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【星間戦争SF小説】星よ、敵を照らせ ――盟約は恩讐を越えて――  作者: 藍埜佑


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第八章 歴戦

 以後十四年間、二人は銀河各地で戦い続けた。


 最初の戦いは、トレビア星系。二八四八年一月。


 セリアの初陣。旗艦〈ヴィルトゥス〉の艦橋に立ったとき、彼女の手は震えていた。震えを止めるために、操艦席の背に手を置いた。金属の冷たさが掌を通じて伝わってくる。


 アニカの艦隊四十二隻が、トレビア星系の第三惑星軌道上に布陣していた。セリアの艦隊は百八十隻。数の上では圧倒的。


「敵艦隊、散開を開始しました」


 戦術士官が報告した。スクリーンに、アニカの艦隊が三つのグループに分かれていく様子が映し出された。


 セリアは三日かけて分析したアニカの戦術パターンを思い出した。中央を薄く、両翼を厚く。包囲の準備。ならば——


「全艦、中央突破。敵の中央艦隊を一気に撃破します」


 帝国艦隊が前進した。百八十隻が一つの槍となって、アニカの中央に向かう。


 その瞬間、アニカの艦隊が予想外の動きを見せた。


 中央艦隊が後退するのではなく、前進してきた。両翼も動いた。しかし包囲のためではない。全艦が——四十二隻全てが——一点に収束していく。


「敵艦隊、集結します。密集陣形に——」


 戦術士官の声が上ずった。


 四十二隻が一つの塊になった。そして、量子妨害フィールドを展開した。ただし、今回のフィールドは外向きではなく、内向きだった。自分たちの通信を守るためではなく、帝国艦隊の通信を——選択的に——妨害するために。


 セリアの艦隊の前衛三十隻の通信が途絶した。司令部からの指示を受け取れない。前衛は混乱し、突進を続けるべきか、停止すべきか判断できない。


 その隙間に、アニカの艦隊が前衛を包囲した。四十二隻で三十隻を。


 戦闘は三時間で終わった。帝国艦隊の前衛は壊滅。セリアは残存艦隊を率いて撤退した。


 撤退機動中、セリアは自分の判断を反芻していた。アニカのパターンを読んだ。読んだはずだった。しかしアニカは、自分が読まれることを前提にして、全く異なる戦術を採用した。


 旗艦の自室に戻ったとき、セリアは椅子に座り、唇の内側を噛んだ。血の味。鉄と塩。痛みが、敗北の記憶を刻み込む。


 その夜、暗号通信が届いた。


〈今日の戦いは、あなたにとって初陣での敗北だ。しかし、あなたの艦隊の撤退機動は見事だった。損害を最小限に抑えた。攻撃よりも撤退に真の技量が出る〉


 セリアは端末を見つめた。指がキーボードの上で止まった。返信すべきか。返信すれば、この通信を受け入れたことになる。敵との私的な対話を。


 三分後、セリアは打鍵した。


〈お褒めの言葉をいただくとは。敵の司令官から撤退を褒められるのは、複雑な気分です〉


 返信は早かった。


〈敵だからこそ、正確に評価できる。味方は常にあなたを過小か過大に評価する。私は等身大のあなたを見ている〉


〈それは……ありがたいことかもしれません。帝国では、私は「若すぎる」か「スピカ家の娘」のどちらかでしか語られない〉


〈私も同じだ。「バールの娘」か「辺境の蛮族」のどちらかだ。名前で呼ばれることが少ない〉


 セリアの指が止まった。画面の向こうに、アニカという人間がいる。敵の司令官ではなく、一人の人間が。自分と同じように、名前で呼ばれることを望んでいる人間が。


〈アニカ〉


〈セリア〉


〈名前で呼びました〉


〈ああ〉


 通信は途切れた。セリアは端末を閉じ、窓の外を見た。トレビア星系の恒星が、遠くで白い光を放っていた。



 二八五〇年六月。トラシメヌス宙域の奇襲。


 セリアは輸送船団の護衛任務についていた。補給物資を前線基地に運ぶ、定期的な任務。退屈な任務のはずだった。


 トラシメヌス宙域は小惑星帯で知られていた。数千の小惑星が、恒星の重力に捕らえられて軌道を描いている。大半は鉄鉱石を多く含む岩塊。


 輸送船団が小惑星帯の縁を通過した瞬間、先頭の輸送船が爆発した。


「攻撃——方角不明——」


 戦術士官が叫んだ。


 セリアの視線がスクリーンを走査した。レーダーに何も映っていない。光学センサーにも何も——


 二隻目の輸送船が炎上した。


「小惑星の影です。小惑星の鉄鉱石がレーダー波を吸収しています——」


 アニカの艦隊が、小惑星の陰から出現した。三十五隻。輸送船団に肉薄していた。


 護衛艦隊は応戦したが、混乱していた。どの小惑星に敵がいるのかわからない。センサーが役に立たない。目視と推測だけで戦わなければならない。


 アニカの艦隊は輸送船十二隻を拿捕し、消えた。小惑星帯の深部に。追跡は不可能だった。


 セリアは旗艦の艦橋で、損害報告を聞いていた。輸送船十二隻。積荷は弾薬と燃料と食糧。前線基地の三ヶ月分の補給。乗員は全員拘束され、カルタージュ側に連行された。


「司令官、追撃しますか」


 副官が尋ねた。


「いいえ。小惑星帯の中では、我々が不利です。アニカはそれを知っている」


 セリアは窓の外の小惑星帯を見た。無数の岩塊。どれも似ている。どれも違う。その中のどこかに、アニカの艦隊が潜んでいる。


 夜、通信が来た。


〈今日の輸送船、ありがたく頂戴した。前線の兵士たちが喜んでいる。特に食糧が。帝国の配給は質が良い〉


 セリアは唇を噛んだ。それから、返信した。


〈乗員は無事ですか〉


〈全員無事だ。捕虜として丁重に扱っている。次の捕虜交換で返す〉


〈……それは、ありがたい〉


〈セリア。戦争だからといって、()()()()()()()()()()()()()()


〈私もです〉


 長い間があった。


〈今日の奇襲は見事でした。小惑星の鉄鉱石を利用するとは〉


〈お褒めに預かり光栄だ。だが、次は同じ手は使えない。あなたは学ぶのが早い〉


〈ええ、あなたから学んでいます〉


〈私もあなたから学んでいる。敵は最良の教師だ〉


 通信が途切れた。セリアは端末を見つめ続けた。画面の黒い表面に、自分の顔が映っていた。灰色の瞳。父と同じ色。父はもういない。



 二八五三年九月。ヘスペリア星団の会戦。


 これはセリアが初めてアニカの戦術を正確に予測した戦いだった。


 ヘスペリア星団は七つの恒星系からなる密集星団で、恒星間距離が異常に近い。通常の星系なら数光年離れているところを、ヘスペリアでは数光時間しか離れていない。


 アニカの艦隊五十隻が、星団の中心部に布陣していた。セリアの艦隊は百六十隻。


 セリアは三週間かけて、アニカの過去二十回の戦闘データを再分析した。食事を忘れ、睡眠時間を削り、データの海に没入した。


 パターンが見えた。


 アニカは数的に不利なとき、必ず包囲戦術を使う。敵を中央に引き込み、両翼で挟む。しかし、星団のような密集空間では、通常の包囲は難しい。ならば——


 セリアは予測した。アニカは恒星の重力を利用する。七つの恒星の重力井戸を計算に入れ、帝国艦隊を特定の軌道に誘導し、そこで——


「全艦、三つのグループに分散してください」


 セリアは命令した。


「第一グループは中央を進む。第二、第三グループは左右に展開。ただし、ヘスペリア・プリマとヘスペリア・セクンダの重力井戸を避けるルートで」


 副官が眉を上げた。


「それでは迂回路になります。時間がかかります」


()()()()()()()()()()()()。アニカは私たちを引き込もうとする。引き込まれるふりをして、逃げ道を確保する」


 戦闘が始まった。


 アニカの艦隊は予想通り、セリアの中央グループを攻撃した。中央は後退した。後退しながら、ヘスペリア・プリマの重力井戸に近づいていく。


 アニカの両翼が回り込んだ。包囲の完成。


 その瞬間、セリアの第二、第三グループが側面から出現した。包囲していたはずのアニカの艦隊が、逆に挟撃される形になった。


 アニカは即座に判断した。


()()()退()。ヘスペリア・テルティアの重力井戸を利用して加速——」


 アニカの艦隊は重力スリングショットで加速し、セリアの包囲から脱出した。


 引き分け。

 損害は双方軽微。


 しかしセリアにとっては、()()()()()()だった。

 アニカの戦術を読み、無効化した。


 その夜の通信。


〈見事だった。完全に読まれた〉


 アニカのメッセージ。


〈あなたの戦術パターンを三週間かけて分析しました〉


〈三週間。私が五年かけて構築したパターンを、あなたは三週間で解読したというのか。驚きだな〉


〈過大評価です〉


〈いや、正当な評価だ。セリア、あなたは私を超えるかもしれない〉


 セリアの指が止まった。超える。アニカを超える。それは——望んでいることなのか。望んでいるのは、アニカを倒すことなのか、それとも——


()()()()()()()()()


 打鍵してから、セリアは自分の言葉に驚いた。


〈なぜだ〉


 セリアはしばし沈思黙考した。そしておもむろにキーボードに手を載せる。


〈あなたを超えたら、あなたと対等に話せなくなる気がします〉


 長い沈黙。


〈……セリア〉


〈はい〉


〈もし私たちが敵でなかったら、良い議論相手になれただろうに〉


〈戦争が終われば、その機会があるかもしれません〉


〈終わるのか、この戦争は?〉


〈いつか必ず〉


〈その「いつか」を信じられるなら……私は今日も戦える〉


 通信はそこで途切れた。



 二八五六年三月。ノラ防衛戦。


 ノラは帝国の前線補給基地がある星系で、失えば帝国の戦線は三十光年後退する要衝だった。

 アニカは、この重要拠点を量子トンネル航法による奇襲で落とす計画を立てた。


 開戦から九年。技術は飛躍的に進歩していた。

 かつて六割の艦を消失させる「死の賭け」だった量子トンネル航法は、今やカルタージュ軍の標準戦術となりつつあった。安定率は九十九・八パーセント。消失事故は過去三年間、一度も起きていない。

 

 旗艦〈アドニス〉の艦橋で、アニカは作戦開始のカウントダウンを聞いていた。

「トンネルジェネレーター、出力安定。確率変動値、許容範囲内」

 オペレーターの声は落ち着いていた。もはや誰も、量子ジャンプを恐れてはいなかった。


 ただ一人、アニカを除いて。


 彼女の指先は、肘掛けを強く握りしめていた。

 (九十九・八パーセント。だが、一〇〇ではない)

 彼女の脳裏には、九年前の〈アルプス作戦〉で消えた四隻の記憶が、昨日のことのように焼き付いていた。〈タニト〉、〈メルカルト〉、〈モロク〉、〈レシェフ〉。あの時の、存在そのものが世界から削り取られるような喪失感。

 技術が確立された今でも、アニカはジェネレーターが起動するたびに、胃の腑が冷たくなる恐怖と戦っていた。

 (もし、万が一。私の命令で、また誰かが虚無に消えたら——)


「司令官、全艦準備完了」

 副官の声で、アニカは我に返った。

 彼女は深く息を吸い、迷いを吐き出した。

「……作戦開始。量子トンネルへ突入」


 空間が歪み、六十隻の艦隊が通常空間から消失した。

 


 一方、防衛側のセリア・スピカは、ノラ星系の星図を前に静かに待っていた。

 彼女の手元には、過去九年間にアニカが実行した全量子ジャンプの出口座標データがあった。


「量子トンネルの出口座標は、完全にランダムではない」

 セリアは副官に説明した。

「アニカの技術者たちは『どこに出るかわからない』と言うことで、迎撃を不可能だと思わせている。確かに量子力学的には確率論だ。しかし——」

 セリアは星図に赤いラインを引いた。

「巨視的な物理法則からは逃げられない。量子トンネルの出口は、目標星系の重力井戸に引き寄せられる傾向がある。川の水が低い方へ流れるように、時空の歪みもまた、重力の谷に沿って確率が高まる」


 セリアは、ノラ星系の重力マップを展開した。

 恒星の重力、巨大ガス惑星の摂動、そしてアニカの戦術的な癖(常に敵の死角を好む傾向)。それらを重ね合わせると、無限にあるはずの出現ポイントは、わずか数十箇所に絞り込まれた。


「アニカ、あなたは自身の技術を信じすぎている」

 セリアは呟いた。

「消失事故がなくなったことで、あなたは量子航法を『安全な移動手段』として使い始めた。だからこそ、確率で動きが読める」


 セリアは、最も確率の高い出現座標十二箇所に、反応機雷原を敷設済みだった。

 それは、魚が通る場所に網を張るような、静かで残酷な罠だった。



 光が戻った。

 アニカは目を開けた。

 艦橋のスクリーンに、ノラ星系の星々が映し出された。

「全艦、ジャンプアウト確認! 消失艦、ゼロです!」

 通信士が明るい声で報告した。

 アニカは安堵の息を漏らした。誰も消えなかった。技術は勝利したのだ。

 (よし。これなら戦える——)


 その思考が完結するより早く、警報音が鳴り響いた。


「熱源反応! 至近距離!」

「なんだ!? 敵艦隊か!?」

「いえ、これは——機雷です!」


 量子トンネルから出現した直後の艦は、センサーが再調整中で「盲目」の状態にある。シールドも再展開の途中だ。

 その最も無防備な瞬間に、セリアの機雷が牙を剥いた。


 爆発。

 スクリーンの中で、味方の艦が炎に包まれた。

 虚無への消失ではなかった。物理的な、熱と衝撃による破壊だった。

 〈バアル〉が。〈エシュムン〉が。

 アニカの信頼する艦たちが、何もできないまま次々と爆散していく。


「座標修正! 緊急回避!」

 アニカが叫んだ。

 だが、遅かった。

 出現座標そのものが()()()()()()()()()()

 八隻が轟沈した。乗員推定二千名。


 アニカは呆然とスクリーンを見つめた。

 量子トンネルの彼方に消えること……確率的な死……を恐れ、克服したと思っていた。

 だが、待っていたのはセリア・スピカという人間の意思による、確実な死だった。

 技術の進歩さえも、セリアにとっては「アニカの行動を予測するパラメータ」に過ぎなかったのだ。


「全艦、再トンネル! 座標ランダム! ここから離脱しろ!」

 アニカは叫んだ。

 喉が張り裂けそうだった。


 (()()()()()()。私の戦略も、恐怖も、安堵も、()()()——)


 カルタージュ艦隊は来た時と同じように、量子トンネルで消えた。

 残されたのは、爆発した八隻の残骸と、漂うデブリだけ。


 セリアは防衛に成功した。アニカは初めて、戦闘を開始する前に撤退した。

 しかし、勝利したはずのセリアの表情に、笑みはなかった。


 八隻。アニカの艦隊の八隻を破壊した。乗員は——推定で二千人。量子トンネルから出現した直後に機雷に触れた。脱出の時間はなかった。


 セリアは戦闘報告を書きながら、手が震えるのを感じた。勝利の報告。敵艦八隻撃破。だが、その八隻には名前があった。〈バアル〉〈タニト〉〈モロク〉〈アスタルテ〉——カルタージュの神々の名前。


 その夜、通信は来なかった。


 翌日も。


 三日後、ようやく通信が来た。


〈八隻を失った。〈タニト〉の艦長は私の士官学校時代の同期だった。二人の子供がいた〉


 セリアは画面を見つめた。返す言葉が見つからなかった。


〈ごめんなさい〉


 打鍵した。しかし送信する前に、それを消した。「ごめんなさい」は偽善だ。自分は戦術を実行しただけだ。機雷を敷設し、敵艦を破壊した。それが自分の任務だった。


〈私の責任です〉


〈いや。()()()()()()()()()()()()()()()()


〈でも——〉


〈セリア、聞いてくれ。私たちは戦争をしている。戦争では人が死ぬ。あなたの機雷で、私の部下が死んだ。それは事実だ。だが、あなたを憎むことはできない〉


〈なぜですか〉


〈あなたは正しいことをした。防衛すべき基地を守った。私が同じ立場なら、同じことをしただろう〉


 長い沈黙。


〈アニカ、あなたは聖人ですか〉


〈いいや。ただの疲れた軍人だ。私には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


〈私もです〉


 二人は、それ以上言葉を交わさなかった。しかし、通信は開いたままだった。何も送信されない通信。ただ接続されているだけの回線。


 十分後、アニカが打鍵した。


〈まだそこにいるか〉


〈います〉


〈……ありがとう〉


 その五文字に込められた想いを、まだセリアの心は受け取ることができなかった。



 二八五八年。評議会がアニカへの補給を削減した直後。


 暗号通信。


〈評議会が補給を三十パーセント削った。増援もない。()()()()()()()()


 セリアは端末を握りしめた。


〈知っています。帝国の情報網がそれを傍受しました。これはチャンスです。帝国にとっての。私にとっての。あなたを打ち破る、最良のタイミングだ〉


〈正直だな〉


〈あなたに嘘はつきたくない。他の全ての人間には嘘をつくことがあっても〉


〈……ありがとう。正直に言ってくれて〉


〈ありがとうと言わないでください。私はこれからあなたを攻撃するのです〉


〈わかっている。お互い、やるべきことをやろう〉


 間。


〈セリア〉


〈何ですか〉


〈もし神が私に選択を与えるなら、敵としてあなたと戦うより、()()()()()()()()()()()()()()()


 セリアの視界がぼやけた。涙ではない。ただ、焦点が合わなくなった。


〈私もです。しかし、歴史は私たちを敵として生まれさせた〉


〈ならば、次の人生で会おう。()()()()()()()()()()


〈約束します〉


 通信が途切れた。


 セリアは端末を閉じた。自室の窓から、星々が見えた。無数の星。その中のどこかに、アニカがいる。同じ星空を見ているかもしれない。


 次の人生。


 星のない場所。


 静かな場所。


 そんな場所が、本当にあるのだろうか。



 十四年間。

 その間に二人は五十回以上戦った。


 勝ったり負けたり。

 引き分けたり。

 追ったり追われたり。


 銀河中のニュース端末が、二人の戦いを報じた。

「辺境の鬼才」と「帝国の盾」。

 対照的な二人の将軍。


 誰も知らなかった。


 二人が毎晩のように通信を交わしていることを。


 戦術の議論。哲学的な対話。時には、ただの愚痴。


〈今日の会議は六時間続いた。政治家たちは戦場を知らない〉


〈帝国も同じです。元老院は数字しか見ない〉


〈数字の後ろに、人間がいるのに〉


〈そう。数字の後ろに、名前がある〉


 時には、沈黙。


〈……疲れました〉


〈私もだ〉


〈いつまで続くのでしょうか、この戦争は〉


〈わからない。でも——〉


〈でも?〉


〈あなたがいる限り、戦える気がする〉


〈それは皮肉ですか〉


〈いいや。本心だ〉


 年月が流れた。二人の髪に白いものが混じり始めた。顔に皺が刻まれた。体が疲労を蓄積していった。


 しかし、通信は続いた。


 暗号の闇の中で、二人は互いの孤独に触れ続けた。

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