制服
中学生になった小柄な男子、山野徹はアニメが好きで絵をかくのもうまかった。美術の時間、隣の席の同級生で高身長の女子、山梨優香のクロッキーを描くことになった。山梨が見ると、アニメ風な女の子の絵になっていた、山野は謝るのだが山梨は気に入ってしまう。上級生の男子が山梨に告るがふられ、腹いせに山野を攻撃して来た。止めに入った教師の是枝はバスケの顧問、山野の絵を見て「お前は女か!」としかり、山野せいで山梨はバスケ部に入らないんだとも言う。翌日山野は遅れて来たが女子の制服を着ていた。先生への抗議である。是枝が注意すると山梨は憤り「山野君は何も悪いことしてません!」と怒り、クラスメイトモナ山野をかばい、一日山野は女子の制服で過ごし、帰りは二人で下校した。
「中学生かあ。」
少し大人になった気がする、制服を着られるからかな。中学校の制服は、男子はブレザー、女子はセーラー服、これが結構かわいい。
「ネクタイ、苦しかね?」
「俺、学ランが良かったなあ。」
「あれきついよ、従兄の学ラン着たことあるけど、首痛いし肩凝る。」
中学校は、二つの小学校の学区から、生徒が来る。みんな、ほとんど知っている顔。
入学式が始まる前、僕は同じ東根小学校の友達、もとやんと話していた。
校舎の壁に、クラス名簿が貼りだしてあって、1組に山野徹って書いてあった。
「もとやん、一緒のクラスだね。」
「徹よお、部活決めた?」
「まだあ。」
「もとやんは?」
「俺サッカーやるかなあ。」
正直、入りたい部活はない。小学校はアニメ研究部だったけど、中学校には、そんな部活はない。それに運動部は、髪の毛伸ばせないし。
「徹は、美術部なんてどうよ。」
「美術部、レベル高そうだもん。」
六年生の学校見学会の時、中学校の部活紹介で、色々な部を見学した。
美術部も見学したけど、油絵やデッサンやら、今までやってきたことと違うし、作品がみんなすごくって、ついていけなさそう。
「部活体験は一週間で、その後四月末までに決めて、入部届出していいみたいだよ。」
「サッカーは、小学校も中学校も、クラブチームのFⅭだから、俺はやりやすいかな。」
「アニ研もあったらいいのに。」
入学式が始まった。担任の発表もあった。体育の是枝って先生で、怖そうだ。
式の終わりにクラスごとに、担任が生徒を引率して式場を出る。式場の真ん中の通路を通るとき、小さな笑い声が起きた。
「おっきい。」
「本当に中学生?」
周囲の保護者席から、声が聞こえる。あの子のことだな。
クラスで席に着いた。座席は、男女混合名名簿順になっていて、僕は一番後ろだった。式場だと身長順に並んでいたから一番前だったけど。
隣の席は山梨優香、西根小学校から来た女の子。子供バスケットの選手だ。東根小学校に試合で来た時、見たことがある。
「うわーでかい。」
みんな驚いていた。ショートカットで、高身長だけど、童顔で可愛い。
「あの子、大学生にナンパされたんだって。」
普通に街を歩いていたら、大人に見えてしまうだろうな。
僕の身長は、148㎝、山梨優香は168㎝、なんて不釣り合いなんだろう。早く席替えしたい。
最初は担任の話、それから自己紹介、そして当面の予定が配られ、先生の説明。やること沢山ありすぎる。覚えきれないよ、メモしなきゃあ。
ガサ、ころん。隣の優香の机から、紙と消しゴムが落ちた。消しゴムは、僕の足の方まで転がって来た。
「あの、これ。」
僕は拾って、優香に渡した。座っていても見上げる感じ。
「ありがとう。」
にこっとして、またクールな表情に。
「優香さあ、大学生にナンパされた時、あたし小学生なんだけど、あんた犯罪じゃない?って言ってさあ。大学生,固まったってよ。」
小学校の同級生が、話していたっけ。怖い子なのかなあ。
ようやく帰りの会も終わった。
「じゃあこれからよろしくな。」
担任は、愛想笑いMAXしてる。
「起立、礼、さようなら。」
ふ―、やっと終わった。僕は鞄を持って立ち上がった。
「んっ!」
背中をどんと押され、僕は前のめりになって、倒れそうになった。
「ごめんなさい!」
優香が、僕を後ろから支えた、優香が立ち上がって、鞄を肩に担ごうとした時、鞄が僕の背中に当たったらしい。
僕は、優香に後ろから、抱きしめられたような恰好になっていた。周りにいた女子が、きゃっとか、いやだあ、とか声を出して笑ってる。優香は、女子にも人気があるんだ。
「大丈夫、平気、はい。」
僕は、顔を赤くしながら言った。だって優香は、皆のマドンナだもの、うっかりしたこと言えない。
「徹、ちっこくて見えなかったんだろ。」
もとやんが、おどけて言った。
「そんなことないです、私がうっかりして。」
クールな優香が慌ててた。マドンナに、恥かかせちゃいけない。
「うん、僕視界に入れないものね。」
皆の笑い声で、その場は終わった。
翌日から授業がある。午前中二時間は学級会で、その後学年集会、それから授業。まあ最初だから、先生たちは、面白い授業をしてくれる。一年中こうだといいのに。
昼食の時間が終わると、もとやんたちと話していた。
「さっきFCの先輩から、サッカー部へ入れよって言われたよ。徹、美術部に決めた?」
「どうしようかなあって、迷い中。」
「徹は運動、得意じゃないよね。」
僕は、運動が苦手だ。病気がちな僕は、家で本を読むか、お絵かきをしていた。本を読んで想像の世界に入り込む、それが好きだった。親に内緒で少女漫画も、読むようになっていた。
「本が好きで、えらいわねえ。」
親から言われると、嬉しかった。でも本当は、空想の世界にいる方が、楽だったからだ。
僕らの会話を、隣の優香は聞いていた。優香に会いに、上級生たちが頻繁に来た。
「ねえ、中学もバスケやらない?」
「うちのバレーは、結構強いよ。」
「陸上で走高跳どうですか?」
中には、ナンパしに来た上級生もいた。
「はあ?興味ないです。」
上からクールな表情で言われると、みんな引いていた。やんちゃな男子より強いかも。
午後の授業は美術だ。絵を描くのは、好きだ。新しい教材も使える、なんかわくわくする。よしやるぞ、と思っていたのだけど。
「前回はクロッキーをやりましたね、今日は人物画を描いてみましょう。お隣同士を描いてみましょうね。」
「ええ!」
「やだー。」
教室で一斉に声が上がった。
「それぞれ異性の特徴を知り、描くことも大事なのですよ。」
先生のその説明で、皆描き始めた。嬉しいような照れくさいような、そんな気持ちがある。ていうか、僕の描く相手って、優香じゃないか。
座っていても、上目遣いで見る僕、見おろす優香。じっと二人で見つめ合う。ピクリともしないクールな優香。
「お願いします。」
と始めたものの、鉛筆が進まない。緊張しちゃってる。
じっと見つめ合ったまま、固まってしまった。きっと僕のこと、ナンパしに来る上級生や大学生みたいに、気持ちの悪い奴と、思っているのかもしれない。
鉛筆を持って僕を見ている優香、突然「ぷっ。」と噴き出した。
「ごめんなさい、僕いやなことしちゃったかなあ?」
「違うのよ、真剣に見つめて固まってるの見てたら、なんか可愛いいなあって。」
その後も優香はクスクス笑いながら、ごめんなさいを繰り返していた。
へえ、優香さんって、こんな笑い方もするんだ。
その後は緊張感が緩んで、描くことができた。でもデッサンって、上手く描けないや。
「どうかな、二人は?」
美術の原田先生が見に来た。優しそうな、女性の先生だ。
「あら、山梨さん良い出来だね。」
優香のスケッチブックには、大人びた筆遣いで描かれた僕がいた。長めの髪がふわっとしている感じもいい。うまい!負ける。
「どれ、山野君のは。ん?これは。」
「あっ、これは違うんです。」
「山野君、これは美少女アニメ風の、山梨さんじゃないですか。」
デッサンがうまく描けないので、大好きなアニメの描き方で、優香を描いては、別のページにデッサンしていたのだ。先生には、ちゃんと理由を説明した。
「そうだったのね。この絵、形はちゃんと捉えられているし、表情もいいわ。」
嬉しい、ほっとした。
「漫画家もね、デッサンで鍛えるんだよ。美大にもアニメ科があってね、先生もアニメ科の人たちとコラボしたことあるんだよ。」
先生が離れると、優香はそばに寄って来た。
「ねえ、見せてよ。」
「えっ、ダメだよ。」
「良いから見せて。」
絵を見た優香は、驚いたような顔をして、しばらく絵を見ていた。やばい、怒らせたかも。
「うまいわ、私アニメヒロインみたい。山野君、こういう絵を描くんだ。」
良かった、怒ってなかった。
そんなことがあってから数日後、日直の当番に当たった。席替えは、是枝先生が四月が終わってからと言うので、席が隣同士の優香と一緒だ。
早めに登校し、日誌を職員室の棚に取りに行って、黒板をきれいにしてる。
「誰だよ上の方に落書きして。届かない!」 優香がすっとやって来て、消してくれた。
「ありがとう。」
一通り日直の仕事を終え、僕らは席に着い
た。二人きりだ、なんか気まずい。
「ねえ、この間の絵は完成したの?」
「デッサンは提出したよ。」
「それじゃなくて、もう一つの方。」
「アニメ風の?」
「そう。見せてくれる?」
「怒らない?」
「なんで?怒らないわよ。私もアニメ好きだし。」
「そうだったんだあ。」
僕は、描きかけの絵を見せた。
「色もつけているんだ。」
しばらく二人で、アニメの話をした。優香は、結構アニオタに近かった。
「アニメの『美少女戦士』好きなんだよ。」
「私も、コミックは全巻揃えてる。」
優香に、少女コミックが好きだと話せて、嬉しかった。男の子だけど、女の子が好きなものが好き、今まで人に言えなかった。
始業時間が近づいたから、次第に教室も人が多くなってきた。
「完成したら見せてね。」
「うん。」
その日の午後、僕は美術部に入部届を提出しに、廊下を歩いていた。優香の絵を早く完成しなきゃ。
「おい、お前1組の山野か。」
振り向くと、3年生が3人ほどいた。シャツやブレザーをだらしなく着て、髪も校則違反してる。やばい、危ない連中に関わりたくない。
「はい、そうです。」
「お前、優香と仲いいのか?」
「えっ?」
「教室でまったりしてるって話だ。今朝も一緒に登校してるよな。」
「それは日直だから。」
「優香の彼氏だと聞いて行ってみたら、なんともちっこい奴じゃねえか。」
3人は僕を見て笑ってる、失礼な奴だ。
「彼氏じゃないです、席が隣だから話してるだけです。」
「あんだとお、てめえ生言うんじゃねえよ。優香にこれ以上近づくな、いいか。」
「でも席が隣なので。」
「ガタガタ言うんじゃねえ。」
僕は突き飛ばされ、持っていたスケッチブックも飛ばされた。
「何するんですか!」
僕は、納得がいかないと、つい口に出してしまう、たとえ相手がでかくて強くても。でも今回は、避けるべきだった。
「なんだこれ、優香じゃねえか。てめえそんな仲かよ。」
飛ばされたスケッチブックは、優香を描いたページが、めくれて見えていた。
「やめろ!」
腹を思いっきり殴られ、その場にしゃがみこんだら、今度は背中を蹴られた。
「暴力はだめです!。」
「うっせえ、なんで優香がお前みたいなやつとつるんでんだ、ムカつく!」
次第に生徒が集まって来た、誰でもいいから助けてくれよ。
「おい、お前らやめないか。」
三年の先生が止めに入ってくれた。廊下には広げられたスケッチブック、皆に見られてしまった。どうしよう、優香に悪い。
その後職員室で、あれやらこれやら、聞かれまくった。
腹を殴られたのに、大丈夫ですって答えたら、そのまんまだ。
話が終わり職員室を出ると、廊下ですれ違いざまに、是枝先生に声をかけられた。
「お前も、目をつけられんようにしろよ。優香とは仲いいいのか?スケッチブック、ちょっと見せてみろ。」
「別に、目をつけられるようなこと、してません。それに優香のことは関係ないです。」
「だから、そういう一言に、気をつけろよと言ってるんだ。それにこの絵、優香じゃないか。優香は知ってるのか?」
「言うべきことは、言うのが正しいと思います。それに僕は、何もしてません。優香は、絵のこと知ってます。優香もアニメ好きだと話してました。」
「それでか、優香にバスケに入れと言ってるのに、いまだに入部届出しに来ない。お前に影響されたのか。大体こんな女々しい絵を、学校で描くなよ。」
「女々しいって何ですか?美術の先生もいい絵だと言ってました。優香が入部届出さないこととは関係ないです。」
「お前は女かよ。ネチネチしてよお。」
僕は沈黙してしまった。あんまりだ。
「いいか、これからは気をつけろよ。」
なんで、みんながいる廊下で、あんなこと言うんだ。
家に帰るとすでに連絡が、学校から来ていた。母は大丈夫かと声をかけてくれた。晩御飯は食べたくないと、部屋に閉じこもった。
『女の子みたいに可愛いね』と言われたことはある、それは嫌じゃない、むしろ嬉しいかも。でも今日みたいに、否定的な言い方はされたことがない。
翌日、クラスの朝の会。
「山野は、いないか。誰か話聞いてるやつ、いるかあ?」
誰も答えなかった。
「いねえのか、まあいい後で家に連絡する。」
朝の会は出席確認が済むと、担任の話になった。
話が始まってしばらくして、教室の後ろの戸が開いた。
「徹!」
「お前、なんて恰好してんだ。」
クラスは一瞬ざわついたが、すぐにすごい空気の重圧感に沈黙した。
是枝は教室に入って来た徹を見て、何も言えなくなっていた。
化粧をし、髪にカールをつけ、女子の制服を着た徹がいた。
徹は、担任の方に向って歩いて行った。
「遅れました、すみませんでした。」
徹は頭を下げ、自分の席の方に向って歩いて行った。
クラスメイトは、殺人事件でも目撃したかのように、無表情。中には笑うような顔をする者もいたが、笑えないでいた。
「お前なあ、おい、待てよ。」
担任の是枝が声をかけると、徹は振り返った。
「なんでしょうか?」
教室内に、低い『おお』という声が起きた。
「なんでじゃねえよ。お前なあ、その恰好はよお。」
是枝の声は、廊下にも響いた。怒るとまるでやくざみたいになる。
「ちょっと待って、先生。山野君は何も悪いことしてません!」
優香だ。優香は、席を立つと是枝の前に立ちはだかった。キッとにらむ目に、是枝は黙ったまま動けなくなった。
「そうだよなあ。山野、悪いことしてないしなあ。」
「だよなあ。」
「いいんでねえ。」
周りから声が上がった。格別、煽るでもなく、先生に逆らおうとしている雰囲気でもなかった。軽くて明るい、エネルギーだった。
「朝の会終わりにする。」
是枝はそう言うと、礼もそこそこに教室を出て行った。
授業まで少し時間がある、皆は授業の準備を始めた。
「徹、これでいいんだよね。」
優香がそばに来た。
「うん。」
授業は、何事もなく進んだ。徹の方を見る先生もいたが、何か言ってくる先生はいなかった。
「徹、かっこよかったぜ。それと、制服似合うよ。」
休み時間、もとやんが言った。他のクラスメイトもⅤサインを出したり、手を振ってくれたりした。
帰りの会で、是枝は何も言わず、徹を呼びつけることもしなかった。
放課後、優香と徹は教室にいた。
「今朝は、ありがとう。まさか、優香さんが出てくるなんて思わなかった。」
「夕べ、心配して電話したら、いきなりお姉ちゃんの、お古の制服貸してって言われて、驚いたけどね。」
「迷惑かけて、ごめんなさい。バスケの顧問の是枝先生の印象、悪くしちゃったね。」
「いいんだよ、あたし、バスケしないんだ。」
「どうして?」
「背が大きいだけで、やらせられていた自分が嫌になったのよ。」
「じゃあ何するの?」
「しばらくは、やりたいこと探すかな。そうそう、絵を完成させてね。」
「うん、がんばる。」
帰りは、二人でセーラー服を着て帰った。
思春期は両性を持っていて揺れ動く世代です。女性的な男子もいます、ラベルを貼るのでなく、それらも受け入れる学校もあります。それらをテーマにしました、内容をラブコメにしたのも、重たくならないためでもあります。
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