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旅の道連れは多いほうがいい。1人より2人。2人より3人のほうが心強いし、なにより賑やかで寂しさを感じない。一人寂しく始まったステラの旅は、僧侶のミア。そして戦士のリュカを加えて3人となった。
街の外まで見送りに来てくれたエルシィに別れを告げ、ステラたち一行は、霜の降りた草地を踏みしめた。まだ太陽が昇ったばかりの時間帯なのだが、朝から不機嫌なミアに引きずられるようにして、街を出ることになった。せっかく新しい仲間が加わった、しかもミアの意中の相手だというのに、とても空気が悪い。朝の爽やかな日差しでは誤魔化しきれないほどに、パーティー内の空気が淀んでいる。
「なあ、ミアはどうしてあんな怒ってるんだろう」
「おそらくですが、私たちが昨晩酔っぱらって帰って来たのが原因かと」
リュカのパーティー加入を祝い、エルシィの一気コールに煽られるままに飲んだくれたあと、気づいた時には2人して床に転がっていた。最悪なことに、リュカはステラを抱き枕のようにして眠っていた。そこをミアに発見されたものだから、それはもうカンカンだ。
「君の寝相はどうなってるんだ。おかげで私までミアに変な目で見られたじゃないか」
「申し訳ございません。普段は敵襲に備えて、眠るときも警戒を怠らないようにしているのですが…。どうにも昨晩は羽目を外してしまって」
数メートル先を行っていたミアが振り返る。
「なにをお二人でコソコソお話してるんですか?」
「なんでもないよ。それよりなんで私たちと距離を取るんだ。さっきから先陣を切って歩いているが、あんまり離れると危ないぞ」
「お酒臭いからですよ。リュカ様はともかくとして、ステラ様は特に臭いです。そこの川でお口をゆすいで来られたらどうですか」
摂取したアルコール量はリュカより確かに多かったが、言いがかりなような気もする。言われた通り川に向かい、水面に映った自分の顔を見た。ふむ、ちょっとむくんでいる。
川から戻ると、ミアはしれっとリュカの横に立っていた。ステラが少し離れている間に、リュカを取り戻そうという魂胆だったらしい。なかなかに独占欲の強い僧侶だ。
「それでステラ様、これからどこへ向かうのですか?」
リュカの腕を取りながら、ミアが尋ねる。
「魔王の配下が支配する街が、この周辺だけでも3つは存在する。それらを撃破するのが先決だな。いきなり敵の大将の首を取りに行くのは得策じゃない。まずは外堀から崩していかないと」
西の王国の調査班が命がけで情報を集めて作った、魔王勢力の分布図がある。勇者はステラたちだけではなく、各地に勇者パーティーが、エセではなく本物の勇者パーティーがおり、それぞれのルートで魔王の配下の勢力を削ろうとしている。ステラが目指すルート上にある、次なる目的地は…。
「華の王国、グラン・クチュール。これが私たちの目指す場所であり、次なる戦闘の舞台さ」
ステラは地図を広げ、ミアとリュカに見えるように、グラン・クチュールの場所を指し示した。
華の王国と呼ばれるグラン・クチュールは、かつて貴族の街として栄えた歴史がある。庶民は足を踏み入れる事すらできない、上流階級だけの世界。一歩街に入ると、フローラルで上品な香りに包まれ、道行く人は皆、高級な衣服で着飾っていた。まるで夜会から抜け出した人々が、そのまま街中へ溢れかえったみたいな光景だった。
今となっては、当時でかい顔をしていた貴族たちは、魔王の配下によって奴隷としてこき使われている。貴族の威厳など、圧倒的な暴力の前では無意味だった。
彼らを支配しているのは、マダム・シスル。魔王直属の部下の1人で、とにかく派手好きな女だ。ファッションにはうるさく、貴族たちから取り上げた高級な服飾品をアレンジして、オリジナルのブランドを作り上げていると聞く。マダム・シスルのプロデュースするドレスは、魔物界隈で人気らしい。ステラも一度それを着ている魔物と出会ったことがあるが、確かにファッションセンスは認めざるを得なかった。鎧か寝巻しか着ることがないステラからすれば、縁のないファッションだ。
「なんだか華の王国って、素敵な響きですね。そんな怖そうに思えません」
ミアは暢気な事を言っているが、ステラは知っている。マダム・シスルがいかに偏狭な価値観の持ち主で、いかに暴虐な人物であるかを。




