武蔵に迫る空の死神
空から死はやってくる。航空機と共にやってくるその音は、死神のうなり声なのか?
さっきまで弾薬を補給しながら「ほれ、今のうちに水を飲んどけ」と言われ、くれた水を飲みつつ休息を得ていた。
・・・来た。マリアナ沖海戦から見ているゴマ粒を空にぶちまけたような情景があり、それが大きくなってくるさまは恐怖そのものだ。「いいか、落ち着いて打てよ」
と指揮棒を振りながらさけんでいる郡指揮官の声が50メートルほど遠くにいるように聞こえる。鼓膜に聞こえる音の波長が大きくなる。
「対空戦闘開始」「右70度 高角38度 140」敵はなんと太陽から突っ込んできた。「打ち方はじめ」対空砲全門から火が出た。俺たちは近くの対空砲の射撃を見ていた。
はっきりいってそれ以外に何をしろというのだ?いや、何かしないと俺は精神が入り乱れるかもしれない。機銃の銃身はは前後に動くという単調な動作を只続けている。
ひたすら続けているその3門の対空砲から25ミリの弾丸が上空に吐き出される。1秒間に100キロを超える速度で動く航空機に対空砲弾がひたすら唸る。それを
打っているただ、ひたすら。そうしないと発狂してしまうのだろう。
突如、右40度雲の切れ目から雷撃機」艦橋からの報告。射撃指揮装置がクルリと回ると遅れて対空気銃が回る。ダダダダダ……TBF3機が雲の切れ目から高度を下げ、
太い魚雷を落とした。直後1機はコックピットを狙い撃ちされたのか落ちていった。その時艦長はすでに面舵射一杯との命令を出していた。武蔵のような艦は陀の効き目
が遅いが、見た目とは想像もつかないほどの運動性を見せる。前長263メートルの艦が向きを90度変えた。魚雷はきれいにそれた。
「左方向からグラマンが突っ込んできます 機数6!」俺はその時に「おい弾をくれ。お前の真後ろの機銃だ!!」俺はあわてて弾を担ぎ走っていこうとしたその時、
変な音がしたため上空を見るとやや細長いが、丸く黒いものが落ちてきた。
十秒前後しかたってないだろうが俺には結構な時間に思えた。激しい閃光と爆発音を聞いて甲板にたたきつけられた。もっていた機銃弾がどっかに吹っ飛んだが
そんなことはどうでもいい。煙がもうもうと出ている。爆弾が命中したのか…体が血だらけになっていたが俺の血ではない。目の前にかぶとが転がっていた。
しっかり人間の肉片がついている。さっき俺を呼んだやつはよく見えないがどうも機銃の後方4メートルに生ごみのように転がっているのがそうらしい。機銃は消えてなくなっていた。
おそらくさっきのグラマンが小型爆弾を落としたのだろう。その時俺はわが耳を疑った。
「主砲が旋回してるぞ。打つ気だぞ」同時に警告音が鳴り響いた。シールドがない機銃座の兵士、偵察兵などはあわてて艦内に入り込んだ。床でうごめいてる連中がいる
が俺は救えない。救っていたら海のかなたに頭をとばされちまう。
「3式弾発射」ゴォォーンという轟音が立て続けに3回ほど鳴った。あわてて甲板上戻ったときは敵機はいなくなっていた。
そして甲板上にいた人間は血塊となって消えていた。4式弾発射装置は両弦に十基おいてあったが2基ほど壊れている。弾はどこにいったのか?そんなものはしらん。
午前の戦闘はこれで終わった
損害 死者51名 負傷者97名 機銃座2基 4式弾発射機6基
また長門が少破 大和は無傷死傷者は出た またそれ以下の艦艇にも被害が出たのは言うまでもない
午後からまたも爆音が聞こえてきた。この死神の攻撃は何回来るのだろう。空をぼんやりしかし身震いして見ていた。竹浜は別の場所の機銃座の弾薬補給をしていた。死んではいなかったし、元気だった。
次回「只一の過去」を投稿します。