表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

17

 華の王国、グラン・クチュールの入口は、その名に恥じない華美なデザインの門構えだ。アーチ状の石の門には、貴重な紫色の染料を使った旗が掛けられている。周りの風景からかなり浮いているが、これがマダム・シスルの趣味なのだろう。


 「わあ…、なんというか、派手ですね」

 

 ミアは明らかに言葉を選んでいる。本当はダサいとか悪趣味とか言いたそうだが、敵地の手前、下手な発言を聞かれでもしたら厄介だ。ミアもそれを心得て、ギリギリ嫌味に聞こえない程度の、派手というワードをチョイスした。

 

 「いや、クッソダサいだろう」

 

 ステラはそんな気配りなどしない。


 「聞かれたらどうするんですか!」

 

 ミアが慌ててステラの口をふさいだが、一度口から出た言葉はどんな魔法を使っても消えない。

 

 「まあまあ、2人は街の外で待っているといい。ひとまず私一人で様子を見てくるからさ」

 

 踊り子衣装に身を包んだステラが、意気揚々とグラン・クチュールの入口へ向けて足を踏み出した。噂によると、ダサい恰好をしている人間は問答無用で抹消されるという。それがマダム・シスルの魔法によるものなのか、それとも魔物が直接殺しにやってくるのかは分からない。ともかく、その理不尽極まりない仕打ちは街に入らなければ効力は発揮しないはずだ。ここはパーティーの長として、ステラが先陣を切る。

 

 「本当その恰好で行かれるおつもりですか?」

 

 「なんだい、リュカ。言いたいことがあるならハッキリいいたまえ」

 

 ミアには似合っていないと言われてしまった踊り子衣装。確かにステラは踊り子といった雰囲気ではないが、幾戦で鍛えられた筋肉によって体は引き締まっているし、顔立ちだって悪いほうではない。酔いつぶれて路上に転がっていたら、男どもから下卑た視線を向けられる程度の魅力はある。それは女性としての魅力とは言わない、と年下のミアに諭された事もあったが、少なくとも人にお見せできないような容姿ではないはずだ。

 

 「いえ、なんでもありません。すいません」

 

 リュカは押しに弱い。少し圧をかけるとすぐに引っ込んでしまう。騎士団の副団長として戦っていた時はあんなに勇ましかったが、ステラに対しては強く出られないらしい。

 

 「では行ってくるよ。危険だから、くれぐれも街には入らないようにな」

 

 踊り子衣装の勇者という、ちぐはぐな存在がアーチをくぐり、グラン・クチュールの土地を一歩踏みしめた時だった。

 

 石のアーチが、唸り声のような音を立てて動き始めた。

 

 「な、なんだこれは!」

 

 アーチに掛けられていた紫色の旗。その染料が繊維から溢れだしたように、石全体へと広がってゆき、あっという間にアーチは紫色に染まる。ほぼ同時に、アーチの上部から、大きなカラスの顔が生えてきた。カラスといえば黒い羽毛に黒い瞳に、そして黒い嘴。どこを取っても真っ黒な生き物のはずなのだが…。

 

 「ミア、リュカ、見てるかい?私の頭がおかしくなったのでなければ、さっきまで石のアーチだったものが今、でっかいカラスに変身したよ。しかも目に悪い紫色の」

 

 街の外、といっても数メートルだけ後ろにいる2人に尋ねた。リュカとミアは無言で頷いた。そうだ、昨日は飲んでいないのだし、二日酔いで見ている悪い夢なわけもない。これは現実だ。

 

 アーチの湾曲していた部分は羽になり、優に体長5メートルはありそうな巨大カラスが出現した。マダム・シスルめ。いきなりとんでもない魔物を用意しているじゃないか。

 

 「マダム・シスルの能力が発動したということは、これってつまり、ステラ様がダサい認定されたということですよね」

 

 「ああん⁉」

 

 マダム・シスルの魔力が届かない安全地帯からミアが言う。

 

 「リュカ様、どう思います」

 

 「ダサいといいますか…。マダム・シスルのお気に召さなかったということでしょうか」

 

 2人して言いたい放題だ。衣装をプレゼントしてくれたエルシィが聞いたら泣いてしまう。 

 

 カラスが嘴を開けて、おおよそ鳥のそれとは思えない低い声で鳴いた。カーカー、などという擬音では表せない、獣を数十匹寄せ集めたみたいな重低音。思わず耳を塞ぎたくなるが、敵前で無防備な姿を晒すことは死を意味する。ステラは剣を抜き、カラスに斬りかかった。

 

 相手の素材は石。剣で斬ろうものなら、普通であれば刃こぼれして終わりだ。最悪の場合は、根本からポキンと折れて戦闘不能。そんな事態になりかねない。

 

 だがステラの持っているのは勇者の剣。なまくら刀に毛が生えたような、市販のものとは違う。名のある鍛冶屋に金を積んで作らせた一点ものだ。その上さらに金にものを言わせて、よほどの事が無い限り折れない魔法を、大魔法使いにかけてもらった。ステラにとって石など、バターを斬るとの変わらない。

 

 ステラは高く跳躍し、カラスの胴体に一閃。

 

 やはり、刃はすんなりと通った。

 

 ガアアア、というカラスらしい悲鳴を上げて崩れ落ちる石の魔物。後ろではミアの拍手が聞こえる。マダム・シスルも大したことないのでは、と高を括ったステラだったが、勝利を確信するには些か早すぎた。

 

 崩れた石が空中に浮き、また元のカラスの形へと戻っていく。再生するのに十秒もかからなかった。

 

 「これは厄介だな。マダム・シスルの魔法によって作られた魔物は生命体ではないから、ある意味不死身ということか」

 

 こういう場合、大元を叩かないと意味がない。やはり魔王直属の配下というだけあって、一筋縄ではいかないらしい。復活したカラスの目からは、意地でもここを通さないという意思を感じる。そんなに踊り子の恰好が気に食わなかったのか。

 

 カラスが羽を広げ、高く飛びあがった。逃げた?いや違う。こちらへ向かって滑空してくるつもりだ。その勢いで嘴を突き刺すか、ステラをついばむかするつもりだろう。カラスの落下地点を予測し、ステラは飛びのいて回避しようとした。

 

 だが、カラスの目的は攻撃ではなかった。


 「なっ⁉」 

 

 凶悪なまでに尖ったかぎ爪でステラの肩を掴み、空へ向かって上昇した。眼下のミアたちが一瞬で豆粒サイズになる。

 

 「放せぇ、この化け物!」

 

 肩を掴まれた体制では、いくら剣の切れ味が鋭かろうと、刃が届かないので無意味だ。

 

 地上でミアとリュカが何か叫んでいるが、到底聞こえる距離ではない。高度はどんどん上がってゆき、周りの気温が低くなる。一体どこに連れていくつもりなんだ。まあ、これ以上暴れても仕方がないので、ステラは大人しく運ばれることにした。どこへでも連れていくがいい。そこで決着をつけてやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ