"Be water my friend.”
「お言葉ですが」
玄関の扉は開いているが、飽くまで『直ぐ閉じる事が出来るくらい』の幅の話だ
僕は行政の職員が嫌いだった
毎回、自分の年齢について説明する所からしなければならなかったし、法規知識も低い
もちろん、法知識の無さに付け込ませて貰う時も有るには有ったが、ほとんどの場合、彼らは僕をうんざりさせてくるだけだった
「彼は、僕の里子ですよ」
「僕の年齢?」
「ああ、子供にでも視えたんですか」
「帰って僕の戸籍を熟読頂ければ、その誤解は解けると思いますよ」
「ところで、先程『虐待』と………?」
「最近多いんですよね」
「弁護士という仕事上、恨みを買う事も多いので、根も葉も無い噂はよく流されます」
「それは人気の証とも取れますし、仕方ない事なのですが………裁く立場に在る方々までが、こうした行いをされるようになるのなら、こちらも訴訟の支度は可能ですよ」
「失礼ですが、貴方のお名前は?或いは、こうしたご指示をされた上司の方の名前でも構いませんよ」
言い合いに勝つ方法は、実はそんなに複雑では無い
『人の話を聞かず、聞いても理解しようとせず、自分の都合ばかり話し、場合によっては言葉を遮り………しかし、相手の言葉尻は絶対に攻撃する』
戦いを制するのが知略、という場合も有るには有るのだが、ただしそれは『暴力では決着が付かない場合』だけだ
そして『話し合う者にとっての最大の暴力』は、いま書いた通りだ
恐らく行政職員は、僕が彼の個人的責任を名指しで役所そのものに追及する可能性を考慮し、撤退した
彼の弱点は解った
僕は「次に来るのも彼だったら色々やりやすいな」と思いながら、ドアを閉めた
「…………帰りましたよ」
振り向いた僕はきっと期待に満ちた、緩んだ表情をして居るだろうなと直感的に思った
視線の先には君が居て、僕に血液を採取されるのを待って居る
結論から言えば僕は『クロ』だ
違法と取れなくも無い行動を、今まさに取ろうとして居る
当然、それを追及された場合の言い逃れを僕は三桁に近い種類、手札として持っては居たが
とはいえ状況はそれなりに複雑で、僕たちは合意の上で吸血行為を行って居る
『里子』という面倒なロンダリングを経由して居るのも、同性同士のため婚姻に関する行いがあまりに煩雑だし、デメリットに溢れて居るからだ
だが、人間世界の法が論理的に作られて居ない事に関してだけは、心の底から感謝して居る
そうでなければ、君のような歳上の男性を『息子』にする事は不可能だったろうから
説明は長くなったが、要するに『現代は合意の上で吸血をするにも手間が居る』時代なのだ
「始めようよ、───『 』君」
歳上の人間を君付けで呼ぶのは、快楽だ
都合の良い事に、君も僕のような歳下に飼われて居る事が快楽だったらしい
難しい時代だ
お互いに、こういうのが好きなのに
吸血に関しても手順が有る
噛んで吸う場合は虐待で検挙されるリスクがある為、近頃は注射器で医療的な方法の採血を行い、それを飲むようにして居る
これは「健康管理上の採血」と主張する役にも立つし、合理的な手法だ
衛生面での追及もケアし、建前上の血液殺菌設備も自宅に用意してあるし、それを日常的に使用して居るように偽装しても居る
「あれっ……?良い顔するようになったね」
頬を赤くした顔を覗き込むと、君は顔を背けてしまった
近頃は、この手順であっても二人とも興奮が可能になり始めて居る
「また法律とかが改定されたらさ」
「………楽しみとかも増えちゃうかもね?」
不意打ちで君の顔を覗き込む
………しかし、やはりタイミング良く顔を背けられてしまった




