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08_一晩明けて

アリアさんと合った翌朝、リック達が声を掛けて来るまで、ボクらは昨日の事について話していた。


「……えっと、つまり、昨日のアレは、ボクがアリアさんに目移りしてたように見えた、って事ですか?

だから二人とも不機嫌になっていた、と?」

「……。」

「概ねそんな感じです。」

ボクの問いに、ヴェロニカさんはそっぽを向き、セレナさんは簡潔に答えた。


「なんと……。」

そんなバカな事ある訳ないと、ボク自身は思うのだけど、それは自分だからそう思うのだ。

忘れちゃいけないのは、ボクが二人に同時に告白し、付き合うことになったという点。

これがある限り、ボクには「いつになったら信じてくれるのか?」とか言える正当性など無いのだ。

それこそ、二人と付き合い続ける限りずっと、ボクはこの手の不満を真摯に受け止めねばならない。

……例えそれが、ボクから見て理不尽な言い掛かりの様に感じられたとしてもだ。

いや、思ってないけどね?今回の事を「理不尽な言い掛かり」だなんて。


「アリアさんの事は、確かに好意的な形容はしてしまいましたが、お付き合いしたいという目では一瞬たりとも見ていませんよ?

ボクが活き活きしている様に見えたなら、それは異文化交流が出来てテンションが上がっていたためです。」

「異文化交流……?」

セレナさんは、やや困惑気味にオウム返ししてきた。


「はい。

自分と異なる生活圏で生きて来たヒトと話したり、触れ合う事です。

その醍醐味は、これまでの自分に無かった視点を知る事にあります。

今回で言えば、相手は有翼人で魔王様だった訳です。

ワクワクしません?

遥か上空を飛ぶヒトの視点を知る事が出来るなんて。」

「……そんなものですか。」

ボクの力説にも、セレナさんはピンと来てない様子だ。


「……ちょっと分かる。」

一方、元より知的好奇心旺盛なヴェロニカさんには、何かしら刺さるモノが有ったらしい。

ボクの意見にノッてくれた。


「でも、そうですね……。

二人からすれば、急に現れた女性に、ボクが興味津々といった様子で話し掛けてた訳ですよね?

それは面白くないですよね。

逆の立場だったら、ボクなら途中で話を終わらせ、引き剥がそうとしたでしょうね。」

「いえ、そんな……、魔王様の機嫌を損ない兼ねない事なんて、出来ませんよ。」

そっか、したくても相手を怒らせそうで出来ない、そんな状況もフラストレーションを溜める一因になったのか。


「……もしかしたら、気にしていないようでも、ボクも「魔王様」という肩書きを警戒して、結果的にアリアさんへの対処を最優先にする選択をしていたのかも知れない。

でもこれは言い訳ですね。

二人の気持ちに気付けなかったのは、ボクの落ち度です、申し訳ありません。

今後は、二人の気持ちを見落とさないように、ちゃんと意識を向けていくと誓います。」

「……そう、真面目に返されると、困るな。」

ボクの言葉に、ヴェロニカさんは気まずそうに呟いた。


「私達の方こそ、一方的に思い込んだ挙げ句、その……、そちら方面で当たってしまって、すみませんでした。」

片やセレナさんは神妙な口調で反省の言葉を語った。


「あ、いえ。

そこは気にしなくて良いですよ。

最近では、二人が暴走するのを楽しむ余裕も出来てきたので。」

「……無敵かお前は。」

ボクのセリフにヴェロニカさんが呆れた様にツッコミを入れてきた。


「心外ですねぇ。

二人の事なら心を広く持って受け入れられる、これは愛ですよ。」

「そ、そんなものか?」

ボクが堂々と言い切るものだから、ヴェロニカさんも押し切られてしまったようだ。


「そんなものですよ。

さぁ、そろそろリックが呼びに来るでしょう。

朝ごはんを食べて、ギルドに顔を出して、次に目指す魔術都市の情報でも集めておきましょう。」

「魔術都市ヴァルツ、だな!

そう、凄く興味があったんだ。

名前からして魔術を中心とした町なのだろう。

しかも都市と言うくらいだ、帝国でも指折り数える程に大きな町なのだろう。

一体どんな所なのか、魔術図書館とは、興味が唆られて止まらないよ。」

おっと、「魔術都市」の単語を出した途端、ヴェロニカさんがらしくないくらい早口で語り始めた。


……そこまで気になってるなら、ヴェロニカさんを連れて行かない選択肢は無さそうだな。

ヴェロニカさんがいくら顔を覆っているとしても、他のエルフや魔力感度の高い魔術師には、勘繰られてしまう事もあるかも知れない。

だから、ヴェロニカさん自身は都市に入らないか、外縁部で待機してもらった上で情報収集を、とも考えていたのだがボツにした方が良さそうだ。


**********


その後、ボクらはポート・マレで数日過ごした。

その間に「エビル・クラム」の素材は全て売れて、当面の路銀を確保する事が出来た。

特に一回り大きい「エビル・クラム」の魔石と殻は競りで高値が付いたらしく、万々歳だ。


「……いやいや、この額は「当面の路銀」どころじゃないですよ!

「一財産」と表現しても良いくらいです!」

総額を聞いたフラウノさんが、興奮気味に言ってくる。


「でも、一部ずつ皆にも配りましたし、余りは路銀に充てるので、目減りしていきます。

帝国にどれだけ居る事になるか分からないですし、財産とは思えないですね。」

「まあ確かに、言ってる事は分かりますが……。」

結構な大金である事は確かなので、商家の娘であるフラウノさんが気持ちの整理がつかないというのは、あるのかも知れない。


それは一旦、置いておいて、ボクはティアナさんにも声を掛けた。

「それより、ティアナさん。」

「は、はい!」

「キッチリ公平に分けているので皆と同額お渡ししてますが、足りてますか?

元の生活を考えると、入り用の物が多かったりしませんか?」

これまでティアナさんが金銭面で文句言ってくれた事はないんだよね。

我慢をさせちゃってるのではないかと気になる。


「大丈夫ですわ。

元より贅沢がしたい方でもありませんでしたし、冒険者を始めてからはフラウノやプフィルさんの言う事も聞いて、矯正もしましたから。」

ティアナさんは事も無げに語るけれど、貴族出身でそこまで馴染めるって凄い事じゃないかな?

ああ、リックがティアナさんを意識するまでになれた一因に、金銭感覚が大きくかけ離れてはいない点があるんだろうな。


「分かりました。

ティアナさんだけじゃないですけど、何か必要となったら言って下さいね?

男のボクに言い難い事は、ヴェロニカさんに言うのでも良いですよ。

その分のお金は渡してあるので。」

ボクがそう言うと、ヴェロニカさんも肯定するように頷いた。


「「は〜いっ!」」

うん、ウチのパーティは返事の良い、素直なコばかりで安心する。


そんな皆に、海の幸を堪能してもらう事も出来たし、そろそろ次の町に向かうことにしようか。

次の目的地は魔術都市ヴァルツ。

もしかしたら、新たな魔術や魔術技術に触れる機会もあるかも知れない。

ボク自身も、どんな所かワクワクしている。


次の町ではアリアさんの様な、驚かされる再会は無い事を願いたいな。

そう思っていたボクだったが、結果から言うと、その願いは叶うことは無かったのであった。

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