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一人旅は寂しい。戦力が足りないのはもちろんだが、それ以前に退屈でしょうがない。
戦いで傷を負っても心配してくれる人もいないし、ピンチの時に助けてくれる人もいない。魔物を倒したときの達成感を誰と共有することも出来ないのは、いくらなんでも寂しすぎる。
ステラはビールを煽りながら、ほろ酔いの頭で考えた。
旅の者たちが集まる酒場は、今日も今日とて賑やかだ。でもその楽しげな空気の中で、ステラだけは浮いていた。
「なんだよ、こちとら勇者様だぞぉ?どいつもこいつもヘラヘラしやがってよぉ!」
ステラがテーブルを叩いて立ち上がると、酒場はしんと静まり返った。ああ、またやってしまった。少し酔うといつもこれだ。周りの視線が痛い。顔が火照っているのは、酒のせいか、はたまた恥ずかしさからか。
だがここで素直に謝るほど、ステラは出来た女ではない。
「見せもんじゃねえぞぉ、散れ散れ!」
数多の魔物を斬ってきた剣を振り回し、店内の客を威嚇する。わずかに残った脳の冷静な部分が、自身の蛮行を止めるように命令してくるが、もう無視してやる。テーブルが真っ二つに割れ、手からすっぽ抜けた剣が壁に突き刺さった。酒場は隣の宿屋とほぼゼロ距離で隣接しているので、いきなり壁から生えてきた勇者の剣に、宿屋の主人が悲鳴を上げた。
翌朝目覚めたのは、街の広場のど真ん中だった。頭が痛い。体が重いし、吐き気がする。関節がズキズキと嫌な痛みを訴えているのは、間違いなく二日酔いの症状だ。幸いにも勇者の剣は失くしておらず、抱き枕代わりに抱えて寝ていたらしい。
まったく平和な世の中だ。ステラは勇者とはいえ、うら若き女性。眉目秀麗とまでは言えないが、道中で出会った魔物が下卑た視線で、舐めまわすように見てくる程度には魅力がある、と自負している。そんなステラが一晩中無防備に転がっていたのに、いたずら一つされていないとは。これだけ治安がいいなら、もう魔王討伐とかしなくていいんじゃないだろうか。
「うえ…、吐きそう。水、誰か水をください」
早朝の広場には、片手で数えるくらいの人数しかいない。開店準備をしている露天商と目があったが、露骨に視線を逸らされてしまった。ケチだ。水の一杯くらい恵んでくれてもいいではないか。腐っても勇者だというのに。近くを通った子供にも声をかけたが、まるで魔物に襲われでもしたかのように、怯えて去ってしまった。
喉の渇きが限界なので、広場の噴水の水を飲むとしよう。細菌とか微生物とかいっぱいいるらしいが、あまりにお腹が減った時は魔物の肉を生で食べたこともあるくらいだ。ステラの臓器はかなり強靭に出来ているので問題はない。
噴水に頭を突っ込んで水を飲む。冬の朝の空気で冷やされた水は、冷たくて美味しかった。ついでに洗髪も済ませてすっきりして、体から少しでもアルコールを抜こう。
「またやっちゃったよ。店主のおやじ、怒ってるだろうな。前の街でも酒場を出禁にされたし、気を付けなきゃと思ってたのに」
行く先々の街で同じようなトラブルを起こしており、そのたびに出禁を言い渡されている。魔王軍が討伐され、世界に平和が戻る頃には、ステラの居場所はないかもしれない。
しかしステラの反省は口ばかり。本音ではこう思っていた。
「悪いのは私じゃない。そりゃ暴れたのは申し訳ないと思ってるけどさあ。だって寂しいんだもん。誰も私とパーティー組んでくれないんだもん。もう嫌になっちゃう。馬鹿みたいに酒も飲みたくなるよ。なあ、そこのチビ?」
さっき逃げた子の友達らしき女の子が通ったので、同意を求めたが、青ざめた顔でまた逃げられてしまった。
「どいつもこいつも…」
ステラは再び横になって、寒そうな灰色の空を見上げた。
「あーあ、仲間が欲しいよ。私を癒してくれる仲間がさあ!」




