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 「そ、それではミア様、失礼します」

 

 リュカがコルセットのひもを引っ張る。

 

 「んぅっ…」

 

 「すみません、痛かったですか?」

 

 「いえ、大丈夫です。コルセットなんて初めて着けるので、少しびっくりしただけで。結構これ、締め付けがきついんですね」

 

 「私も着けたことはないので、やり方が合っているのかどうか分かりません。ステラ様、これでよろしいのでしょうか?」 

 

 「ああ、いいんじゃないか。多分」

 

 コルセットを直接肌に巻くと痛むため、その下にはケミズと呼ばれる麻の肌着を身に着ける。ケミズ姿になったミアとリュカは、お互いにドレスの着付けを行っていた。マダム・シスルから招待された舞踏会への参加ルールは、彼女のお眼鏡にかなうオシャレな恰好をしてくること。そのルールを満たすために急いでドレスを調達し、こうして2人がお互いに着せあっているところだった。

 

 それにしてもさっきから雰囲気が、なんというか…。

 

 「もう少しだけ締めますよ。ミア様、息を吐いてください」

 

 「…ふっ…んっ…」

 

 なんかいけない雰囲気ではないか?

 

 「あの、ミア。変な声出すのやめてくれないかな?」 

 

 「好きで出してるわけじゃありません!コルセットがほんとにきついんですよ。ステラ様も着ければ分かります!」

 

 「私はマダム・シスルから直接お墨付きもらったし、別にこのままでいいよ。でも2人は彼女の合格ラインを超えられるか分からないし、念には念を入れて着こなしたほうがいいだろう?」

 

 リュカはいいとして、ミアはまだ幼さの残る体型だ。一度ドレスをそのまま着せてみたが、妙にぶかっとしているというか、ドレスに着られているという印象だった。それもそれで可愛かったが、マダム・シスルの目にはダサいと映る可能性もある。


 「あと一息です、ミア様。締めますよ」

 

 「…はっ…ぅ…」 

 

 舞踏会まであと2時間ほど。夕日が沈み、暗くなった宿の一室。照明が切れており、ランタンの灯りだけを頼りに行われる着付けは、なんとも艶めかしい雰囲気だ。

 

 「これで今晩ずっと過ごすんですか。気が重いですよ」

 

 コルセットを締め終わり、ペチコート、スカートを履き終えたミアは浮かない顔だ。ステラはコルセットを着けたことがないが、腹部を常に巨人の手で握られているかのような圧迫感がするらしい。コルセットを常用したせいで、内臓の形が変わってしまったという話も聞く。一晩程度なら問題ないだろうが、苦しそうなミアを見るのは忍びない。

 

 「お似合いですよ、ミア様。とても愛らしいです」

 

 「ほ、ほんとですか…?」 

 

 リュカの言う通り、若草色のドレスを着たミアはまるで妖精のようだった。近づくだけで浄化されてしまいそうな、愛らしさと神秘的な空気を纏っている。

 

 「じゃあ次はリュカ様の番です。私がお手伝いしますよ。はい、後ろ向いてください」

 

 ケミズの上からでも分かる、リュカの鍛えられた筋肉。腕、肩、腹と全体的にまんべんなく筋肉が付いている。ステラも体作りには余念がないが、とにかく筋力を付ければいいという単純な鍛え方をしているステラと違い、リュカのそれは美しさを感じさせた。まるで彫刻作品のようだ。

 

 「コルセット締めますよ。そーれ!」

 

 「…っ」

 

 さすがにリュカは、ミアのような変な声は出さない。と思ったのだが…

 

 「もう一息!」

 

 「あっ…ふぅぅ…」

 

 これ以上2人の世界に入らないでほしい。ステラは恥ずかしくなって、視線を窓の外に向けた。コルセットってそんなにきついのだろうか。

 

 リュカのドレスは、ステラとは対照的に深い群青色をしている。勇ましい戦士としての側面の中に、女性としての可憐さも併せ持つリュカにぴったりのドレスだ。急いでその辺の店で見つけてきたわりには、なかなかいいではないか。

 

 「よし、準備完了だ。時間に遅れてはマダムに怒られる。急ごう、マダム・シスルの城へ」

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