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城というからには、天高くそびえる巨大な建造物を想像していたが、マダム・シスルからの招待状に書かれた場所にあったのは、あくまで邸宅の域を出ないものだった。

 

 「案外小さいですね。本当にここで舞踏会が開かれるのでしょうか」

  

 若草色のドレスに身を包んだミアが、招待状と城を交互に見ている。

 

 「貴族から搾取したくせに、マダム・シスルも実は金がないんじゃないか?だって城っていうと、もっとこう、でっかいものだろう?」

 

 「なんだか拍子抜けですよね」

 

 失礼にも、人の住処に文句を垂れるステラとミア。せっかくドレスまで用意して、いざ舞踏会に臨むというところだったのに、豪華な邸宅レベルの家に出迎えられたものだから、テンションも下がってしまう。どこが華の王国なのだ。本当は財政難じゃないのか。

 

 「お言葉ですが、城が小さいということは危険な兆候かと」

 

 「どういう意味だい、リュカ?」

 

 「本来の城というのは、敵の攻撃を防ぐための要塞として機能していました。ですが、敵襲の危険性が去った地方では、要塞ではなくデザイン性と居住性を重視した造りに建て替えていると。そういう話を聞いたことがあります。つまりグラン・クチュールは敵の攻撃を受ける可能性がないと判断されている。我々人間など、脅威とすら認識されていないということかもしれません」

 

 「ふむ、なんとも傲慢な。さすが魔王の配下ってだけあるな」

 

 「私たち、舐められてるってことですね」

 

 「思い知らせてやろうじゃないか。あの肉の塊に、人間の恐ろしさを!」

 

 

 城の扉を開けると、奥まで一本道で続く大理石の廊下が現れた。床はよく磨かれており、壁に掛けられた花はどれも瑞々しい。醜悪な見た目のマダム・シスルが家主だとは思えない、非常に清潔感のある、趣味のいい内装だ。


 「…お邪魔しまーす」

 

 誰もいない廊下に向かって、ミアが律儀に挨拶をした。敵地に乗り込むにしてはあまりに暢気だが、それもまたミアらしい。

 

 「舞踏会の会場はこの先みたいですね。ちょっとのんびりしすぎましたし、急ぎましょう」

 

 ミアが小走りになったので、ステラもそのあとを追うようにして足を速めたが、スピードを上げる2人とは対照的に、リュカだけはもたもたしていた。

 

 「ちょ、ちょっと待ってください。ヒールじゃ走りにくくて…」

 

 騎士団の副団長として実直に、その道一本で生きてきたリュカは、3人の中で最もヒールに不慣れだった。たまの休日に、めかしこんで出かけるような事もしてこなかったせいだ。


 「なーにをやってるんだ、リュカ。早く早く!」

 

 ステラとミアもヒールに慣れているわけではなかったが、行事や祝祭などでちょっとしたオシャレをした時に、一度や二度くらいなら履いたことがある。高級なヒールなどではなく、木で作った安物だったが。

 

 「お二人はなんでそんなに速く…ひゃっ⁉」 

 

 リュカが足首を捻り、前のめりに転倒した。さすがの反応速度で受け身をとり、大理石の床に顔面から突っ込むような大惨事は避けられたが、血も流れていないのにリュカの顔は赤くなっている。派手に転んだのがよほど恥ずかしかったらしい。

 

 「お怪我はありませんか!」

 

 慌てて駆け寄るミア。ステラが怪我をした時と、反応が大違いだ。ミアはリュカに対して過保護すぎやしないか。

 

 「はい、すみません、お恥ずかしい姿を」

 

 「私こそ急かしてしまってごめんなさい。ゆっくり行きましょうね。約束の時間まであと少しありますから」


 「いや、あと5分しかないんだけど」


 「またリュカ様が転んでもいいんですか。舞踏会とはいえ、これから戦うかもしれないんですから、体調は万全にしておかないと」

 

 リュカのペースに合わせて歩いた結果、招待状に書かれていた時間を約10分超えてしまった。マダム・シスルの機嫌が良いわけがない。

 

 「遅れてくるとは、良い度胸じゃない。この私が、舐められたものだわ」

 

 怒りでぶるぶる揺れる顎の贅肉。

 

 舞踏会は最悪のスタートを切った。

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