第一幕 オタク界最強のオタク?/洋食マナーにご注意を
オタクの話です!
2026年夏。某同人即売イベントにて、全てのジャンルの同人誌を抱えた男が現れた。
「すいません! 横失礼します!」
彼が様々な大量のジャンルの同人誌を抱えて会場内を動き回る姿がコスプレイヤーが配信していた背後に写り、そのオタクが動き回る動画が切り取られすぐに拡散された。ネットでは『やばい、全ジャンルのオタクが現れた』だの『あれは何のオタクだ!?』だの『あれはオタク界隈最強のオタクだ!』だの言われていた。
そして、そのオタクはどんどんと拡散されていった。
「本日のトレンドワードはこちら。一位は!『オタク界隈最強のオタク現れる!』です!」
「いやー興味深いトレンドですねぇ……」
ネットニュースのアナウンサーが不思議そうな顔をしてトレンドワードが映し出された画面をまじまじと見ていた。
そんなこんなあり一日も経たないうちに彼はネットニュースにも出演してしまった。
その話題のオタク界隈最強のオタクと呼ばれているのが……この俺。小鳥遊健太なのである。
「キーンコーンカーン」
学校にチャイムの音が響き渡る。
ここでだが、質問形式で軽い自己紹介をさせてもらおう。
俺の名前は小鳥遊健太高校二年生の男だ。ネットではオタク界隈最強オタクと言われていて、嬉しいが少し気恥ずかしい。
先程から連呼しているように俺はオタクである。しかも一つの分野のオタクでは無い、ほぼ全てのオタクである。
『にわかなのがいっぱいあるんじゃ無いの?』
そう思った人もいるだろう。否……俺はにわかだと自分で思っている作品やジャンルに関しては自分のことをオタクとは言わない。つまり、俺がオタクといっている全ての作品やジャンルはにわかでは無いということだ。
『特に好きなジャンルは何?』
とよく聞かれるのだが、これは悩ましい質問である。強いて言うならば俺がオタクをしている全ジャンルだ、答えになっていない!と言う人もいるだろうがこれが俺が出せる精一杯の答えだ。
『イケメンですか?』
否……。イケメンでは無い、モサモサ天然パーマヘアで眼鏡をしていて服はこだわりがなくキャラTや何も描かれていないシンプルなTシャツを着ていることが多い。体重は49kgで身長は171cmとヒョロガリタイプのオタクだ。
俺が自己紹介をしていた時隣の席のギャルに頬をつねられる。
「おーい! 健太! 起きろ!」
「いひゃい、いひゃい!!!」
俺はどうもすることもできず手足をジタバタさせた。
『このギャルは誰?』
後々聞かれても面倒なので先に答えておこう。こいつは、夢屋かなた。見た目は金髪で完全にギャルであり俺の幼馴染である。
『幼馴染キャラなんて! 羨ましすぎるだろ! このオタクの皮を被ったクソ野郎!』
と思われるかもしれないが、こいつは以前まで『健太の推しキャラにそっくりだから!』と言って黒髪ボブにしていたが高校に入り、急に髪を伸ばし金髪にしだしたのである。だから、誰かが期待しているエッチな展開も無いし、今日好きなような展開も無いのである。
「おい! 聞いてんのか!」
かなたの手刀が俺の頭に直撃する。
「お前は手で幼馴染を殺す気なのか……」
「うっさい! オタク死ね!」
かなたは怒ったような顔をし、そっぽを向いた。だが、少し経つと、少しだけ顔を赤くして俺の方をチラチラと見てくる。
「ねぇ、健太……あ、あのね……」
「高市早苗……石破茂……岸田文雄……菅義偉……」
かなたは口を開けようとしたら閉じたりしているが俺は気にせず趣味の日本語歴代総理大臣の暗唱を始めた。
「ちょっ!? また内閣唱えてんの!? ふざけんな!」
かなたが俺の両肩を持ち上下に大きく揺らす。
「安倍晋三……野田佳彦……」
「何で逆からなのよ!?」
「お! そこに気づいてくれたか!」
俺は誰にも指摘されなかった最新順内閣総理大臣暗唱を指摘され、内心とても嬉しかった。
「てか、話聞いてないでしょ! バカ!」
かなたの手刀が振り下ろされ、俺の頭にめり込んだ。本日二回目である、次手刀を振り下ろされたら俺の頭蓋骨にヒビが入るだろう。
「菅直人……鳩山由紀夫……で用はなんだ……」
「だーから内閣暗唱をやめなさい!!! なんでまた変なジャンルのオタクしてるの!!!」
三度目の手刀が振り下ろされ、俺の頭からピキッという音がし、クラス中にその音が響いた。しかし、クラスメイトのほとんどが知らんぷりをし誰も俺を助けてくれなかった。これが人望というものか。
「だから、私とお昼ご飯食べなさいっていってんの!!!」
かなたは俺の机を強く叩いて立ち上がり、泣きそうになりながら俺の顔を睨みつけていた。廊下からその瞬間を見た他のクラスの人たちが『カツアゲ?』『アブラアゲ?』などと騒いでいたがその言葉は、今のかなたには届かなかった。
「わ、わかった……食べるから一回落ち着け……」
俺は次手刀を振り下ろされたらお尻と同様頭が真っ二つになってしまうと思ったので、急いでかなたの機嫌を取ろうとする。
「わかればいいのよ……」
かなたは机を強く叩きそっぽを向いた。
「じゃ、準備するか……」
俺はそういうと、俺とかなたの机を向かい合わせにくっつけた。
「ちょ、これじゃカップルみたいじゃん……あんたとカップルとか恥ずかしいんだけど……」
かなたは照れながらもどこか嬉しそうにしながら、もじもじしていた。
「〜♪」
俺は音楽アプリから粋なJAZZを流し、ノリノリで机にテーブルクロスを引き始める。
「は?」
かなたは困惑したのか口をぱくぱくとさせていた。
「こちらナプキンとおしぼり失礼します……」
「あ、ありがとう……って! な、何してるの!?」
「ん? 最近洋食オタクを目指してるから、洋食マナーを学んだんだよ……何かおかしい?」
「え……あ、いや……え?」
かなたは困惑しながらも俺に渡されたおしぼりを受け取り口を拭き始める。
「だめ!!!」
俺は急いでおしぼりを握っているかなたの手を掴み口を拭くのをやめさせた。
「ちょっ、あんた……手……」
かなたはどこか嬉しそうに頬を赤らめもじもじし出してた。
「いや、あのマナー違反だよそれ……」
「え……?」
「おしぼりは、手以外拭くのNGだから……着席時とパンとか手の汚れる料理の後に拭くのが基本ね……」
「え……???」
何が起きているのかわからないのか困惑した顔で俺の顔をじっーと見つめてきた。
俺はナプキンを半分に折り自分とかなたの膝の上に乗せた。
「こちらライスになります……」
俺は鞄から平らなお皿とナイフとフォークに弁当箱を取り出し、弁当箱の中のライスを平らなお皿に盛り付ける。
「え、あ……うん……?」
かなたは困惑しながらフォークを反対に向けナイフでご飯粒をフォークの背に乗せていた。
「それもNG!!!」
「えぇ!?」
粋なJAZZとかなたの困惑の声が教室内に響き渡る。
「ちょ、ちょっと私トイレに……」
かなたはもはやギャルの面影が無かった。体をブルブルと震わせナプキンの外側で口を拭き机の上に無造作にポイっと投げて逃げようとしていた。
「待って……」
俺はかなたの腕を掴んだ。
「俺が悪かった……」
「け、健太……」
かなたは涙をポロポロと流し、メイクがぐちゃぐちゃになっていた。
「俺がマナーを教えていないのが悪かった。」
「は?」
かなたの涙がぴたりと止まった。
「まず、ナプキンの外側で口を拭くのはNGで、トイレ行く時とか席を離れる時はナプキンは畳んで椅子の上に置く……。これ基本ね?あと……」
俺がマナーを言いかけた時かなたが近寄ってきて本日四度目の手刀を振り下ろした。教室は俺の悲鳴と粋なJAZZの音で充満していた。
「健太のバカ! もう知らない!」
「まってナプキン……椅子の上に置いてから立って……」
そうして俺は倒れ一日が終わった。
俺のオタク界隈最強と謳われているオタク生活はまだ始まったばかりである。
Twitter@obbaake




