ガダルカナル撤退作戦
3月12日 日本軍最高傑作の偵察機彩雲がリンガ泊地の航空基地より2000馬力近い誉発動機を唸らせて上空に駆け上がった。偵察場所はサイパン島だ。サイパン島が占領された後、どのように米軍に使用されているかとのことだった。
同日大和とあわせて35キロ先に斉射を行い散布界がどれほどのものか確かめるとの物だった。まあ一応俺達も乗艦していたが、甲板上に出ていたら四肢を裂かれ、あわれ訓練中、自艦の主砲より発した爆風で死亡ということになってしまう。まあ最大320キロの火薬を爆発させ1トンをゆうに超える爆発する鉄の棒をふっとばすのだからそれくらいになってもおかしくは無い。
ちなみに大和の爆風ばかり強いと思っている方々が何人かいるかと思われる。しかし戦艦長門の16インチ(40,6センチだが日本海軍は四捨五入をしているため41センチ砲)ではどれほどの爆風が来るのか実際に人が直接当たってみようということでやったらしい。他の艦なので選抜方法などの詳細は知らないが恐らく体格が良かった人あが選ばれたのかもしれない。もしくわ海軍精神を見せ付けるために自ら
挙手したのかもしれない。
その方法とは耳を綿で塞ぎ上から鉄兜を被り柱などに縛りつけ射撃するという方法だった。何人でおこなったかは知らないが全員失神したという。まあ分かっているだろうが2度とこれは行われなかった。まあ言っては悪いが馬鹿なことがあったもんだ。
話がそれてしまったようだ。その射撃の散布界とは弾のバラつきだ。各弾の距離間隔である。これが小さければ小さいほど命中率が上がるとされていた。米軍と比べ散布界が3分の1だったため命中率が3倍だといったものがいた。しかし米軍は極端にこれが小さければ逆に命中しにくいといっていた。日本側の楽観的な考えと打って変わり随分興味深い話である。
無論、そんなこと俺は知らないのだが。
結果は非常にバラつきがあった。およそ800メートルであった。よくアウトレンジといって敵の届かない場所から当てるというものがあったがこれではまともに当たらない。一般的に全長は大型巡洋艦の場合180m前後で普通の戦艦は+40メートルくらいだ。巨大な船体である大和/武蔵は263m、長門型は215,8m、伊勢型は219、62m、扶桑型は205,13m、金剛型は219,4mである。長門が伊勢や金剛より意外と小型というのに驚いた人もいるかもしれない。
とにかく戦艦の全長が1000mもあれば話は別だがこれくらいでは当たらないということだ。国内ではそのころ砲身のたるみが若干あるためそれを修正した18in砲身を作成していた。長らく戦艦を作っていなかったため砲身技術が下がっていたのである。また砲身にも寿命があるためである。言ってしまえばそれで終わりだが次の海戦には間に合わないだろう。
一方の偵察していた彩雲では恐るべき光景を見ていた。
「なんだこりゃー」上空からサイパン島を見渡すとそこには100機以上の4発爆撃機があった。
「あんなのが来て爆弾を落としたらひとたまりも無いですね」偵察員が率直な述べた。
「さーて敵さんの機械のせえで見つかってるだろう。そろそろ戻らなくては打ち落とされるぞ」と言った瞬間高射砲が唸った。
「ほら言わんこっちゃ無い」爆発した高射砲弾の破片が当たるのではないかと一瞬ヒヤリとしながら操縦士が発動機をおもいっきり最大にまわした。1900馬力もの爆音をたて620キロの速度で逃げ帰った。米軍機は追いつかないと悟り追撃しなかった。
「今度来た時はちょいと20ミリ機銃でもつけてもらって掃射してこようか」等と明るく話していたが3人ともあの敵機数の数には驚いたらしい。
一方大本営はソロモン諸島の役割を失ったため占拠していても意味がないということで撤退作戦を立案したが机上演習で駆逐艦12隻と輸送船による撤退作戦は駆逐艦や輸送船がボロボロと沈められてしまうこととなり絶望的な状況となった。
トラック島も襲撃を敢行するほどの力量は無かった。ただし航空機は300機ある。ラバウルとあわせるとなかなかのものである。ただし今やソロモンへ輸送はやや難航している。
そして2日後ガダルカナルのソロモン航空隊及び基地員に撤退の命令が下された。戦車や重砲も積み安全に撤退する作戦などあるのだろうか。
そして以下のような編成が救助部隊となった。
輸送船2隻 巡洋艦「利根」 駆逐艦4隻「玉波」「早波」「長波」「朝霜」この6隻での撤退作戦だった。少ないように見えるかもしれないがガダルカナルにも一応水上打撃部隊がいる。
3月8日の夜一八〇〇。16ノットで静かに進んでいった。米軍潜水艦がそれを捕らえていた。偵察目的なので魚雷は積んでおらず電波を発信するだけだった。
これを受け取るとリー少将が
戦艦「ワシントン」
駆逐艦「ウォーク」「グウィン」「ベンハム」「プレストン」の艦隊が出撃した。
〇二〇〇 海防艦3隻、駆逐艦2隻、水雷艇6隻は迎えに来た5隻の軍艦と2隻の輸送船に道を明け渡した。すぐさま兵員や重砲が詰まれて、航空機も燃料/弾薬などを抜き牛などでノロノロ引き1時間で収容を終えた。
〇三〇〇 滑走路を念のため12,7センチ主砲で粉砕して出航をした。
〇四〇〇 輸送船の16ノットに合わせて航行すると巡洋艦利根が2万メートル向こうに駆逐艦を発見した。
艦長に連絡された。気づかれたことを悟った艦長は攻撃命令を出した。砲撃ではなく全く気づけないふりをしながらの雷撃だ。1列陣で航行していた日本艦隊は片舷より魚雷を発射した。恐らく巡洋艦も射るだろうとのことであった。
「距離2万5000メートルです。右の駆逐艦は2万メートルまで迫っているようです」とワシントンはいまかいまかと砲撃準備に入っていた。
「よしレーダー射撃を始めよう」リー少将は相手が気づいてないと見て余裕な表情で命令した。
「はい」
「右35度 距離2万4000 砲撃はじめ」オレンジ色の閃光が輝いた。
主砲が第1、第2、第3砲塔が一斉に射撃を始めた。同時に日本艦隊がこれくらいだろうと進路を30度にして進んだ。
「敵、航路変更」
「ルートを変えたかジャップめちょうどいいところで変更しやる」だがワシントンは速力27ノット、向こうは16ノット。逃がしはしないさ。リー少将はジャップに一泡吹かせれると思い鼻で笑った。
しかしその上機嫌はあっという間に消し飛ばされた。
「敵の魚雷右方向より4本接近!」絶叫に近い悲鳴が聞こえた。途端に右の駆逐艦の被雷を確認した。
「何かにつかまれ」船はなんとか曲がろうとしたがもう間に合う距離ではない。
水しぶきが途端艦橋を覆うかのようにあがった。視界は水しぶきで見えなくなり強烈な揺れに襲われ金属のきしむ音が聞こえた。マストがギィィィと鈍い音を立てた。
リー中将をはじめ艦橋の幕僚は全員床に倒れふすか壁にもたれかかった。瞬間右に船体が傾き爆発音と水兵の叫び声が聞こえた。黒煙がもくもくとあがってきた。
リーは割れたガラスで脇を軽くきった。
「おのれジャップめ!覚えておけ」命令を出す前にリーはこのように唸った。船の傾斜はだんだん厳しくなってきた。幕僚達もガラスなどで重傷を負い、運悪く1人が死亡した。もはや血の海だ。
出す命令はもう決まっていた。
「総員退艦!全員船からおりろ」カッターなど出す暇も無くワシントンは20度傾斜し甲板上の兵士はそのままずるずる暗い海に投げ落とされた。
救援の駆逐艦は2隻だった。1隻は沈み。もう1隻はそれの救援である。
一方の日本艦隊も駆逐艦玉波に砲弾が命中していた。1トン近いものが上面からぶち落とされた。この距離であれば甲板装甲は150ミリなければ防げない。駆逐艦がそんなにあるはずが無い。
たちまち装甲を貫かれ火薬庫に直撃。そのまま誘爆で12,7センチ砲や魚雷がともに炸裂した。機銃弾もそのまま爆発し艦内を跳ねとび、爆発でうごけなくなった水兵が波状の爆発により体を幾万という破片に裂けさせた。
こうして駆逐艦長千本木十三四 中佐以下276名全員が戦死した。
他数隻が至近弾で微々たる損害を被った。
ガダルカナル撤退作戦はその後艦隊が無事トラックにたどり着き成功した。
ガダルカナル撤退作戦は成功した。