ機の追撃があったが零戦が航続距離を利用した自軍の艦隊の方へ引き込むような戦法をとったため十分な戦闘ができないままアメリカ機は引き下がるを得なかった。
具体的に言うと敵に攻撃をしつつ反撃を受けそうになれば逃げ、敵が帰投しようとすればまた攻撃をするという嫌がらせのようなものである。F6Fとて航続距離はそんなに短くないのだが、自軍空母から西村艦隊への距離は日本側の方が短く、アメリカは長いためアメリカは分が悪い。
「猪口中将、進路は?」
「このまま直進せよ」猪口中将が乗船している武蔵と2隻の駆逐艦はそのころ再び進路を東へととった。
「さっきの戦闘場所に進んでるんだろう。損傷だって激しいだろうに」竹浜がそう言うと、再び俺らのあいだで会話が始まる。
「艦長は死にに行く気じゃないのか?」健太が言う。
「まあ、みんな死ぬきだろうからな」その時俺は聞いていいのか分からないことを聞いてしまった。聞くべきではなかったかもしれない。
「お前らが死ぬのは、皇国の防波堤となる為だというのか?」
その次に聞こえたのは波の音だった。沈黙が3人を包んだ。わずか数秒だったのにもかかわらず、時間が経つのが永遠にないかのような感覚にとらわれた。
「あ、当たり前だろうが、お前もそうだろ」健太がそう答えると竹浜も同調してきた。俺も
「そうだよなー」と言ってその場の空気を変えた。
日付は変わった・・・。
漆黒の闇の中月や星の光を頼りに戦っていたが今や時代は変わった。薄暗いレーダー室で画面をじっと見ている兵士がいるが、この兵士たちがその船の目なのである。手探り乱戦では今の戦いを制することはできないという事である。゛先手必勝゛と゛攻撃は最大の防御なり゛を併合すればその優位性がよくわかる。
マッカーサーはキンケイドの艦隊が大損害を被ったことを知り怒りに満ち溢れた。しかし怒りの原因はキンケイドにではなく自分である。
キンケイドは自分たちの輸送船団を防衛すべく戦い、航空兵力を絶妙なタイミングで投入したのみならず、戦っていたジャップのフランク(化物)に対し反撃が難しいと見ると撤退し、被害を最小限に食い止めた。そしてここで陣形などを整えている。
しかしここで自分が動けば兵士たちを見捨てることとなる。ただでさえレイテ島の兵士は日本艦隊に攻撃されてしまってもおかしくない状況なのだ。
だがマッカーサーには高速魚雷艇、巡洋艦と護衛空母もあった。そして損傷を負ってはいるがキンケイドの戦艦はまだ2隻あるのだ。
負けてはいない、まだ優位のままだ。
武蔵はその時執拗につきまとう偵察機に怒りを感じていた。B-25である。先程から高角砲を6回、機銃弾90発を使用したのだが、全くやめる気配がない。これに加え、後押しするかのようにこれ以上は弾丸を使いたくない。
航空機1機も落とせぬのはいまいましいことこの上ない。
その時だったグラマンF4F及びF4Uの爆音が鳴り響き、怪鳥のごとく上空へと羽ばたいてきた。
F4FやF4Uが武蔵に襲い掛かる。
その時伊号潜水艦は?小沢機動部隊とスプルーアンスの機動部隊の戦いの行き先は?
フィリピン航空部隊は朝まで動けない・・・。
武蔵とマッカーサー艦隊を中心とし海戦はますます熾烈さを極めてきた。