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 華美な衣装に身を包んだ踊り子たちが、蝶のように、といえば聞こえはいいが、実際は男性客を誘惑するような煽情的な腰つきで舞っている。時折ステージから客席に降りてきては、客の首や腰に手を回す。男たちは鼻の下を伸ばし、手を引かれるままにステージに上がって下手なダンスを踊っている。

 

 ミアを取られて傷心のステラが向かったのは、街で唯一のキャバレーだった。

 

 店のオーナーは老齢の魔法使い。残りカスみたいになった魔力を使い、店内を桃色の光で満たしている。たまに魔力切れを起こして、ステージが真っ暗闇になる瞬間があり、見ていてハラハラする。

 

 女性客の利用は原則禁止されていたが、勇者の特権を振りかざすと、すんなりと入店を認めてもらえた。しかも一等席だ。踊り子たちの艶めかしい腰使い。激しい動きによって汗ばんだ肌。額に張り付いた前髪までよく見える。

 

 「こんな事でしか気を紛らわせられないなんて…。私はほんとに情けない勇者だよ、まったく」


 押し寄せる自己嫌悪の波を無理やり押し戻すように、酒を煽る。今夜はビールやぶどう酒なんて甘ったれた酒では満足できない。ウエイトレスに頼んで、最も度数の高い蒸留酒を持ってこさせた。一気に流し込むと、喉が焼けるような痛みに襲われる。ゲホゲホとせき込んでいるステラの背中を、踊り子の一人が優しく撫ででくれた。

 

 「大丈夫、勇者様?さっきからすごい飲んでるけど、それかなり強いお酒だよ。せめて水割りにしたほうがいいんじゃない?」

 

 「いいんだ、放っておいてくれ。勇者にだって飲まなきゃやってられない夜もあるんだ。ていうか君…」

 

 ステラの指が踊り子のスカートの生地を摘む。

  

 「いい体をしているな。いや、実に素晴らしい。細すぎず、太すぎず。まさに男好きのする体型だ。さぞかし体作りに余念がないんだろう」

 

 「ちょっ、お触り禁止!ここそういう店じゃないから」

 

 踊り子がステラの手を払った。 

 

 「なーにを言ってるんだぁ、キミは。そういう店だろうが。見ろ、この真っピンクの照明。ピンクってのは、女の色気を最も際立たせる色なんだよ。大体他の踊り子を見てみろ。自分から男どもにべったりしてるじゃないか」

 

 「客からベタベタ触るのはダメなの!」

 

 「んだよぉ、いいだろ。触らせろ、減るもんじゃないんだし」

 

 踊り子がステラの頬を思い切り張った。意識が一瞬飛び、目の中に星がまたたいた。

 

 「ほんと最低の勇者なんだけど。あんたみたいなのが最近増えてる、インチキ勇者なんじゃないの?」

 

 「し、し、失礼だぞぉ。私はなあ、強いんだよ。魔王直属の魔物だってサシでぶっ殺してきたんだ。なんなら証明して、ひゃ、やる。ここに魔物を連れてこい。一刀両断で倒してやる」

 

 もう呂律が回らなくなってきている。完全に悪い酔い方をしているのは自覚していたが、自覚したところで摂取したアルコールが抜けるわけではない。頭ではダメだと分かっていても、酒を口に運ぶ手が止まらない。

 

 叫んで逃げ出した踊り子と入れ替わりに、屈強な男3人が現れた。獣の皮を剥いで作った服に、首から下げた何かしらの魔物の骨。いかにも荒くれ者といった雰囲気だ。男たちは3人がかりでステラを抑え込み、胴上げのようにして持ち上げた。

 

 「降ろせ、降ろせよぉ!私は勇者だぞ!」

 

 ステラの情けない叫びも虚しく、店の外に投げ出されてしまった。勇者に対する扱いとは思えない手荒さだ。地面に放り投げられた衝撃で、柱に後頭部をぶつけてしまい、また意識が飛びかけた。

 

 「おええええぇ…」

 

 そして吐いた。店に来る前につまんできた揚げ物はまだ消化されておらず、胃液とともに石畳の床を汚した。 


 「チクショウ、なんだよこれ。私がなにをしたっていうんだ。そうだ、全部あいつが悪い。あの、なんだっけ、ほら、やたら顔のいい…、ああもう、名前も思い出せない。えっと、リュカ?確かそんな名前だっけ。反則だろあの顔面。可愛いとカッコいいのダブルパンチ。魔物か?人を惑わせる魔物か?」


 吐瀉物から漂う酸っぱい臭いが鼻を突く。なんだか涙が出てきた。いい年した大人なのに、ミアを奪われたくらいで泣いていてはダメだ。だいたいミアとだって、知り合ってまだ3日。奪われた、なんて言うのもおこがましいのかもしれないが、それでもやりきれない気分だった。

 

 「うう…、私たちの旅はもう終わりなのか?また一人旅に逆戻り?そんなの嫌だ…」

  

 ステラは愛に飢えていた。ようやく自分を慕ってくれる可愛い仲間が出来たというのに、なんと短い夢だったのだろう。こんな事なら、いっそ最初から出会わなければよかった。

 

 路地裏から這い出てきた大きなネズミが、ステラの鼻先をツンツンとつつく。

 

 「お前も私をバカにするのか。もういいさ、好きなだけ笑うがいい」

 

 吐瀉物を避けて、地面に横になった。

 

 ガシャン、と鎧を着た人間が歩く音がする。見回りの憲兵か何かだろう。路上で倒れている勇者など、見て見ぬふりをして素通りするのが無難だ。

  

 ガシャン、ガシャンと音が近づいてきた。

 

 「ステラ様、ここで何をされているんですか」

  

 「りゅ、リュカじゃないか。はは、恥ずかしいところを見られてしまった…おえっ」

  

 「お水です。どうぞ飲んでください」

 

 リュカが水の入った真鍮のボトルを差し出してくれた。なんだ、良いやつじゃないか。これでは一方的に嫉妬心を抱いていたのが馬鹿らしく思えてくる。

 

 「…またお酒を飲まれてたんですか?」

 

 「ミア⁉なんで2人がこんな時間まで一緒に…」

 

 「リュカ様に街を案内して頂いてたんです。ステラ様も誘おうかと思ったのですが、いつの間にかどこかへ消えていたので、それで2人で」

 

 まんざらでも無さそうなミア。むしろ下心丸出しでキャバレーに吸い込まれてくれて感謝している、とでも言いたげだ。

 

 「よろしければステラ様もご一緒にいかがですか?ちょうどミア様を、私の行きつけの店にお連れしようと思っていたところなんです」

 

 リュカは乙女心というものへの理解が浅いようだ。ミアの顔が露骨に曇っている。

 

 「いいよ、私はもう疲れた。大人しく宿に帰って寝ているから、2人で楽しんでおいで」

 

 ミアの目が喜びに細められた。

 

 去り際にミアが「ベッドに入る前に、お顔を洗っておいて下さいね」と言った。

 

 「なんで?」

 

 「きたな…、少々お顔が汚れていますので」

 

 吐しゃ物を避けて寝転んだつもりだったが、酔っぱらいの動きに正確性などない。ステラの頬や顎には、かつて食べ物だったものがこびりついていた。 

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