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制服

作者: 天野幸道
掲載日:2026/04/16

中学生になった小柄な男子、山野徹はアニメが好きで絵をかくのもうまかった。美術の時間、隣の席の同級生で高身長の女子、山梨優香のクロッキーを描くことになった。山梨が見ると、アニメ風な女の子の絵になっていた、山野は謝るのだが山梨は気に入ってしまう。上級生の男子が山梨に告るがふられ、腹いせに山野を攻撃して来た。止めに入った教師の是枝はバスケの顧問、山野の絵を見て「お前は女か!」としかり、山野せいで山梨はバスケ部に入らないんだとも言う。翌日山野は遅れて来たが女子の制服を着ていた。先生への抗議である。是枝が注意すると山梨は憤り「山野君は何も悪いことしてません!」と怒り、クラスメイトモナ山野をかばい、一日山野は女子の制服で過ごし、帰りは二人で下校した。

挿絵(By みてみん)

「中学生かあ。」

 少し大人になった気がする、制服を着られるからかな。中学校の制服は、男子はブレザー、女子はセーラー服、これが結構かわいい。

「ネクタイ、苦しかね?」

「俺、学ランが良かったなあ。」

「あれきついよ、従兄の学ラン着たことあるけど、首痛いし肩凝る。」

 中学校は、二つの小学校の学区から、生徒が来る。みんな、ほとんど知っている顔。

 入学式が始まる前、僕は同じ東根小学校の友達、もとやんと話していた。

 校舎の壁に、クラス名簿が貼りだしてあって、1組に山野徹って書いてあった。

「もとやん、一緒のクラスだね。」

「徹よお、部活決めた?」

「まだあ。」

「もとやんは?」

「俺サッカーやるかなあ。」

 正直、入りたい部活はない。小学校はアニメ研究部だったけど、中学校には、そんな部活はない。それに運動部は、髪の毛伸ばせないし。

「徹は、美術部なんてどうよ。」

「美術部、レベル高そうだもん。」

 六年生の学校見学会の時、中学校の部活紹介で、色々な部を見学した。

 美術部も見学したけど、油絵やデッサンやら、今までやってきたことと違うし、作品がみんなすごくって、ついていけなさそう。

「部活体験は一週間で、その後四月末までに決めて、入部届出していいみたいだよ。」

「サッカーは、小学校も中学校も、クラブチームのFⅭだから、俺はやりやすいかな。」

「アニ研もあったらいいのに。」

 入学式が始まった。担任の発表もあった。体育の是枝って先生で、怖そうだ。

 式の終わりにクラスごとに、担任が生徒を引率して式場を出る。式場の真ん中の通路を通るとき、小さな笑い声が起きた。

「おっきい。」

「本当に中学生?」

 周囲の保護者席から、声が聞こえる。あの子のことだな。

 クラスで席に着いた。座席は、男女混合名名簿順になっていて、僕は一番後ろだった。式場だと身長順に並んでいたから一番前だったけど。

 隣の席は山梨優香、西根小学校から来た女の子。子供バスケットの選手だ。東根小学校に試合で来た時、見たことがある。

「うわーでかい。」

みんな驚いていた。ショートカットで、高身長だけど、童顔で可愛い。

「あの子、大学生にナンパされたんだって。」

 普通に街を歩いていたら、大人に見えてしまうだろうな。

僕の身長は、148㎝、山梨優香は168㎝、なんて不釣り合いなんだろう。早く席替えしたい。

最初は担任の話、それから自己紹介、そして当面の予定が配られ、先生の説明。やること沢山ありすぎる。覚えきれないよ、メモしなきゃあ。

ガサ、ころん。隣の優香の机から、紙と消しゴムが落ちた。消しゴムは、僕の足の方まで転がって来た。

「あの、これ。」

 僕は拾って、優香に渡した。座っていても見上げる感じ。

「ありがとう。」

 にこっとして、またクールな表情に。

「優香さあ、大学生にナンパされた時、あたし小学生なんだけど、あんた犯罪じゃない?って言ってさあ。大学生,固まったってよ。」

 小学校の同級生が、話していたっけ。怖い子なのかなあ。

 ようやく帰りの会も終わった。

「じゃあこれからよろしくな。」

 担任は、愛想笑いMAXしてる。

「起立、礼、さようなら。」

 ふ―、やっと終わった。僕は鞄を持って立ち上がった。

「んっ!」

 背中をどんと押され、僕は前のめりになって、倒れそうになった。

「ごめんなさい!」

 優香が、僕を後ろから支えた、優香が立ち上がって、鞄を肩に担ごうとした時、鞄が僕の背中に当たったらしい。

 僕は、優香に後ろから、抱きしめられたような恰好になっていた。周りにいた女子が、きゃっとか、いやだあ、とか声を出して笑ってる。優香は、女子にも人気があるんだ。

「大丈夫、平気、はい。」

僕は、顔を赤くしながら言った。だって優香は、皆のマドンナだもの、うっかりしたこと言えない。

「徹、ちっこくて見えなかったんだろ。」

 もとやんが、おどけて言った。

「そんなことないです、私がうっかりして。」

 クールな優香が慌ててた。マドンナに、恥かかせちゃいけない。

「うん、僕視界に入れないものね。」

 皆の笑い声で、その場は終わった。

 翌日から授業がある。午前中二時間は学級会で、その後学年集会、それから授業。まあ最初だから、先生たちは、面白い授業をしてくれる。一年中こうだといいのに。

 昼食の時間が終わると、もとやんたちと話していた。

「さっきFCの先輩から、サッカー部へ入れよって言われたよ。徹、美術部に決めた?」

「どうしようかなあって、迷い中。」

「徹は運動、得意じゃないよね。」

 僕は、運動が苦手だ。病気がちな僕は、家で本を読むか、お絵かきをしていた。本を読んで想像の世界に入り込む、それが好きだった。親に内緒で少女漫画も、読むようになっていた。

「本が好きで、えらいわねえ。」

 親から言われると、嬉しかった。でも本当は、空想の世界にいる方が、楽だったからだ。

 僕らの会話を、隣の優香は聞いていた。優香に会いに、上級生たちが頻繁に来た。

「ねえ、中学もバスケやらない?」

「うちのバレーは、結構強いよ。」

「陸上で走高跳どうですか?」

 中には、ナンパしに来た上級生もいた。

「はあ?興味ないです。」

 上からクールな表情で言われると、みんな引いていた。やんちゃな男子より強いかも。

 午後の授業は美術だ。絵を描くのは、好きだ。新しい教材も使える、なんかわくわくする。よしやるぞ、と思っていたのだけど。

「前回はクロッキーをやりましたね、今日は人物画を描いてみましょう。お隣同士を描いてみましょうね。」

「ええ!」

「やだー。」

 教室で一斉に声が上がった。

「それぞれ異性の特徴を知り、描くことも大事なのですよ。」

 先生のその説明で、皆描き始めた。嬉しいような照れくさいような、そんな気持ちがある。ていうか、僕の描く相手って、優香じゃないか。

 座っていても、上目遣いで見る僕、見おろす優香。じっと二人で見つめ合う。ピクリともしないクールな優香。

「お願いします。」

と始めたものの、鉛筆が進まない。緊張しちゃってる。

じっと見つめ合ったまま、固まってしまった。きっと僕のこと、ナンパしに来る上級生や大学生みたいに、気持ちの悪い奴と、思っているのかもしれない。

鉛筆を持って僕を見ている優香、突然「ぷっ。」と噴き出した。

「ごめんなさい、僕いやなことしちゃったかなあ?」

「違うのよ、真剣に見つめて固まってるの見てたら、なんか可愛いいなあって。」

 その後も優香はクスクス笑いながら、ごめんなさいを繰り返していた。

 へえ、優香さんって、こんな笑い方もするんだ。

 その後は緊張感が緩んで、描くことができた。でもデッサンって、上手く描けないや。

「どうかな、二人は?」

美術の原田先生が見に来た。優しそうな、女性の先生だ。

「あら、山梨さん良い出来だね。」

 優香のスケッチブックには、大人びた筆遣いで描かれた僕がいた。長めの髪がふわっとしている感じもいい。うまい!負ける。

「どれ、山野君のは。ん?これは。」

「あっ、これは違うんです。」

「山野君、これは美少女アニメ風の、山梨さんじゃないですか。」

 デッサンがうまく描けないので、大好きなアニメの描き方で、優香を描いては、別のページにデッサンしていたのだ。先生には、ちゃんと理由を説明した。

「そうだったのね。この絵、形はちゃんと捉えられているし、表情もいいわ。」

嬉しい、ほっとした。

「漫画家もね、デッサンで鍛えるんだよ。美大にもアニメ科があってね、先生もアニメ科の人たちとコラボしたことあるんだよ。」

先生が離れると、優香はそばに寄って来た。

「ねえ、見せてよ。」

「えっ、ダメだよ。」

「良いから見せて。」

 絵を見た優香は、驚いたような顔をして、しばらく絵を見ていた。やばい、怒らせたかも。

「うまいわ、私アニメヒロインみたい。山野君、こういう絵を描くんだ。」

 良かった、怒ってなかった。

 そんなことがあってから数日後、日直の当番に当たった。席替えは、是枝先生が四月が終わってからと言うので、席が隣同士の優香と一緒だ。

 早めに登校し、日誌を職員室の棚に取りに行って、黒板をきれいにしてる。

「誰だよ上の方に落書きして。届かない!」 優香がすっとやって来て、消してくれた。

「ありがとう。」

 一通り日直の仕事を終え、僕らは席に着い

た。二人きりだ、なんか気まずい。

「ねえ、この間の絵は完成したの?」

「デッサンは提出したよ。」

「それじゃなくて、もう一つの方。」

「アニメ風の?」

「そう。見せてくれる?」

「怒らない?」

「なんで?怒らないわよ。私もアニメ好きだし。」

「そうだったんだあ。」

 僕は、描きかけの絵を見せた。

「色もつけているんだ。」

 しばらく二人で、アニメの話をした。優香は、結構アニオタに近かった。

「アニメの『美少女戦士』好きなんだよ。」

「私も、コミックは全巻揃えてる。」

 優香に、少女コミックが好きだと話せて、嬉しかった。男の子だけど、女の子が好きなものが好き、今まで人に言えなかった。

 始業時間が近づいたから、次第に教室も人が多くなってきた。

「完成したら見せてね。」

「うん。」

 その日の午後、僕は美術部に入部届を提出しに、廊下を歩いていた。優香の絵を早く完成しなきゃ。

「おい、お前1組の山野か。」

 振り向くと、3年生が3人ほどいた。シャツやブレザーをだらしなく着て、髪も校則違反してる。やばい、危ない連中に関わりたくない。

「はい、そうです。」

「お前、優香と仲いいのか?」

「えっ?」

「教室でまったりしてるって話だ。今朝も一緒に登校してるよな。」

「それは日直だから。」

「優香の彼氏だと聞いて行ってみたら、なんともちっこい奴じゃねえか。」

 3人は僕を見て笑ってる、失礼な奴だ。

「彼氏じゃないです、席が隣だから話してるだけです。」

「あんだとお、てめえ生言うんじゃねえよ。優香にこれ以上近づくな、いいか。」

「でも席が隣なので。」

「ガタガタ言うんじゃねえ。」

僕は突き飛ばされ、持っていたスケッチブックも飛ばされた。

「何するんですか!」

 僕は、納得がいかないと、つい口に出してしまう、たとえ相手がでかくて強くても。でも今回は、避けるべきだった。

「なんだこれ、優香じゃねえか。てめえそんな仲かよ。」

 飛ばされたスケッチブックは、優香を描いたページが、めくれて見えていた。

「やめろ!」

 腹を思いっきり殴られ、その場にしゃがみこんだら、今度は背中を蹴られた。

「暴力はだめです!。」

「うっせえ、なんで優香がお前みたいなやつとつるんでんだ、ムカつく!」

 次第に生徒が集まって来た、誰でもいいから助けてくれよ。

「おい、お前らやめないか。」

 三年の先生が止めに入ってくれた。廊下には広げられたスケッチブック、皆に見られてしまった。どうしよう、優香に悪い。

 その後職員室で、あれやらこれやら、聞かれまくった。

腹を殴られたのに、大丈夫ですって答えたら、そのまんまだ。

話が終わり職員室を出ると、廊下ですれ違いざまに、是枝先生に声をかけられた。

「お前も、目をつけられんようにしろよ。優香とは仲いいいのか?スケッチブック、ちょっと見せてみろ。」

「別に、目をつけられるようなこと、してません。それに優香のことは関係ないです。」

「だから、そういう一言に、気をつけろよと言ってるんだ。それにこの絵、優香じゃないか。優香は知ってるのか?」

「言うべきことは、言うのが正しいと思います。それに僕は、何もしてません。優香は、絵のこと知ってます。優香もアニメ好きだと話してました。」

「それでか、優香にバスケに入れと言ってるのに、いまだに入部届出しに来ない。お前に影響されたのか。大体こんな女々しい絵を、学校で描くなよ。」

「女々しいって何ですか?美術の先生もいい絵だと言ってました。優香が入部届出さないこととは関係ないです。」

「お前は女かよ。ネチネチしてよお。」

 僕は沈黙してしまった。あんまりだ。

「いいか、これからは気をつけろよ。」  

 なんで、みんながいる廊下で、あんなこと言うんだ。

 家に帰るとすでに連絡が、学校から来ていた。母は大丈夫かと声をかけてくれた。晩御飯は食べたくないと、部屋に閉じこもった。

『女の子みたいに可愛いね』と言われたことはある、それは嫌じゃない、むしろ嬉しいかも。でも今日みたいに、否定的な言い方はされたことがない。

 翌日、クラスの朝の会。

「山野は、いないか。誰か話聞いてるやつ、いるかあ?」

 誰も答えなかった。

「いねえのか、まあいい後で家に連絡する。」

 朝の会は出席確認が済むと、担任の話になった。

 話が始まってしばらくして、教室の後ろの戸が開いた。

「徹!」

「お前、なんて恰好してんだ。」

 クラスは一瞬ざわついたが、すぐにすごい空気の重圧感に沈黙した。

 是枝は教室に入って来た徹を見て、何も言えなくなっていた。

 化粧をし、髪にカールをつけ、女子の制服を着た徹がいた。

 徹は、担任の方に向って歩いて行った。

「遅れました、すみませんでした。」

 徹は頭を下げ、自分の席の方に向って歩いて行った。

 クラスメイトは、殺人事件でも目撃したかのように、無表情。中には笑うような顔をする者もいたが、笑えないでいた。

「お前なあ、おい、待てよ。」

 担任の是枝が声をかけると、徹は振り返った。

「なんでしょうか?」

教室内に、低い『おお』という声が起きた。

「なんでじゃねえよ。お前なあ、その恰好はよお。」

是枝の声は、廊下にも響いた。怒るとまるでやくざみたいになる。

「ちょっと待って、先生。山野君は何も悪いことしてません!」

 優香だ。優香は、席を立つと是枝の前に立ちはだかった。キッとにらむ目に、是枝は黙ったまま動けなくなった。

「そうだよなあ。山野、悪いことしてないしなあ。」

「だよなあ。」

「いいんでねえ。」

 周りから声が上がった。格別、煽るでもなく、先生に逆らおうとしている雰囲気でもなかった。軽くて明るい、エネルギーだった。

「朝の会終わりにする。」

是枝はそう言うと、礼もそこそこに教室を出て行った。

授業まで少し時間がある、皆は授業の準備を始めた。

「徹、これでいいんだよね。」

 優香がそばに来た。

「うん。」

授業は、何事もなく進んだ。徹の方を見る先生もいたが、何か言ってくる先生はいなかった。

「徹、かっこよかったぜ。それと、制服似合うよ。」

休み時間、もとやんが言った。他のクラスメイトもⅤサインを出したり、手を振ってくれたりした。

帰りの会で、是枝は何も言わず、徹を呼びつけることもしなかった。

 放課後、優香と徹は教室にいた。

「今朝は、ありがとう。まさか、優香さんが出てくるなんて思わなかった。」

「夕べ、心配して電話したら、いきなりお姉ちゃんの、お古の制服貸してって言われて、驚いたけどね。」

「迷惑かけて、ごめんなさい。バスケの顧問の是枝先生の印象、悪くしちゃったね。」

「いいんだよ、あたし、バスケしないんだ。」

「どうして?」

「背が大きいだけで、やらせられていた自分が嫌になったのよ。」

「じゃあ何するの?」

「しばらくは、やりたいこと探すかな。そうそう、絵を完成させてね。」

「うん、がんばる。」

 帰りは、二人でセーラー服を着て帰った。


思春期は両性を持っていて揺れ動く世代です。女性的な男子もいます、ラベルを貼るのでなく、それらも受け入れる学校もあります。それらをテーマにしました、内容をラブコメにしたのも、重たくならないためでもあります。

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