比島日米戦Ⅲ
〇五三〇 ラッパが艦内に鳴り響いた。
死んだように黙りこくって横になってたやつらも打って変わって跳ね起きるように上体を起こした。俺達もハンモックから落ちるようにして扉の向こうへと殺到した。ラッパがせかすように艦内に響き渡った。
するとドン!とものすごい衝撃を受け俺達はドミノのごとく倒れた。
「痛てっ」悲痛の声を上げるおれの体は武蔵の船体がゆっくりと艦首方向に傾いたのがわかった。
「艦首被雷!!ただちに排水作業に移れ」叫びの声が伝声官を通じて聞こえてくる。
一体外で何が起きているのか、俺達はただ艦の動きに翻弄されるのだった。
単純にこれは潜水艦の攻撃だった。3本の魚雷が前方方面より接近してきた。迫りくる魚雷を交わすには20ノットほどの速度で航行する武蔵にはそれなりの時間が必要だが魚雷はノロノロ動くのでなく一直線に50キロ以上の速度で迫ってくる。
そして太い39メートルの幅をかすめるように2本の魚雷は後方へとそれていったが1本が艦首に突き刺さった。
勇猛にも雷撃した潜水艦だったが1000メートルと言う至近距離から雷撃をしたのだ。武蔵の前方には駆逐艦がいる。駆逐艦は爆雷を海中に投機した。7つ目の爆発で海中からオレンジ色の閃光が舞い上がった。ぶくぶくと白い泡が吹き出て重油にまみれた死体や残骸が海中から浮き上がってきた。
武蔵は艦首に沈下していて最大速力は22ノットにまで低下した。さらに排水作業を行うため8ノットに下げるしか方法が無かった。連合艦隊は潜水艦が多くいると思われるパラワン水道に8ノットで立ち往生している。パラワン水道はもはやアメリカ潜水艦の巣窟のような有様だった。
〇五三九 別の潜水艦から魚雷が発射されたらしくその魚雷は愛宕へと向かっていた。巡洋艦愛宕には栗田長官が乗っていた。理由は戦艦は狙われやすいため動きが軽快な巡洋艦のほうが都合がいいとのことだった。そしてこの有様である。
魚雷は左舷に3本外命中したちまち傾いた。缶室には海水が多量に流れ込み機関をとめてしまった。やがて愛宕は甲板を海面につけた。水兵はドタバタと海に飛び降りて船から可能な限り離れようとする。
栗田中将はこのときテング熱を生じていた。が、それを全く思わせないかのごとく海を泳いでいた。しばらくしてこれらの人員は各艦にそれぞれ乗せられた。
栗田中将は大和に移った。
しかしこちらには乗せられなかった。原因のひとつとしてなんと一度退却すると言い出したのだ。たしかに艦首は2m以上も沈下して主砲射撃方位盤も故障すると言う最悪なおまけつきである。貴重な戦力は割きたくないが仕方ない。駆逐艦1隻をつけてコロンへと向かっていった。
猪口艦長はこのときやはり撤退するのを渋っていたが、2度とくるななど言ってはいないのだ。修理次第来てもいいという意味である。
この際仕方ないと判断した武蔵は駆逐艦清霜を護衛につけてそのままコロンへと向かい他の艦隊は南下した。
軍令部は今回進行ルートについて南北から攻めて囮を作りそして水上部隊で突撃しようとしたらしいが、作戦は単純なほど良く複雑にすればするほど効能は上がるが歯車とでも言うべき存在が一つ狂えばあっという間に全てが狂う。
これを考えて単純明快にするようにされた。机上でこまを動かしていても実戦は安全確実を選んだほうが賢明と最近の流れではそうなっているらしい。
〇五五五 マッカーサーは満足そうに海面に広がる輸送船団を眺めていた。もうすぐ上陸である。そうなればあの時残した言葉が本当のものになる。
あのときの言葉とは
「アイ シャル リターン」(私は戻ってくる)である。
太平洋戦争初期フィリピンの占領を開始し始めた日本兵似たいしコレヒンドールの要塞に篭り抗戦したが、やがて本国に自分は戻った。
マッカーサーにとっては屈辱的なことこの上ない事実だ。しかし今では形成が逆である。さらに日本が攻めてきたときの何倍もの火力を我が軍は持っているのだ。
そう思いマッカーサーは思わず顔に微笑を浮かべるのであった。
しかしやはりくるであろう電文が来た。そう連合艦隊が来たと言う報告と先ほどのパラワン水道での戦闘報告である。マッカーサーはパイプを口にくわえ目を通した。
〇六〇〇 レイテ島に上陸前として
B―24 160機 B-25 214機 A-20 30機 P-38 100機
P-47 120機 P-61 32機 合計654機の機体が3波に分かれて襲来した。対空砲火が空に黒煙を描く。しかし鼻で笑うかのように悠々と爆撃をしている。何しろ60キロ爆弾から500キロ爆弾などが落とされいるのだ。まるで地層を一つ消し飛ばすかのようにレイテ島を爆撃しまわった。対空砲火は数分で沈黙し塹壕は至る所で寸断された。
「ところであの少しだけ来た機体に慣れている搭乗員はいるんだろうか?」
「さあな。一応飛行検査をしたんだから、飛ばせるのは間違えないな。話によると零戦とほぼ同じだとか」
「ソイツは本当かよ」ルソン島の海軍航空隊は口々に少しだけ来た航空機の話をしていた。
本土から30機のみ届いた新鋭機である。1900馬力エンジンに加えきれいなシルエットが特徴の戦闘機A7Mだ。それは後に烈風と命名されることになる。
「偵察の情報によればジャップは比律賓で戦闘を起こすつもりか」マッカーサーは偵察機の情報を受取りそういうふうにとった。
これは厄介なことである。日本軍は開戦時に予備を含めたら400万ほど持っていたはずだ。本土と満州で150万近く、南方に30万、そして今各地で戦線を張っている兵士と戦死者を差し引いて、呼び役を含めないでもフィリピンには40万はいるはず。
しかしマッカーサーは絶対的な自身があった。自分か搭乗している巡洋艦フェニックスの上空では200機の大編隊がレイテ島爆撃のため激しく入れ替わりをしていた。
遂に始まるレイテ島上陸作戦。
3500機以上の機体に日本艦隊やマニラ島の航空部隊は太刀打ちできるのか。
武蔵の戦場復帰は?太平洋戦争史上最大の戦いが今まさに始る。