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キャバレーでの待遇は、昨晩とは大違いだった。勇者様、勇者様と媚びた声で、踊り子たちが代わる代わる接待をしにやってくる。
「まったく現金なものだな。昨日と同じ店とは思えない。信じられるかい、リュカ。昨日もここで飲んでたんだが、踊り子は私の頬を思い切り殴るわ、エセ勇者などと罵るわ、挙句の果てに店の外に放り出されるわで散々だったんだ。それが今はどうだ。こんなにみんなベタベタと…。いや、悪い気分じゃないんだけどね」
ステラの活躍は、早くも街中に知れ渡っていた。店のオーナーである、老齢の魔法使いもわざわざ挨拶に出てきたくらいだ。それに今夜の客はステラだけじゃない。魔物の襲撃から街を守った女戦士、リュカも一緒だ。2人は英雄のように祭り上げられ、グラスにはひっきりなしに酒が注がれた。頼んでもない料理も次々と運ばれてきて、もう至れり尽くせりだ。
「こ、こんなに良くしてもらっていいのでしょうか?」
踊り子たちを侍らせてふんぞり返るステラとは対照的に、リュカは椅子の上で縮こまっている。あまり酒は得意ではないらしく、ちびちびと飲んではいるが、減りが遅い。ステラが3杯飲んでいる間に、リュカはグラスの半分程度しか空けていない。
「いいんだよ、こういう時は好意に甘えるのが礼儀というもの。遠慮なんかしなくていい。さあもっと飲みな」
「はい。では、頂きます」
リュカはグラスを両手で持ち、ぐいっと中身を一気に呷った。
「げほっ!」
「そんな一気に飲むから…。言い忘れてたが、ここの店の酒は度数が強いんだ」
目を潤ませて咳き込むリュカの背中を撫でていると、ステージでダンスが始まった。踊り子たちが一斉にステージへ上がり、情熱的なダンスを舞う。その全員が、ステラとリュカに流し目で視線を送っていた。なんて露骨なアピールなのだろう。しかしまあ、これだから勇者は辞められない。
「やっほー、来てくれたんだ。エセ勇者と…、副団長も一緒?珍しいね」
昨日ステラの頬を殴り、朝の戦いではリュカの安全の確保を手伝ってくれた、あの踊り子が後ろから声をかけてきた。
「君はステージに出ないのか?」
「うん、今日は接待だけするって決めたの。だって約束したじゃん。たっぷりサービスしてあげるって」
踊り子がステラの首に手をまわし、惜しげもなく豊満な体を押し付けてきた。隣でリュカが、気まずそうに顔を背ける。
「そ、そういえばまだ君の名前を聞いてなかったな。こういう店の子の個人情報を詮索するのはグレーだが、せっかくだから教えてくれないか?」
そこまで気になってもいないが、内心の動揺を隠すため、踊り子の名前を尋ねた。
「エルシィ。踊り子歴3年のベテランだよ」
「3年か。まだまだひよっこじゃないか。私の勇者歴は5年だ」
「2年差くらいで偉そうにすんなよ」
エルシィはころころと笑いながら、ステラの首に巻きつく力を緩めた。危なかった。あと10秒続けば、気がどうにかなりそうだった。
「副団長は相変わらずカッコイイね。ほんとに女の子?」
勇者などという曖昧な職業のステラと違い、ある程度の社会的地位に就いているリュカに対しても、ずいぶんと砕けた接し方だ。エルシィは誰に対してもこうなのだろう。
「私はもう副団長ではありません。騎士団は一度解散することが決まったんです。あんなことがあった手前、私に副団長を務める資格などないですから」
店に来る道中でリュカから聞いた話によると、騎士団は本日をもっていったん解散。失脚した団長に代わり、騎士団を擁するアルマ伯爵はリュカを新たな団長に推したそうだが、本人が固辞した。
「へえ、辞めちゃったんだ。えっ、じゃあこれからどうすんの?そうだ、ウチで働けば?オーナーには私から話通してあげるよ!」
リュカの踊り子姿。ふむ、悪くない。さぞかし彼女目当ての客が殺到することだろう。
しかしリュカは、エルシィの誘いを丁寧に断った。
「実は旅に出ようと思っているんです。もう一度自分を見つめなおして、戦士として成長するためにも、広い世界を見ておきたいと思いまして」
「旅か。うん、いいじゃん。そこのエセ勇者に連れていってもらえば?」
「えっ?」
急に話の矛先を向けられ、ステラは飲んでいた酒を取り落としそうになった。
「だからー、旅に出るんでしょ。副団長…じゃなくてリュカちゃん。ちょうどいいじゃん。魔王討伐の旅に連れていってあげればさあ」
「そんな簡単に決められることじゃないんだよ。なあリュカ。君にも色々事情があることだろうし…」
「ぜひお願いします!ステラ様!」
リュカは身を乗り出して、ステラの手を握った。
「はい決まり!新たな勇者パーティーの仲間が増えたことを祝って、今夜は飲むぞ!店のおごりだから、気にしないでどんどん飲んじゃって!」
エルシィがウエイトレスに合図を送り、ありったけの酒を持ってこさせた。
「いいのかい、リュカ。酔った勢いで言って、後悔しても知らないぞ」
「いえ、ステラ様にお供できるのは光栄なことです。魔王討伐のため、微力ながら協力させて頂きます。あっ、もちろんステラ様さえよければ、ですが…」
凛とした顔で喋っていたかと思えば、急に可愛い面も出してくる。これだからリュカは見ていて飽きない。
「ああ、もちろん大歓迎だよ。ようこそ、私のパーティーへ」
その晩は、いつにも増して飲んだ。
どうやって宿まで帰ったか、覚えていない。
翌朝、客室の床で寝転ぶ2人を見て、ミアがまた怒ったのは言うまでもない。




