高雄沈没と敵機来襲
いきなり巨大な水柱が立った。船体が太い武蔵はたいした衝撃を受けなかったが駆逐艦だったらどうなっていただろう。そんなことよりこれは砲撃だ。どこから?
「距離3万5000メートル 3時の方向に艦影!」距離3万5000まートルというと大体16インチ砲の最大射程能力に近い。
そのためだろう弾が1発しか飛んできていない。他の弾は…。遠くに着弾したようだ。散布界が広すぎる。武蔵はこの頃初回の800メートルから350メートルまでに縮小させることに成功していた。
なにはともあれだ。問題はそれではない。
「馬鹿な16インチ砲弾がこんな所まで飛んでくるものか」武蔵野長官猪口が唸った。
「しかし飛んできたのは事実です」参謀が言うと再び敵弾が飛んできた。こんどは結構離れている。
「ムム…このままではいずれ敵弾が命中してしまう」
「一回引き返しますか?」参謀が弱気なことを言った。すると
「馬鹿!敵に接近しろ!こんな距離あったらわが国の戦艦は沈まん」としかりつけると。
「進路3時の方向!距離3万メートルで砲撃開始だ」
「了解しました」
武蔵は艦首をグルリと回した。巨大な獣が石を投げつけてきた子供に襲い掛かるような形相だ。
武蔵は25ノットに速度を上げて向かっていった。再び敵の主砲が唸る。だが距離はまだ3万1000メートルだ当たるものではない。
「距離3万メートル!」報告が入ると猪口艦長は首を立てに振り。砲撃開始を命じようとしたとき…
「敵艦回頭!」なんと敵は一目散に逃げ出したのである。
「速力30ノットで逃げ出したということです」
「くっ!武蔵では追いつけんな。深追いはするな」
追撃しようとしたが取りやめられ「武蔵」「陸奥」「榛名」「高雄」「愛宕」 駆逐艦四隻は空しく戻ろうとしたとき。
「雷跡!2時の方向より無数に接近してきてます!!」それは絶叫といっても差し付けないだろうという悲痛な叫びによる報告だった。
俺は大慌てで機銃座に駆け上がる。見ると白い線が延び始めていたのだ!途端武蔵は身の危険を感じたかのごとく見事なターンを行った。それに負けじと白い線は伸びてきている。白い線はやがて右舷側の影により見えなくなった。あやられたと思ったがなんとか危機一髪で回避。武蔵は無事魚雷を回避した。
高雄がよけきれず右舷艦橋中央に2本命中。艦首に1本。さらには第2主砲前部に2本命中したのだった重巡洋艦のどしりとした船体が恐ろしいほど揺れ動いた。5本も魚雷を受けて戦艦より小型で防御力は自身の砲撃にも耐えれない装甲しか持たない船が耐えれるはずが無い。
船体がねじれるような音とともにマストが砲撃とは又違う水柱により隠される。格納庫にまで達したのだろうか。煙を早くも吐き出していた高雄は第2主砲を空高く舞い上げさせた。火柱が空高く伸びる。
破片が降り注ぐ。水兵が切り刻まれその傷口に海水がかかり乗員を苦しめた。高雄はもはや完全に浮力を喪失し数分後2度も大爆発を起こしまだ回っているモーターを水上にだして沈み3度目の爆発と共に破片に姿を変えた。火の玉がバッと吹き上がり海面に漂う乗員を焼き殺した。
さらに陸奥が被雷した。がこれは当たり所が良かったたのと水兵の見事な排水作業によりこれを防ぐことに成功した。数センチ程度の穴が開いたが鉄板で防ぐことが出来た。どうやら集中防御区域に命中して漏水に近い損害しかうけなかったらしい。
向かってきた魚雷は30本だったそうだ。周辺の駆逐艦が疑問を感じて周りを警戒し早期に発見できたためだ。
上空待機の零戦が20ミリ機銃を浴びせたり駆逐艦が爆雷を投下した。何隻射たかは不明だが1隻の撃沈を確認した。その場所には重油の膜が残った。
高雄の乗員は駆逐艦より救出された。
「潜水艦の待機場所に追い込まれたようだな。やりよるわい」猪口は自嘲気味の笑みを浮かべた。
「高雄の水兵がくるんだとさ」健太からの報告だ。
「割り当てはどこだろうな」俺は呆然と考えを語った。すると俺の肩に手を当ててきたのがいた。竹浜だ。
「高角砲だとよ」耳が早いことだ。
「しかし潜水艦となると主砲だろうとなんだろうとまるで役に立たないからな」
「もうこの際なるようになれよ」糞度胸というか呆れたように俺は呟いた。
零戦43型の交代だ。引き返していく。そして新しく零戦が上空警戒に当たる。その時上空にゴマ粒をばら撒いたような編成部隊が現れた。
「ほぉらおいでなすった」健太がそういうと弾薬庫へと向かう。それとほぼ同時に
「対空戦闘用意!距離5000敵機180」距離5000なんてのは飛行機にすればすぐだ。最大速度約620キロのグラマンF6Fであれば30秒ほどでくる。
高角砲や新兵器噴進砲が目標に狙いを定める。指揮装置の中の人もこれほどの相手に対空機銃の指揮をするのだから大変だ。
何がくるかと思えば翼が曲がっている機体だ。逆ガルで米軍機といったらあれでいいだろう。そうF4Uコルセアだ。零戦より性能が圧倒的に良いと思ってる人が多いが案外そうでもない。
初期型にいたっては零戦がエースパイロットが乗っていたこともあるのだがコルセアはバタバタと落とされたのだ。ヘルキャットより速度は速く加速性も優れていたが、運動性と上昇能力、防弾性能はヘルキャットに劣っていた。
実史では1:13の差で圧勝しているといわれているが日本機を50機を撃墜したという空戦では実際では15機しか撃墜できていなかったところから考えて1:13など信頼に置けない。戦果を誇張するのは日本軍の常用パターンなどという人もいるが米軍も空戦に至ってはこんなところだ。
さて雲の上で空戦が行われた。コルセアが143機来襲してきたらしい。内96機が爆弾装備である。上空から零戦が攻撃を行う。弾道性能が上昇した20mm機銃は400メートル先の敵にでも届いた。1発でコルセアの翼がもげる。また零戦が7,7ミリ機銃で射撃しながら水面まで追い詰めると機体を引き起こせず後方が水面とぶつかり2つに裂けて爆発した。
しかし零戦よりは確かに戦闘力は高い。ベテランパイロットは零戦を火達磨にする。
雲上で空戦が起こるばかりでこちらにはあまり来ない。2000メートルまで接近した敵機がいた。噴進砲や対空機銃が空を睨み唸る。
噴進砲はオレンジ色の鉄の壁を飛ばすようなものに見えた。2機が黒煙をはいた。
零戦は120機と数の上で不利だが熟練パイロットは30人を超える。さらに爆弾を積んでいるコルセアもある。爆弾を投下しなかったコルセアは若干未熟なパイロットでも落とせた。
爆弾装備したコルセアは既に50機が撃墜されている。コルセアにも未熟なパイロットはいる。そのため未熟な訓練しかつんでいない零戦が一方的に叩き落されることは無かった。おまけに零戦43型は防弾性能がコルセアには及ばないが上昇している。一応燃料タンクにもそれなりの防弾装備はしている。コルセアより100キロ以上速度が遅いが運動性能は零戦に分がある。さらに上昇力は零戦のほうが良い。
「さあ付いて来いよ!」エースパイロット栗丘がコルセアをバックミラーで確認しながらどんどん上昇する。コルセアがロケット弾を打つが栗丘が左フッバーを踏み機体をすべらせたため外れた。栗丘は差が開いたと見ると機体を反転させ20mm機銃を発射させた。騒音レベルの発射音が耳をつく。同時に10発の20ミリ弾がコルセアに直撃した。そのコルセアは粉々に吹き飛んだ。
高速で抜群の運動性能を発揮する零戦にコルセアのロケット弾は当たらなかった。さらにバックミラーで狙われているのが分かったら左フットバーでも蹴飛ばしてかわせといわれたのでそれを遵守したパイロットはなんとか交わすことができたのだ。
爆弾装備のコルセアがようやく襲い掛かってきた30機だ。上空から来る。狙いは巡洋艦と俺らか。
「敵機急降下!噴進砲吹っ飛ばせ!」オレンジ色の壁がコルセアを覆い隠す。数秒後にコルセアが海中に落下。
「取り舵40度」
「それ2番機銃弾幕薄い」2番機銃に弾が不足しているようなのであわてて走り渡す。
「自分の担当射撃空域だけ撃て!他のところを撃っても当たらんぞ」担当射撃空域というのを今回の開戦前に決めていた。これは他の空域に撃ってもまともに当たらないという理由で決めた区域だけ撃って方が指揮もしやすいし集中射撃が出来る。
愛宕も盛んに射撃を行う。駆逐艦も3式弾の主砲を吹っ飛ばす。空が燃える。コルセアが爆発する。爆弾を落とすが当たらなかった。
「面舵一杯」同時に敵機が突っ込んできた。高射砲が唸り破片が当たったらしくコルセアは砕け散った。
30分がたちコルセアの部隊は引き上げていった。武蔵は6機撃墜を宣言した。航空部隊は重複もあるだろうが90機撃墜破。日本機は43機撃墜。高度の優位を取っていなかったら大変なところだった。さらに7機が使用不可。
第1次攻撃を受けて損害は愛宕に250キロ爆弾が2発命中したとの事だった。機銃座が12門、高角砲が1基吹き飛ばされされ死傷者は300人を越えた。そのほか至近弾で機銃座が壊れるなどの損害が出ている。武蔵はコルセアのロケット弾が甲板に直撃した。駆逐艦秋月もロケット弾を受けマストが吹き飛ばされた。さらに爆風で13ミリ機銃が2門飛ばされた。
だが150機近く着たのにこの損害とは少ない。幸いなのは空母を狙われなかったことだ。
零戦はそもそも燃料タンクが弱かったわけである。つまり燃料タンクに何かしらの防弾措置をすれば帰還率は上昇する。さらに坂井三郎氏の本で冷戦の運動性能を引きだせば攻撃をひらりとかわせるのだ。もちろんそれだけでなく坂井氏は技術もすばらしかったわけだが。
つまり高速時でも高い運動能力が引き出せれば零戦はかなりの高性能機になりうるわけである。
さて次回からはどうなるのか?更新予定は25日か28日です。