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二色の金魚  作者: tou
1/4

1 「地味でいたいの」

軽いガールズラブが入っております。

性描写まではいきませんが、そういった表現がかなり苦手な方は、リターンしていただきたく思います。

夢なんか

見ちゃいけないと。


そうして唄ってきて、どれくらいだろう。







>二色の金魚







うそみたいに流れた心が

月へのぼって輝いて

涙を流した神様が…




「…」




阿呆みたいに陽気に流れる音楽を聴いて、フジは目を閉じた。

流れる音は、自分の声で。




「…」




そっと目を開いて、平行して流れるPVを見つめる。

そこで微笑みながら歌っているのは、自分の姿ではない。

思わず苦い笑みがこぼれた。

別に、どうでもいいさ。

わたしの声で有名になれるんだったら、

それでユカが喜ぶんならそれでいいから。




「あーっ!」



不意に後ろから抱きつかれて、思わずフジは体をかたくした。




「フージ!」



…噂をすればカゲ。とはよく言ったものだが、この場合その表現は正しくない。

抱きついて腕をからめてきたのは、カゲなんかとはほど遠いヒカリだったのだから。



「うふふのふー♪」



ご機嫌な声を上げたユカは、上目遣いにフジを見上げた。

大きなその瞳は、茶のサングラスに覆われている。

それは何のつもりかと聞こうとして、フジは言葉を呑みこんだ。



「…」

「え、似合わない?」



不安げな顔をしたユカは、くいっとサングラスを上げてみせる。

フジは首を振った。



「別に」

「言い訳してい?」

「どうぞ」

「もうユカは有名人ですから。こうしないと、大変なのですよー」



おどけたユカはうふふ、と笑った。

分かってる、とフジもうなずく。

急に、からめられた腕が引かれた。



「それよりフジ」

「あ?」

「いい加減、そのファッションやめなさい」



げんなり。



「ほっといてほしいな」

「やだ。だって、」

「“フジはわたしの所有物なんだもの”」

「…よく分かってるねー」

「いい加減覚える」

「ふうん」



ユカはいじけたように、フジの黒い服をひっぱる。

大きめのジーンズはダルい感じ。

細い上半身のシルエットに反した下半身のシルエットが、まるで男の人のようで。



「…地味ー」

「地味でいたいの」



フジはべりっとユカを引き剥がした。

間髪いれずにからみなおされるユカの腕。



「フジのいじわる」

「ちょっと離れろ」

「やだー」



くすくす笑う彼女は、ああ。

本当にかわいらしい、女の子以外の何者でもなくて。



「……赤い金魚さん」



フジの声は、穏やかに彼女を呼んだ。

ユカはくるりと瞳をまわして、フジを見つめた。

それを見つめなおして、フジは穏やかな声のままに言う。



「苦しくて呼吸ができません。どうかいったん離れて、水面に顔を出させてくださいな」



ひゅ、と息を呑むユカの音。

少しあとに、ささやくような言葉が返された。



「…それはだめ。だって、赤い金魚は黒い金魚がいないと、息ができないんだもの」



そっと寄り添って、ユカはフジの腕に顔をうずめる。

フジは彼女に見えないように、静かに息を吐き出した。


この疲れる関係は、まだ終わる兆しを見せない。

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