マリアナ沖海戦=終=
小沢艦隊はもはや航空機を多数損失しその機動部隊というものは事実上壊滅したといっても過言ではなかった。第二次攻撃隊はバラバラの焦げた鉄屑同然で整備兵・パイロットも巻き添えをくらい死臭や燃えたゴムの臭いが鼻を突く。
豊田副武大将はこの報告を受け取り撤退を決行した。これにより絶対に敗北しないはずの南雲機動部隊がマリアナ沖より撤退したのだった。サイパンはここに放棄された。
護衛用に零戦を上空に飛ばしながら南雲機動部隊は北に進路をとった。
一五三〇
「偵察機より報告。日本艦隊は撤退しています」ハルゼーがこの報告を聞いた瞬間に追撃命令を出したのは言うまでもない。スプルーアンスは追撃を許したが、少しでも損害が出たら追撃を中止することにした。
日本艦隊は22ノットの速度でリンガ泊地に向かい撤退しようとしていた。
「方角40度 距離1万 アベンチャー雷撃機接近」
「何?」小沢はあわてて艦橋から双眼鏡で外の風景を見た。なるほどゴマ粒をばらまいたようなものが大量に接近している。
「対空戦闘開始」
空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦の対空機銃や高角砲、副砲、主砲が火を吹く。アメリカのVT信管を利用した防空戦と比べると弾幕が薄いがそれでも海には水柱が幾百たち空に黒い煙がバッと広がる。
零戦が最大速度を出しながらアベンチャー雷撃機に向かっていった。後部機銃からオレンジ色の閃光がきらめきながら弾が飛んでくるが、めったに当たるものではない。
「それもらった」零戦パイロットが1撃必殺20ミリ機銃の発射を行った瞬間零戦の風防ガラスが砕けとび右翼から白い線を引きながらガソリンを霧状に出しながら降下した。
それを皮切りに上空からいっせいにF6Fが機銃をぶっ放して襲い掛かってきたのである。しかし日本の誇れしパイロットは薄々感づいており一気に散会し速度を若干落としつつ持ち前の機動性でヘルキャットの後ろに付く。あるパイロットは50メートルの至近距離から13ミリ機銃を40発打ち込んだ。するとさしのヘルキャットも黒煙を吐きながら機首を落とし墜落していった。機首が下がるのを見るなりそのまま垂直旋回で上方にいたヘルキャットの下腹に20ミリ機銃を一連射し、そのまま機体を横滑りさせた。腹に20ミリ弾が吸い込まれ爆発した。
しかし戦闘機同士の戦闘は優勢だったが雷撃機が突っ込んでくる。距離は3000メートルだ。25ミリ機銃弾を俺は担いで走り回る。今回アベンチャー雷撃機は500キロ爆弾を積んでいるものもいた。
目の前で膨張してくる敵機は死神のように見える。すると船がグイッと左向きに回り始めた。敵が魚雷を投下したのもほぼ同時だった。命中か!白い航線が一直線に5本向かってくる。武蔵もっと回れ!!
願いが通じたかのごとく武蔵は方角を40度も変え艦尾ギリギリを魚雷は通過していった。
しかし爆撃部隊はこれを見逃さなかった。黒い爆弾が投下される。落ちてきながら爆弾は細長く見えるようになった。これはおお外れ。2発目も大外れ。武蔵が今度は右に向かって動いた。3番機と4番機は急に進路を変えたのに対応できず爆弾を無駄に海中に捨てることとなった。5番機の爆弾はなんとかかわした。しかし6番機の爆弾は黒々とした円形状のものに太陽の光が不気味に輝かさせ耳鳴りを思わせる音を出しながら接近してくる…目の前だ。俺は慌てて離れながら艦橋の近くにうずくまった。轟!!
頭をなにものかに蹴り飛ばされるような衝撃を受け甲板上を熱風にさらされながら転がった。もう3メートルむこうに転がっていたら海水浴をする羽目になるところであった。
起き上がると再び爆発音が鳴り響き破片が肩をかすめ他のと同時に痛みを感じた。血がにじんで白い軍服を赤く染めた。
だがそれどころではない。
「副砲に命中!」被害報告らしき叫び声が聞こえた。耳がガンガン鳴り響く。とにかくここから離れよう。俺が甲板を軽く走っている途中ホースを持った兵士とすれ違った。
幸い副砲は火薬庫まで行き届いていなかったが第1副砲はもう使いものにならない。耳を押さえながらふと向こう岸を見ると大和の主砲が咆哮したのが見えた。いや他の巡洋艦、駆逐艦も砲撃したのだが比べもにもならない景色だった。空が赤々と燃えながら敵機が黒煙を吐きながら上空から落下した。悲しく水柱をあげた敵機に哀愁を感じた。怒りを感じていた敵だがやはり無効も同じ人間なのだ。…しかし感傷に浸っている暇ではない。俺は意識をしっかりもつように頬を叩き
「よぉし」といって任務に邁進した。
この攻撃で向かってきた敵機は180機に及んだ。空母は意外なことにわずかな機数しかよってこず、爆弾を交わし魚雷を交わし逆に敵機を3機落とすという戦果を収めた。
この攻撃で大損害を被ったのは武蔵と榛名、駆逐艦2隻だった。
榛名は魚雷を2本打ち込まれ左に13度傾斜したが、懸命な排水工事でなんとか航行ができた。だしえる速力20ノットだ。
駆逐艦は魚雷を受けたのを皮切りに爆弾標的にされ撃沈された。哀れ救助された乗員はいなかった。
そのほかには軽巡洋艦阿武隈の乗員が100名死傷したり、対空機銃が破壊されたり青葉の艦橋に至近弾で亀裂が入るなどだった。
上空にいた零戦は36機から16機に減っており被弾していない機体など2機しかいない。機銃弾が残っている機体はわずかでそれも13ミリ機銃だけだ。
敵機の撃墜数は艦隊全部で50機程度だった。
一六三〇 フィリピンから護衛の零戦が60機来ており艦隊の上空を援護した。この零戦が戦場でいたらどれだけ心強いかと小沢は思った。しかし空母に搭載した機体で機動部隊は闘わねばならない。
ハルゼー率いる第二次追撃攻撃部隊が150機かかってきたと俺は飛んで火にいる夏の虫だと思いながら向かっていく勇ましい零戦の姿を見ていた。米軍パイロットなんかとは技量は1,5倍はある。目に物見せてやれ。
護衛戦闘機は32機だけだった。コルセアがいるがこいつは爆弾を積んでいる。そこに60機の零戦部隊が襲い掛かった。さっき着たばかりの零戦部隊と長い道のりをたどってきた米攻撃部隊の差がここに開いた。戦闘機を無視して零戦がアヴェンチャー雷撃機に襲い掛かりバタバタと落としていった。
20機ほど味方が落ちたときには既に敵戦闘機部隊は壊滅しており攻撃部隊は逃げ帰った。この零戦は一部試作として1ミリ鋼板を8枚ほど重ねたものを背後に置き燃料タンクの上方にもこれをつけた。馬力が新式の1200馬力となっているため速度は落ちていない。おまけに穴空きフラップを採用し400キロ代なら従来どおりの機動性が使える。そのかわり20ミリ機関銃(装弾数180発ベルト式)以上何もつけていない。
この返り討ち攻撃でハルゼー艦隊は100機以上の作戦不能気を出し作戦を中止した。
一八〇〇 俺達は無事たどり着いた。
敵作戦機を100機使用不可にしなんとか追撃を振り切ったが、サイパン島は敵に奪われてしまうのか。
米軍の恐るべき戦略はいかに?