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 旅の荷物は、すべて腰から下げた袋に詰めている。魔物や荒くれものからくすねた銀貨に、最低限の食料。それくらいしか入っていないので、普段は袋の容量には余裕があった。

 

 しかしステラの腰にぶら下がった袋は、今日は異様に膨らんでいた。

 

 「華の王国なんて甘い響きに騙されちゃいけない。ここから先は気を引き締めていかないとな。さあ、まずは衣替えだ」

 

 パンパンに膨らんだ袋から、ステラは丸まった布のようなものを取りだした。

 

 「なんですか、その小汚い布は」

 

 潔癖症のミアが顔をしかめる。

 

 「なにって、服さ。グラン・クチュールを支配しているマダム・シスルは、ファッションにとにかくうるさいんだ。彼女の気に食わない恰好で街を歩こうもんなら、一瞬で抹殺される。もっぱらそんな噂だよ」

 

 「な、なんて横暴な…」

 

 ステラと同じく、戦闘服と寝巻以外のファッションを知らないリュカは、身の危険を感じたのか、両腕を抱いている。リュカなら何を着ても似合うだろうし、マダム・シスルに目をつけられたら最後。モデルとしてスカウトされ、専属の着せ替え人形として一生使われてしまうはずだ。その点でいえば、ミアも危ない。リュカとは対照的に、花のようにふわふわとした女の子のミアもまた、魅力的なモデルになりうるからだ。

 

 いかん、ここは勇者として、パーティーの長として2人を守らなくては。そのために、前の街で服を買っておいたのだ。オシャレな恰好をしていないと抹消されるのがルールなら、マダム・シスルのお眼鏡に敵うファッションに身を包めばいい。敵地に乗り込むには、相手のルールに従う振りをするのも作戦の一つだ。

 

 「さあ、これを着たまえ。まずこっちのフリフリしたやつがミアのね」

 

 ミアに似合いそうだと思って購入したのは、桃色のワンピース。肩のあたりに何かヒラヒラした飾りが付いており、ミアの可愛らしさをより引き立てると思ったのだが…。

 

 「冗談…ですよね、ステラ様?」

 

 服を受け取ったミアの頬が引きつった。

 

 「こんな恥ずかしいの、とても着られません!」

 

 「なにが恥ずかしいんだよぉ。絶対ミアに似合うと思って買ったんだぞ!」

 

 「こういうのって、もっと幼い子が着るものじゃないんですか。私はもう子供じゃないんです。せっかくですけど、お返しします!」

 

 袋の中で丸まったせいで、シワの寄ったワンピースを突き返してくるミア。絶対に着たくないという強い意志を感じる。


 「ええ…でも僧侶の服じゃ流石に無理があるだろう。そんなのファッションとも言わないし、見つかった瞬間にダサいと認定されて命を狙われるぞ」

 

 「服は自分で探します。お構いなく」

 

 「なんだよ、似合うと思ったのに…」

 

 ステラは行き場を失ったワンピースを脇へどけて、袋の中からもう一着の服を取り出した。

 

 「じゃあこっちがリュカの分。君は私の選んだ服を気に入ってくれるだろう?」

 

 「はい。ありがたく頂戴いたしま…え?」

 

 服に手を伸ばしかけたリュカの動きがピタリと止まった。

 

 ヒョウ柄のキルトスカートに、真っ赤なジレ。ファンキーな町娘みたいなイメージのコーディネートだ。中世的な容姿のリュカだからこそ着こなせると、そう確信してのチョイスだ。

 

 「どうした、遠慮なく着替えたまえ。どうせ私たち以外誰も見ていないんだから」

 

 「いえ、そうではなく」

 

 「ま、まさかリュカまで私のファッションが気に入らないと言うのか!」

 

 リュカは、助けてくれ、と言いたげな視線をミアに向けた。意中の相手からの救難信号を見逃すほど、ミアも鈍感ではない。

 

 「私たちの服は自分でなんとかしますから、お構いなく」

 

 リュカから奇抜なファッションを取り上げて、ステラに返却してきた。

 

 「それより、ステラ様ご自身の服装はどうなさるんですか?まさかその鎧のままというわけにはいかないでしょう」

 

 「ふふ、見るかい?実は私の分の服は、店で買ったんじゃなくて貰い物なんだよ。どう、見てこれ!」

 

 ステラに服をプレゼントしてくれたのは、キャバレーの踊り子のエルシィだった。見送りにきてくれた際、手土産として持たせてくれた中に、踊り子の衣装も含まれていたのだ。エルシィが着ていたのとデザインは異なり、そこまで露出は高くない。そのぶん布が肌にフィットするように作られており、とても動きやすいので、これを着たまま戦うことも出来そうだ。

 

 踊り子の衣装を体に当てて、得意げなステラ。似合っている、と賞賛の言葉を期待していたのだが、ミアは「ふっ」と鼻で笑った。

 

 「おい、なんだ今のは。笑ったな?しかも鼻で」

 

 「すみません。ですがはっきり言って、似合ってません。やはりステラ様には、勇ましい鎧か、だらしなく不潔な部屋着のどちらかしかお似合いにならないと思います」

 

 そこまで言われて引き下がるわけにはいかない。ステラは人目も憚らずに野外で踊り子衣装に着替えた。

 

 「いいさ、見てろよ!この恰好でグラン・クチュールに入る。私の着こなしをマダム・シスルに見せつけて、あっと言わせてやるからな!」

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